必殺の第3陣

 「剣城様!!」 「剣城殿!」 「芝田殿!?」


 オレは激痛に耐えながら、なんとか小川さんに引っ張られて、本圀寺の正門?の前にある陣の中に入った。

 目を閉じる事も出来ない激痛・・・。


 「これは・・・無理かも・・・」


 「我が君ぃぃぇゃぁ〜〜!!無理ではありません!おい!衛生班はどこだ!!鞠!鞠ではないか!そこで何をしている!早く我が君を診察して──」


 カチャ  ゴグッ ゴグッ ゴグッ


 「プハー!復活!!!あれ?皆そんな深刻な顔しなくても大丈夫だよ?ビビりのオレが何も用意しない訳ないだろう?神様印ポーションに、神様印皇帝液栄養ドリンク、もう毒は効かない身体だけど、念の為に神様印ハーフエリクサーも、ちゃんと懐に入れてあるし」


 「がはははは!ワシは知っていましたぞ!それでこそ我が君ですぞ!!」


 「剣城様。援軍ありがとうございます」


 「鞠ちゃん。久しぶり!元気にしてた?それにしてもその着物、可愛いね。その横の女性は?」


 「おーい。剣城・・・こんな時に鞠の心配か?怪我したならさっさと薬を飲んでおけよ!さすがの俺も焦ったぞ?おい!奉行衆!!陣の中に入れ!!」


 「すいません!とりあえず、鞠ちゃんの事はまた後で聞くから!」


 「はっ!」


 慶次さん達が最後に陣の中に入り、剛力君が土嚢袋を閉じて、オレは一先ず休憩する事となった。



 「剣城様・・・貴方は本当にお人が悪い・・・」


 「望月さん。ごめん!それに他の皆もごめん!鈴ちゃんや奏ちゃん達の衛生班に『怪我しても剣城様は薬に頼らず、私達に先ずは見せて下さい』って言われてたんだよ」


 「そうでしたか・・・。いや、私はてっきり致命傷でも負ってしまったのかと・・・」


 「ははは。大丈夫だよ!この戦闘服はベヒーモスーツと言って・・・ゴホンッ。そんな事よりまずは幕府衆の人達に挨拶を」


 オレがいつも通り、望月さん達と話していると、本圀寺防衛の兵の人達は呆気に取られていた為、まずは挨拶する事にした。まぁ、当たり前だよな。おっ!?あの人は・・・。


 「明智様ではないですか!お久しぶりです!」


 「・・・・・・」


 「あれ!?」


 「あっ、いや、相すまぬ。鉄砲に撃たれたように見えたが、何ともないのか!?」


 「あっ、全然大丈夫ですよ!とりあえず、私達が来たので、今のところ大丈夫ですよ!よく持ち堪えてくれました!すぐに、防衛力を強化しますので!然る後に信長様が来られますので、その時は打って出て三好を挟み撃ちにします!剛力君!大膳君から国友大筒を貰って、配置!他の甲賀隊は金剛君に言って、本圀寺全周を警戒するように!」


 「あのう・・・」


 「あっ、明智様は竹中半兵衛さんと連携して、引き続き防衛をよろしくお願いします!半兵衛さん!この人は明智様と言って・・・」


 「知っていますよ。美濃の時代からですね。明智殿。息災なようで。明智殿の軍を一時、私に預けなさい。そして・・・」


 やはり半兵衛さんは本物だ。即座に動いてくれる。

 



 オレ達が本圀寺へ着陣したら、三好の突撃が更に強くなった。しかも・・・。


 「剣城様。あの旗印は筒井家の家紋かと」


 「って事は・・・半兵衛さんの読み通りって事!?」


 「恐らく・・・。それと、これを見て下さい」


 「望遠鏡を覗くのなんて久しぶ・・・り・・・はぁ!?義継!?この前、味方だった三好の人じゃん!!何で敵に居るんだよ!!」


 さすがのオレも納得できた。あの若人の三好義継・・・。まさか、三好家全てが敵だとは思わなかった。だから、こんなに兵が集まったのか。


 「剛力君!あの三好義継はオレ達の兵器を知っている!この大筒は効かないと思っておいて!あそこに居るという事は、彼奴が指揮をするって事だ!散会して突撃が来る!恐らく正門だけではなく、全体から来る!」


