島津家と暫しの別れ

 12月30日・・・主要な人物だけ集め、ブリーフィングルームという名の部屋に集合している。格好つけて、こんな名前の部屋にオレが独断でした訳だが、要は居間だ。


 今年は甲賀に帰る人も多少は居るが、殆どはこちらに来てもらう手筈となっている。足の悪い親族も居るだろうからな。そんな人もなんなら岐阜に来て、こちらで余生を過ごしてくれてもいいんだけど、いくら田舎、山の中といっても、住み慣れた所を引っ越したくないって人も居るのが現実だ。


 だからそんな人の為に、大膳君にかなり多めに食べ物類の輸送を、お願いしてる訳だ。滝川さんからの海の幸もかなり届いているだろう。去年の景品の土管のお陰で、大漁も大漁と聞いている。那古屋と競うレベルらしいからな。


 そんな事はさておき・・・オレが主要な人物を集めた理由。それは農業神様からの匂わせだ。慶次さん、望月さん、小川さん、野田さん、大野さん、金剛君、隼人君、剛力君、鈴ちゃん、琴ちゃん、奏ちゃんだ。


 the芝田家の中枢の人達だ。


 「おいおい剣城。俺ぁ〜コレと愛を深めていたところだぞ?」


 「慶次坊!我が君がお呼びになったのだ!少しは黙れ!」


 「はいはい。慶次さんには悪かったね。なら回りくどい事は言わずに結論を。もしかすれば三好が攻めてくるかもしれない。あ!京の将軍にね」


 「何だと!?その情報は!?」


 「然るお方からと。いやまぁ・・・確定ではないんだけど、もしかすれば正月でも出陣になるかもしれないから、一言だけ伝えておこうかと思ってね」


 「と言いますと・・・もし何かが起これば我等が一番乗りという事ですか?」


 「う〜ん。望月さんの言う通りかな。佐久間様、柴田様、木下様や丹羽様も今のところ、兵の人達に何かしてる感じはしないから、多分オレ達が最初に動くかもしれないね。正月だから仕方ないけどね」


 「剣城的にはどのくらいだと思う?」


 「そうですね・・・8割くらいは確定かな」


 そりゃ、世界線を知ってる農業神様が言ってたんだから多分、何かは必ず起こるだろう。史実でも本圀寺で何かあったような気がする。その出来事で、明智が正式に織田に仕官してくるのだよな。まぁ、その話は今はいいか。


 「ほぼ確定ではないか」


 「う〜ん。けど、オレ達だけ戦の用意していたら『何事か!?』や、実際何かが起こってオレ達が準備していたら『仕組んだのか!?』とか言われるから、密かに準備しておくくらいでいいよ」


 「はぁー。三好か。謹賀くらい大人しくしていてほしいもんだ。分かったよ。甲賀衆の者には俺から伝えておく。内密にな」


 「慶次さんには申し訳ないけどよろしく。小川さんや望月さんは親族衆の件を頼みます。明日はオレもそれなりに楽しみにしていますので!温泉に飯に酒に・・・お父さんやお母さんは喜んでくれると思う」


 「はっ!既に半分はこちらに来ています!皆が一度挨拶をと申しておりましたが、折角の休日ですので断っております」


 「挨拶なんかされる程の者なんかじゃないからいいよ!ってか、何人くらいかな?オレの家も大概大きいけど入れる?」


 「はっ!300名近くは居るかと。入りきらなければ、庭にゲルテントを設営すれば入る筈です!」


 望月さんがニコニコしながら言ったけど・・・300人!?300人だと!?そんなに家族居るのか!?直系だけで!?確かに甲賀の40家くらいオレの配下になってくれたけれども・・・多いな。


 「親族衆ってそんな多いの?いや、ダメな訳ではないですよ!?オレは150人くらいかなと思っていたから・・・」


 「はっ。実は元々我等は甲賀郡にて惣を成していました。が、それでも甲賀郡全てが私に従っていた訳ではなく、奥地は奥地で生活をしてた家々があるのですが・・・」


 「その奥地の甲賀の人達が降って来たって事?」


 「端折って言えばそんな感じです。元々協力関係にありましたから、私が剣城様へ仕官させていただいた折に誘いはしたのですが、その時は返事が貰えず。私が抜けた甲賀郡を、今はその者に任せている次第でございます」


 「そうか。何て人?」


 「いえいえ!剣城様へではなく、一応私の与力という形なので、給金も我等の分から賄っています故、剣城様はご心配無く」


 「いやいや、そんな訳にはいかないよ。この人くらいはオレも会わないとね」


 「そうですか。ではお呼びしても?」


 「あぁ、もう居るんだ?いいよ」


 「佐助!居るんだろう?」


 佐助・・・忍者で佐助・・・まさか!?


