お味は如何に!?
「某は織田家 平手監物汎秀。此度の交流会の指揮を取る者です。が、頭というならば隣の芝田剣城。この者でしょう」
「うむ。そうであろう。剣城という名は2年前の三河一揆で聞いた事がある。そうよのう?秋山?」
「は、はっ!」
あぁ〜、そういえば秋山信友ともなんか会ったんだっけ?然程あの時は脅威に思わなかったから放置してたよ。ちょっかいも出して来なかったしな。ってか、平手さん・・・裏切りやがったな!?
「じ、自分なんぞ大した男ではございません。ただ少し、徳川様と懇意にしてる間柄なだけにございます」
「三河の坊ちゃんと懇意とねぇ〜。まぁ、良い。で、そちは何を教えてくれるのだ?」
「逆に何をお聞きになりたいですか?大概の事ならば答えられると思います」
「チッ。偉そうに」
「こら!やめんか!すまんすまん。今のは山県という者だ。口は悪いが武田に欠かせない男なのだ。許せ」
「山県昌景様ですね。その高名は尾張、美濃にまで届いております」
「ふん。それなりに我等の事を調べて来たみたいだな。まぁ織田家と武田家が同盟を結ぶにあたっての交流会だ。否定から入るものではなかったな。すまぬ。それに、見事な贈り物も用意したみたいだな」
「山県殿ともあろうお方が物に目が眩んだか?催促するようで失礼であろう」
「そうだそうだ。餓鬼でもあるまいし」
「な、なんじゃと!?」
「ふっ。騒々しいのう。いつもはこんな事はないというのにのう。のう?馬場、小山田」
「はっ。物に目が眩んだ山県を諌めておりました」
いや、いつもの柴田さんと羽柴さんと丹波さんと池田さんのような掛け合いを見ているようだ。だが、芝居のように感じる。特に小山田と呼ばれた人。恐らく小山田信茂だろう。若年の小山田が山県に意見言えるなんて事はないだろう。あの馬場って人は間違いなく馬場信房だろう。この人は見るからに分かる。歴戦の猛者だ。
「ゴホンッ。先に織田家からの贈り物を紹介してもよろしいですか?皆々様は朝餉を食べたと思います。が、それでも食欲の唆る物を多数お持ち致しました。今宵の夕餉の折にでも食べていただければと思います」
「うむ。そのように致せ」
「はい。ありがとうございます。大膳君」
「はっ!暫しお待ちを」
「誰ぞ。手伝ってやれ」
浅井家はお市さんとの婚儀だったから別だけど、よその家に来てこんなに最初から優しい家は初めてだな。あの徳川家ですら初めて会った岡崎では配下の酒井さんや夏目さんに小馬鹿にされたのに、武田家は案外優しい。
「一つずつ説明します。まずは皆々様方が好きであろう酒をできる限りお持ち致しました。口の中で暴れる酒と言えば妥当でしょうか。美濃や尾張では金色の酒と呼ばれる物です。他には澄み酒、果実酒、南蛮酒などなど、日頃、米糠臭い酒に飽き飽きしてる方なら美味しく舐めるかと思います」
酒の説明から入り、その後は食べ物の説明をした。米、砂糖、塩と。だが、敢えて肉の説明だけは省いた。これはカセットコンロで実演しないと納得しないだろうからだ。それでも、古い考えが蔓延っているならばオレの事は嫌われるかもしれないけど。
で、布団やジャージ、ダウンジャケット、シャンプーや石鹸、歯磨きセットやタオルなどなど色々と説明が終わる。
ここでも思う。統率が取れているからか、他家では説明がその都度止まっていたのだが、ここでは皆、驚いた顔をしてはいるが、黙ってオレが説明し終わるのを待ってくれている。信玄も信玄で、いつかの農業神様から貰った梵字の軍配みたいな、風林火山と書かれた軍配を軽く叩いている。
「こんな所でしょうか」
「待て。そのなんぞ赤い何かの説明がまだなのではないのか?」
鋭い。真空パックに入れた肉の各種に気付いたみたいだ。いや、こんなにあれば気付くか。
「心して聞いてください。これは獣の肉です」
「なっ!に、肉だと!?」
「貴様!これまでの贈り物にワシは感動すら覚えていたのにまさか肉を寄越しただと!?荷が穢れるではないか!」
「己は敢えてそうしたのか!?そうならば武田を舐めていると捉えるぞ!?」
はい。これは、演技ではなくマジの皆からの威圧です。どうもありがとうございました。
昔ならここでションベンを漏らしていただろう。だが今は違う!信長さんに鍛えられているからな!
「(サッ)静まれぃ!思った以上の物をこんなにも贈ってきた。それを台無しにするような事を自らはしないであろう。理由を聞こうか」
いつかの信長さんもよくする手を水平に上げて皆を静かにさせるアレだ。例にもなく信玄がそれをすれば歳の差のせいか、信長さんよりカッコよく見える。
「まず、織田家では肉食を推奨しております。そりゃ、宗教上の関係で『食べない』って人には強制しませんが、少なからず京の公家の人達、徳川家、浅井家、これはここ最近ですが上杉家からも注文が入っていますよ。後は九州の島津家ですね」
「ほう?」
いやいや、『ほう?』って何ぞ!?どっちの反応でオレはどう返せばいいんだよ!?
