芳兵衛君と牧村百合
そこからの作業はかなり加速した。当初は20数人での作業だったが、清洲の村には信長さん筆頭に、何人ものお偉いさん達が視察に来たからだ。
気付けば各々の家のお抱え大工衆を連れて来て、使ってくれと言うようになったのだ。1番最初に気付いたのがやはり木下さんだ。
「淡海での水運は重要だから、もっと大規模な造船が必要である!ワシの配下の川並衆を使ってくれ!」
「分かりました。九鬼様に伝えておきます」
と、このようなやり取りがあった後に、聞いた事ない集団が押し寄せて来たのだ。
その結果、木材の方が足りなく周辺の森は禿山になりつつあるし、乾燥なんかも足りない為、オレは必殺の金色の鶏糞肥料を使い、ケヤキの苗を大量購入し、24時間後には禿山からジャングルに変わっているのである。
夜には皆でどんちゃん騒ぎ、酒も何回も購入したっけな?そんなこんなで年明け迫る中、信長さんが強権を発動して、織田標準時間12月27日に短期間で試作は出来た。
「いや皆さん早過ぎでしょ!?もう出来たのですか!?」
「いや、これはまだ完成とはいかん。水に浮かばせてもいないしコーティングもしていない。まずはこれを運びたいのだが日にちも日にちだ。今年はこれで作業を終えようと思う」
「うむ。そうだな。これを運ぶのには剣城じゃないと無理だしな」
まあオレの収納があれば余裕ではあるが、これは大型の漁船みたいだな。
「剣城様?まずは試作として、沿岸を走る事を想定して造っております。作業が慣れれば未来の旅行本に書かれている、豪華客船なんかもと考えております。今暫くお待ちを」
いやいや剛力君は何言ってんの!?普通の船でも大概凄いよ!?何故に豪華客船!?誰乗せるんだよ!?
「とにかく・・・皆さんありがとうございました!水に浮かべるのは来年にしましょう!各々地元に帰るかとは思いますが、お土産用意しているのでお持ち下さい!金剛君?」
「はっ。各々方!?皆に合う物を別々に用意しております!並んで名前を言うようにお願いします!」
これはオレがする事が無く・・・いや違う。皆を労う為、織田の力を見せる為に自腹で用意した物だ。
主に森さんが作った岐阜の砂糖、オレが出した神様印のビール、野田さんが岐阜で作ったのに何故か名前は尾張マヨネーズ、ジュースやお菓子類だ。
後は妻帯者や子供が居る人達は事前に調査し、神様印の童謡なんかの絵本、ルールを色々書いているトランプ、ゴムボール野球セットなど、奥さんには櫛、手鏡、シャンプートリートメントなど色々用意している。
何回も言うが持ち出しはオレだ。正直かなりの銭は使ったが、これで皆が更にやる気が出るなら安いもんだ。
「皆さん行き渡りましたね?」
「剣城様!!俺なんかの為に・・・為に・・・」
「貴方は確か・・・朝倉景隆様から紹介を受けた・・・」
「覚えてくれてたのですね!?よそ者の俺達にも技術を教えてもらい・・・ぉぉぉぉぉ〜〜!!!」
いやこの人の泣き方は何なんだよ!?ってかこの時代の人達は一々大袈裟だぞ!?
この人は以前、公家を連れて来た時の朝倉家の護衛役をしていた、朝倉景隆さんって方が紹介してくれた越前大工衆の棟梁だ。実は没交渉ではなくむしろ交流は盛んにしている。
信長さん自身もこの先どうなるかは分からないが、朝倉とは今は浅井家を通してではあるが、それなりに仲良くしている。
お互いがお互いに贈り物をしたり、まあ正直信長さんに関しては尾張、岐阜も北の京と言われる一乗谷に負けていない!と知らしめたい為、珍しい物を送ってるのかもしれないが。
「倉吉さんでしたよね?まあ越前の海は荒波ですからね。ただその分、海産物は豊富に獲れると思います。いつか私達が教えた船で安定的に漁ができれば、海産物楽しみにしていますよ!?その時はたんまりとお返しして下さいね?」
勿論、ただで技術を流しているつもりはない。これもいずれ織田に巨大な利として返ってくる事を見越して、朝倉家も造船事業に組み込んでいるのだ。
越前・・・未来では福井県だがカニが有名だろう。オレはカニが好きだ。カニの刺身、鍋、韓国料理だがカンジャンケジャン、カニクリームコロッケ、どれもこれも好物だ。これもたらふく食いたい野望の為、信長さんを上手く丸め込みこの倉吉さんを派遣させたのだ。
「必ずや海産物お届け致します!このような立派な船を造れる事は誠にッ、誠にッッッ・・・グフッぉぉぉぉぉ〜!!!!」
いやあんた泣き過ぎだろ!?変態か!?船造り如き変態なのか!?
