飲んで歌って裸踊りな忘年会

 「さぁ!皆さん!よくぞ遠路はるばるお越し下さいました!手前が、甲賀隊を率いる芝田剣城と申します!」


 「(クスッ)いいんじゃないでしょうか?」


 「ゆきさん!?笑うところ!?おかしかった!?」


 「いえいえ!全然良いと思いますよ!」


 今は、金右衛門さん達、台所衆の人達が慌ただしくお膳の用意をしている。オレは挨拶の練習だ。


 オレ的にはもっとこう・・・緩い感じの忘年会がしたかったのだが・・・。


 「いや、我が君は何を言っておられるので?我が君は甲賀隊の首領であり、殿であり、頭でもあり、だいとうりょうでもあるのですぞ!?」


 と、小川さんの一声で、仰々しくなってしまった訳だ。ピザとか外の竈で焼いたり、吉蔵さんがわざわざ届けてくれたアジの味醂干しとかで、軽く飲みながらしたかったくらいなのに。


 「剣城様!甲賀の者はいつでも参れます!」


 「いやいや望月さん!早過ぎじゃないですか!?オレ、まだ挨拶の――」


 「いいのです!いいのです!剣城様がどんな事を言ったって、御仏かの如く感じますから!お呼び致しますね!」


 ここ最近だが、良識ある望月さんだと思っていたが、徐々に小川さんのようになっている気がする・・・。


 そして、望月さんの掛け声で人が集まる。まず1番大きい部屋に皆を集めた。というか、そこ以外入る所が無い。あっ、ちなみに忘年会のお土産や何かは、農業神様から既にボックスに入っている。


 今回はまとも?だと思う。まぁ、土産でお願いしたのだから、とんでもない物は無いと思いたい。この事を恐らく神界から見ているからだろう。土産は皆、同じ物だ。


 なんでも・・・。


 「ミズガルズのアースガルドの地方に、おいの眷族が居るんだなぁ。同胞の果樹神と共同で、作物を育てているんだなぁ」


 「え!?果樹神様って神様も居るんですか!?」


 「万物全てに神は居るんだなぁ。前に渡した知恵の果物も、果樹神と育てた物なんだなぁ」


 「そうだったのですね。お礼くらい言わないといけないので、今度――」


 「あら?貴方が農業神が近頃、心酔しているヒューマンなのね!?良い男じゃない!うんまっ❤︎うんまっ❤︎」


 「うっ・・・・」


 「果樹神。我が兄弟に屈服のキスは使うもんじゃないんだなぁ」

 

 果樹神様・・・。想像では綺麗な女性を想像していたが、オネエだ。間違いなくオネエだ。これまた強烈な神様だ。しかもあの投げキッス・・・屈服のキスというのか!?その禍々しいキスは何ぞ!?確かに心臓を捻り潰されるような気がしたが・・・。


 「悪いわねぇ〜。ヒューマン!確かヒューマン同士の土産が欲しいのよね?私が見繕ってあげよっか?うん!そうしよう!ねっ?うふんッ❤︎」


 「はぐっ・・・・」


 「果樹神。屈服の抱擁も辞めるんだなぁ」


 いやいや今のハグは何だよ!?心が折れそうになったんだが!?屈服の抱擁・・・やばい・・・。


 「ふふふ。冗談じゃない❤︎それにしても本当に良い男ね。農業神に飽きたら私の所に来なさい!新しい扉を開いてあげるわよ?うふふ❤︎」


 いや、マジで勘弁してほしい。


 「冗談はこの辺でいいんだなぁ」


 「農業神は相も変わらずね。分かったわよ!それで・・・これなんかどう?確か時間軸は・・・そうそう!地球だったわよね!地球にもある果物よ?セイヨウナシと言えば分かるかしら?」


 「あっ!これは!?ラフランス!?」


 「あぁ〜、貴方の居た時間軸ではそうとも読んでいるわね。その通りよ!甘くて瑞々しくて美味しいわよね〜!こうかって場所のヒューマンが集まるんでしょう?実と苗木を用意しておくから育てさせると、それなりに儲けられるのじゃないかしら?まだ、天照ちゃんの国には入ってきてない果物だよ」


 ここでまたアマテラス神様か!?この神様も会ってみたい・・・。いや、それよりオネエ神様だと思っていたが、今までで農業神様の次に合理的な神様じゃないか!しかも意外にオレの周りの事も詳しいぞ!?


 「ありがとうございます!それでお願い致します!」


 「ふふふ。果物だけなら珍しいだけで終わってしまうからね。もう一つサービスよ!ザクロなんていかがかしら?これは味はセイヨウナシよりは落ちるけど、私みたいな女子力の高い女の子には必要な果物なのよ?」


 いや、オネエ神様は女の子なのかよ!?しかも女子力とな!?


