小川さんに通ずるものが・・・

 「いやぁ〜まさかこんな所で剣城殿に会えるとは感謝感激ですぞ!実は織田家の者を迎えいれる話を聞いて、しかもそのお方が剣城殿と知ってから、源太左衛門様にお願いして上野からやって来た次第ですじゃ!」


 「そ、そうだったのですね。わざわざありがとうございます」


 少し、小川さんの血が入ってるような気がしないでもない。勢いが小川さんのソレと同じようだ。


 「まずは、真田館にお越しください!いやなに!源太左衛門様から許可は得てます!」


 一度、言われた通り、真田館へと向かう。思った以上に城下は整備されていて、所々に寺社も見える。南北の盆地の出入り口は街道が見え、そこも綺麗に整備されているように思う。オレもできればあの街道から入場したかったぜ。


 「まぁ入ってください!何もありませんが、ゆるりとお過ごしください!夕餉は配下に鯉を取らせに行っておりますゆえ、今暫しお待ちをば」


 「あ、いえ。それには及びません。その配下の方も直ぐにお戻しください。先の荷は原様に預けましたが、すぐに食べられる物ならあるのです」


 「へ?」


 「ちょっと待て!待て!なんか二人は旧知の仲っぽいが、どういうことだ?」


 「あぁ、平手様すいません。実は・・・」


 

 「そうだったのか。本当に侮れない奴だな?なら、武田は矢沢殿と剣城殿の関係を知らないと?」


 「知らないかどうかは分からん。聞かれれば答えるが、こちらから言うつもりはない。別に物を売ってもらっている関係だからな」


 「ってか、随分と話し方が変わるんだな?一応、此度の交流で甲斐に残るのは俺なんだが?」


 「監物殿の普段の甲斐での生活もワシ持ちなんだが?」


 「まぁまぁ。2人とも。今日はお近付きという事で・・・。矢沢様?少し台所を借りても?大膳君!ちょっと手伝いなさい!」


 それから少し問答が起こった。客人に飯を作らせるのは・・・とか、真田家引いては武田家及び矢沢家の沽券に関わるだとか。

 オレとすれば気にしないんだけど。


 だが、荷物は全部預けたわけだ。ならどうするのか。決まっている!タブレットで購入するのだが、さすがに矢沢さんの前でも見せるのはよくないと思い、大膳君のリュックに入っている風に見せて、素早く袋ラーメンを購入する。


 オレは現代に居た頃と変わらない食事をしているからわざわざ甲斐に来て袋ラーメンか・・・と思うが、他の人達は別だろう。甲斐で1番美味しい夜ご飯を食べる事になるだろう。

 いや、信玄はさっそく贈り物の中に入れているタブレットで購入した、神界のベヒーモサーモンを食べているかもしれないから1番ではないかもしれないけど。


 「剣城様?ここまで来て袋ラーメンっすか?俺は焼き肉が食べたいんっすけど?」


 「(スパコンッ)誰が初日に焼き肉するんだよ!?ここは他国だぞ!?城下に寺社も見えただろうが!大膳君!ランニングするか!?え!?ランニング!」


 「はっ。申し訳ございませぬ」


 口の肥えた大膳め。


 「(スンスン)なにやら・・・良い匂いがしておる・・・」


 「あ!矢沢様!もうできますのでお待ちください!」


 「おぉ!今宵はらーめんか!お館様も最近ハマっているやつだな!」


 「うん?これは、らあめんと呼ぶ物か。尾張では流行っているのか?」


 「あぁ。そうだよ。美濃の城下なら色々な味付けのらーめん屋が軒を連ねて、シノギを削っているさ。味噌に醤油、獣味、塩と色々とあるんだ」


 いやいや平手さんよ。獣味ってなんぞ!?豚骨・・・ではないな。食肉加工で出た骨だろ!?一括りにするなよ!?ラーメン通から怒られるぞ!?