「やはり織田家は上杉家とも交流があるのか?」
「交流というか、商売はしていますよ。自分の殿である信長様は直接やり取りはしていないと思います。主にオレの配下が能登や越後で商売していて、その繋がりからです」
「お屋形様!織田は武田を馬鹿にしているのでは!?」
「そうですぞ!いくら交流と言いつつも肉なぞ・・・」
「黙れ。先にも山県が言ったであろう。否定から入るなとな。世は変わってきておる。今しがた聞いたであろう。織田は上杉のみではなく、安芸や九州とも繋がりがある」
っぱ、信玄は古臭そうな考えぽいけど、いい領主だ。慕われる理由があるわ。オレでも少し絆されそうだもん。
「チッ。で、その大量の肉を我等は食えと言うのか?」
「えぇ。まぁ・・・そのつもりですが、小山田様でしたかね?騙されたと思い一つだけ食しませんか?ここで実演しますので。それで美味しくない。こんな物食べられる物ではない!と"言える"ならば肉以外の贈り物を倍にしても良いですよ」
オレは敢えて言えるという言葉を強調した。オレの出会った人で、肉を忌避する人は多かったが、食べた後に不味いと言った人は未だ居ない。やはり苦手という人は居たが、それでも焼き肉のタレだけは買ってくれたりとおかしな人も居るからな。
「何を実演するのだ?」
「武田様。監督を二人付けていただいて良いので、ここで火を使ってもよろしいですか?オレがおかしな真似をすれば素っ首叩き斬っていただいてかまいません」
「そこまで言うか。まぁ良い。試してみよ。だが、お主は先程言った事を覚えておるよのう?倍にするのだろう?吐いた唾は飲まんとけよ」
怖ぇー!そんな言葉リアルで聞いたの初めてだぞ!?いやでも・・・カッコいいな!今度、大膳君にでもオレも言ってみようか!
「あぁ〜。こちらからも」
「監物だったか?なんぞ?」
「こちらはこの者の差配には一任しているので文句は言いませんが、小山田何某氏殿は嘘は吐かんでくださいよ?美味いのに不味いと」
「貴様!ワシを嘘吐き呼ばわりするのかッッ!!」
「わっはっはっ!この武田の将の中で、そのような事を言える胆力を、お主は持っていたのだな!織田の若人も中々じゃのう。小山田は下がれ。ワシが食らってやろう」
「「「「お屋形様!?」」」」
「お、お屋形様!?わ、ワシでは役不足と言うのですか!?嘘吐きと!?」
「ふっ。違う。おことは若い。若いのに武田の事を思い命も投げ捨てる忠臣であろう?ならば武田の事を思い、簡単に嘘を吐くであろう?戦では嘘と嘘を混ぜ敵に混乱を齎せたりするであろう。
だが、食べ物とは日々の糧。謀に嘘は吐くものではない。
仮に越後が大凶作だとせよ。その場合は甲斐でも不作だろうが、仮に武田が豊作だと北条が嘘を吐いてみよ。
あの戦狂いは出稼ぎと抜かして攻めてくるだろう。一体何度川中島をすれば良いのか」
この人の言う事は凄いわ。厚みが違うと言うべきか・・・。積み上げた経験値が圧倒的だからなのか、初めてこの時代で信長さん以外の人の言葉を聞き惚れてしまう自分が居る。
あの戦狂いとは上杉謙信の事だろうな。もしできる事なら4回目の川中島の戦いの話を聞いてみたい。
「はっ。浅はかな考えで口答えしてしまいました!申し訳ございませぬ!命ずるならば即座に腹を斬ります」
「よせ。それを命ずれば誰もワシに意見せぬではないか」
いやここでも切腹大好きな人が居たのかよ!?いや、それだけ信玄に絶大な信頼がある証だろう。
「ゴホンッ。始めさせていただいても?」
「好きに致せ」
信玄から挑戦的な目と言葉で言われた。オレは風呂敷で隠しながらタブレットの収納からカセットコンロとフライパンと皇帝の味と言われる焼き肉のタレを取り出す。これで不味いと言われればオレの負けだ。その時は素直に倍の荷物を渡そう。
「そ、それはなんなのだ!?ひ、火が点いておるぞ!?」
「内藤が狼狽えるとはな。剣城。これは南蛮の物か?」
あの人は内藤昌秀かな?いや、武田は有名家臣が多すぎるよな。人物チートだわ。
「はい。南蛮物でございます。懇意にしている明の商船が居まして。そこから流れて来た物です。これ一つで城を買えるくらいの値の物です」
嘘八百だ。Garden of Edenで1500円、ガスは1本200円の普通のカセットコンロだ。だがこう言っておけば叩かれないだろう。
「ほう?」
いやだからその『ほう?』とは何ぞ!?どう返せばいいんだよ!?
「(ジュワァ〜)よし!このくらいで良いでしょうか!同じ肉を切り分け、同じタレを漬け焼きました!毒味はオレ自身がします!(ハムッ)うほっ!間違いない!美味いッ!!あ、すいません!武田様。どうぞ。熱いのでお気をつけください」
「お、お屋形様!なりませんぞ!遅効性の毒が仕込んでいるやもしれません!もう少しこの者を待って・・・」
「黙れ!これ程、食い物を気になったのは初めてだ!それにここまで来て毒を仕込む理由がない!」
ふふ。まぁ匂いも完璧だ。秋山さんだけ何故か冷や汗かいてるみたいだが、これで不味いと言われれば・・・うん。本当に負けを認めよう。さて・・・お味は如何に!?
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