正月準備
そのまま岐阜に戻り、甲賀隊の人達をオレの家に集め、年末の挨拶をする。慶次さんや愛州さんなんかは実家に帰るとの事で、警備隊が手薄になってしまう為、臨時で高峰さん達に引き継ぎをしてもらった。
「まだ慶次さんのお父さんには挨拶にも行ってないけど、くれぐれもよろしく伝えて下さいね?栄養ドリンクもお土産で持って帰るように!」
「がははは!親父にはちゃんと伝えるさ。何かあればすぐに言えよ?松風とすぐに参じるからな?」
「我らも此程の土産をありがとうございます。言うて我らは伊勢なので近くではあります。何かあればすぐに」
「まあ愛州さん達もゆっくりしてきて下さい!」
「よっ!これから芝田剣城様から年末の挨拶がされる!皆の者ッ!!!御静聴するように!」
いやいや何も言う事なんかねーよ!?何でこんな無茶振りを毎回、慶次さんはするんだよ!?
「え〜と・・・本年も良く頑張りました!来年は更に海へ山へと開拓していき、織田家にとって飛躍の年としましょう!お疲れ様でした!!!!」
「「「「お疲れ様でしたッ!!!!」」」」
甲賀隊の皆は帰るつもりは無いみたいで、変わらず岐阜に残っているが、竹中さん、慶次さん達が居なくなり静かになったように思う。俺も自分の家でゆっくりしたいが、そんな事はできない。1月2日に新年の儀という織田家伝統の、家臣の集まりの準備をしないといけないからだ。
ちなみに塩屋さん兄弟は挨拶に来ていない。っていうか、お姉さんの方が来てくれただけだ。塩田の方をお姉さんに任せていて、塩屋さん本人は他国に遠征に行っているからだ。まあ遠征というか行商だな。
「本年もお疲れ様でした。まだ塩を売り出すレベルには達していないと思いますし、塩屋さん自身も他国に行ってますので、寂しいかとは思いますが・・・お納め下さい。ゆきさん?」
「はい。普段のお給金とは別に用立てして下さいまし」
「こ、こんなに構わないのですか!?」
「ははは。頑張っている姿を見ています。それに八田さん達からも聞いてますよ?何でも高作業もご自分でされているとか?女性でそこまでするのは賞賛に値します。偉そうに言うつもりはありませんが頑張りました。来年もよろしくお願いしますね?」
「はっ、はい!ありがとうございます!ありがとうございます!」
「そうだな・・・ゆきさん?お姉さんに温泉でも入ってもらおうか。案内してあげてくれる?」
「はっ。畏まりました」
うん!部下の家族をも気遣える良い上司だ!塩は今後重要な取り引きに使えるしな!
「剣城様?居りますか〜!?」
「おっ!魚が届いたかな!?金剛君?上がってもらって!」
「はっ」
やって来たのは噂をすればの八田さんだ。冬だけど日焼けした体になっている。
「この度は──」
「いいから!いいから!そんな気難しい挨拶は構いませんよ!」
「はっ。では持って来た物を確認していただきたく」
上がってもらったが結局、外の荷車に乗せた蓋をしたタライを見る。
「嘘!?!?マグロに鰹も獲れたの!?」
「はっ。吉蔵殿の部下の方にお願いして、少々波が荒かったですが頑張りました。数は居ませんが剣城様が欲した魚をと思いまして・・・」
俺はかつてのゴッドファーザーのホログラムみたいに、何回も小さく頷きながら八田さんの肩を小さく何回も叩く。
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございま…ありがとうござい…」
「いえいえそんな。何回も礼を言われる程の事は・・・・」
「金剛君!八田さんにボーナス支給!上等な日本酒を渡してあげて!後、ベルギーのチョコレートワッフルも渡してあげなさい!!」
「これを貰う為に渡したつもりではないのですが、いただいておきます。おいどんも外海まで出れる大型船を楽しみにしております。そうなれば安定してマグロを供給できるかと」
「了解です。来年は私も頑張りますので八田さんも頑張りましょう。吉蔵さん一門にもよろしく伝えて下さい。その長野県の清酒は八田さんの物なので分けなくていいですよ。その大きい方を皆と飲んで下さい!」
慌ただしく皆に挨拶をした後、金剛君と城の台所に行く。持って来てもらった鯛を置いておく為だ。城の料理人の人達でも、特に覚えがいいのが五右衛門さんだ。もう名前で覚えたと言っても過言ではない。
この五右衛門さんはただ者ではないのだ。魚捌きが断然に早く丁寧且つ、骨なんかも出汁に使い食材を無駄にしない人なのだ。そしてかなり料理熱心なのだ。
「お!?正月用の鯛が来たか!?剣城君!でかしたぞ!!」
「ははは。こんにちわ。お納め下さい」
「鯛じゃないのも入っているな?」
「あっ!これは個人的にお願いした魚で──」
「これは・・・例のツナマヨの魚ではないのか!?おーい!み皆!見てみろ!!マグロがいるぞ!」
はぁ〜・・・。皆に取られそうな気がする・・・。
「お!?本当だな!これがかつてのシビとは思えぬな!?」
「内臓脂肪もたっぷりだな!?丁度、頭も居ない事ですしツナマヨを作りましょうぜ!?」
