剣城と高山城のチョコレート工場

 3日程、高山城にて過ごした織田家一行。雪之丞さんは本当に湯のスペシャリストらしく、野田さんの下の下・・・名前すら無いような草?らしき少年達が作った地図にて、湯が出る所に印を付けて『ここが出る!』と断言していた。


 信長さんはこの雪之丞さん一門をかなり気に入り、高山城に登らせ、特製の生クリームたっぷりの激甘カレーを振る舞っていた。オレは正直勘弁してもらいたいカレーだが、この雪之丞さん達は涙流すほど美味いと言って、家族にお土産まで貰っていた。


 「うむ!誠、素直な感想であると思う!其方等には期待している!今度ワシが来るまでに色々な所に湯を掘り、温泉を作り、趣向を変えた宿屋を作っておけ!島津殿もたまには羽を伸ばせる場所があれば、楽しみが増えるであろうよ!」


 と信長さんが珍しく、他人にまで温泉を入らせてあげる施設を作れとGOサインを出した。ここで雪之丞さん達は、言葉の意味はあまり分かってないようだが、野田さんに肩を叩かれ頷かれていたので、多分やってくれるだろうと思う。


 そして、連日の島津貴久さん達との饗応だ。おもてなしからのおもてなし。どうも貴久さんは、信長さんの事を気に入っているようだ。


 かなり飲まないと酔わないみたいだが、酔うと必ず・・・。


 「畿内に負けぬよう、おいどん達は織田殿に続く!刮目してくれたまえ!」


 と、男でも惚れそうなカッコイイ事を言うのだ。


 「ははは!島津殿は小気味良いですな?こうも歓待されては、尾張に帰りたくなくなりますな!」


 「いつまでも居てくれて構わぬよ」


 「そうもいきますまい。我等は今でこそ落ち着いてはおりますが、やる事は多い。越前に居る足利義秋殿を率いて、京に入らなければなりませんからな。よって、明後日には発とうと思います。良いですかな?」


 「動くのは早い方が良いですな。よろしければ島津の事を少し、話をしていただきたいものですな?」


 パンッ パンッ


 貴久さんがそう言うと、小姓らしき人達が山程の木箱を持って来た。


 「これは?」


 「いやなに・・・土産の一つです。国に帰り見ていただきたい。剣城殿が技にて出す物には遠いやもしれぬが、南蛮や明から仕入れた珍しき物も入れている。是非役立ててほしい」


 貴久さんがそう言うと信長さんは立ち上がり、ガシッと握手していた。本当にこの2人は馬が合うのだろうと思う。


 それに釣られて何故か三左衛門さんが、オレに握手を求めてきたが、何故か手がヌメヌメしていた為、拒否してやった。


 そして、この3日続いた饗応の次の日・・・即ち帰る前日・・・オレは内城の城下に来ている。信長さんは高山城で温泉に入る、との事で自由行動だ。


 「新納様、案内ありがとうございます」


 「なんの。なんの。地元を案内するのも立派な役目だと、おいは思っております」


 身長は低い新納さんだが猛者の香りがする。そしてこの人も、義弘さんや貴久さんに負けないくらい慕われている人だ。


 オレは城下の町を散策しながら、色々な物を購入している。支払いは新納さんが新しい銭で良いと言ったが、店先の人が『従来のお金がいい』と言えば、古いお金をかなり多めに渡すようにしている。正直、お金を使わないと増える一方だからだ。


 ゆきさんやお菊さんには勿論だが、皆にお土産だ。主に南蛮や明の物だが色々購入した。濁りはあるが、ガラスのコップや孔雀の羽?が装着されている帽子、葡萄酒、洋服など様々な物を見境なく購入している。


 色々な人に慕われている新納さんの案内にてオレが現れ、ありえないくらい買い物をしている。気付けばオレ達の後は大名行列か!?ってくらいの人だかりだ。


 「新納様!!こっち!こっちに!!」


 「お武家様!!是非おいの店に!!」


 「剣城殿?こんなに民に後ろを歩かれると、ゆっくり案内する事も叶いませんな?申し訳ない」


 「いえいえ。新納様の人徳の成すところでしょう」


 「おい!こら!童!ワシのハルモニアのスーツを気安く触るでない!前日ワックス掛けしたところなのだぞ!?」


 「あの御老体様は中々の胆力の持ち主だな」


 「小川三左衛門って名前の自称家老らしいですよ?まあ、あんな感じですが頼りになる、オレの事1番に考えてくれるお爺ちゃんですよ。ははは」


 「我が君!?ワシはまだお爺ちゃんの歳ではございませぬぞ!金剛や剛力よりワシの方がやる!慶次坊にすら負けぬと自負しておるくらいですぞ!!あ!こら!童!涎をつけるな!!」


