甲斐への道のり 終
「あぁ。そうっすか。ではお大事に。はい次の人」
「コホッ コホッ。鶯屋のおりんと申しまする」
「空咳が出ているようですね。お薬お出しします。ミヤビちゃんお願い」
「はっ」
オレは少し期待していた。あぁ。大いにね。けど、来た女性達はどこか身体が悪いような人達ばかりだった。最初来てくれた女性と遊女屋ではないが、床屋とはどんな所なのかと色々聞いていたのだが、途中でそういう雰囲気になり、ゆきさんに申し訳ないと思いつつ、欲望には勝てないため女性の着物を脱がしたのだが・・・。
まぁ身体中にイボ?のようなものがあり、オレはそこに違和感を覚え、その女性に聞けば少し前から体が怠い時があるとか。オレは医者じゃないし、タイムスリップ前にその人を見た事ないから分からないが、所謂・・・梅毒ではないのだろうかと思ったわけだ。
手っ取り早く、隠れてタブレットの皇帝の名を冠する栄養ドリンクを購入し、嬢に飲ませたのだが多分梅毒じゃなかったにしろ、何かしらの病気を患っていたのは間違いない。飲んだ直後にイボは消え、体の怠さも消えたとか。
で、その後にその女性に言われたのが・・・、
「ほんに、お頼み申し上げまする。私はあなた様に身を捧げます故、箱の中の鶯を元気にしていただきたもう」
要は病気の女が他にも居るから治せと言われたのだ。まぁ断れるはずもないよな。だって治せる薬があるんだから。
そこから今に至る訳だ。医者のような事はした方がいいと思い、ミヤビちゃんを横に問診票的な物を書いてもらっているのだが、二人目に現れた女性は局部から血が出ていると聞いて、見たくなかったのに・・・、
「朱音姐さんを治した貴方様はさぞ高名なお医者様でありんでしょう?アチキの悪い所も見ずに病気が分かるなんてことはありんせん!(バサッ)」
要は、悪い所を見ずに何の病気か分からんだろ!?ちゃんと見て診断しろや!って事で、望んでもないのに着物の裾を広げ見せてきたのだが・・・思い出すのも悍ましい。いや、言葉は悪いが本当にそういう反応だった。それを見て、先程までピンクだった気持ちが飛んでいったのだ。
何度も言うように医者ではない。タブレットの中に、
《なりきりお医者セット》¥400000
効能・・・付属の聴診器を使うと患者の病気や怪我の状態が分かる。医薬神の監修の元に作られている。
と、いう物を見つけたがさすがに高すぎる。ってかこれがあれば世界一の名医になれそうだ。いつかは買おうと思う。で、その医者ではないが恐らく淋病とか梅毒のかなり進行した症状がこれなんだと思う。まぁ皇帝の名を冠している栄養ドリンクは何でも治すからな。
で、最後のおりんさんって女性。まぁかなりの人数を見たわけだ。投げやりにもなってしまうよな。この人は性病ではなさそうだ。が、空咳は良くないイメージがある。
「これを飲めばすぐに治りますよ」
「先程から他の鶯達と同じ薬のように思いまするが・・・私は他の方と違う気が・・・」
「大丈夫です。騙されたと思って飲んでください。必ず治ります」
少し鋭い人だった。確かに性病ならワンチャン同じ薬でも怪しまないかもしれないが、この子は明らかに性病じゃないのに、他の人達と同じ薬ってのは気になるだろうな。
「あれ!?苦しくない!?」
「良かったです。治ったようですね。ではオレは明日にはここを出立しないといけないので休みます。お疲れ様でした」
こんな慈善事業したのは初めてではないが、何故か今回は疲れた。さっきまでのピンクな気持ちはどこへやらだ。
「あのう・・・もしよろしければ私が疲れを癒してさしあげたいのですが・・・」
「まぁ最初はその気持ちがオレにもあったけど、皆を見てたらそんな気分じゃなくなったんだ。おりんさんだっけ?あなたもゆっくり休みなさい」
「あ・・・えっと・・・」
「多分、朱音さんって仕切ってる人に言われたんだろう?この時代は薬は高価だからね。で、君は見るからに男にモテそうな顔だし、所作もただの下娘って感じがしないしね。理由は聞かないし、無理矢理何かしようとも思ってないから」
「そうですか・・・。もし気が変わりましたらお声掛けください」
本当は抱きたいと思う。思うけど、男相手にあんなにながらも仕事をしないといけないってのが可哀想だ。オレがここへ来なければ今日診察した女の子達はいつかは命を落としていたかもしれない。
もし美濃で本当に春町を運営するなら生半可に手を出すのではなくちゃんとしないといけない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うにゃ?おぉ。剣城殿か。坂井と深酒して寝坊してしまった」
「平手様おはようございます」
「その顔は・・・女は抱いていないみたいだな。どうした?」
「いえ。昨晩少しありましてね」