 「はっ。ですので、甲賀隊は金剛に指揮を取らせ、均等に全周を守らせるようにしました」


 「ほっほっほっ。剣城殿。将軍への御挨拶は?」


 「する訳ないでしょ!聞けば、『奥の間で相変わらず女遊びしてる』って言ってるんですよ?」


 「ですな。いや、将軍も表に出て、兵を鼓舞くらいしていただきたいものですね。敵の突撃まで暫し時間があります。捕らえた雑賀でも尋問しては如何ですか?」


 「いや、そんなの後でいいですよ」


 「三好の事が聞ければと思いましたが・・・まっ、私も興味は無いですがね。では・・・上泉殿に、将軍の事はお任せ致しましょうか」


 「・・・・・」


 そういえば、伝説の剣豪も居たのだった。当たり前に居るから忘れてたよ。確かこの人は先代の将軍に、兵法を伝授するような人だったよな。


 「オレからもよろしくお願いします。貴方と話したい事は山程ありますが、敵は待ってくれませんし、将軍は・・・オレの事嫌ってるようですので、上泉様にお願いしたいのです」


 「仕方がない。一度挨拶をしましょう。そして、某が将軍の近侍を指揮しましょうか」


 「ほっほっほっ。貴方も現将軍様と話すと、考えは変わると思いますよ。おっと・・・。さて・・・」


 半兵衛さんは将軍に対して冷たい言葉を言うと、馬に跨った。ノアと眷族になった身体の大きな馬だ。確か名前は・・・。


 「さて、妙子。此度も働いてくれるな?」


 ヒヒィーンッ!


 半兵衛さんの馬の名前は、普通の女性のような名前なのだ。まぁ、人の馬の名前なんてどうでもいいけど。将軍の事は剣豪さんに任せよう。


 それにしても半兵衛さんは重装備だな。防衛だろ!?


 「半兵衛さん?何で、重装備を?」


 「ほっほっほっ。戦は性に合わないですからね。私は攻めますよ」


 いやいや、信長さんの作戦聞いたのかよ!?『挟み撃ち』ってオレはドヤ顔で、明智さんに言ったんだぞ!?


 「いや、信長様を待った方が・・・」


 「クックックッ・・・。三好義継。味方に敵にと二転三転コロコロ変わる男は、私は嫌いだ。それに、剣城殿は今年は比類なき活躍をせねば、なりませんよね?私が見せましょう。大殿を待たずに、三好を駆逐するのです」


 おいおい。黒い内面が見えているぞ!?戦いたいだけだろ!?


 「おぉ。竹中も殺る気か?」


 「クックックッ。慶次殿もですか?」


 「そうだな。オレも待ちは嫌いだ。奉行衆の兵は動きが遅いから、小競り合いだけで済ませたが、甲賀の者も到着したからな。まっ、後は剣城。お前の号令待ちだ」


 「え!?オレの号令待ち!?」


 「そうだ。後ろを見てみろ。傷は治ったが、主が怪我したのだ。そりゃ、剣城に心酔してる甲賀の爺っちゃんや、婆っちゃん達は悔しいだろう。望月の頭領も顔には出していないが、アレを見てみろ。アレは望月頭領が現役だった頃の獲物だ。刃に返しがあるだろう?尋問や捕縛を得意とする望月頭領が、アレを持つというのは・・・殺る気という事だ」


 いやいや、怖ぇーよ!甲賀隊で唯一、まともな人だと思ってたんだけど!?あの返しがある刃でどうするんだよ!?


 "血が・・・。血湧き肉躍る戦・・・。血の匂いさね!"


 あぁ!もう!成長する剣のプロミさんまで、インベントリから話し掛けてきやがる!


 『確かに比類ないくらい活躍せよ』と言われたし・・・。あれ?あの神速を誇る信長さんが、そもそもこんなに遅い訳ないよな!?雑賀に手間取り、森を抜けはしたが、あの人も農業神様の食べ物を普段食しているのだから、甲賀隊のような足はあるから、半日もあれば到着する筈だ。


 これは信長様がくれたチャンスなのか!?