 「怪しいフラッシュ!!」


 ピカ───────────ンッ


 「うっ・・・うわぁぁぁぁぁぁ〜」


 「今、貴方、失礼な事を考えたわね?謝りなさい!今すぐ頭(こうべ)を私の股間に――」


 「止めるんだなぁ〜。我が兄弟は女が好きなんだなぁ」


 「あらやだ!私ったら・・・。興奮すると我を忘れてしまうの。許してね?ヒューマン❤︎」


 いやいや、怖い神様だな!?芸術神様の後光フラッシュも大概だけど、この神様の怪しいフラッシュも大概だぞ!?なんか喰らった瞬間に屈辱的な気分になったんだが!?



 と、まぁ、こんなやり取りがあり、土産はラフランスと苗木、ザクロの実とこれまた苗木。オネエ神様・・・もとい果樹神様曰く・・・。


 「まずは地方の皆に浸透するように、タダ同然で配るように。そして違う場所に輸出をし、各地で食べられるようになってから、お金で売りなさい。いいわね?その後は生産者を厳選し、ブランド化して、そこそこの値段で売りなさい。そのお金でこうかの子供達を育て、貴方はその後見になりなさい!いいわね?」


 と、見た目と正反対なめっちゃ神様らしい神様な事を言われたのだ。マジで合理的だ。



 「剣城様!甲賀の者は揃いました!一部、入りきらない者は剛力が突貫で増設した、外のプレハブに集合させております!」


 「あ、うん!今行くよ!ゆきさん。行こうか」


 「はい!」


 オレはゆきさんと手を繋いで大広間へ行く。オレとゆきさん。その後ろに望月さん、自称筆頭家老の小川さん。


 「皆の者ッ!!剣城様が参られた!静粛に!」


 金剛君の掛け声が聞こえた。全く以てこんな登場は嫌だ。だが、今日は仕方がない。


 「よくぞお越し下さいました!話には聞いているかとは存じますが、私が芝田剣城です!甲賀の皆様にはお世話になってばかりですので、今日はその労いには足りないやもしれませんが、飲んで食べて好き勝手やって下さい!面倒な事は全て、そこに居る台所衆に言い付けて下さい!」


 「貴方様があの・・・」「お目に掛かり・・・もう思い残す事なんか・・・」


 いやいや・・・二人程おかしな人が居るんだが!?


 「そんな顔されるような男ではないですよ!まずはその湯呑み・・・南蛮の言葉でグラスともいう物ですが、まずはそれを右手に・・・今年も一年お疲れ様でした!乾杯ッッ!!」


 「「「「乾杯!!」」」」


 剛力君や望月さん達、岐阜に居る人達は慣れたものだ。だが、やはり乾杯に慣れていない人も居る訳で・・・。なんなら、ビールを飲むのも初めてな人も居る。お酒が苦手な人も居る。が、それは事前に聞いているので、各々好きな飲み物を用意している。


 用意してもらったメニューは魚がメインだ。肉でも良かったが、歳を重ねた人達は肉が苦手な人も居る、と聞いたからだ。それでも全く無い訳でもない。オレの好物でもあり、金右衛門さんの得意料理でもある、第一陣輸入で入ってきた、薩摩猪の角煮は用意してもらっている。


 「うめーッ!!」「これは何て魚なの!?」


 「甘い!?この黒い汁が甘いぞ!!?」


 「皆の者!落ち着け!今、皆が食した物はメバルの煮付けだ!砂糖が使われておる!料理は逃げたりせぬ!落ち着いて食べなさい!」


 流石、甲賀衆の頭領の望月さんだ。


 それから暫くは静かな食事となったが、やはり珍しい食べ物、初めての物が多いからか。ガヤガヤし出して、望月さんが諌めるを繰り返す事、1時間・・・。


 「ふぅ〜。もうお腹いっぱいだ。ゆきさん。ちゃんと食べてる?」


 「はい!いただいております!剣城様。グラスが空いてる者も居ります。皆にお酌をすれば喜ばれますよ?」


 「そうだね。ありがとう。皆に注いで来るよ」


 ゆきさんからのフォローもあり、概ね和やかな忘年会になったと思う。


 「ゴホンッ・・・」


 「・・・・・・」


 「ゴホンッ!」


 「おっ、すいません!アッシはこの苔の気持ちを考えておりました!」


 一応、猿飛佐助さんにも挨拶をと思ったが、この人はゲルテントの端っこも端・・・その横にある庭の飾り石の陰にある苔の方を向いて、ブツブツ言っていた。うん。この人はマジで変わり者だ。そもそも苔の気持ちって何ぞ!?


