高槻城の宴会

 池田城に7泊、茨木城に2泊、そして今日は高槻城に来ている。何故、こんなに泊まる場所をコロコロ変えるのか、というと・・・。


 「お館様・・・次はなんとか村という所の番頭だそうです」


 「えぇいッ!!鬱陶しい!遠藤!貴様が相手しておれ!剣城ッ!!お前もじゃ!」


 「え!?オレっすか!?それはさすがに・・・」


 「構わぬ!お前がほぼほぼ落とした城だ!」


 「お館様・・・」


 「何じゃ!!『一度に全てを言え』と何度も言っているだろうが!!」


 「も、申し訳ございませぬ!!堺の納屋衆の今井様と大和の松永様も、お見えになっておりまする」


 ゴツン


 「たわけ!それを早く言え!!この2人はワシが直接会う!他の者は剣城が相手せぃ!」


 

 こんな風に挨拶に来る人が絶えないのだ。三好がどうやってこの辺を治めてたかは知らない。だが、ただのと言えば失礼かもしれないが、ただの豪族のような人までも挨拶に来てる始末だ。


 遠藤さんも辛い立場だろう。小姓筆頭だから仕方ないだろうけど。そうそう。梶川さんは鞠ちゃんの尽力により命に別状は無かった。とどのつまり・・・この一連の戦での死傷者は0になった。この世界の後世では、凄まじい一方的な上洛戦だった、と伝えられるだろう。


 特に島津家の人達が梶川さんを褒めまくっていた。自己犠牲を出しても味方を生かす事に、痛く感銘を受けたらしい。そりゃあな。島津のお家芸、捨て奸をする家の人達だから、梶川さんなんかは心酔されるだろう。


 義弘さん自身も・・・。


 「いや〜、梶川殿のような者が薩摩兵児に1000人も居れば、日の本1の軍になるでしょうな!」


 「いや。それ程の事ではない」


 「坂井殿の一見無謀な突撃に見せ掛けて、敵を一網打尽にする力は見事なり!死をも恐れず味方の盾になるとは天晴れなり!」


 義弘さんが一段と褒めちぎる。まず薩摩の人達は味方のため戦で死ねば、あの世の先陣でもあり魁(さきがけ)でもある!と言い切っているからな。オレ達とは考えが全然違う。あの世にまでも戦しに行くのかと問いたい。



 「剣城殿?迎え入れても?」


 「あ、はい。いいですよ。ついでに坂井様も呼びましょうか。ミヤビちゃん?居る?」


 「はっ。お呼びでしょうか?」


 「おっと・・・流石、剣城殿の護衛ですな。気が付かなかった」


 「遠藤さん!大丈夫です。オレも気が付かないですから。ミヤビちゃん、自称筆頭家老さんと慶次さんも呼んで来てくれる?」


 「はっ!」


 程なくして2人が現れ、坂井さんは疲れた顔をして部屋にやって来た。


 「がははは!ワシが恋しくなりましたかな!?」


 「何だ?剣城?お前にも来客が多いのか?」


 「いや。何故か分からないけど、2人が城で遊んでいるのがムカついたから呼んだだけだよ。一緒に応対して!ってか、坂井様!?大丈夫ですか?」


 「えぇ〜・・・。はぁ〜」


 「大丈夫じゃないでしょ!?」


 「いや・・・皆に褒められまくって、何だか・・・某はそんな者ではないのに・・・あの島津兵の人達が特に・・・」


 「あぁ〜・・・確かに義弘さんの兵なんかは褒めちぎっていますからね。後でそんなに騒ぐなって言っておきますよ。あと、『美濃に戻りたい』って言ってましたよね?少しくらいは帰れるように手配しますよ」


 「本当ですか!?」


 「はい。いつ帰れるかまでは言えませんが、近日中には」


 「剣城殿?呼んでもよろしいか?」


 「あ、はい!遠藤さん、お願いします」


 