「まぁなんだ・・・。旅が長ければ色々ある。それにしても武田の荷が減ったがいいのか?」
「あぁ、大丈夫です。買い増ししましたので。今頃、大膳が荷車に積んでいると思います」
「そうか。なら顔を洗って出発しよう」
「剣城殿?加減がよろしくないので?」
「坂井さん。おはようございます。なんでもありません」
「ならば良いのですが・・・。恐らく今日から更に山道に入ると思います」
「はい。まぁ大丈夫ですよ」
何故か気分が優れない。が、あの女の子達が気になるってのもあるけど、武田に連れてなんて行けないしな。何でもかんでもはオレもできないからな。
その後は直虎さんが昨日会った時と同じように野太い声で朝の挨拶をし、与作さんと合流し、出発の流れとなる。
「この身が今少し若ければ是非、もっと其方とお近付きになりたかったのだが」
「ははは。世辞でも嬉しいですよ。昨夜の事、考えがあるなら本当に言ってください。それに・・・」
「あぁ。例の女達だろう?大層世話になったようだ。試すような真似をしてすまぬ。その事は私にも考えがあるからな。殿が許してくれるかは分からないがな」
「はい?なんです?」
「いや、それはまた追々だ。岡崎に帰りも寄るのだろう?いつくらいなのだ?」
「一応、予定では14日前後には美濃に帰る予定です」
「相分かった。ではまたその時に会おう」
また会おう?この人も岡崎まで出張ってくるのか?まぁいいや。先は長いんだし。
はい。舐めてました。南アルプスまでは入っていないだろうが、その麓辺りの道なき道を歩いているだろう。多少、雑草が踏まれている感じがあるから一応ここは人が往来する道なんだろうが、兎に角・・・、
「ヘェー ヘェー。マジでなっんでこんな山の中なんだよ!」
「そう言われましてもですね・・・。武田の叔父貴にはくれぐれも今のような言い草はやめてくださいね。いくら客人とはいえ良い気はしませんよ」
「いや与作さん。オレも流石にそんな失礼な事は言わないからな」
こんな雑談をしていたのだが、昼を過ぎ、ほんの少し広くなって、平らな場所で井伊谷城の料理番に作ってもらった、塩がかなり効いた握りを食べ、永遠に続くかと思われた山道を進む。時刻は16時を過ぎ、本当に今日中に到着するのか!?と思っていたら、やっとその山道を抜けた。
下りに入った所で膝が笑っていて、本当にキツかった。
「与作さん・・・今度もし来る事があればもっと楽な道をお願いします・・・」
「いや、あるにはあるのですが、掛川城を抜けて行けるのですが、未だ掛川は三河殿が包囲中ですからね」
それなら先に言ってほしかった・・・。この道を事前に知ってたら、家康さんに懇願してもっと楽な道を通らせてもらうのに・・・。
山を越え、谷を越え・・・いや、谷は越えていないか。まぁ道なき道を歩きようやっとたどり着いた、山と山の間にある甲府盆地。向こうに見える金峰山の麓に信玄が住まう館があるはずだ。
まず感想・・・。遠い。しんどい。
ここを攻めるメリットはあまりないかもしれない。見渡す限り緑しかない。奥にも後にも山、山、山。三方を山で囲まれ、当初の美濃、尾張より整地されている田園。その三方に小さな城のような物も見える。館の前も石垣が見え、あれはなんという設備なのか。馬出しとは違うなにかも見える。
「これは攻めるのは無理ゲーだな」
「はぁ!?え!?剣城様!?」
「あ、いやいや、与作さん。ただ思っただけですよ。もし攻めるとするならこれは相当の労力がいるなと思っただけですよ」
「そうだな。歩卒7万、指揮が取れる侍大将格1万、炮烙隊1万を三方向から波状攻撃してやっとって所だな。東曲輪、中曲輪からなる主郭部を攻めるのは難儀だな。それを突破したとしても、外濠、空堀り、中濠で更に歩みが止まる。敵からすれば足の止まった兵を射るだけの簡単な仕事だ。
あの奥に見える連結を分断できればまた変わるだろうが、伏兵、火炙りと何でも敵を殲滅できる間の作りだ」
いや、平手さんもやっぱ武将だな。
「ちょ、ちょっと皆さん!?」
「すまんすまん!剣城殿に充てられただけだ。与作!最後の案内を頼む!」
「はぁ〜。まずは関所です。多分、荷と身を検められると思いますが、御容赦ください」
まぁ仕方がないかもしれないが、オレ達が来るって知ってるはずなのに失礼だよな。
「剣城様。あの例の朱印状をここで見せるのは?」
「おっ!そうだな!大膳君!初めてまともな事言ったじゃないか!」
「は、初めてっすか!?では、みどりの事は・・・」
「それは話が別だ。オレを放って女を抱いた事は美濃に帰れば金剛君にも剛力君にも琴ちゃん達皆に伝えるからな!」
「お戯れはそれまでに願います。関所に向かいます」
ここの関所は、以前尾張や美濃にあった関所とは違い、歴とした武田家の関所だ。だから作りもいつぞやの甲賀の関所などとは違い、作りがしっかりしている。