 「楽しんでいますか?」


 「勿論でございます!見た事のない飯ばかりでして、アッシは感動しております!」


 「そうですか。良かったです。今後もし・・・仕事があればお願いしてもよろしいですか?特に・・・信濃や甲斐の方面に強いと見えますが?」


 「・・・・・・・」


 オレがそう言うと、猿飛佐助さんは真面目な顔になり、オレの顔を無言で見据えた。


 「おかしな事、言いましたか?」


 「いえ。アッシなんぞに頼まなくても、優秀な配下がこんなにも居るでしょう。その気になれば上杉家、武田家、徳川家、北条家、浅井家、朝倉家。どこへでも間者を送れるでしょう?」


 「オレは使い捨てのような事は嫌いなのです。わざわざ忍ばせなくとも、敵になるなら潰せばいいのですよ」


 「随分と戦に自信がお有りのようで。では・・・私の思う事を言いましょうか」


 「うん?何ですか?報酬の事とかですか?」


 「いえいえ。先の上洛にて、上杉家と誼が出来たでしょう?武田家は面白くないと思われます。近々、甲斐から何か文なんかが届くやもしれませんね」


 マジか。確か史実でも、織田と武田はこの時代は仲は悪くなかった筈。奇妙君と松姫の件がここで出てくるのか!?事象が早まったのか!?だが、この人がここまで知ってるって、かなり入り込まないと分からない事なんじゃないの!?猿飛佐助・・・是非、配下に欲しい・・・。


 「あぁ〜・・・この苔のように何もせず生きていければ、なんと素晴らしきことか・・・」


 撤回。この人とは程良く付き合うくらいで良いかも・・・。


 「ゴホンッ。情報、ありがとうございます。この件は上に通し、実際に文が届けば精査するようにしましょう。その時はまた、貴方に報酬を出しましょう」


 「なんのなんの・・・。それと・・・貴方のその優しさは、武器でもあり弱点でもあります。今ここでアッシが、貴方を憎む人から暗殺を頼まれていたらどうしますか?」


 「そんなつまらない事は考えたくないな。それにオレは優秀な配下が多数居ますからね。既に貴方もその頭数に入れておこう、と思ってるくらいですよ。だからそんな心配はしないかな」


 「失礼しやした。そんな任務は受けていませんよ。なんとなく、望月が正式に配下になった気持ちが分かった気がしやした。何かアッシに出来る事があれば言って下せぇ〜。銭勘定、損得抜きで粉骨砕身、貴方の目となりましょう」


 変わった人だけど、嫌いではないな。試すような事言われたけど、脅威にも感じなかったな。


 「貴方〜!まさか剣城様に変な事言ったんじゃないの!?」


 チッ。猿飛佐助・・・この人も明らかに10代と見える嫁さん持ちか。羨ま・・けしからん!!


 

 どことなく皆はハメを外していない気がする。所謂・・・お堅い忘年会のようだ。だが、オレはこの雰囲気も想定済み。


 「ふふふ・・・ははは・・・ハァーッハッハッハ!!」


 「え!?剣城様!?どうされたので!?」


 「おっと・・・心の声が久し振りに出ていたようだ。剛力君!飲んでいるか!?食べているか!?これだけで満足か!?」


 「え、えぇ・・・大変満足しておりますが・・・」


 「いや・・・満足してないよな?大膳君!満足してないよな?本日は例のオレの師匠でもあり、神様でもある然るお方から購入した、太陽光で充電して使用できる、ミュージックプレイヤーを購入したのだ!10万円もしたんだぞ!?もっと歌って踊って騒ごうじゃないか!!」


 『剛力・・・剣城様は酔っていらっしゃるのか?』


 『いや・・・そんな事はないとは思うが・・・。ゆきの顔が困惑してる訳ではないから、元々考えていたのだろう。ここは剣城様にお任せ致す』


 「よしっ!ポチっとな!」


 オレは農業神様から購入した、神界の音楽が記録されてあるプレイヤーを出し、再生する。やはりカラオケではないが、そういう音楽が無いと盛り上がらないだろう。しかもその音楽の名も・・・。


 『バイブス アゲアゲ レボリューション』


 と、いう名前の音楽だ!


 ドゥンッ ドゥンッ ドゥンッ ドゥンッ ドゥンッ


 「ぬぉっ!?」 「こ、これは!?」 「何ですの!?この音は!?」


 低音から始まる音・・・初めて聞く音だが、どことなくテンションが上がってくる・・・流石、神界の音楽だ!


 「さぁ!皆!飲んで騒ごう!!」


 初めての忘年会且つ、労ってあげたいと思い考えた事だったが、1番にオレが楽しみたい。そう思い用意したものだったが・・・。


 「頭領!?」


 「案ずるな!!ワシの裸踊りを見よやッ!!フンッ ハッ!!」


 「「「「ワーッハッハッハ!!」」」」


 「ぬぉ!?ワシも負けてはおれん!我が君!御照覧あれ!甲賀500年の伝統の踊りを見て下され!フンッ!ハッ!」


 あ、うん。望月さんから始まり、小川さんまで変な踊りをし出した。まっ、オレが望んだ事だ。


 「よっしゃ!!皆!踊るぞー!!」


 こうして芝田家、初の忘年会は最後はどんちゃん騒ぎとなった。

 

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