えのころめし
そしてこの日の夜。俺達を歓待してくれるとの事で、饗宴の間と呼ばれる部屋に案内された。そのままの意味の部屋を作ってるとは、中々やるじゃん!と思う。
島津さんの配下の人達も沢山集まり、貴久さんも現れる。
「うむ。本当は我らが持てる限りの贅を尽くさねばならぬが、なんでも尾張国は相当に色々な食物があるとな?」
「はい。かなりの種類を育てております。ここ薩摩はシラス大地にて、米の栽培は難しいとは存じます」
「しらす台地だ!?何だそれは!?何か分からぬが、我らは肉を食ろうておる。今日の夜飯も楽しみにしておいてくれ。良い赤犬を仕留めてな?さぞ美味かろう!ははは!」
オレは耳を疑った。まさか犬食うのか!?いや確かに犬食う文化があったのは分かるが、まさかマジで出されるの!?オレ食いたくないんだけど!?
そして料理が運ばれる。やはりそのまさかのようだ。
「おっ!えのころめしか!」
「殿!いくら遠い尾張国からの使者とて、えのころめしは贅沢過ぎでは?」
なんで!?犬の丸焼きっぽいけどこれが贅沢なの!?偏見かもしれないけどオレは牛、豚、鳥の肉じゃないと食べたくないのだが!?
いやこんなところで拒否しようもんなら・・・『おのれ!我らを田舎呼ばわりか!?グシャ!』とか『尾張がなんぼのもんじゃ!ブスッ!』とかされそうだよな・・・。
「控えろ!今日は肉がこれしか手に入らなんだのだ!うむ。おいどんが取り分けよう。中々にこの肉は美味いのだ!」
あぁ〜・・・犬さんごめん。ちゃんと食べるから・・・。
「ありがとうございます。いただきます」
味は・・・味付けは恐らく大野さんがしてくれたのだろう。なんならメニュー自体変えて欲しかったけど、さすがの大野さんでも難しかったのか。
肉はパサパサだが臭みは無い。大野さんの苦労が目に見える。臭み抜きを頑張ったのだと思う。
「どうだ?美味いだろう?」
「は、はい!大変美味しゅうございます・・・・」
「そうか。獣肉よりは、ましであろう?」
「正直、申し上げてよろしいでしょうか?」
「おい!剣城!?何を言うのだ!?やめておいた方がいいのじゃないのか!?」
慶次さんは気付いたようだ。うん。美味くない物を美味いとは言いたくない。不味くはないが好きではない。これから長い付き合いをする予定だし、本音を言いたい。
「おう!構わん!言え!おいどんは嘘は好かん!」
「ならば・・・正直犬肉は苦手です。なんなら獣肉の方が料理の仕方によれば100倍美味くなります」
あぁ〜・・・言ってしまった・・・。戦争か!?薩摩と戦争か!?
「貴様、何だと!?」「おい!己等!そこに直れ!」
「ははは!正直でよろしい!そりゃ、好き嫌いがあるだろうな?だがこの、えのころめしは尾張では知らぬが、薩摩ではかなりの贅沢ぞ!」
「はい。取り分けていただいた物を残す事は致しません。偉そうに言うつもりもありませんが、獣肉も処理により、臭みを消す方法があるのです。しかも簡単に」
「ほう?そこまで啖呵切るならば、相応の態度を示さぬとな?貴様は命を賭けられるか?ん?おいどんは嘘をつかん!これより美味い物ならば美味いと言ってやろう。ついでに織田の申し事を全部聞いてやる!」
「でた!でた!殿の十八番!」
「貴様!静まれ!お遊びではない!次、おいどんを煽ってみろ?譜代からの家臣でも許さぬぞ」
「・・・申し訳ないです」
まあそっちはそっちでやっているけど、まあまずオレ達の勝ちだろう。この赤犬?の蒸し焼きを馬鹿にするつもりはないが、やはりオレは犬と言えばペットとしか思えない。
オレは一度調理場に向かうと言い、1人案内役の人を付けてもらう。
「あっ、大野さん。お疲れ様です!」
「どうされましたか!?やはり犬肉は合いませんでしたか!?」
「いえいえ。少し悶着があり、私達が肉料理を出せとの事。岐阜で食べている例の焼き肉。季節外れですが、あれを出せば問題ないかと」
「確かに例のタレを付ければとりあえずは美味いでしょうが・・・」
うん。目配せしてるがここで買えるか!?いや流石にな!?
「料理前に一度厠へ行っても?」
「へぇ。こちらにございます」
まあこの時代ならではの便所だ。とてもじゃないがこの禍々しい竹に糞はできん!便所はドンペリに戻りしよう。
オレはすぐにタブレットを起動し、いつもの幸せの肉セットを購入する。
そして大野さんと一緒に、俺達が持って来た贈り物の中を探すフリをして、買った肉を大野さんに渡す。
「後は任せていただけるので?」
「いや、オレも手伝いますよ。って言っても切るくらいしかする事はありませんが。後は外で焼きますか?でもバーベキューセット忘れたよな・・・買おうかな?」
「金剛が念の為にと、荷物の中に焚き火セットと金網を入れていました」
クッ・・・金剛君め!やるな!?
「帰ったら褒めてあげないといけないですね。まあとりあえず外で焼きましょうか。城の中なら匂いが移ってしまいますからね」
「そうですな。では始めましょう」
ジュゥ──────
「これだよ!これ!間違いない!世界中探してもこれを臭いと言う人は居ないだろう!!!」
「織田方の・・・その匂いは何だ!?良い匂いがしておる!!」
ふん。嗅いで嗅いで嗅ぎまくれ!匂いが良ければ興味が湧き、食べたくなる筈だ!
「何の音だ!?それにこの匂いは何だ!?」
「あっ、義弘さん!?戻って来たのですね?これは焼き肉ですよ!」
「うむ!美味い!!間違いない!剣城君!これは美味いぞ!」
いやいやつまみ食いか!?お父さんに怒られないのか!?
「義弘?誰の許可を得て食べておるのだ?」
「ち、父上!?これは毒味です!いや実に美味い!美味いな!なぁ!?剣城君!?」
あーあ。オレは知らないぞ!?
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