野田一蔵の考え

 『詳しい話は後日』と言っていたが、オレは話に参加する事はなくなった。高山城の件は本当に買い取ったという事になり、高山の麓には簡易的ではあるが杭を刺して、織田木瓜紋の旗を翳してある。


 「おい!これは野田の考えか?」


 「はっ。大殿様の領地と分かるように致しました。気に食わないのであれば片付けますが!?」


 「いや良い。分かりやすくて境界線ではないが、ここが離れてはおるが織田領とすぐに分かる!」


 「はっ。ありがとうございまする」


 「うむ。昨夜のケーキは美味かった。だが今少し甘くとも良いと思う。精進致せ!褒美じゃ」


 いやいや、あれより甘くしてどうすんだよ!?糖尿病になってしまうぞ!?


 そして信長さんが野田さんに渡したのは、分かりやすく金だ。袋に入った大判だと思う。


 「ありがとうございます!実は皆に土産を買って帰ろうと思いましたが、些か待ち合わせが少なく困っておりまして・・・」


 ゴツンッ


 「馬鹿者!此奴程、働き者は居らぬであろうが!ちゃんと部下に褒美を渡し、俸給も渡しておけ!貴様ばかり銭を死蔵させてどうするのだ!」


 いやいやいや!普通に給金として最初期の甲賀隊のメンバーには、かなりの給料を渡してると思うんだけど!?


 「いや、それなりに渡してはいるのですが、いかんせん、ゆきさんに・・・すいません。嫁にお金関係を任せていまして・・・」


 「阿呆が!ちゃんと貴様も管理せいッ!城に行く!肝付何某とやらの面を見に行く!」


 ご機嫌斜めに、ス○夫さんの声優だろうと思う先祖に会わすのは、ヤバイ気がするが・・・。ダメだ。動き出せばもう止まらない信長さんだ。


 「野田さん?すいません。お金の事、気が付きませんでした。オレからも渡しておきます。小川さん?持って来たお金の半分を野田さんに」


 「半分もですか!?チッ。一蔵めが!何をそんなに無駄使いするのだ!ワシ達は拾われた身であろうが!ただですら厚遇してもらっておるものを──」


 「三左衛門は少し黙っておれ。剣城様、面白い者を見つけまして。それに銭を使ってしまいました。お許しを」


 「うん?誰かな?別に野田さん達が必要ならいくらでも出すから、気にしなくていいですよ?」


 「いえ。そういう訳には・・・他の者に示しが付きませぬ」


 「我が君!それならばワシは、我が君が我が君による我が君の為の──」


 「うん。却下かな。何がしたいか分からないけど、小川さんはお金使う時は必ず許可を貰うようにね?ゆきさんが許すならオレも許すから」


 「え!?いや、そ、そんな何故ワシだけ・・・」


 「三左衛門!これが・・・差だ!ふん!」


 いや、なんか野田さんがめっちゃドヤ顔なんだが!?こんな感じの人だっけ!?


 野田さんが言う面白い者は誰かと気になりつつ、高山の城に登る。程なくして三の丸を超え、二の丸・・・本丸だ。


 「小さいのに中々の装備をしておる!虎口も立派ではないか!」


 意外にも信長さんの評価は上々だ。


 野田さんが本丸の大広間に案内してくれる。城に入る前に、例のス○夫の声に似た肝付良兼に出迎えられる。


 マジで頼むぞ!?オレの時のような態度ならマジで首斬られるぞ!?


 「は、は、初めまして!き、肝付良兼でごございます!!」


 「うん?剣城?此奴は何じゃ?」


 「この方がこの城の城主になります・・・一応・・・」


 ってか吃り過ぎだろ!?まぁオレも最初は人の事言えなかったけど・・・信長さんのオーラが怖いんだよな。慣れればそんな事ないけど。


 良兼さんは男の癖に、パパの兼続さんに蝶よ花よと大事に育てられた、坊ちゃんぽいからな。


 「ほう?お主が城主か。聞けい!お主は何ができる!?何を得意とする!?お主の眼(まなこ)は戦う者にあらず。何もせぬ男は要らぬ!」


 ヤバイヤバイ!良兼さんは何ができるんだ!?何が得意なんだ!?


