明らかな魔王覇気な件について

 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 「まぁそう難しい顔しないでくださいよ。ほら。矢沢様、お代わりのラーメンですよ。武藤様も。食べてくれれば分かりますよ」


 「先に教えてくれ。あまり武働きは得意ではないが、それでもまさか愛刀が折られるとは思いもよらなんだ」


 「まぁ信じるか信じないかはあなた次第ですが、オレは先の世を知ってる人間です。あまり変な事言えば、痴れ者とか騙り者とか言われるので詳しくは省きますが、武藤様含め、真田家はオレが居た時代ではかなり有名ですよ。それに先に言った二人の息子もかなり有名だと思います。

 それで刀を折った技は・・・マウンテン富士にて会得した技です」


 さすがに神様の件は言うのは違うから困った時のマウンテン富士だ。


 「はん。何を言うかと思えば・・・」


 「あぁ。その事は尾張、美濃、近江でもかなり有名な話だぜ?武藤さんよ。このラーメンという食い物を聞いた事あるか?先の伸びる槍なんて見た事あるか?俺も未だ半信半疑な所はあるが、少なからず剣城殿と懇意にしている家は漏れなく繁栄しているぞ」


 「そ、そうですぞ!喜兵衛!ここは頭を下げて仲良くするべきです!」


 「ちなみに・・・少なからず、芝田家からは甲斐に間者は1人も居ません。出した事もございません。が、武田家の考えている事を今言いましょうか?いや、既に動き出しているでしょうか。小田原を攻めようとしてますよね。残念ながらそれは失敗します。


 「は?」


 「お聞きください。今川との同盟は未だ生きているでしょう。が、間も無く、武田家の駿河侵攻にて破棄されます。三増峠にて北条と相対する事となるでしょう」


 「確かにそろそろ動く事にはなっている。が、それくらいなら間者が居れば仕入れられる情報だ」


 「いや、本当に間者は居ないんですけどね。信玄様のお考えは分かりませんが、まず駿河に関しては武田領となりますので成功と言えるでしょうか。後、オレがこの戦いで覚えている事と言えば、その三増峠での戦いはかなり激戦だったと記憶があります。

 数も定かではございませんが、武田軍は小田原攻めも諦めて城下に火を放ち甲斐に帰陣すると思いますが、確か秩父方面の北条軍の後詰めが到着して待ち構えられているんじゃなかったかな?

 その事を覚えていてください。あなたも参陣する筈ですよ」


 「何を世迷い事を・・・」


 「剣城殿!その事は誠ですか!?」


 「ははは。矢沢様は変わりませんね。配下の小川三左衛門って家老が居るのですが、言動がソックリですよ。オレが覚えている範囲はここまでです。オレが10代の頃に学校と呼ばれる学舎で先生に教えてもらいました。それを覚えていただけです」


 「本当に先の世を知ってるのか!?」


 「まぁ正確には先の世から来たと言いますか。かれこれこの説明は色々な人に言って、皆が納得しないから説明が面倒なのですよ。だから知ってるって言ってるのです。本当にこれから約450年先の世界からやって来ました。

 この事はあまり仲良くない人には言ってないんですよね。純粋に仕事の付き合いがある仲の良いって人にも言ってないですし、オレの殿でもある織田信長様。この方からも禁句だと言われているのですがね」


 「え!?そうなのか!?ならオレが美濃へ帰ればお館様に告げ口しても良いのか?」


 「は!?え!?平手様!?それは勘弁してください!信長様の拳骨マジで痛いんですよ!?」


 「ふっ。これで弱味を握ったな!なら今度俺に・・・なんて、冗談だ。なんとなくは噂になってはいるが、剣城殿の事を詮索する輩はどこ知れず消えているらしいからな」


 「いや、今の反応で嘘ではないという事が分かった。何故そこまで俺に肩入れする?何か目的があるのか?本音で言えば、矢沢を使い夢幻兵器や食い物が溢れているという噂を聞いたから真田家引いて、武藤家に利があればと思っていたのだ。

 なにやら等価交換とは程遠い物で物々交換もしてくれると聞いていたし、塩屋何某という男が是非、仲良くしてくれと言っていたからどうせ距離も遠いから良いか。くらいではあったのだがな」