「剣城君!?いいかな!?美味しいツナマヨを作りたいのだ!分かってくれるね!?」
「はぁ〜。どうぞ好きにして下さい。せめて半身はオレに下さいね?」
と、こんな風に料理に対しては突っ走る傾向がある人だ。
そのままサクの状態にしてもらい、ついでにカツオも捌いてもらい、あれだけ大きかったマグロの半分は五右衛門さん達に強奪されたが、しょうがないだろう。捌く手間が省けたし。
「では謹賀の料理はお願いしますね?材料は全て運びましたよ!?」
「うむ。目録通り届いておる。任してくれ!それと来年は菓子を土産に渡そうと思っている!剣城君にも渡すから楽しみにしててくれ!」
「分かりました!じゃあ失礼します」
この五右衛門さんはマルチに色々料理を作れる人だ。それに唯一砂糖をドバドバ入れない人だから俺は五右衛門さんの料理は好きだ。
オレが家に着いた時、丁度くらいに知らない人が訪ねて来た。
「今日は来訪者が多いな。金剛君?対応してくれる?」
「はっ」
「小川さん居る?」
「はっ!我が君、ここに!」
「悪いんだけど今日も魚料理だけど食べます?」
「御相伴に預かりましょう」
「うん。なら今日はシンプルにマグロとカツオの漬け丼にしようか!簡単だし!一口くらいの大きさに切ってくれます?」
「お任せを。飯も炊いておきましょう」
「すいません。よろしくお願いします!」
気付けば小川さんまでオレの家に泊まり始めた。まあ部屋はまだ余ってるから、いいっちゃいいんだけど。
「剣城様?客は近江の船渡しのようですが?」
「近江?誰?知り合いなんか居ないよ?」
「それが、剣城様にお渡ししたい物があるとかで、『渡さないと帰れない』と言うので・・・追い返しましょうか?」
「う〜ん。まあ会ってみるよ。ありがとう」
玄関まで向かいその人を見るが初めての人だ。ただ物凄く体格はいい人だ。
「私が芝田剣城です。どのようなご用件で?」
「某、近江、浅井長政様の忠実なる下僕、僕、(しもべ)舎弟の蔵人と申します」
おいおい!?また強烈な奴だな!?下僕に僕に舎弟とな!?
「はぁ〜。浅井様が何ですか?足りない物がありますか?」
「いえ、実は珍しい魚が取れまして『お届けするように』と言われまして、持って参りました。どうぞこれへ」
渡された物は木箱だった。確かに重さ的に何か入ってると思うけど何の魚だ?
「越前とかで取れた魚ですか?」
「いやいやご冗談を。淡海にて獲れました。凄く希少で、長政様ですらそうそうお目に入らぬ魚故に、剣城様にと申しておりました」
正直、ふぅ〜ん。って感想だ。だって淡水の魚だろ?希少ってのは気になるけどせいぜいナマズくらいか?それに浅井さんには氷の作り方教えてないし塩漬けだろ?まあ持ってきてくれたんだから礼はしないとな。
「金剛君?蔵人さんに土産を渡してあげなさい。そうだな・・・。あっ、さっき五右衛門さんに作ってもらったツナマヨとサイダーをケースで渡してあげて」
「畏まりました。蔵人殿?こちらへ」
オレは台所に行き小川さんと木箱を開けて中を見る。
「嘘!?!?これ琵琶湖に居るの!?まさかあれか!?ビワマスったやつじゃないの!?これは確か琵琶湖の固有種だったよな!?」
「我が君?その魚はそんなに有名なのですかな?」
「いやこれ未来では超超希少な魚で淡海でしか生息しない種なのです!」
「ほっほう!?それはまた大層な物いただきましたな!?これも焼きにしましょうか。生じゃないのが惜しい」
オレは慌てて外に出た。
「金剛殿?このような過分な配慮痛み入る。我が殿にお渡し致──」
「待って〜!!!蔵人さん!!お待ちを!!!」
「うん?どうされましたか?」
「間に合った!良かった!金剛君!もっとお土産渡して!あの贈り物にこれだけでは足りない!!ビール!ビールを3ケース!砂糖10キロくらい渡してあげて!」
「え!?あ、はい!」
「いやぁ〜!さすが織田家の料理ご意見番ですな!?あれを分かって下さいますか!?ですが些か土産が多いようです。これ以上は構いません」
「いやいやそんな事言わずに!金剛君!早く!あれはどこで獲れました?琵琶湖の・・・淡海の北部のそれも一部分ですよね!?」
「よくご存知で!あのアメノウオは滅多に獲れないですが、味が鮭に似て美味でございまして、我が殿のお気に入りなのです。ですが以前輿入れの折にお渡ししようと思いましたが、どれだけ人を出しても獲れず遅くなり申し訳ない」
この時代ではアメノウオって言うんだ?未来のブランドサーモン、北海道の鮭児(ケイジ)、宮城の銀王。それに並ぶくらい有名なのがビワマスだ。
「本当にありがとうございます!これを養殖できればかなり助かる、というかやりましょう!来年にまたこちらから言いますので、絶対に養殖しましょう!」
オレはあまりの嬉しさに勝手に決めてしまったが、信長さんも嫌とは言わないだろう!この蔵人さんにはかなりのお土産を渡し、またまた皆で夜飯を食べる事になった。
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