 「そ、そうなのか!?ワシは初めて見る・・・」


 「だろうな。剣城殿が流行らせてしまったのだ。な?」


 「どうでしょうね。けど・・・(コトン)味は保証しますよ。肉が入っています。問題があるなら作り直しますが?」


 「いや。最近は奥方の文を見て、真田家も剣城殿の所を真似てみようとしておりましてな。肉食をすれば兵の身体の作りが変わるのだとか?たんぱくしつがなんとかと拝見致しました」


 「あぁ。あの手紙ですか。美濃や尾張では肉食を解禁していましてね。地元の自社のお坊さんも最初は難色でしたが、沢彦様っていう和尚様が説法を解いてくださいましてね。意味もなく命を弄ぶ事は法度ですが、若いお坊さんにちゃんと定期的に供養してもらい、その命をオレ達は頂いております。まぁ冷めない内にどうぞ」


 「うむ・・・。では・・・(ジュル ジュル)ぬぅぁ・・・こ、これは・・・(ジュルルル)美味いッ!!非常に美味ですぞ!!」


 「ははは。ありがとうございます。明日?かいつかは分かりませんが、武田様とお話しする時にも言うつもりですが、織田家は日々の糧に今は重きを置いております。衣食住。この3つを上の大名や武士だけではなく、下々の者まで満足できるように日々奔走しているのです」


 「その話が聞きたいのは山々だが、大殿より先に聞いてしまってはいかんから、またの楽しみとしておきましょう。ありゃ!?もう無くなってしもうた・・・ワシとした事が量を見誤ったか・・・」


 いや、ラーメン如きに大袈裟すぎな?


 「大膳君。次は銀ちゃんヌードルを!醤油味にしてあげて!」


 「はっ!」


 「ほぅ。かの者は料理人であったか」


 「え?大膳ですか?あれは飛脚頭のような者ですよ。2度程、贈り物が届いたでしょう?それを運んだのがこの者、もしくは配下の者ですよ。な?そうだろう?」


 「・・・・・・・」


 「あれ?大膳君?」


 「申し訳ありません。その荷物に関しましては塩屋殿にお願いしておりました」


 「は?」


 「いえ!これには訳がありまして・・・。先の京での乱などゴタゴタがありまして、武衛陣の剛力配下にも物資を届けなくてはならなくて、あちらの方が大切で、失敗は許されないと思い・・・」


 「京で何かあったのか?」


 「話は届いてないですか?三好が将軍に弓を引いて、それを織田や浅井、上杉、毛利、島津、徳川6家で滅ぼし・・・てはいませんが、壊滅的にで追い詰めました。旧三好領の摂津では今や戦乱の嵐かもしれませんね」


 「なんと!?あの三好家が!?」


 こんな山の中に国があるんだ。情報が届くのは遅いってのは本当ぽいな。

 

 「一応、三好に連なる三名は自慢ではありませんが、一騎討ちにてオレが引導を渡しましたよ。あそこの家の奴等は皆等しく卑怯でした。オレも少し深傷を負い、織田が与えた武器で爆殺される所でしたよ」


 「ケッ。よく言うぜ。矢沢殿よ。あぁ、口が悪いのは堪えてくれ。美濃でも俺はこんななんだ。この剣城殿はな。こうは言っているが、その気になれば夢幻兵器を人海戦術で色々な国に運び、足軽やなんか関係なしに木っ端微塵にできる兵器を持っているんだぜ」


 「ちょ、平手様!まさか・・・大膳君!酒も出したのか!?」


 「え!?だって後で出してあげようって・・・」


 大膳君はランニング確定だ。平手さんじゃなく、矢沢さんに出す予定だったんだよ!


 「詳しく・・・聞きたいですな。剣城殿の戦術を」


 「元来オレは平和主義ですよ。敵となっても相手が謝れば許しますし、仲良くだってします。けど、裏切りは許さない。その裏切りを三好はしたわけです。だから殲滅したのですよ」


 「な?恐ろしいだろう?その気になれば100人で城を落とせる男だからな。織田家でも譜代の臣下からも今や一目も二目も置かれているのさ。元の家柄は俺は分からないが、先日、織田家親族衆になり、銭良し、武名良し、家臣も今や織田家筆頭家老を配下に加え名実共にだな。なのにこの剣城殿は妻は一人しか娶らないそうでな。勿体無い。俺なら何人も妻に迎え入れるがな」


 いや、本音ではね・・・。オレもそうしたいけどそうはいかないんだよ!