 「正直なのは嫌いではないですよ。まぁ、とりあえずは当初の通り色々交流しましょう。2日後くらいにはオレと懇意にしている農業関連の人達が来る手筈となっております。その者等が美濃、尾張を飢え知らずにさせた農夫達ですよ」


 「うむ。まずは失礼な言動を詫びる。申し訳なかった。浅い考え、短慮にて馬鹿をする所だった」


 それからとりあえずはラーメンを食べてもらうことに。まぁ、オレもゴリ押しに近い言い方だったが納得してもらえたようだ。突拍子もない事を言ったから質問すら思い浮かばないだけかもしれないけど。


 言うなと言ってるから他にこの人は言いふらしたりはしないと思う。義理堅そうな人だし、この先どうなるか分からないけど、真田家及びこの武藤さんとは敵対したくない。現代に居た頃の某無双ゲームのイメージが強くて真田家と仲良くしたいって思うのも否めないけど。


 「ぬぅぅ・・・こ、これは・・・」


 「で、あろう!?だから美味いと!」


 「(ジュルジュルジュル)もう終わってしまった・・・俺としたことが・・見誤ったか・・・」


 いやいや、この人も見誤るのかよ!?真田家大丈夫か!?


 「大膳君。お代わりを作ってあげなさい」


 「はっ!」


 「これは見事という他ない!これは買おうとすれば何で交換できるのだ!?」


 「織田家は物々交換もしますが、主にこの円という銭で取り引きしております。その円が上野でしたかね?上野にはもちろんないと思いますので、まずはあなた方が売れると思う物を塩屋さんや織田家の行商にお渡し下さい。

 それらを円で買い取りましょう。ちなみに流通量はある程度把握しているつもりですので、いつまでもこちら側が銭で買う事はしませんからね。 

 その代わり最初は破格の値段だ色々売りますので。特に・・・よっこらせっと・・・。この布団なんかは是非流行らせてほしいですね」


 「な、な、なんと!?いきなり物が・・・」


 「御公儀の秘密ってやつでさぁ!(クイッ)」


 「矢沢。落ち着け。全てを知ろうとするな。自分で謎を紐解いていく事も大切だ」


 え!?いやいや武藤さんよ!?せっかく考えた言葉なのになにかツッコンでくれよ!?


 「それは寝具か?」


 「さすがですね。当たりです」


 「うむ。枕のような物が見えたからな」


 「明日には信玄様の謁見の折にはもっと物を出す予定です。あなた方に全てお見せしては面白くないでしょう?まずは荷車役だった人の分もお出ししますので、今宵はこの布団を堪能してください。このように布団に入り被るだけです」


 「ちなみに、尾張、美濃では老若男女皆がこの寝具を使っているぞ!」


 「もう!平手様!何で教えるんですか!?せっかくぼったくろうと思ったのに!」


 「ぼ、ぼったくろうとだと!?」


 いや、冗談だから。それくらい分かれよ!?


 「冗談ですよ。日々の暮らしが豊かになれば民の不満が無くなります。大きく言えば一揆も無くなります。睡眠というものは人生の半分くらい必要ですからね。睡眠が良ければ作業効率も上がりますよ。

 まぁこの事も信玄様と謁見する時に話すつもりです」


 全てをこの人に言うつもりはない。言ってもいいのだが、信玄と話す時に同じ事を言うのが面倒だからだ。それに真田家はやはり味方陣営に入ってもらいたいからもっと込み入った話をしたい。まぁこれはもっも仲良くなってからだ。



 次の日の朝、下女の女性・・・というか女の子が起こしに来た。


 「失礼します!朝餉の御用意ができました!」


 「うにゃ?え!?あ、おはようございます」


 寝惚けて思わず敬語になってしまった。あの後昨夜は、酒盛りになったんだったな。ちなみに折ってしまった責任で、オレは武藤さんにタブレットの収納に入っている戦神様からサブスクで購入している刀に似た剣・・・というか、まんま刀をプレゼントした。


 《竜鱗の剣》


効能・・・その昔、神代の時代に繁栄した竜族の鱗を刃と共に鍛えた一振り。魔法剣効果はないが、振り下ろしの際に風魔法のみ発動し、振り下ろし補助を行う。


 この刀を渡したのだ。オレは剣の達人じゃないからな。どれだけその風の振り下ろし補助があるかは分からない。

 が、渡した直後に、矢沢さんも武藤さんも絶句し、その後に庭に出て素振りしていたのだが、素振りを見る限りではオレのプロミさんの餌にしかならない気がした。オレもそれなりに成長しているということだろう。そう思いたい。