 〜岐阜城〜


 「お館様。準備出来ました。河尻様始め、黒母衣衆全員、いつでも動けます」


 「で、あるか」


 「え?」


 「忘れ物があればいかんからな。今一度、装備を点検させろ」


 「お館様・・・そんなに遅くて大丈夫なのですか?」


 「遠藤は分かっておらぬのか。剣城と仲が良いのかと思っていたのだがな。彼奴も今頃勘づいて居るのではないのか?彼奴の直臣の甲賀隊500・・・。あれは他国の足軽5万に匹敵する兵ぞ。しかも、その親族衆も此度は居るのであろう?竹中も坂井もくれてやったのだ。ワシが着くまでに、勝敗は決してもらいたいものだな。三好如きに遅れを取るようでは、城なんぞやれん。ワシと帰蝶の娘もやれんよな」


 「そ、そうでありましたか。では、松永様の家の者にも今一度、装備の確認をさせます!」


 「良きに計らえ。だが、他の家中の兵は誠に遅い。落ち着けば、早急に動ける訓練をさせねばなるまい。即応隊の創設もせねばならぬ。少しは剣城の家の者を見習えば良いのだがな。特に佐久間だ。『いつでも動ける軍を』と言ったのだが、全く来ないではないか」


 「はっ。佐久間様にも伝えておきます」




 〜本圀寺〜


 「上杉家 京都 守備隊 頭の山本寺定長と申しまする」


 「浅井家 都 警護隊 頭の井戸村光慶と申しまする。よしなに」


 「毛利家 京都 守護隊 頭の熊谷信直と申す」


 「徳川家 京 守備隊 隊長、小栗吉忠と申します。一揆の折はお世話になりました」


 「おいどんは、島津家 京都 見廻り組 木脇祐昌と申しまする」


 この人達が織田軍以外の、各家々から選抜された将軍を守る兵の頭の人達だが、将軍に近いからなのか、教養のありそうな老齢な方が殆どだが、義弘さんの所の島津家の人だけ明らかに若い。恐らく10代じゃないだろうか。


 それに徳川家の小栗って人は一揆の時に居たみたいだが、悪いけど覚えていない。

 そして、一つ思う事は、各家々でこの部隊の呼び方が違うという事。島津家の見廻り組なんかは、もう少し未来の新撰組を彷彿とさせる部隊名だな。

 何故、他の家の兵を呼んだかというと・・・。


 「これより、我等は打って出ます。オレの部隊の竹中半兵衛さんを中心に、前衛は坂井政尚隊以下200名は決定です。残りのオレの直臣の甲賀隊200名は、オレが指揮します。作戦は竹中半兵衛という軍師が立てますが、貴方達はどうされますか?」


 他の家の兵の人達にも参加するか聞いている。上杉家とは少し怪しい問答があったが、敵対している訳ではないし、毛利家とは関わりが殆ど無いけど一応、オレ達と同じように将軍を、京都を守るって事は一致しているからな。


 「おいどん等、薩摩兵児は是非先頭に迎え入れて頂きたい。義弘様からキツく言われています。『もし京の都で何か起これば、他家より働け。剣城君が指揮をするなら言う事を1番に聞け。攻撃なら1番功を取り、撤退なら殿軍(でんぐん)となり、必殺の捨て奸にて剣城君を助けよ』と言われております」


 ハイ。出たよ。薩摩兵の頭狂った感性。基本的に戦の事となれば、薩摩兵は激戦区に喜んで行きたがるからな。それにオレが居て、捨て奸だけはさせないぞ。


 「なっ・・・。クッ・・・。我が上杉家も先頭に入れてくれ。島津兵に負けぬ戦いをすると約束致す」


 「浅井家は織田家と同盟柄。同じく浅井家が戦わずしてどうするか」


 「はい。そこまで!では、毛利家と徳川家は正門以外の防衛をお願いします。異論はあるかとは思いますが、全員が戦に参加すれば他からの侵入を許すと、ここが落ちます。それと、敵は三好義継・・・三好宗家も敵になりました。つまり、オレの戦術も装備も知っている訳です。少なからず、オレが使っていた装備も持っている筈。この意味が分かりますか?」


