不完全燃焼

 オレ達第一陣は早速、観音寺城に言葉闘いを仕掛け、投石をしたり爆竹を投げ込んだり、ロケット花火を撃ち込んでいる。


 「ほら!これです!池田様もどうですか!?」


 浅井さんが作ったワイン擬を飲み、たらふくビワマスを食べ、幾分上機嫌となった池田恒興・・・。オレは更に上機嫌になってもらう為、花火を池田さんに撃たせようとしている。


 最悪な弱い者いじめに近いものがあるが、これが面白い。最初は城から『攻められるものなら攻めてみよ』とか『どんな大軍相手だろうが屈さない』と士気が高いように見えたが、金剛君が放り投げた爆竹の一回で、誰も顔を出さなくなったのだ。


 一応相手からも石が飛んでは来ているが、オレ達が構えた陣の遥か手前までしか、届いていない。一方オレ達は城壁に軽々と届いている。


 「芳兵衛が作ったおもちゃは使いやすくていいな!おい!ほら!剣城もやってみろ!この石がいい!」


 慶次さんは嬉々としてパチンコを撃っている。清洲の始まりの村の一部にゴムの木を植えてあるのだが、ようやく八兵衛村長達が自力で樹液を濾したり、不純物を人海戦術で除けたりして出来上がったゴムだ。


 今後は量産体制になり、竹中さん主導の元、ゴムタイヤや密閉容器を作ったり、様々な用途に使えそうだ。


 「おい!剣城!ワシにも貸せ!こんな凡戦はつまらん!ワシが手本を見せてやる!言葉闘いとはこうやってやるのだ!」


 池田さんはオレからパチンコと石と爆竹を奪い取り、石に爆竹を括り付け、導火線に火を点けて敵に叫んだ。


 『情けない六角の兵達よ!悔しければここまで攻撃を届かせてみせよ!腰抜け!三下!臭い臭い六角の兵共よ!ははは!」


 パンパンッ パンパンッ パンパンッ パンパンッ


 ガキの口喧嘩か!?と問いたくなるような事を言っているが、この言葉闘いとは如何に相手をイラつかせるか、という闘いらしい。逆にオレがさっきの池田さんが言った事を、六角に言われたら国友印の大筒第一号『国崩し砲』を、お見舞いしてやるところだ。


 完膚無きまで撃ってやりたいくらいだ。


 「己れッ!!言わせておけば!!この一矢!とくと見よ!」


 うん。敵にもオレみたいな奴が居るみたいだ。双眼鏡で状況を見ているけど、城壁から弓を射ってきてるが、まぁ届く訳が──。


 ビシュンッ


 「我が君!?」


 「うを!?ビックリした!弓矢届くの!?」


 「馬鹿!顔を出してどうする!向こうは今、風を味方につけている!弓ならば届く!」


 敵の矢は、オレが見ていた所の数メートル手前の斜面に、突き刺さっていた。


 「ふん。相変わらず肝は小さい男だな?辞めだ!辞めだ!おい!剣城!動きがあれば知らせろ!昼寝してくる!」


 「分かりました」


 一応、この軍はオレが大将らしいが、池田さんの方が権限が高い。まぁ、池田さんに任せておけば間違いはないとは思う。


 「ほら見ろ!所詮は寄せ集めの軍!ワシの矢に怖気付いておるぞ!がははは!」


 「クソがッ!!!!目に物見せてやる!剛力君!国崩し砲を用意!1発だけぶちかます!」


 「剣城様!!なりませぬ!お味方と足並みを合わせなければ!!」


 「許せん!あんなハゲ頭野郎に舐められて黙ってられない!1発だけ!1発だけだから!」


 「がははは!剣城も珍しくやる気じゃないか!けど、今は我慢しておけ!あれを撃てば開戦してしまうぞ」


 オレはその後、何回も挑発を繰り返した。


 「お前の母ちゃん!デベソ!!」


 「ファックユー!」「ファッキンサノバビッチ!」


 「ハゲ頭のとんちんかん野郎ッ!!!」


 オレの言葉は日中ずっと続いたが、敵から何かされる事はなかった。


 「がはは!我が君も中々短気ですな!さて・・・これからは夜の言葉闘いですじゃ!我が君はゆっくり休んで下され!この小川!この小川三左衛門が、言葉闘いの神髄を見せてさしあげましょう!」


 「おい!小川!お前の神髄とやらを見せるならば剣城様が休めないだろうが!少しは考えろ!剣城様?花火を少々使っても?」


 「小泉さんに任せますよ。叫び過ぎて喉が痛い。国友砲は撃てないし、負けた気分です」


 「まぁまぁ。おい!ミヤビ!剣城様にマッサージをしてさしあげろ!」


 「はっ!」


 今しがた、小泉さんに名指しされた女の子はミヤビちゃんだ。野田さんが修行?修練?させて合格された子らしい。どこで何の訓練をしてるかは、聞いても教えてくれない。ただ、巷の上忍なんかより優れた身体能力がある子らしい。年齢は15歳と聞いている。


