坂井政尚予期せぬ出世
信長さんが来てくれたものの、直ぐに帰るという事はできない。当初、信長さんは河尻さん達、黒母衣衆や利家さん達、赤母衣衆のみで本圀寺までやって来た。
聞けば、佐久間さんや柴田さん、丹羽さんの軍も来ているとのこと。最初は知らない素振りを見せたが、恐らく戦の推移は知っていたのだろう。
信長さんにも、オレの知らない上忍は居るみたいだし。だからなのか、側近の人達以外の兵は大津で待機させている、と聞いている。船もあるし、美濃と南近江を行き来しているようだ。
『詳しく色々と取り決めを行う』と言って、オレ達は本圀寺で待機して既に3日と過ぎた。オレはやはり島津軍の人達と仲が良い。義弘さんが一際仲良くしてくれていた、というのもあるだろう。
木脇さんなんかは、オレ如きに剣の事を聞いてくる始末だ。ちなみに上泉さんともかなり仲良くなり、剣の極意を軽く教えて貰ったりした。
「某の剣は天と地は一つ。天を感じ、地を感じ、その時、相対した者を感じる事が出来れば、自ずと無双の剣を振れる」
こんな事を言われ、オレは『はぁ!?』というのが素直な感想だ。しかもこの人も一々言う言葉がカッコイイのだ。他にも・・・、
「某は凡庸な男だ。だが、そのような凡庸な男も剣一筋に生き、兵法を学び、驕らず、分からぬ事を知ったか振りせず、自分より優秀だと思う者には教えを請う。格下だと侮らず、常に全力を持って相手をするのが礼儀だ、と思っている。故に某は芝田殿に教えを請いたい。あの時の剣は何だったのかと・・・」
天才とはこの人の事を指すのだろうと思う。慶次さんも天才の域だろう。警備班に居る、上泉さんと兄弟弟子の愛洲さんもその類だと思う。だが一つ言える事は、皆が皆、努力している事をオレは知っている。
「あの時は必死で・・・。正直覚えていないのです・・・。すいません。それより、何故こうもオレ達に、助太刀をしてくれたのですか?」
「愛洲から文が届き、愛洲の殿・・・芝田殿がどういう者なのかと気になってな。それで諸国を周りながら、美濃へと向かおうと思ったところ、大津で戦乱に巻き込まれた者を見て調べると、まさかの芝田殿の軍と聞き、こういう状況になっただけなのだよ」
「そうだったのですね。本当にありがとうございます。美濃に戻れば、衣食住はオレが持ちますので、是非、配下の者に色々と教えて頂ければ、オレとしては非常に助かります」
「うむ。実は方々で道場のような事をしながら、路銀を集めようと思っていたのだ。だから、助かるよ」
と、こんな事もあり、上泉さんは美濃に来てくれる事が確定となった。愛洲さんとの縁にも感謝しなくちゃいけないな。
続いて青木さん。青木さんの件は信長さんに言うと・・・。
「やっと人を雇う気持ちになったか。良き傾向だ。貴様は芝田家という影響力を、分かっておらんかったからな。家の割に家臣が少ないし、何より文官が全く居ないからな」
「お恥ずかしい限りです。これからはちゃんと、文官の方も雇うように致しますので」
「うむ。それはそうと・・・。晩飯は味噌バターコーンラーメンに致せ」
「え!?またラーメンですか!?」
「なんぞ?文句でもあるのか?」
「いえ・・・。そんなに毎日ラーメンばかり食べるのは、体に悪いですよ!?」
「分かっておる。だが、今はワシはラーメンが好きなのだ。貴様が食わせたのが悪い!つべこべ言わず、夜半に持って来い。それとも取り決めの席に貴様を呼ぼうか?ん?ワシは貴様と将軍は合わぬと思って、呼んでおらぬのだぞ?」
「はっ!必ず持って参ります!」
「良きに計らえ」
信長さんは信長さんで、オレに気を遣ってくれているようだ。だがまさかカレー並みに、色んな味とトッピングのラーメンにハマるとは、思わなかった。
そして、古の忍者の人達は菓子を食べたり、京周辺の焼き出された人なんかを、探したりしてくれている。本当に野田お爺ちゃんや小泉お爺ちゃん、牧村お婆ちゃんは現役のような動きが戻ったらしく、燃えた家の瓦礫や屑の撤去も手伝ってくれている。それは甲賀隊の皆も同じだ。
そんな中、金剛君と大膳君が、オレの着ていたベヒーモスーツを調べていた。あれだけ敵の攻撃を防いでいてくれたのに何故、肩にだけ貫通したのか。
「剣城様。恐らく劣化ではないでしょうか?触ってみて分かった事は、獣の皮のように思いましたが、この貫通された箇所だけ材質が違うように思います」
「確かに、ここだけ短い毛すら生えていないな。これはキングベヒーモスって動物?魔物?の皮を使った、防御機能の高いシャツらしいんだ。恐らくだけど、この毛が防御の役割をしてたけど、劣化して毛が無くなり防御力が落ちたのかな?」
「そうですか。俺はこのような生き物は見た事ありませぬ故、詳しくは分かりかねますが・・・。それにしても数々の攻撃を防いだ事を考えると、流石のシャツですね」