 「薩摩兵児は種子島の1発や2発喰らったところで、勢いは止まらない。必ず2殺はする。おいどんに限っては10殺は致す。儲けもんですよ」


 いや、マジで頭おかしいから。この人も義弘イズムを受け継いでいる。


 「ほっほっほっ。皆々の衆。お初にお目に掛かります。芝田家 支配内 竹中半兵衛と申しまする。今から作戦を伝えます。まずは、歩卒を減らして下さい。それと同時に鉄砲隊率いる隼人隊が、櫓から狙撃します。その後、2陣の前田隊が奉行衆を連れて、中陣の弓矢隊を倒します。ここで敵は無印大筒を撃つでしょう。これは回避できない為、各々が自分の判断で密集から避けるように」


 確かに、無印の大筒を三好義継に渡していたような気がする・・・。(チッ)こんな事なら書類仕事も、ちゃんとしておけば良かった。


 「御意」 「うむ」 「了解した」


 「そして必殺の3陣は我が殿の剣城隊。甲賀隊を侮る事勿れ。そこら辺の武士(もののふ)なんかより、やりますよ?ほっほっほっ。この隊の役目は三好本陣の急襲。前衛の坂井隊と私が思う存分働き、敵の後備えも出し切るくらいに、乱戦に持ち込みます。中陣の飛び道具の隊を前田隊が蹴散らせれば、自ずと道が出来るでしょう。剣城殿は先程の突入の時に経験しましたね?」


 「えぇ。見事に道が出来上がり、オレ達はここへ楽々突入できました」


 「その通り。ここで島津家は剣城隊に入ってもらいます。見事、剣城殿の道の魁となって下さいませ」


 「任されたし」


 島津家の戦は突撃に特化しているから、この10人がどれだけの猛者かは分からないが、間違いなく義弘イズムを受け継いでいるから、凄い事になりそうだ。


 「ふむ。徳川家、毛利家はつまらなく思うでしょうが、ここを防ぎ切れば将軍から後々に、何かしらの褒美があるでしょう。無かったとしても、必ず我が殿の剣城殿から贈り物が送られると、私がお約束しましょう。特に毛利家の方々は、尼子家と仲が悪いようで。難攻不落と名高い月山富田城の攻略・・・実現したくはありませぬか?」


 「貴様に何が分かる」


 まーた勝手に半兵衛さんが言ってるよ。まぁ別にいいけど。それに加藤さんも武器開発してくれだしたし、丁度良い営業文句かな?


 「オレが変わります。尼子家、大内家、毛利家、赤松家、山名家と、山陰は領土拡大しようとする勢力が多い。まぁ大内家は既に無いとは思いますが、播磨、備前、美作を跨いで、どうやって京都まで来れたのですか?毛利家の殿の高名、功名は知っています。戦に強く、調略に長け、機(しお)を見るに聡いですよね」


 毛利元就・・・今が1番全盛期な筈の人だ。この人も未来の大概の人は、名前くらいは聞いた事あるだろう。オレもそうだ。事細かくまでは分からないが、ある程度は知っている。


 「・・・・・・」


 「熊谷様でしたよね?開戦と同時に撃つ大筒を、何門か譲る事もできます。ここは、竹中半兵衛の策を飲んではくれませんか?悪いようにはしませんよ」


 この毛利家の熊谷さんからすれば、オレは怖いだろうな。全く関わりの無い、しかも距離も遠い家の事を、知られているんだからな。しかも京都を守る為に詰めている人だ。本国でもそれなりの地位がある人だろう。


 「分かった。だが、約束は守ってもらうぞ」


 「えぇ。必ず」


 留守番一つ頼むのもこの時代は大変だ。まぁ、毛利家には宣伝になってもらおう。次は・・・。


 「えぇ。徳川家は異論ありませぬ。強いて言うならば、甘味の輸入量を今少し多くしていただければ。あっ、個人的には殿に一言・・・『小栗は良く働いた』と言っていただければ、手前は喜びます。ハイ」


 「ほっほっほっ。畏まりました。では、私から徳川様に小栗様の事を伝えておきましょう」


 うん。徳川家とは仲が良いから楽だ。


 さて・・・始めようか。

 

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