 ゆきさんは正式にオレの嫁になったから、任務には携わる事が無くなった。だから地方や他所に出払っている時の、身の回りのお世話はこのミヤビちゃんが、引き受けてくれている。ちなみに、ゆきさんから許しも得ている。むしろ、このミヤビちゃんの任務はオレの護衛。戦になろうが、どんな事になろうがオレの護衛が仕事らしい。


 

 ポキッ ポキッ


 「うっふ・・・相変わらずミヤビちゃんはマッサージが上手だよ・・・そこそこ!」


 ポキポキ


 「ありがとうございます。では、大殿が日の本を統べ、戦が無い世が来たならば、私はマッサージ屋さんでもしましょうか?剣城様が勿論、出資してくださいね?」


 ポキッ


 「お、おぅ・・・その時は何とかするよ」


 このミヤビちゃん・・・意外にもボキャブラリーがあり面白い子だ。だいたい皆クソ真面目な子が多い中、この子は横文字も使いこなし、何でもできるのだ。


 『フッ フッ 聞こえるか?ワシだ』


 オレが気持ち良くマッサージを受けていると、トランシーバーから信長さんの声が聞こえた。


 『こちら木下隊。感度良好』『柴田隊。問題なし』『森隊も問題なし』『佐久間隊も問題なし』


 このトランシーバーは今のところ、織田軍にしか渡していない。しかも持っているのは直臣の人達だけだ。丹羽さんは信長さん付き、利家さん、佐々さんは柴田さんの与力だから、個人では持たされていない。


 「芝田隊も聞こえます」


 『うむ。これより夜になる。兵を交代させ花火を断続的に撃ち込め。そして時折り本物の鉄砲も撃ってよい。花火は音はいいが、殺傷能力が無いから敵が安心してしまう。この暗闇の中ならば鉄砲は見えぬであろう』


 『お館様?鉄砲は・・・国友銃でもいいのでしょうか?』


 『あぁ。だが、大筒と国崩しはまだ撃ってはならぬ。朝倉や浅井の兵は小堤山城や岩倉、向山など支城を落とすように言ってある。義弟には落とした城は浅井家と織田家で折半すると言っている』


 「え!?ならもしかすれば織田領に近いくらい、浅井領も大きくなるんじゃないですか!?」


 『ふん。知れた事よ。義弟がもし、ワシを裏切る事があったとしてもワシは義弟如きに負けぬ。たかだが30万石程の義弟が一国500万石を超えるワシを倒せるかは甚だ疑問だがな。そんな事より、ワシの草から聞いたぞ?剣城は大筒を撃とうとしたらしいな?』


 「え!?何故それを!?」


 『ワシに見えぬものはない。作戦を忠実にこなせ。伝令は以上だ。各々、励め!』


 クッソ!誰か信長さんの忍者が居たのか!?全然分からなかったぞ!?


 次の日。夜勤組の黒川さんや望月さん達と交代だ。


 「剣城様!昨夜は中々、楽しかったですよ!花火を投げ入れる度に敵は慌てていました!」


 「そうですか。鬱憤は晴らせてますか?」


 「えぇ。三雲を殺るまで晴れる事はありませんが、程々には」


 「分かりました。とにかくお疲れ様でした。飯食って寝て下さい」


 「「御意」」


 夜勤組のお陰か、2日目の城兵のやる気の無さは大したものだ。花火を投げ入れても、慣れたってのもあるかもしれないが、反応しなくなったのだ。言葉闘いをしても返答すら無くなっている。


 ここで、2日目に当初から予定していた作戦・・・火攻めは後始末が大変だから火攻めではないが、火攻めをする作戦だ。


 その火攻めとは・・・。


 「へぇ〜。これがこのライターの中に入っている液体か。これが燃えるんだな?」


 「そうですよ。だからこれの回りは火気厳禁なんですよ。ってか慶次さんはキセル吸う為に、オイルライターとオイル渡した事あったでしょ!?」


 「あれか・・・あれは・・・花街のな?好いた女に渡しちまったんだ」


 「はぁ!?」


 「まぁ、そう怒るな!これを入れた瓶を矢で放てばいいのだな?その後、火矢を浴びせると?」


 「そうです。あまり量を多くするとマジで火事になるから、芳兵衛君曰く・・・この瓶の、この線まででいいそうですよ」


 「よし。任されたし!さて・・・やりますかね〜」


 クソ慶次が!女にオレからのプレゼントを渡すとは・・・この上洛が終われば説教だな。

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