死ぬ時は同年同月同日に

 「それにしてもマジで痛い・・・」


 「がははは!命があってこそですぞ!ワシは嬉しいですぞぃ!それにまた、我が君を背負う事ができましたからな!!」


 「はぁ!?いつオレが小川さんにおんぶされたって!?」


 「またまた!例の毒で倒れられた時におんぶしたのはこの小川!小川三左衛門ですぞ!」


 「そうだったのか・・・。ミヤビちゃん?」


 「はーい!」


 「この事はゆきさんに内緒にしてくれ。余は常に諸子の先頭にあり。とかカッコつけて言って速攻で怪我するとか、情けなくて仕方がない!」


 「ふふふ。それでこそ剣城様ですよ。完全無欠の将はどこにも居ませんよ。ゆき姐さんも笑って許してくれますよ。それより私がノア嬢に乗って良かったのですか?」


 "キャハッ♪この雌のヒューマンなら許すよ〜♪"


 「ミヤビちゃんなら許すだって」


 「ありがとうございます!」


 「今のオレが乗るより、ミヤビちゃんとノアに前方任せていた方が安心だし、小川さんのロザリーヌも警戒してくれた方が安心するしね。それに本気になった坂井さんや、半兵衛さんの突撃に着いて行くには、これが丁度いいよ」


 オレは蜂矢の陣、先頭の矢のような形の陣の最後方に居る。ここは正直、着いて行くだけの場所だ。オレより後ろは甲賀46家の皆々が守ってくれている。ただ一つ怖いのが・・・。


 「おのれ・・・雑賀何某め!」


 「この俺が必ず、雑賀何某の首を挽き千切ってやる!」


 「ワッチが身体中、隅々に至るまで穴を開けてやる!」


 「いや、ワシこそが雑賀何某の骨全てを砕き切ってやる」


 「ふっ。皆の者も緩い。剣城様を怪我させたのだ。髪の毛を全て抜き、毛穴をバーナーで炙り爪を全て剥がして、那古屋の漁の餌にしてしまえばいい」


 皆が口々に恐ろしい事を唸っているのだ。特に大野さん。髪の毛全て抜いて、バーナーで炙るとか強制ハゲになるじゃん!?

 

 そもそもこんな怪我なんか、農業神様の薬ですぐに治るのだが、最近はそれを良しとしない人が居る。それが鈴ちゃんだ。

 鈴ちゃんは仮にオレが居なくなっても、医療行為を行う為、極力、農業神様の薬は使わない事にしてるそうな。

 徐々に浸透しつつある、美濃病院の女医の1人だが、戦より未だ人体研究に余念がないからか、怪我という怪我、病気など、何をどう対処するのが正しいか、と躍起になっている。オレも何かあればまず、鈴ちゃんに見せるように言われているのだ。

 だからこんな痛い中、少し汗臭い小川さんの背中に、黙っておんぶされているのだ。本当はミヤビちゃんが良かったけど、こんなか弱い女の子に、おんぶされる訳にはいかない。


 そして森を抜け、眼下に本圀寺が見えた時にやっと隼人君と合流だ。


 「剣城様。申し訳ございません。怪我をされたようで・・・」


 「馬鹿者!隼人!分かっておるのか!?我が君が狙撃されたのだぞ!?後で・・・」


 「小川さん、今はいいから。で、その2人の男と3人の女の子が狙撃した人?」


 「へぇ〜。やっぱりあんたがこの軍の・・・」


 「貴様が雑賀何某か!!!そこに直れッ!!隼人!どけ!」


 「ワッチが!ワッチがこんなブサ男を刺すのじゃ!!」


 いや、後ろの甲賀隊の皆は怖ぇ〜よ!