 「・・・それに、この田舎者の某に平城を一から作っていただきました。子には定期的に甘い甘味や菓子を送っていただき、配下の面倒見も良いのです」


 「其方は・・・坂井殿と言ったか」


 「はい。剣城殿と縁があり、ここ最近は従軍させていただいておりまする」


 「剣城殿がそこまでのお人だとは艶知らず・・・。この矢沢、更に感動致しました!」


 いや、今の所で感動する所なんてあったか!?


 「叔父上!来られておりましたか!何やら美味そうな匂いがしておりますな!」


 「喜兵衛か?ちょうどよかった!この方が例の剣城殿だ!」


 現れた人は20歳前後の若い武士ぽい子だった。が、喜兵衛・・・真田昌幸の事だよね!?こんなに若いの!?イメージでは老齢なイメージがあるんだけど!?


 「おぉ!其方がそうか!よくぞ参った!それと・・・この匂いはなんだ!?内記(高梨内記)に鯉を獲ってくるように言わなかったのか!?」


 「いえ、剣城殿が作ってくださるとの事で御言葉に甘えた次第でございます」


 「えっと・・・間違えてたらすいません、もしかして、あなた様は真田昌幸様ではございませんか?」


 「「・・・・・・」」


 「あれ!?まずかったですか!?」


 「はっはっはっ!面白い御仁だ!まぁ元は真田家出身だが、俺は三男だ!家督継承は低い!兄者達と勘違いしておるのではないか?俺は、武蔵七党の一つ、信濃源氏 小笠原氏庶流の大井氏の支族 武藤家に養子に入ったのだ。で、叔父貴は先見の明があってな。

 俺が産まれた故郷の真田郷と矢沢が居た矢沢郷は隣同士でな?矢沢は諏訪氏の一族で元々は敵対関係にあったのだが、この叔父貴が真田家の養子に入るって事で敵対関係が解消されたのだ。

 で、叔父貴は俺に付き従ってくれているのだ。わざわざ真田と名乗らせるのは申し訳ないと思い、父上も兄者達も元の矢沢姓を名乗る事を許しているのだ」


 初耳だ。ドロドロな感じはするが、この人達の関係性が分かった気がした。で、真田家とはやり取りした事ないけど、矢沢さんとやり取りした中で書いてあった真田はオレは真田昌幸の事かと思ってたけど、更にその上の世代の真田幸綱だったかな?昌幸のお父さんだったんだな。って事は・・・、


 「真田様!あ、いえ・・・すいません!武藤様!二人の男の子が居ませんか!?名前を・・・確か・・・源三郎って子と弁丸って子だったような・・・」


 「は!?お主はどこまで草が居るのだ!?何故そんな事を知っているのだ!?弁丸に関しては去年産まれたばかりなのだぞ!?貴様もしや・・・(シャキンッ)」


 「なっ・・・おい!武藤とやら!控えよ!俺は織田家 平手汎秀という者だ!剣城殿は織田家でも謎が多いが、無闇に人を害す男ではない!それにこの者の配下は全員甲賀者だ!」


 平手さんの説得虚しく、刀を収めてはくれないらしい。それに何故かオレも引いてはダメな気がする。殺し合いをしたい訳ではない。だが・・・。


 オレは懐に入れているボールペンに化けている戦神様サブスクで購入した槍を取り出す。


 「(ポヨン)無手では格好がつかないですからね」


 髑髏ボタンを押して、3段階大きくなる槍だが、2番目の髑髏を押した。普通の刀より少し長いくらいの槍に変わった。だがどうしてなのか・・・槍が伸びた時の効果音が聞こえたのだが、情けない音だった。


