カレーで始まりカレーで帰結する

 佐和山城に到着すると、先に登城していた浅井軍の人達が居た。この佐和山城の城主は、浅井家支配内になっている磯野員昌さんって人だ。


 この人の凄いところはリサーチ力だと、出会った瞬間に分かった。まず、浅井家当主 浅井長政さんと久しぶりの再会だ。


 「剣城殿!久しぶりである!!」


 「浅井様!お久しぶりでございます!すぐに信長様もお越しになります!」


 「うむ!義兄上とも直に会うのは久しぶりなのだ。おっと・・・我が家臣であり、この佐和山城の城主である磯野員昌だ」


 「其方が・・・いや失礼。貴方様があの有名な、褌一丁から今や織田軍の第一陣をも任されるようになった、芝田剣城様ですか?噂は予々・・・」


 クッ・・・この人まで褌事件を知ってやがるのか!?誰だ!?誰が教えたのだ!?


 「はは。今や近江では成り上がりの一端として、足軽の間では有名な語り草ですよ。以前、六角と小競り合いがあった折に、下々の者に言い聞かせた事があったのだが、なんせ実在人物の事だからな」


 いや犯人は浅井さん、あんたかよ!?


 「殿!そんな事より早くおもてなしをせねば・・・。剣城殿?聞けば、新しく命名したびわますなる魚が殊の外、好物と聞いておりまする。本日は部隊人数全員に御用意しておりまする」


 「マジすか!?ありがとうございます!楽しみです!池田様!良かったですね!サーモンですよ!!」


 オレは、少し不機嫌顔の池田さんを喜ばせる為にわざとらしくそう言うと、一言だけ言った。


 「酒も所望する。近江産の葡萄の酒があったろう?あれだ」


 「池田殿?あれはまだ試作段階で、あまり美味しくは──」


 「義弟殿!構わん!不味くても文句は言わん!」


 「畏まりました」


 今思えばこの池田さんは確か、信長さんと乳兄弟だっけ?なら一応かなり遠いけど、浅井さんとも義理の弟的になるのかな?まぁいいや。


 池田さんは意外にもグルメだ。最初こそ食い物にも酒にも興味が無く、たまにチョコレートを所望する人だったが、今や農業神様監修のビワマスの養殖を琵琶湖の北部で行っており、そのビワマスをこよなく愛す1人だ。


 酒も清酒も飲みはするが、最近ではワインや果実酒のような酒が好きだ、と分かった。オレは毎年正月の贈り物として、主要な人達には皆、同じ物を送っている。


 去年はワイングラスを送ったのだが、それから調度品なんかにも興味が出たらしく、尾張ブランド製品の一つ、ガラスコップの総責任者がこの池田さんだ。


 常に信長さんと共に居る事の多い池田さん。どうしても森さんや柴田さんと比べると、譜代から織田家に居る割に活躍の場が少ない為、オレが信長さんにお願いして、池田さんが抜擢されたのだ。


 ちなみに農業関連は全て木下さんだ。あの人の凄いところはそこそこの身分になってる筈だが、未だに自ら畑作業をしたりして、農民から人気が高い。見栄っ張りな性格もあるせいか、時折りオレに『スポーツドリンクが欲しい』と言って購入して、農民の人達に木下さんの奢りで振る舞っているらしい。


 ねねさんがたまに愚痴ってくる。請求は月末で、ゆきさんが回収してくれているが、請求額が1番大きいのは木下さんだ。そして金払いが悪いのが佐久間さんだ。


 話が逸れたが、城の方に戻ろう。この佐和山城は『三成に過ぎたるもの』の一つと言われているが、今はそうでも・・・ないこともない。


 浅井さんに信長さんが直接防衛設備を売りつけ、この佐和山城は山城だが、その玄関口・・・。曲輪の外型に設置した、外枡形曲輪内に設置した内枡形があるのだが、初見でここに入れば誰であろうと、即あの世行きだろう。


 監修はなんとあの明智さんだ。まだ客将のような感じらしいが、色々京の事を手配してくれている1人らしい。信長さんが個人的に懇意にしてるみたいだ。


 まぁ、その枡形には岐阜城下で作られている武具や装備がてんこ盛り、らしい。詳しくはオレにも教えられていない。ただ分かるのは、黒く光っている大砲が10門以上あるという事だ。


 その枡形を抜け、城の中の大広間へと向かう。そこには綺麗に御膳が並んでいる。とても戦の前とは思えない、歓待されてるような気分だ。


 並べられているメニューは正にサーモンばかりだ。刺身、塩焼き、炊き込みご飯、サラダ、そして・・・。


 「はっ!?何でカレーがあるんですか!?」


 オレが思わず、この御膳に似合わないカレーにツッコミを入れると、ドタドタ足音が聞こえた。信長さんのご到着だ。


 「剣城!!貴様は分かっておらぬようだな?戦とは・・・辛いカレーで始まり、甘いカレーで帰結するのだ!覚えておけ!おう!義弟よ!久しぶりだな!お主はよう分かっておるようだ!早速、軍議を開く!皆座れ!」


 いやいや、カレーで始まりカレーで終わるのかよ!?しかも到着した瞬間に軍議かよ!?後方はまだ到着してないぞ!?



 「うむ。義弟の料理人も腕を上げたようだな。まあまあなカレーだ。単刀直入に言おう。考えさせる間もなく攻め立てる」


 信長さんが食いながら概要を言った。まず、美濃三人衆の1人。稲葉良通隊が和田山城を包囲。柴田さんと森さんがその後詰め。


 信長さん、滝川さん、丹羽さん、木下さんが箕作城を包囲。この箕作城が1番兵を割いている。


 そして・・・。


 「(クチャ クチャ)剣城と池田、島津隊で観音寺城を攻めたてよ。剣城はここで過去の因縁を払拭せよ。間者の調べによると、六角の草の三雲何某やらが、観音寺に詰めているそうだ」


 「大殿・・・我等の為に申し訳ありませぬ」


 「ふん。ワシは利が無い者を厚遇はせぬ。お前等、甲賀衆は今後も剣城の隊で働いてもらう」


 「畏まりました!」


 「良いか?全員聞け!極力犠牲を出さぬ戦いを致す。こんな羽虫如きで死ぬるのは勿体ない!昼も夜も休む間を与えず攻め立てよ。それを2日繰り返す!敵が疲弊しきったところで落とすぞ」


 「「「オォ────!!」」」

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