 そもそもの、武器を取り上げられたのに新たに武器を出す事を疑問に思わないのな。武藤さんも矢沢さんも順応早すぎな。

 それと武藤さんに渡した剣に似た剣がある。


 《黒竜鱗の剣》


効能・・・竜の王様である黒竜。その鱗を刃と共に鍛えた一振り。全ての斬撃を受け止め、その貯めた斬撃が多い程振り下ろした時の破壊力は増す。識者によれば、かの武神の頂点に君臨する戦神の髭剃りの刃にも黒竜の鱗が使われていると言われている。


 この黒竜鱗の剣だが、明らかに武藤さんの上位互換。あの戦神様の髭剃りと同じ刃だからな。これはもう渡す人が決まっている。剣鬼、剣聖、剣豪の上泉さんだ。この遠征が終われば渡すつもりだ。この竜鱗シリーズは他にもまだまだある。この黒竜鱗の剣だけは別格だが、他のシリーズは贈り物にちょうど良いくらいの性能だ。


 やはり刀や剣はこの時代の贈り物にちょうどいい。だから武田家の贈り物にも入れようかと思ったが、わざわざ敵になるかもしれない家に渡さなくてもいいかなと思い、今回は入れてない。


 「朝餉をお持ちしたのですが・・・」


 「ごめんごめん。そこら辺に置いておいてくれるかな?」


 「畏まりました。お召し替えのお手伝いを」


 「え!?いやいや、自分でするから大丈夫だよ!ありがとう!」


 さすがに絵面がまずい。ってか、武藤さんよ。いくら下女とはいえ、まだ5歳くらいの女の子を働かせるとはどういう考えだ!?許せんぞ!?


 「こら!於国!客人の部屋には入るなと言ったであろうが!!」


 「(コツン)痛っ!父上!すいません!けど、南蛮の話を聞きたくて・・・」


 「お前な・・・。いや、剣城殿。相すまぬ。俺の娘なんだが、好奇心が強くて侍女や下女の真似をしてよくこうやって勝手をしてしまうのだ。許してくれ」


 「え!?娘さんだったのですか!?」


 「うん?何かおかしいか?」


 いや、おかしくはないけど、娘が居たのか!?男の子二人が有名過ぎてオレは知らなかったわ。


 「いえ・・・。それにしても聡明ですね。お嬢ちゃん?いくつかな?」


 「4歳です!」


 「(コツン)3歳であろうが!サバ読んでどうする!」


 いや女は・・・女の子であろうが女は魔性だ。それに奇妙丸君並に聡明だ。育て方がいいのだろう。


 この於国ちゃんとはいつか、日を見て色々と話す約束をして納得してもらった。まぁ子供と話すくらいだ。未来の話でもすれば満足するだろう。お約束の飴玉を渡してあげたら、岐阜の城下の子供達と同じ反応をしていた。


 そして、流れで武藤さんと朝ご飯を食べて、昨日の原さんの隊の所属の使いが来て、城というか館へ向かう事となった。


 田舎だとは思うが、民の幸福度はそれなりに高いようにも見えた。


 岐阜城の謁見の間より少し大きいくらいの部屋に待たされ、続々と並々ならぬオーラの人達が現れる。平手さんはそんなのどこ吹く風な顔だ。坂井さんは緊張しているのが分かる。オレも然程緊張はしていない。


 が、信玄と名乗る前から信玄と分かる人が来て、タイムスリップした直後のような気分になってしまった。


 「皆の者。苦しゅうない。この者達が織田家からのお使者殿か」


 「はっ。お屋形様から見て、右から平手監物殿、芝田殿、坂井殿にございます」


 「うむ。遠路はるばるよくぞ参った。甲斐は田舎であろう?ワシは美濃や尾張は見た事ないが聞いた事はあるからな。さぞ栄えているのだろう?此度はその栄える街にした一手をこの甲斐にも教授してもらいたい。まずは、互いに知りたいと思う。この、お使者の頭は誰か?」


 言葉は優しいし、本当に信廉と瓜二つだけど・・・明らかに信長さん並みのオーラな件について。ファンタジー風に言うなら間違いなく魔王覇気というやつだと思う。


 胃が痛い・・・。

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