 「皆は黙って。とりあえず・・・隼人君の隊の人は、そのままその人達連れて走れる?」


 「はっ。日々の筋トレより軽いです」


 まぁそうだよな。スーパー力持ちなんだから余裕だろうな。隼人君の隊と話す事は少ないけど、皆ムキムキなのが分かるし。


 「貴方が雑賀孫一さんかな?」


 「そうだよぉ〜」


 「落ち着いてますね。まぁ、このままオレ達は本圀寺に突入します。貴方達の処遇はその後に。半兵衛さん!いつでもどうぞ!」


 「了解。坂井殿?あそこの潮が分かりますか?」


 「えぇ。分かります」


 「ほっほっほっ。ならば良し。敵は変わらず大軍ですが、後ろの暗躍してくれた古の忍びの方々のお陰で、全然統率が取れておりません。剣城殿も見て下さい。ただの烏合の衆でしょう?折角の歩卒が意味も無く突撃させられて、剛力殿の土嚢袋5段構えの、1段しか突破されていません」


 「確かに整列すらされてないですね。辛うじて、長槍隊が少し士気が高いくらいでしょうか」


 「ほっほっほっ。指揮する者が居なければ斯くも容易いか。小泉殿。野田殿。それに牧村殿はいくら倒しましたか?」


 「50からは数えておらん」「某は60からやめました」


 「何!?権之助が60とは嘘を言うな!ワシは70だった!」


 「お前こそ嘘ばかり言いよって!六之助は今しがた60と言っていたではないか!」


 「「「「・・・・・・」」」」


 うん。紛う事なき、野田さん小泉さん一族だな。


 「ワッチは100を超えて数を数えるのを辞めた」


 「はい!牧村お婆ちゃんが優勝!権之助さんも六之助さんも終了!」


 オレが2人の間に立ち、張り合いを止める。そうしないとずっとこうだからな。


 「「(チッ)」」


 「ゴホンッ・・・このように甲賀の皆の活躍があり、楽々救援に向かう事ができました。まぁ、剣城殿は名誉の負傷をしましたがね。さて・・・ここからが本番ですよ。皆々の衆は私が開いた道を進むべからず。指揮官が居ないと言っても、囲まれるとお終いですよ。決して道を間違える事勿れ」


 半兵衛さんはそう言うと、ヘカテーの杖を構え、道筋を指す。


 「見えたッッ!!!前田殿も気付いた!あの隊と呼応せよッ!!私に続けッッ!!!!!爆竹用意ッ!!投擲ッ!!!続いてロケット花火ッ!!合流した隼人隊は走りながら敵に向けて射撃ッ!!稲葉隊、氏家隊、安藤隊は坂井殿の号令にて長槍隊を減らせッ!!後ろの甲賀隊は剣城殿に従えッ!!」


 いつになく喋る半兵衛さんが、この時はやけに頼もしく見えた。


 「権之助さんも、六之助さんも、牧村お婆ちゃんも、大野さんも皆、オレの背中を追い掛けて着いて来いッ!!!オレがもし倒れても無視して本圀寺の中に!ミヤビちゃんは最後方の大膳君と一緒に、誰も見捨てないように!!走れッッ!!!!!」


 って・・・あれ!?ここは『オォーッ!!』と言うところじゃないの!?


 「皆の者ッ!!!何としても我が君を見捨てるな!!己の命を我が君に捧げよ!!我が君は必ずワシが送り届ける!!ワシに続けぇぇぇ〜〜!!!」


 「「「「「オォ────ッッッ!!!」」」」」


 はぁ!?何でそうなるんだよ!?小川さん・・・カッコ良過ぎるんだが!?




 この本圀寺の救援の戦で、オレは初めて陣形が大切だという事が分かった。三河一揆の時はぐちゃぐちゃ。上洛戦は坂井さんの勢いと国友大筒の大活躍にて、野戦はしていない。

 しても最初から、勝敗が決まっていたくらいだったからだ。

 今回のように大筒が使えず、純粋な戦において少数が多数に勝つには知恵が要る。その知恵が自称美濃の最強の軍師、自称芝田家筆頭軍師、渾名 今孔明の竹中半兵衛さんだ。


 超攻撃的陣形で言えば偃月の陣もあるが、今回は突破力が必要だから、蜂矢の陣を採用している。言葉では非常に簡単だが、どちらにしても前方には武に秀でた者が必要だ。そして後方も、前方に着いて行く脚が必要だ。それらが出来るのが今の甲賀隊の皆々だ。


 今回の戦では与力になっている坂井さんと、美濃三人衆が前方の秀でた武の持ち主だ。

 坂井さんの素晴らしい激と素晴らしい指揮により、この蜂矢の陣、本圀寺への突入は・・・。


 「芝田隊 与力 美濃穗積の坂井政尚 着陣!」


 容易だ。前方は既に本圀寺に入り込みオレ達、後方組が入りやすいように、敵を蹴散らしてくれている。更にそれを簡単にしてくれているのが、恐らく幕府 奉行衆を指揮してくれている慶次さんだ。


 「剣城ぃぃ〜〜!!!怪我したのか!?奉行衆!踏ん張り所だ!!!あの変な南蛮甲冑を着た爺さんの一団を囲めッ!!!」


 こんな時に、目立つ甲冑の小川さんが居て助かった。坂井さん、美濃三人衆、竹中さんの途轍もない突破力、破壊力があれば敵は囲む事ができず、オレ達の為にあるかのような道が出来上がる。

 爆竹で相手をビビらして、ロケット花火の音が木霊し、更に怖気付く。その中に隼人君達から皆、一射ずつだが、本物の鉄砲が撃たれる。敵は指揮官も少なく更に浮き足が立つ。これをあの呑ん兵衛で、気色悪い声で笑い、優男とは正反対、戦嫌いとか言う癖に前線に行き、軍師風吹かせてるのに肉弾戦を好む、竹中半兵衛さんが考えた。


 「間違いなく本物だな」


 「え?我が君!?何か言いましたか?」


 「いやいや、何でもないよ。小川さんは先に入って!牧村お婆ちゃんも早く!」


 オレは小川さんの背中から降りて、後方の甲賀隊の皆を誘導する。これが今のオレができる精一杯の仕事だ。





 〜三好本陣〜


 「何をしているッ!!何故あの隊は易々と我が軍を押し退けるのだ!囲め!囲んでしまわんか!!そもそも雑賀は何をしているのだ!!銭食いの傭兵の癖に使えぬ馬鹿者が!!」


 「申し上げますッ!!!敵は少数ですが勢い激しく、臨時の番頭や組頭は殺られてしまいました!そして・・・雑賀が抜かれた模様・・・」


 「クッ・・・あれは間違いなく、うつけの先行隊・・・うつけの本隊はどこに居るのだ!」


 「それが・・・近くでは見当たりません!」


 「うん?見当たらない!?」


 「はっ。かなりの斥候を出しましたが見当たりません!」


 「ふっ。未だ勝機は我等にあるぞ!!織田本隊が来るまでにここを落とせば良い!敵の軍団は1000にも満たない筈だ!一度兵を退かせろ。戦い方を変える」


 「叔父上!あの芝田軍に刻を与えてはなりませぬ!10万の兵が居ても落とせなくなるような、出城を築いてしまいますよ!?」


 「うん?義継は何を言っているのだ?」


 「分かるのです!上洛戦にて俺は織田側につきました!だから分かるのです!芝田軍が完璧に着陣する前に今一度、総攻めを!俺が指揮を取ります!」


 「お前がそこまで言うのは珍しい。確かにこの中であれを知るのはお前のみ・・・うん?よく見ろ!孤立している!?馬鹿め!早くに陣に入れば良いものを・・・。鉄砲隊!すぐにあの変な頭巾を被った者を狙え!!」




 「大膳君!ミヤビちゃん!脱落者は!?」


 「はっ!誰も居りません!全員着陣致しました!」


 「オッケー!じゃあオレも陣の中に・・・」


 パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ


 「「「剣城様ッッ!!!!!」」」


 この日、オレは2度目の強い衝撃を腹、背中、肩に感じ、敵味方が入り乱れる中、あまりの痛さに気絶しそうになったが・・・。


 「我が君ぃぃぇゃぁ〜〜〜!!!死ぬる時はワシと同年同月同日にと、お約束したではないですかぁぁぁぁ〜〜!!」


 小川さんの意味の分からない、いつ約束したかも聞いた思い出もない言葉を、泣きながら言われ気絶すらできなかった。そもそも死ぬつもりは無いんだが!?

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