「棟梁があんなので申し訳ない。我が越前は雪に閉ざされると中々出て来れぬ故に、年明けは遅れるやもしれぬが、このブーツとだうんじゃけっとなる物は、素晴らしい物だと思う。これがあれば年明けも皆に遅れを取らず、参加できるであろう」
「副棟梁さんでしたよね?まあ越前は寒いですからね。無理して凍死しては笑えないので、無理してまでは構いませんよ?一応念を見て年明け、月が真上を過ぎるのを1日の始まりとし、このカレンダーの1月15日前後に来ていただけますか?」
「うむ。覚えるのが難しかったが、覚えるとこれ程分かりやすい事はない。この織田標準時間と呼ばれる物を、越前にも流行らせたいくらいです。では1月15日までには来させていただきます。土産物も上等な服なんかもありがとうございまする。御免。棟梁!帰りますぞ!」
あの副棟梁って人は名前こそ聞いた事ないけど、凄く真面目な人だ。
「うむ。では俺達も志摩に帰ろうか。1月15日だったな?遅れずに来るからな?土産もこんなにすまぬな!次来る時は俺からも何か贈り物を渡そう!じゃあな!!」
「ははは!気を付けて下さいね!」
作業班の人達が皆居なくなって静かになった時、久しぶりに牧村百合・・・あの唯一女性の甲賀の人が挨拶に来た。
「剣城様、お久しぶりです」
「牧村さん久しぶりですね?わざわざ清洲の村に来るなんて急用ですか?」
「いや、あたい達が作っただうんじゃけっとどうかな、と思いまして」
「そうなんだ。さっき朝倉の人達に渡したら気に入ってたよ?俺も今着てるけど着心地もかなりいいよ!ありがとね!綿とか供給足りてる?」
「はい!十分でございます!それと船を見てみたくて来てしまいました」
「そうなの?まだ海や水の上ではないけど見ていいよ?」
それから牧村さん、女の子ちゃんず達は本当に船が珍しいみたいで、キャッキャ言いながら見ていた。完成すれば乗せてあげてもいいかなと思う。
「そ、そ、そのお、お、女!!こ、これはつ、剣城様の大事な船なのであるッ!!!」
いや芳兵衛君どうしたのよ!?なんでそんな吃ってんの!?しかもそんな事言う人じゃないだろ!?
「申し訳ございません!あたい達、このような船を見るのが初めてで平に・・・」
「芳兵衛君?そこまで怒らなくてもいいんじゃない?どうしたの?」
「い、いえ!申し訳ない。つ、剣城様のお知り合いとは知らなく・・・」
うん?チラチラ牧村さんの方を見ている?これはあれか!?研究肌の芳兵衛君まさか・・・。
「芳兵衛君?別にそんな壊れるような事もないんだし、この人、牧村百合って人なんだけど船の事、教えてあげてはどうかな?」
「お、俺が教えるのででですか!?!?あ、貴方はま、牧村百合さんですね!?俺は国友芳兵衛とも、申します!!!!!」
うん。間違いない。一目惚れっちゅーやつだな!?
「牧村さん?好きなだけ船を見せてもらいなさい?この芳兵衛君、船造りに大切な人だから色々聞くと教えてくれると思うよ?」
「まぁ〜!?芳兵衛様がこの船をお造りになられたのですか!?」
「は、は、は、はい!俺だけではございませんが………」
季節は冬だけど芳兵衛君は春が来たんだな。この時代の青春だな!
そんな2人を笑顔で眺め、オレはそっと国友さんにも正月の品を渡し、岐阜に戻った。
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