 「猿飛佐助・・・さんとか?」


 「え!?何でアッシを知ってるので!?」


 「マジか!本当に居たんだ!?出身は甲賀地方で信濃の方面でよく仕事してる人、って感じがしたんだけど!?」


 「剣城様はご存知でしたか?」


 「えぇ!かなり有名ですよ!」


 「アッシが有名でございますか・・・アッシは日陰で暮らしたい。できれば誰も人の居ない暗くてジメジメした場所で、ヒッソリと生きていたいのに・・・有名なのですか!?日々の糧の為に、地元の者にバレないよう、わざわざ信濃の方面で仕事をしていたのに、バレていたと・・・」


 あ、うん。喋って分かった。この人、変な人だ。だから望月さんは会わせたくなかったのか・・・。


 「つ、剣城様・・・」


 「望月さん・・・ごめん。言いたい事は分かった。猿飛さんでいいですね?」


 「はっ、はい!」


 「これからは連絡は望月さんに任せるから、彼の言う事は聞いてほしい。一応、甲賀村は任せてもらってるんでしょ?日陰が良いかジメジメした所がいいかは分からないけど、銭が足りなくなれば言ってほしい」


 「剣城様。この者は少し変わってますが、面倒見の良い奴ですので、今後もよろしくお願い致します」


 「いいよいいよ。望月さんに任せるから。まっ、さっき言った事も各々よろしくね!解散!」




 「それで望月様の下に、猿飛何某という方を与力にしたのですか?」


 モミモミ


 「そうだよ。少し変わり者みたいな感じがしたから、オレはパスしたんだ」


 「ミヤビ〜。あまり剣城様の太ももはマッサージしなくていいわよ。そこは私がするから」


 「はっ。ゆき姐様にお任せ致します!」


 ミヤビちゃんにマッサージされながらオレは思案する。猿飛佐助・・・真田十勇士の筆頭だったかな。信濃の矢沢なんとかさん・・・真田・・・。真田を味方にいれたいな。ただ・・・場所が遠いよな。武田とは全く繋がりが無いからな。甲斐の背後に織田に属する者が居れば潰されるよな。そもそも信濃の上には上杉が居る訳だし。なんなら、上杉、武田が同盟して真田を潰す可能性もある訳だしな。


 まぁ、とりあえずは望月さんに任せようか。それにしても・・・。


 「ミヤビちゃんのマッサージは本当に気持ちが良いね」


 「(クスッ)ありがとうございます!」


 ミヤビちゃん・・・ゆきさんも慕って、かなり良い子だ。顔も可愛らしい子で何より優しい。いつもオレを気遣ってくれる。



 そしてこの日の夜・・・というか、夕方だ。沢山の織田家 足軽の人達が信長さんの音頭にて、荷物をこれでもか!?というくらいに運ぶ。そう、島津家の帰陣だ。信長さん自ら那古屋まで足を運んでいる。


 「島津殿!次は島津殿の九州の吉報の宴席で会いましょうぞ」


 「なんの。なんの。織田殿に自慢できるように、粉骨砕身、戦に精を出さねばなりませんな!ははは!」


 義弘さんパパと信長さんは、意外に気が合うんだな。


 「剣城君!こんなにも土産をすまぬ!時折り、薩摩土産を贈るからな!面白い南蛮物があればすぐに贈るからな!」


 「ははは。義弘さんは戦で突出し過ぎないように!次に会うのが葬式とか嫌ですよ!」


 「うむ!」


 いやいや『うむ!』だけかよ!?マジで心配しているんだぞ!?歴史の修正力が効かなくなっているのが、オレでも分かるくらいだぞ!?さぞや、あの球体様が苦労してるのが目に見えて分かるってのに・・・。


 「九鬼!必ず安全に薩摩まで送ってあげろ!」


 「はっ!皆の者!出航だ!」


 オレからの土産の中に、まだ織田家でも本当に上役の人にしか渡していない片手銃を、義弘さんに渡してある。向こうに黒川さんが今は居る筈だから、使い方を聞くように言っているし多分、大丈夫だろう。


 なにはともあれ・・・オレは明日の忘年会の用意をしないといけないな。

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