「止まってくれ。今しかだ荷役の与作から聞いた。遠路はるばるよくぞ参った。陣場奉行及び関奉行 原隼人佑昌胤である」
「織田家 平手政秀が三男 平手監物汎秀である!」
「織田家 坂井政尚です」
「同じく、芝田剣城と申します」
「うむ。芝田殿の話は伺っている。なにやら夢幻兵器なる物を製造しているとな?此度の交流にてその一端を教えていただきたもう」
「いえいえ。大した物ではございませんよ」
「ふっ。謙遜するでない。最近は東の声で何かしらあると、織田家の剣城とよく聞く。よろしく頼む。だが、これは決められた手順でな。一応、身を検めさせていただきたい。帯刀は御容赦願いたい。その代わり、1日活動時間には護衛を1人に付き5人仕わせ、甲斐では我等が身の安全を守ると約束致す。それとその者等に身の回りの世話も言っていただいてかまわない」
まぁ刀は仕方無い。なんとなく預かられるとは思っていたからな。進化?レベルアップ?したプロミさんは喋る事が少なくなった。というか、頭が賢くなったように思う。ちなみにオレは二刀流だ。いや、実戦では一本ずつしか使えないが、右に蛇剣、左にプロミネンス剣、脇差しはお市さんから頂いたやつ。で、今回は戦神様からもらったボールペンのような槍だ。
「ふむ。変わった形の刀だな?いや、こういうのが最近は流行っているのか?」
「あ、いえ。それはオレが使いやすくて使っているだけです。どうか丁寧に保管してください」
「あぁ。湿気の少ない所に置いておく。帰りの際にちゃんと返す。それと護衛にも武器を預けるように言ってくれ」
え!?嘘!?この人ミヤビちゃんの事分かったの!?
「ミヤビちゃん」
「はっ。申し訳ございません」
「上忍のようだな。だがまだ若い。精進しなさい」
うわ・・・。この原昌胤って人はマジもんの人だ。何してた人かは知らないけど、名前だけはオレも覚えているからな。武田二十四将の1人だったよな。
「原様。お呼びでしょうか?」
オレが蛇剣、プロミ剣、脇差しを出した所で一人の男が現れた。例のボールペン風の槍は懐に入れたままにしている。まさか髑髏ボタンで槍に変わるなんて思いもしないだろうな。
「うむ。此度は織田家から人の交流をする事となった。聞いているな?真田家はその織田家からの客人の護衛をするよう言っていたはずだが聞いておるか?」
「はっ。聞いておりまする」
「そうか。ならば良い。手際が良い家がワシは好きだ。無駄が省けるからな。で、その織田家からのお客人がこの者達だ。だが珍しいな。普通は客人のお茶汲みのような事は嫌がるというのに真田家が手を上げるとはな」
「我が殿は皆が嫌がる仕事も率先してこそ誠の将と言われていますゆえ」
「そうか。荷は訳の分からん物ばかりだ。今少し刻が掛かる。その辺で自己紹介でもしてみてはどうだ?織田方の。よければ荷の説明を願いたいのだが」
「えぇ。大膳君。一つ一つ丁寧に説明してあげなさい。そして、原様もお疲れのようだ。関所の方達にお近付きにビールを渡してあげなさい」
「はっ。畏まりました」
大膳に荷の説明をお願いすると、現れた男はわざとらしく大きな声でオレに話しかけてきた。
「どうも!初めまして!真田家 岩櫃城 城代 矢沢頼綱と申しまする!」
「は!?え!?や、矢沢様!?」
「(シー!)いやぁ〜!まさか都に近い織田家の方々の護衛を任されるとは喜びの舞を踊りたいくらいですな!」
まさかのあの一年待ち惚けさせた矢沢さんだった。が、交流がある事を知られたくないのか、鼻に指を充てるアレをしてきた。ここは知らない振りだな。
「初めまして。織田家 芝田剣城と申します。こちらは平手監物様、坂井政尚様と言います」
「うむ。よろしく頼もう。まずは城下に・・・と言いたいところですが、荷の検めがまだでしたな!ははは」
この人とは手紙のやり取りを2回程したけどイメージと全然違う。年齢は50代くらいだろうか。武勇に優れると塩屋さんから聞いていたからな。けど、イケオジのように感じるし、初めて会う人なのにこんなに親近感が湧いたのは初めてだ。
「うむ。何も問題ないようだ。織田方の。待たせてすまぬな。これよりワシはお屋形様に来訪を伝えてくる。まず、明日には館にて宴会となろう。それまでゆるりと過ごすが良い。そこの矢沢に万事伝えている。夜は極力出歩かないでほしい。おい!矢沢!何をはしゃいでおるかは分からぬが与えられた任は必ずな。もしもの事があれば・・・」
「はっ。心得ております。即座に直系連座で晒し首でかまいません」
「うむ。ではな。このびいるとやら。確と頂いた」
いやいや武田怖ぇ〜よ!いきなり晒し首の話かよ!?
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