 「ははは!島津には無い主従関係だ!良いな!」


 まぁ、こんな関係の軍は日本全部探しても中々ないだろうな。まあこの新納さんも尾張に行けばビックリするだろう。一応オレもそれなりに慕われているとは思う。


 それから人目を憚らず色々なお店を回った。食べ物屋なんかも正直、Garden of Edenで購入した物の方が特殊効果的なのもありいいけど、ここで色々な店屋に入らないと差別になってしまうからな。


 さつま汁は勿論、餅に何かの草を巻いた物やパンの前身のような物まで、ここはさすが船での交流地という事だけあり、色々な物が溢れている。普通に楽しい。


 「新納様!そろそろ帰ります!かなり買い物しました!」


 「えぇ〜!?お武家様!?もうお帰りなのですか!?そう言わずにおいの店は酒も出します!娘にお酌させますのでお越し下さい!」


 「いえいえ。また時間ある時に来ますので勘弁して下さい!」


 「この短時間で覚えられてしまったな。こんなに後ろを歩かれているのだ。何か一言申してはどうかな?」


 何でオレの苦手な無茶振りを、この人も平気で言ってくるんだよ!?何言えばいいんだ!?


 「剣城様?高山の事を言えば良いかと・・・」


 「うん?小泉さん?高山の事?」


 「えぇ。温泉施設を作るのでしょう?一般開放し、民でも利用できる料金にされると言ってたではありませんか?」


 さすが小泉さんだ。機転が利く。どこぞの筆頭家老さんとは大違いだ。


 「えぇ〜・・・尾張国 織田家 支配内、芝田剣城と申します。少し離れていますが日向国にある高山城という所に、温泉施設や娯楽施設を建設する予定です。皆様方も来やすいように作ります。出来上がりましたら、島津様から皆様に伝えてもらいますので、どうか御利用下さいませ」


 オレが緊張しながらそう言うと、小泉さんが懐から紙の束を出してオレに渡してきた。


 その紙には絵と、温泉が何たる物かや多分、野田さんが考えているであろう、焼き鳥屋さんやいなり寿司屋さん、チョコレートフルーツ屋さんなど、尾張ではそこそこ浸透しつつある食べ物を絵に書いた、説明書きだった。


 「ふむふむ。立派な紙だ・・・うん!?剣城殿!?このちょこれいとなる物は昨日、おいにいただいた黒い甘い甘味か!?」


 「え!?あ、はい。そうですけどどうしました!?」


 「あれをこんな安く1文で売るのか!?」


 正直この話はオレは聞いていない。小耳に挟んだ程度だ。カカオは尾張で作ってはいるけど、まだ地物のチョコは食べていない。まぁ、なんとなく想像はつく。砂糖ドバドバの甘い物だろうと思う。そしてオレは野田さんに『下級の人にも1月に一度は買えるくらいの値段設定で、出し惜しみしないように。後は任せます』と言っただけだ。


 1文と言われても、あまり分かっていないのが現状だ。尾張と薩摩でも同じ1文でも価値が違い過ぎると思うからだ。


 「新納様?その紙は何ですの?」


 「おいにも見せて下せぇ〜!」


 新納さんがオーバーリアクションしてくれたお陰で、後ろに居る民の人達は興味津々だ。


 「皆の者!楽しみにしておれ!この剣城殿が今生味わった事のない物を売る、店を作るつもりだ!」


 新納さんがそう叫ぶと、何故か戦のような雄叫びと変わった。そして何故かオレは胴上げされる始末だ。小泉さんや小川さんが辞めさせようとするが止まる筈がない。薩摩の人達はパワフルだ。


 「ちょ!ストップストップ!!あぁもう!!どうにでもなれ!!!今からチョコレート投げるので1人一つずつ!!食べて下さい!!これはオレからの贈り物です!!」


 オレはこの騒ぎを鎮める為に、収納からチョコレートをあるだけ取り出し、餅撒きのように天高く投げた。


 「新納様、すいません!今の内に!」


 「ははは!!面白い方だ!!おい!お前等!騒ぎを収めておけよ?」


 新納さんが誰も居ない方にそう叫ぶと、10人程の人が現れ民衆に混じりながらも、取っ組み合いになりそうな所に入り、怪我が無いように誘導しだした。


 やっぱ忍ってここにも居るんだな、と思った。

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