 「大殿様・・・少しお耳を・・・」


 「何じゃ?」


 何だろう。オレですら聞いてない事を言ってるのか?


 「ふむ。ふむ。そうか。確かに美濃でも尾張でも此奴が考えた事と同じだからな。よかろう!正直に言えば、ワシはこんなに離れた地は興味がない。だがこの地の湯には興味がある。島津殿とて、ワシの軍を駐留させるのは面白く思わんだろう。良きに計らえ」


 「え!?野田さん?何が!?」


 「ふん。また銭を使い銭を儲けるように考えたそうじゃな。楽しみにしておるぞ!おい!良兼!寝床を用意せい!遠藤!布団も持て!暫し湯に入り昼寝をする!」


 何が何やら分からないけど、どうなっているんだ!?信長さんは信長さんで満喫しようとしてるんだが!?


 「剣城様、お伝えします。こちらの部屋に・・・」


 

 「うん。それで何をどうするのですか?」


 「この高山を温泉街としましょう。幸いここら辺では色々な所で湯が出るそうです。そして面白い者と言うのが・・・その湯を掘り当てる天才が居まして、雇いました」


 野田さんが暫し退席の後、連れて来てくれたのは中年の男の人だ。ガチムチ系の人だ。


 「お初にお目に掛かりまする。雪之丞と申します」


 いや、また変わった名前だな!?爽やかな名前と違い実物はガチムチだな!?


 「雪之丞さんですね。それで貴方が湯のスペシャリストって事で、いいですか?」


 「すぺしゃなんとかってのは分かりませんが、湯は俺の一門衆が掘り当てます。いや、そもそもこの野田様にお聞きした湯屋とは、見当もつかなかった!」


 そこから色々な語りが始まった。ジャンルは違うが芳兵衛君と似た臭いがする。興奮すると止まらない感じだ。


 「と、とりあえず貴方は野田さんの下に付くように。野田さん?お願いしますね?ってか野田さんはここに残るつもりなんですか?」


 「はい。今回は一度戻りますが少しの間、ここに詰めようかと。移住者を見つけ、ここで例の肥料で作物を育て、養鶏、養豚などを行い、美濃や尾張に新鮮な肉を運べれば、と思っておりまする」


 「嘘!?ならオレの元から離れると!?寂しいんだけど!?」


 「勿体なき御言葉です。ですがこれも剣城様の為にございますれば」


 何がオレの為?と思ったが敢えて聞かなかった。


 「じゃあ野田さんにお任せします。定期便として週に一度ここに来るようにしましょう。その時、必要な物も言うようにして下さい」


 「御意」

 


 

 〜高山城の仕置きを決めた日の夜〜


 「おい。お前達。お前達は影の働き者だ。表に出ずただひたすらに剣城様に忠誠を誓う者。大殿は明日、明後日には岐阜に戻られるだろう」


 「ではここを本当に織田の拠点にされるのですか?」


 「織田の拠点ではない。剣城様の影の部隊を作る場所だ。剣城様が知れば拒否するだろう。だから悟らせないようにせねばならぬ。分かるな?お主等が今や毎日食している物全て、剣城様が育てた物や教えた物だ」


 「それならわざわざこんな所じゃなく、もっと近い所じゃないと御守りできないです!」


 「いいか?お主等は皆、親が居ない者達だ。今のお主等にワシは負けぬ。だが一つお主等に負けているものがある。年齢だ。長くてもワシは10年だ。剣城様はまだ先がある。その先をお守りするのはお前達だ」


 「金剛様や剛力様は!?」


 「あの者達は剣城様の右腕や左腕の奴等だ。後に何か役職を与えられ、剣城様より距離が離れるであろう。常に側に居る事ができる者は表に出ぬ者だ。分かるな?」


 「・・・・・」


 「そう暗い顔をするでない。幸いこの地は甲賀と離れておる。悟られる事はない。お主等の働きにて、上位の者は剣城様に紹介しよう。次代の甲賀隊はお主達だ!」

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