史実にない戦

 "ノア!大きくなれ!海に行くぞ!"


 "キャハッ♪剣城っち♪疾きこと風の如く!"


 いやノア嬢さんや!?何故、孫子兵法なの!?しかも、やけにテンションたけぇ〜な!?


 「我が君!ワシも!この小川三左衛門もお供しますぞ!」


 「おい!剣城!船をやられたとは本当か!?」


 「たしかに焙烙玉を投げられたとは聞いたけど・・・岐阜に帰れなかったらどうしよう・・・」


 「それは問題ないかと」


 「小泉さんは帰る方法が?」


 「それは徒歩(かち)にて帰れば良いだけ」


 いや何言ってんの!?いや、そりゃいつかは帰れるよ!?けど何日掛かるんだよ!?関所の金はどうすんだよ!?一つ一つ関所壊して行くのか!?


 そうこう話していると海に着いた。既に義弘さんが陣頭指揮を取っている感じだが、後ろ手に縛られている人が5人。正座している人が10人。明らかに手が千切れている人が3人。


 「剣城君!申し訳ない。船をやられてしまった。今、見張りの者を斬首致す。必要ならばおいも斬首で構わない。いや斬首じゃないといけない!」


 いや、なに斬首で少し喜んでいる顔してんの!?変態か!?別に船くらいいいよ!?金さえあれば買えるし。ってか全然ドンペリ沈んでないじゃん!?


 「いや義弘さん、何を言ってるのです!?肝付の方はどうでもいいけど、味方の人は褒めて下さい!現にオレの船、沈んでないじゃないですか!?」


 「いや、そうなのだがそうもいかん!父御はおいに切腹を申すだろう。せめてもの謝意をば」


 「は!?謝意なんか要らないから!鈴ちゃん!鞠ちゃん!怪我人に治療を!遠慮しなくていいから!」


 「分かりました!そこの腕が無くなっている人から治療するよ!痛いと思うけど我慢……………」


 「おい!あの船は何なのだ!?小倅!お前達はあの船で大隅を攻める気だろうが!」


 「お主は何を言っている?あれはこの方の船だ!島津の客の船だ!それを貴様等が!!!!!」


 ズシャッ!!!


 それはいきなりの事だった。捕らえられていた一人の、まだ話し終えていない人の一人の首を、義弘さんが斬った。とても岐阜では考えられない事だ。岐阜なら信長さんの判断待ちだが、ここ薩摩では違うみたいだ。


 「ふん。殺せ!肝付様には既にあの船の事を伝──」


 ズシャッ!!!


 まるで一連の流れの如く、義弘さん自身が首を斬っている。オレも慶次さんも小川さんも小泉さんも皆、黙って見てるしかできない。


 そして程なく、肝付家の人達の首を斬り終えた瞬間、義弘さんが短刀に持ち替えオレ達が声を掛ける間も無く、自分の腹に短刀を刺した。


 「おいの覚悟!島津の覚悟を御照覧あれ!」


 「いや、何してんだよ!?慶次さん!鞠ちゃん!こっち!」


 「うぐッ・・・と、止めるな!おいなりの謝罪だ・・・」


 「何言ってんですか!?そんなもん要らないから!悪いけど少し眠ってもらいますよ!鞠ちゃん!」


 「御意」


 鞠ちゃんが麻酔をして眠らせ、大人しくなったところでお腹の短刀を抜き、すぐさま例のゴッド軟膏を塗った。


 「島津義弘、天晴れである」


 「慶次さん!褒めてる場合じゃないでしょ!?」


 「だが本来ならばこれくらいが妥当である。剣城は優し過ぎるのだ。まあそれでこそ俺の殿でもあるがな!がははは!この男、嫌いじゃないぜ?肝付だったか?個人的に因縁は無いが、是非潰してやらねばなるまい」


 「うむ。慶次坊の言う通りだ。我が君の船を攻撃しておいて、ドンペリは無傷であるが許されん事だな」


 「剣城様?この小泉に開戦の砲を」


 いや、確かにこれはオレ達に対する挑戦状か!?とも思う。臭い言葉で言うならば・・・誰の船か分かっての狼藉か!?と肝付に問いたくなる。というか既に皆、戦う気マンマンなんだが!?


 「手が!!手が生えてきておる!!」


 「ワシもだ!ワシは千切れた指が・・・」


 「落ち着いて聞いて!私は芝田家衛生班 班長の鈴!その気になれば私の殿の剣城様は、死者をも蘇らせる事ができる!」


 いや、さすがにそれは無理。農業神様も死者は蘇らせないと言ってたよ!?何でこうも話を大袈裟に言うんだよ!?


 「菩薩だ・・・」「菩薩様!!」


 「ちょ!ま、待って!治ったなら義弘さんを城に──」


 「これはどういうことだ!?」


 「「「大殿!」」」


 「貴久様・・・申し訳ありません。義弘様が切腹をしてしまいました。ですがそんなもの私は望んでいませんので、止めさせていただきました。今は治療をして眠ってもらっています」


 「少し・・・詳しく聞こう。念を見ておいどんの兵500を警護に付けよう。船は問題ないのか?」


 「確認していませんが恐らく大丈夫かと」


 うん。だって二人の神様が造った船だろ?人間の手で傷が付けられるとは思えない。なんなら核爆弾にすら耐えそうな気がする。


 「剣城?俺も船に居よう」


 「確かに一度失敗しておるから信用ならぬな」


 「い、いえ!そんな意味では・・・慶次さん?構わないから城に戻るよ!」


 「そうか?剣城がいいなら分かった」


 刺々しい言い方だな。然も慶次さん自身は『島津は信用できん』って風に聞こえるな。


 城に戻ったオレ達は、まず謝罪のオンパレードを聞いた。


 「かえすがえす誠に申し訳ない」


 「いや、本当にもういいですから!味方の人達も治療したし、死者は肝付の間者だけだった訳だし」


 「いや、それもそうなのだが何でも腕の千切れた者も、腕が生える神薬を使っていただいたと?『一体、如何程の対価を渡せば良いか』と兵の者も言っている」


 まあ確かに神薬ってのは本当だが。けど別にあれくらい構わないんだけどな。


 「直答をしても?」


 「慶次さん!?」


 「うむ。前田殿だったな?」


 「俺は前田慶次。まあ名はどうだって良い。芝田家第一の家臣だ」


 「慶次坊!間違えるな!ワシが第一の家臣だ!お前は第二の家臣!そこを間違えるな!」


 でたよ・・・また訳の分からん張り合い・・・。


 「貴久様?気にしないで下さい。いつもの事です」


 スパコンッ スパコンッ


 オレはいつもの便所スリッパで頭を叩く。


 「まあ話を続けさせてもらう。このまま肝付には仕返しはしないつもりか?」


 「ほう?面白い問い方だな?腰抜けと言いたいのか?」


 「そっちにその気が無いならば、我らだけで肝付を屠るつもりだが?」


 いやいや、何勝手に話決めてんの!?しかも屠るって!?


 「薩摩兵児を舐めるでない!客人に対して数々の不手際、それに客人だけに仕返しをさせる訳がないであろう!皆の者!戦の用意を致せ!3日後に出陣じゃ!!」


 はぁ〜。マジで戦になりやがったな。この時代の九州の戦とか全然知らないぞ!?史実に無い戦か・・・・。

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