 「ふぅ〜。疲れた・・・一体、何人来るんだよ・・・」


 「剣城殿、お疲れ様」


 「遠藤さん?もう終わりました?」


 「後は、お館様に直接お会いしたい方だけですので、剣城殿達は終わりかな」


 元々遠藤さんとはそれなりに仲良かったが、今回の事で更に仲良くなれたと思う。軽く20人くらいの人と会った。


 『どこどこ村の誰々だ!』 『俺は桶狭間の時も下っ端で馳せ参じた』


 『何々の戦では働いたものよ』『昔、賊を1人で30人成敗した!是非陣内に入れてほしい』


 もうね・・・あんた誰だよ!?状態だ。皆が皆、オレはどれだけ凄いやらこれだけできる!とか言いまくる。勝ち馬に乗りたいだけなんだろうと思うけど。元、三好配下の人なんかも居たが、そんな人達は信長さんの判断待ちだ。勝手にはできないからな。


 その頃、信長さんの応対も終わったみたいでオレ達も呼ばれた。昼過ぎは不機嫌だったが、夜は超超超ご機嫌だった。


 「どうだ!剣城!見てみろ!天下に名高い九十九髪茄子だ!こっちは松嶋茶壺と紹鴎茄子茶入だ!どうだ!?あん!!羨ましいだろう!クッハハ!」


 壺や湯呑みがかなり嬉しいらしい。オレでも知ってるやつだ。


 「大変美しゅうございます!!」


 「遠藤!この3つをお前に預ける!岐阜に持って帰れ!傷一つ付けるでないぞ?傷が付けば手討ちぞ!ははは!」


 笑ってはいるが、マジで傷一つで手討ちにしそうな感じだ。

遠藤さんに関しては顔が青くなっている。頑張れ!小姓筆頭!


 「信長様、これからはどうされるのですか?」


 「まずは大和は松永にくれてやる。池田は所領を安堵。摂津は伊丹、和田に守護させる。三好義継も服従したからな。河内北半国と若江城を安堵させた。ワシ等は明朝、清水寺に行く。将軍は本圀寺へと連れて参る」


 「オレはどうすればよろしいでしょうか?」


 「お前達は洛中を警備せよ。大所帯だ。乱取りや狼藉を働く者は容赦なく滅せよ。京は今や疲弊しておる。治安も最悪だろう。まずはこれを正す」


 要は警察のような事をしろって事だな。確か史実もこんな感じだったよな。


 「畏まりました。見つけたら一箇所に集めて、牢屋のようにしとけばよろしいですか?」


 「いや、見張りまで割かなくてよい。そのまま処断して構わん。各将には既に通達してある。それを聞いて狼藉を働く愚か者は要らん。自業自得だ」


 「分かりました」


 史実では義昭は、近い内に内裏に参上して征夷大将軍に任命され、室町最後の将軍になるだろう。そしてすぐに本圀寺の変が起こる筈だ。そこで明智光秀が活躍するんだったよな。


 ここから織田家の快進撃が続く筈・・・。史実と違う倍近い人がこの上洛戦に参戦した。1番は島津家だ。ここに関しては義弘さんに任せておけばいいだろう。後は少なからず上杉軍と徳川軍も居る。ここの末端の兵が狼藉を働けば、勝手に処断するのはよろしくない。難しい任務をまた言ってきたな・・・。


 「我が君!ほら!焼けてますぞ!」


 「真っ黒コゲじゃん!勿体ない!小川さんは肉焼き過ぎなんだよ!!そもそも何でオレばっかなんですか!?坂井様を労うバーベキューでしょ!?」


 「がははは!ワシは我が君の筆頭家老ですからな!」


 直属の甲賀隊と坂井さんの部隊を労う為、久しぶりにバーベキューをした訳だが、小川さんには通じないらしい。


 「皆さん!食べながら聞いて下さい!新しい任務を授かりました!警察隊を作ります!」


 「剣城!今はそんな事いいじゃねーか!とりあえず戦は終わった!食べて飲もうぜ!」


 「慶次さんはいつも飲んで食べてるじゃん!」


 「「「「「ははははは!!!」」」」」


 「剣城君!何やらいい匂いがしておるな!?」


 「あっ、義弘さん!バーベキューですよ!食べます?」


 「いただこうか!」


 気が付けば、坂井さんを労う筈がただの大宴会となり、それは夜中まで続いた。

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