 「チッ。やはり仕込ませておったか。どういうカラクリかは分からぬがこの部屋でそんな長物が振り回せる訳ないだろうが!」


 「言葉闘いは好きじゃないんですけどね。それに殺すつもりはないですし、寧ろ貴方に好意的だったんですけどね」


 「つ、剣城殿!?お収めくださいまし!不手際は某が謝ります!どうか・・・。喜兵衛も謝れ!この方は将軍家に連なる三好を一騎討ちで滅ぼした男ぞ!」


 「いや・・・矢沢様。大丈夫です。ただ感じるだけ。殺したりはしないよ。真田さん?いや、武藤さんでいいかな?まぁいいや。何度も言うけど、殺すつもりはない。けど、どちらが上かは教えておく」


 パキンッ


 よくもまぁ、こんな黒歴史全開な言葉がスラスラ出てくるな。前のオレならビビって腰抜かしてただろう。だが、今は違う。舐められたらダメな時があるだろう。それが今だ。

 現代に居た頃なら想像も付かないだろうが、刀や槍を合わせ、分かり合える事もある。オレは戦神様を祀るドワーフを信じ、喜兵衛が構えている刀を横に薙いだ。するとまるでリンゴを斬るような感覚で刀を斬った。


 「ぬぁ・・・」 「まさか・・・」


 「そ、それまでッ!!双方静まれ!この仕合いは友好を兼ねての仕合いだ!剣城殿!そうだな!?武藤殿もそうだな!?」


 「平手様すいません。えぇ。その通りですよ。見届け人は坂井様と平手様で。矢沢様、武藤さん。まずは話を聞いてほしい」


 オレが落ち着いた口調で言うと二人は静かに座った。

 

 「お待たせ致しました〜!ってアレ!?なんすか!?これは!?」


 「大膳君?君は何をしていたんだ?声が聞こえなかったのか?」


 「え!?いや、先日頂いた、神界アゲアゲレボリューションという歌を空気ポッドイヤホンで聞いていたので・・・」


 「お前な・・・いや、まぁ今はいいや。タイミングバッチリだ。大膳君。けど、ランニングは増やすぞ」


 大膳君の空気の読めない事に感謝だ。ラーメン食べて話すか。


 

 〜春日山城〜


 「御実城様。軒猿からの報告にて、織田家の数人が甲府入りしたそうです」


 「ふん。知れた事よ。先の乱にて織田と上杉は誼ができた。それに慌てて武田は手を打ったのであろう。賢しい男よのう。信玄は。北条と我等が同盟したのは新しい。武田は海が欲しいのだろう。駿河侵攻の布石であろうよ」


 「見事な読みでございます」


 「駿河は遅かれ早かれ武田に屈するだろう。瀬名、朝比奈、葛山は既に武田に内通している。それを良く思わないのが氏康であろう。氏真と信玄とでは格が違い過ぎる」


 「で、ありましょうな。勝負は火を見るより明らかにございます」


 「ここに来て織田と交流し、夢幻兵器なる物を買い付けるであろう。それと兵糧をな。北条と織田は接触していないのであろう?」


 「はっ。軒猿からは何も聞いておりませぬ」


 「小田原も危ういやもしれんな。我でも落とせなかった城だが、剣城という奴が開発する夢幻兵器とやらがあれば分からぬ」


 「黙っているので?」


 「武田に織田が武器を売るのなら我が織田に出張ってやろう。直接売るなとな。もしくは北条に協力しない事もないが、それをすれば我と信玄との同盟を裏切る事になってしまう。我は義に反する事は嫌いだからな。だが、背後から兵を動かす素振りを見せるだけならそうはならんであろう?何も攻撃をせぬのだから同盟破棄にはならぬ。で、美濃には忍ばせれたのか?」


 「はっ。芝田家ではありませぬが、羽柴という家の大工衆にはなんとか入り込めたようです。この情報もここからでございます。後は佐久間という重臣の馬番に何名か」


 「良い。我も今は織田と敵対するつもりはない。尾張や美濃から流れてくる酒が美味いのでな。そうだな・・・我等も技術交流とやらを提案してみるか?我等は武田より一歩前に進んでいる。追いつかれたなら追い抜かせば良いだけだ」


 「文でも出しますか?」


 「いや・・・面白い考えがある」

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