「そうなんだよ。色こそ紫色で目立つけど、下に着るものだからそんなに気にならないしね。今度、部隊全員に買ってあげようと思ってるんだ」
「それは皆が喜びます!」
「よね!皆の生存率も上がる事だし。それにしても、剛力君、野田さん、大野さんも忙しそうだね。金剛君は主に何してるの?」
「俺は大津まで辿り着けなかった者に、備蓄中の保存食料や量産型のジャージ類を、無料で渡しております。日中ならまだ大丈夫ですが、夜は冷えますからね」
「そっか。忙しいのに悪いね。それはそうと・・・青木さんが早速1人見つけたみたいなんだ。大膳君?一緒に来る?」
「はっ!喜んで!」
剛力君は今回は青木さんの下に付けて、急ピッチで長屋建設を行わせている。ファッキンサノバ三好が火攻めにしたから、家という家が無いのだ。折角、良い感じに都に相応しくなっていたというのに。
「あぁ、剣城様!この者です!お?大膳も居るのは珍しいな」
「はっ。美濃、南近江、大津と兵站が確立してますので、俺が居なくとも配下が物資を輸送してくれますので」
「おいおい。大膳君はサボりか?ランニングするか?そう言えばオレのカッコイイ言葉を遮ったよね?」
「え!?いや・・・」
「冗談だよ。で、この人が仕官したいって人の第一号?」
「はい。元は三好配下だったらしいのですが・・・」「直答、お許し下さい!拙者は松山重治と申しまして・・・」
土下座していた男が、青木さんの言葉に被せるように話し出した。
「う、うん。続けていいけど、松山さんは少し待とうか」
「(ゴホン)で、剣城様?この者は戦乱に巻き込まれ、沈んだ京の民達を盛り上げようと、早歌を歌っていたところ、たまたま通りがかった俺の耳に入り、元は三好方でしたが、この者の事を民草に聞けば、身銭を削って食べ物やらなんやらを恵んでいた、と聞きまして」
「へぇ〜。そうなんだ。京の民の為に?松山さん。どうぞ、自己紹介を。大膳君?イチゴ大福持って来て」
「はっ。拙者は堺出身でして、元は松永殿や三好・・・の殿と・・・」
「あぁ。別に話しやすいように話してくれて構わないよ」
「すいません。松永殿と殿に仕えておりまして。難しい仕掛けは分かりませんが、折角、織田家が『流石、京の都!』と言われるように再建している所を、火攻めにするのはどうかと思いまして、離反した次第でございます。ですが火の手が強く、せめて民草だけでもと思い、微力ながら奮闘していた由にございます」
「うん。うん。あ、これ良かったら食べて下さい。甘くて美味しいですよ。続けて」
「あ、すいません。ありがとうございます。そして、この青木様にお声を掛けていただき、聞けば都の再建を指揮していたのが、芝田様とお聞きして、折角ならば仕官させていただけないか、と思いまして」
「いいよ。ってか、大膳君?この大福は誰が作ったの?美味しいね」
「はっ。美濃の4代目 大福屋の寅三郎のイチゴ大福です」
「あぁ。初代なのに4代目にしたあの店ね。これは良いね。美味しかったと伝えておいてね」
「御意」
「ごめんごめん。美濃の茶店や飯屋の人達に、色々と味見してって持って来られるから、食べないといけなくてね。これもオレの仕事の一つなんだ」
「はぁ〜」
「剣城様。この者を見て下さい。おい!さっき俺にしたようにしてみなさい!」
「えっ、なになに?何かできるの?」
「良いのですか?では・・・」
松山さんはそう言うと立ち上がり、まさかの・・・、
「この度はッ!!誠にッ!!申し訳ございませんでしたッッ!!!!」
シュババッ
「えぇ!?まさか・・・それは・・・」
「えぇ!面白いでしょう?剣城様も偶にしてるでしょう?ジャンピング土下座です!この者もジャンピング土下座が上手でしたので、これは必ず剣城様にお見せせねばならない、と思いまして!ははは!中々に面白い奴でしょう?」
松山さんのジャンピング土下座・・・。オレもかつては土下座日本一(自称)と思っていたけど、この人の方が勢いがあり、凄い。
「実は、かつて本願寺の番士の身だったのですが、とある不手際を起こした折にこれをすると許されまして。拙者は不手際を起こしたら、必ず土下座で謝るようにしているのです」
「いやいや、貴方は面白いね!はい、決定!採用!詳しくはまだ決め切れないけど、オレ達が美濃に帰る時に一緒に来るように!家族が居るなら芝田家で面倒見るよ!青木さん、流石だ!こんな人、初めて見たよ!」
「はっ!お褒めに預かり至極恐悦でございます!」
「とりあえずは、青木さんが面倒見ててよ。それと今気付いたんだけど、鶴さんだっけ?雑賀のだよね?他の人達は帰ったの?」
「あっ、忘れてました!あの者達も近い内に仕えたいと申しておりましたよ!おい、女!挨拶くらいしたらどうだ?」
「え!?あ、はっ、はい!雑賀の・・・鶴と申します。その節は・・・」
「あぁ、別に気にしなくていいよ。で、貴方が孫一だっけ?ここに残るように言われたんだ?」
