薩摩の奇習
内城に到着したが兵達の殺気が凄い。信長さんに似たオーラを放つ人ばかりだ。
「どうぞこちらへ。少々おい達の兵児(へご)共にいざこざがあり、殺気立っておりますが平時でも然程変わりありませぬ故、気にせずに」
「はぁ〜。分かりました」
とりあえずオレ達に割り当てられた部屋に入ったが・・・。
「慶次さん?殺気がヤバいですよね?」
「そうか?」
クッ・・・聞く人を間違えたか。
「竹中さん?」
「私如きに角力を負けた事が悔しそうに思いますね」
いやいや更に聞く人間違えたわ。
てっきり小一時間くらい待たされるかと思ったが、15分もしない内に呼ばれた。岐阜城とは違い、薩摩人達は厳正なる態度のように思える。
多分皆、名前の残る人達なんだろうと思う。本当に空気が違う。オレが初めて信長さん達と出会った頃のような感じだ。
「うむ。よく来た。はるばる尾張国から参ったそうじゃな?」
「はっ。尾張国、織田家 支配内 芝田剣城と申します」
「分かりやすい口上である。して、何用で遠い薩摩まで来たのか?」
「いえ、我ら織田家では肉食が盛んでして、その薩摩豚や牛なんかをこちらで育て肉や牛乳、チーズ作りなんかをしてくれないか、との提案です。こちらからは銭にて支払いをします」
「ほう?それだけの為に参ったと言うのか?」
「はい。他に言われてる事はございません。強いて言うならば、少し薩摩を観光したいなと思うくらいです。義弘様にお会いしました。大隅とやりあいそうとか?お邪魔ならば出直します」
「ははは!おい!義久!聞いたか?このくらい節度を以て相対する来客は久しぶりだ!それでだ!さきに言った、肉は分かる。おいどんが少し前に居た清水城下にて、食肉に関しては行っておる」
へぇ〜?もう畜産が行われていたんだ?意外な事実だ。
「私達も兵を強くするには、動物性タンパク質が必要と分かり──」
「待て!待て!たんぱくなんとかとは何だ!?」
「要は、私達人間の筋肉を育てるのに必要な物を、獣肉なんかから摂取するって事です。これは私の考えですが、食が豊かになるという事は国力に匹敵する、と考えております」
「確かに。日々の食事状況が悪ければ戦の時は本領を発揮できぬな。兵糧に事欠くようじゃ論外じゃ」
いや今の事だけで納得するかよ!?ってかこの人が島津貴久さんだよな!?
「他にも教えられる事があれば、技術提供は致します。まずは・・・慶次さん?」
「うむ。某、芝田家 家臣 前田慶次と申す。誰か手伝いをば」
「おいが手伝おう」
うん!?義久さんが手伝うのか!?普通、配下の人が手伝うのじゃないのか!?まあとりあえず、贈り物を持ってきてもらわないとな。
「これまた沢山の物を用意してくれておる」
「喜びそうな物を思いつく限りお持ちしました。目録を読みます。まず尾張国にて作っている上質な服類、布団、そして酒、醤油、米、砂糖。数は少々ですが薬なんかもお持ちしました」
「米か!しかも大量にか!?我が薩摩では米があまり育たぬ故、助かる」
え?そうなの?鹿児島って米育ちにくいんだ?岐阜も尾張もあり得ないくらいあるから、今度来る時は米だけ持って来てあげようかな!?
「父上!真っ白な砂糖ですぞ?明かぶれの商人から買うより上質に見えます!」
「確かに格が違うな。尾張ではこれが普通なのか?ゴホッ」
「えぇ。まぁ。ただ、それ程の混ざり物なしはまだ、下々の民には中々口に入りませんが、銭を出せば買えるようにはしています。大丈夫ですか?」
「うむ。咽せただけだ。流石、京に近い所は栄えておるのだな?薩摩も負けてはおらぬと思うておったが・・・皆、見てみろ!こんな大きい姿見なんか見た事あるか?明のあの女の船にあるのより大きいぞ!」
「殿!殿の凛々しい御姿がはっきりと、濁り無く見えまする!」
ドンッ
「馬鹿者ッッ!!!いつも言っておるだろうが!おべんちゃらは好かん!ゴホッゴホッ」
いや、いきなり体育会系すか!?薩摩マジで意味分からん!ってかさっきから嫌な咳だよな?病気か?
「いや本当に大丈夫ですか?良ければ必ず治る薬がありますよ?」
「おい!おい達の殿を病人呼ばわりするのかッ!?」
いやいや心配してるだけじゃん!?怒る事か!?
「静まれ!まあ、他にも色々あるのだな?これは楽しそうだ。今日の夜・・・饗宴を開こうと思う。尾張国より些か地味やもしれぬが、我らができる最大の礼をお返しいたす。ゴホッ」
「あっ!もし良ければこちらの料理人もいいですか?毒とか気にしてる訳ではないですよ!?さっき義弘様に御馳走していただいた、さつま汁が殊の外(ことのほか)美味しく、薩摩料理を知りたいのです!」
「そうか!!薩摩事を知りたいと言ってくれるか!!気に入ったぞ!!皆の者!客人に失礼があれば即座に斬首に致す!!心しておけ!!」
いやいや笑顔で斬首とか言うなよ!?こぇーよ!?
「失礼致します」
「新納か?誰が入っていいと言った!?今は応対中ぞ!!」
「申し訳ありません。実は肝付の兵を捕らえました。拷問にて吐いた事が志布志城の戦の折に………」
「皆の者!ひえもんとりじゃ!」
「「「「オォォォ───ッッッ!!!」」」」
何だ!?ひえもんとりって何だよ!?
皆に釣られてオレ達も、城の裏手の開けた場所に行った。そこには左右に甲冑を着た兵の人達が10人程居た。その人達に挟まれる形で馬に繋がれた褌の人が居る。既に傷だらけだ。
「薩摩人め!こんな事してただで済むとは思うなよ!?戦では勝てぬからとこんな事しやがって!」
「慶次さん?何か分かる?」
「分からん。だがあの褌の男の命は後少しであろうな」
酷いとは思う。思うけどここは他所の家。しかもこれから仲良くなろうとしている島津家だ。口出しなんかできる筈がない。
「島津家は敵に中々苛烈な事をしよるなぁ〜」
「小川さん?小川さんは酷いと思います?」
「い〜や?十分な詮議を行い・・・いや敵の兵と分かっているならば構わないかと」
「いや、それでもオレ達はちゃんと詮議はするようにしますよ?」
「もし・・・どこぞの者が剣城様に害成すようならばワシは問答無用で・・・。それに六角に逃げ込んだ者はいずれこの手にて」
「あぁ。少し前のあれね。あれはオレが許さない。これだけは断言しておきますよ」
「その言葉を聞き、安心致しましたぞ!剣城様は優しすぎる故に、他人につけ込まれそうですからな!?がははは!」
いや笑い事か!?悪口や軽口くらいではオレは怒らないけど、さすがに命狙われれば許さないよ!?
「始めッッ!!!」
貴久さんの号令から始まった。これは・・・いわゆる、罪人?敵?を馬で走らせ左右に別れた者達が追いかけ、腑を掻っ捌く行為だった。拷問?違う。敵を弔う?絶対に違う。この地で行われている事なのだろうか。
「ぎぃやぁぁぁぁ────!!!」
「よっしゃぁ!!此奴の肝はおいのだ!!」
「いや!おいどんのだ!!」
オレは目を疑った。ただ殺すだけじゃなく肝を奪い取っているんだが!?エグイ・・・。
「畿内の武家には少々強すぎましたかな?これが薩摩兵児達だ」
「いえ、ここは島津様の家。よそ者の私は何も言いません。ただ・・・あの人間の肝をどうするのでしょうか?」
「うん?罪人だろうが仏になれば同じよ。首は丁寧に弔う。肝は生薬として使うのだ」
は!?生薬って肝臓を薬として使うのか!?
「ちょ!義久さん!肝臓は薬になんかなりません!」
「剣城様!?それは一概には言えません!」
「え!?鈴ちゃん!?」
「義久様。言葉悪く聞こえてしまいますが、そんなつもりは毛頭ありませぬ故、お許し下さい」
鈴ちゃんが言ったのは、漢方薬として内臓を綺麗に水洗いした後、乾燥させ粉末にして少量飲めば、生きてる人間の肝臓に良いらしい。
「そうなんだ・・・」
要は倫理観の問題だ。単に人間、同族嫌悪がオレ達にはある。身体にいいからと言って皆が口にするかと言われれば、答えはNo。オレは絶対にパスする。
実際、肝臓に良い食べ物か成分が分からない時代は、他種族の内臓系を乾燥させたりして漢方薬として飲んでいた、と昔テレビで見た事がある。
代表的なのが熊胆(ゆうたん)だ。そしてこれは食事の部類に入るが、他には牛レバーや鳥レバーなんかも肝臓に良い筈だ。
「すいません。私達では行わない事だったので焦ってしまいました」
「いや良い。あからさまに否定するならば考えが変わるが、黙っておくならば構わん」
オレは絶対に御免だ。ただそう思う。そしてやはり薩摩は怖えぇ〜!!
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