「は、はい!『織田家、芝田家、美濃、尾張を見て学びなさい』と言われました。一応、手持ちの銭と種子島を一丁持っています。あっ、弾も火薬もありませんので、害するつもりはございません!」
「いや、別にそのくらい気にしてないよ。それにその鉄砲は、美濃や尾張では骨董品に近くなっているしね。まっ、自分の物ならちゃんと自分で持っているように!とりあえず、鶴さんは青木さんの下に着いて。美濃に戻ればまずは沢彦さんってお坊さん・・・ではないな。今は学者に近い存在の人が居るんだけど、その人がやってる学舎に行く事になるから」
「は、はい!」
「うんうん。良き哉。青木さんの裾なんか握って惚れたのかな?」
「え!?あ、いや・・・これは・・・すいません!」
「おい!女!近くに寄るな!俺はお前達を許していないと言っただろうが!」
「ははは!青木さんも独身なんだから、そんな女の子を無下にしないように!いきなり敵陣に放り込まれれば、オレだって誰かに頼りたくなるよ!じゃあ、青木さんは引き続きよろしく!」
「は、はっ!畏まりました!」
〜坂井政尚〜
「うむ!此度も良くぞ働いてくれた!ここに感状を入れてある!剣城の下に着いて早、4戦程こなしたようだな?どれもこれも剣城の隊の中では1番功ではないか」
「え!?あ、い、いやそんな事は・・・」
「ふん。謙遜するな!吃るようなところまで剣城の真似をせずとも良い。後日、改めて金子の褒美と、穂積一帯を坂井の領地として認める故、これからも励むように!」
「え!?りょ、領地でございますか!?」
「なんぞ?要らぬのか?これは剣城も竹中も明智も認めておったぞ?寧ろ、もっと領地を与えても良い働きだったとな。だが、剣城の与力であるお前に先に城を与えるのは、筋が違う故に今回はこれで良いな?彼奴が一城持つような男になれば、お主にも考えてやる」
「は、はっ!あ、ありがたき幸せ!ただ、某如きは田舎で畑を耕し、静かに暮らせる事が何よりの褒美でございますれば」
「ふん。男なら大きく出ろ!なーにが、畑を耕し静かにだ!お主を遊ばせる訳なかろう?これより坂井政尚は正式に芝田剣城の与力と致す!これこそ筋違いではあるが、稲葉、安藤、氏家をお主の麾下とする。
稲葉の曽根城、安藤の北方城はそのまま2将のままだ。お主に与える土地の方が、大きくなるようにするつもりだ!そこに剣城にでも頼み、平城のような家でも建ててもらえ!お主も、もそっと家臣を持ち、織田家を支えてくれ」
「あ、ありがとうございまする!粉骨砕身、働きます」
「うむ」
何かがおかしい。剣城殿が現れてからというもの、全てが上手くいき過ぎている。まさか俺が領主並の土地持ちになるなどとは・・・。本当に俺は静かに暮らしたいだけなのに・・・。
「あっ!坂井さん!おめでとうございます!さっき信長様に聞きましたよ!穂積一帯が確約されたんでしょう?稲葉様や安藤様は城持ちだから、それに負けないくらいの家を、芝田家持ちで建てますよ!剛力君!ちょっと!!」
「はっ!剛力、ここに!」
「え!?あ!?いや、剣城殿!?某はそんな贅沢を言うつもりは無いですので・・・」
「なーに言ってるんですか!こんなにも働いた人に褒美を出さないなんて、ブラックじゃないんですよ!オレはホワイトな家を目指しているんです!剛力君!美濃に帰ったら、剛力君が監督で坂井さんの家を建てるように!そこら辺の城に負けない位でね!それに美咲さんって綺麗な奥さんが居るから、その方の意見もちゃんと聞いてあげて!」
「はっ!畏まりました!坂井様。おめでとうございます!まずは、地下2階、地上2階の家なんかをお勧め致しますが、如何でしょう?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!本当に某は・・・」
ポンポン
「遠慮しなくていいですって!蔵に入り切らないくらいにお金があるんですよ!偶には使わないと!あっ、今のは内緒で頼みます!これからオレは木下様と仕事するようになるんですけど、あの人は奥さんのねね様にかなり絞られているようで、小遣いも一月、大判1枚だそうで、いつもオレに『貸してくれ・・・出世払いだ!』なんて言ってくるんすよ。で、お金渡したらすぐに女の尻ばかり追いかけるから・・・」
「・・・・聞かなかった事に致します。ですが、某の家の件は」
「だから、本当に良いですって!その代わり、家建てたら、付近にも家が出来ると思うから、飯屋や駄菓子屋とかそんな商店は、家賃格安で貸して下さい!これから越前からも人を取るつもりだから、働き先が無いといけないですからね!じゃあ剛力君!頼むよ!」
「はっ!それで、坂井様?家の方ですが・・・」
何かがおかしい・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます