1564年の抱負
年が明けた。1564年の始まりである。去年の如く、例の山へとオレも1日に早々に連れて行かれ、信長さんの敦盛を見させられる。
「人間50年〜〜〜〜〜」
濃尾平野を見渡し、朝日をバックに踊る信長さんは、やはり神々しい姿である。この人が有っての織田家であり、織田家とは信長さんの事だ。と思う。まぁ当たり前だが。
そんな中、初めての顔の人も居る。松永久秀・・・未来ではボンバーマンやら生きる黒歴史やら、と言われている人だ。
「ふふ。誠、見事な幸若舞でいらっしゃいますな」
「ふん。抜かせ。松永。貴様は大和一国で満足なのか?」
「身の丈に合わぬ、過分な配慮で満足しておりまする」
どう見ても礼儀正しく、怪しいところは見当たらないけど、これがその人の凄いところなのだろう。オレは歴史を知っているからか、どうしてもこの人を疑ってしまう。
「今年は派手な戦はせぬ!方針とすればまずは尾張、美濃を中心に東は、たぬきの三河から西は堺まで確実に掌握し、一大経済圏を作る!可成!」
「はっ!」
「お主は、たまりを改良し、剣城が技で出した醤油と同じ物を完成させよ!」
「はっ!お任せ下さい!」
「サルッ!!お前は新しき事をする時、必ず配下の者を忍ばせて居るな。小賢しい真似は止めろ。暫く剣城の下に着け。その後、経済網が発達した後はお主に物流は任せる!」
「は!?え!?あ、アッシがですか!?」
「聞こえぬのか?返事は!?」
「は、はいっ!!身に余る光栄の極みです!アッシにお任せ下さい!」
おいおい。ここへ来て大出世が確約されたようなもんじゃん。今はオレが物流の事を握っている訳だが・・・お役御免って事か!?木下さんはニヤニヤ顔を通り越して、過呼吸気味になっているんだが!?
「勝家!お主は飛鳥井卿の元で公家の事を学んだのだろう。未だ北ノ京と呼ばれている越前には、かつての公家や公卿が残っておる。それを下野させろ!尾張や美濃に連れて来い!」
「はっ!畏まって候」
「長秀!お主は各地で検分しておけ。その内、お主にしか出来ぬ仕事を言い付ける!」
「畏まりました」
あぁ、うん。普通なら今の言葉は、織田家の出世争いから脱落したような言葉だが・・・この言葉の意味は分かる。数々の歴史の事象が早まったり、無くなったり、新しい事象も起きたりとなっている訳だが・・・。
この短文の命令というか丹羽さんへの方針・・・安土城の為の布石だろう。確か総奉行だったのが丹羽さんだったよな。多分、裏で話もある程度進んでいるのだろう。嫌な顔一つせずに引き受けている。間違いなく丹羽さんが大出世だろう。
その事を分かっていない人は・・・佐久間さんか。木下さんは自分の事で未だ夢見心地のようだ。
「ワシは戦はせぬ。と申したが、他家からどこぞ攻められるとそうもいかぬ。佐久間!お主はいつどこへでも戦に行ける様備えておけ!」
「ふっ。皆の者、済まぬな。お館様から武の信頼が厚いのはワシのようだな!お館様!お任せ下さい!この佐久間、申しつけられましたらいつどこへでも、参陣致しまする!」
「ふん。頼もしい事だ。恒興!」
「はっ!」
「お主には申し訳ないが、暫くお濃に着いてもらいたい。ワシと乳兄弟のお主にしか頼めぬのだ。分かってはくれぬか」
あっ・・・左遷・・・ではないけど、濃姫さんの護衛みたいなものか・・・。あぁ〜あ・・・佐久間さんなんかは池田さんに、生類憐れみのような顔してるよ・・・。
「・・・畏まりました。それはいつまででしょうか」
「暫く・・・だ。ツネには誠に済まぬが、お主にしか頼めぬのだ。やや子も直に産まれる。仮に男ならば、奇妙と軋轢が生まれてしまうであろう。そのような事が無いように、ワシが1番信頼しているお主に頼んでいるのだ。戦があれば必ずお主を呼ぶ。頼まれてくれぬか」
「分かりました。身に余る光栄です」
形式上はこうやって言っているが、内心は辛いだろうな。これは流石に本物の出世争い脱落の1人目だな。後で何か贈ってあげようか。観音寺の時は助けてもらった訳だしな。
オレの仕事は今年は然程でもないのかな?物流の事は木下さんに引き継ぎする訳だし、武器や防具の開発の方は国友一派、加藤一派が居るし、建築関係に関しては剛力君筆頭の甲賀衆と、岡部一門衆も居る。船やまだ見ぬ物や何かは、芳兵衛君達が居る訳だしな。
「剣城ッ!おい!聞いておるのか!剣城ッッ!!!」
ゴツンッ
「え!?あ、痛ッ!す、すいません!」
「何を惚けておるのだ!ワシが貴様を遊ばせておく訳ないであろうが!貴様はサルにさっさと仕事を引き継ぎ、新しい兵の練度を高めておけ!」
「新しき兵ですか!?」
「チッ。せっかく気分が昂っておるというのに、何という体たらくだ・・・まったく・・・。貴様が申しておっただろうが!トランシーバーを使い、即座に展開できる機動部隊の事だ!日の本ではまだそんな部隊居ない、と言っていたではないか!自分の言った事くらい責任を持て!」
ゴツンッ!
「痛た・・・・」
確かにそんな事を言った気がする・・・。そうだ。あれは上洛していた時の事・・・。坂井さんの指揮が上手で、あの美濃三人衆の人達を手懐けて、連戦連勝していた時の事だ。
「金剛君〜。これが信長様の手紙ね。間違えないようにね〜」
「はっ。報告だけの文にしては少々長いように見えますが?」
「そうかもね。少し思い付いた事を軽く書いてみたんだよ。坂井様のように文武両道のような指揮官が数名居るなら、トランシーバーを持たせた即応部隊とか今後、創設できれば織田軍は更に強くなるんじゃないかな、と思ってね」
「成る程。流石、剣城様でございます。これは必ず大殿に」
「なにやら某の名前が聞こえましたが・・・」
「ははは。信長様に確と坂井様の活躍を書いただけですよ。坂井様のような将が、あと数名も居ればもっと面白い部隊を運用できる。って事ですよ」
「は!?いやいや、某は何もしていません!あの三人衆の働きが凄かっただけでして――」
「またまた御謙遜を。坂井様はもう少し誇っていいと思いますよ!」
あの走り書きがこのようなマジになるとは・・・。
「坂井も貴様に付けてやる。坂井は若いが中々に美濃三人衆の扱い方が上手い。貴様が色々手解きをしてやれ。それと竹中とも連携を取れ。彼奴を遊ばせておくのも勿体無い。それともう一つ」
「はい。何でしょうか?」
「貴様の台所事情だ。ゆきに全て任せているそうではないか。嫁でも女子でも使える者を使うのは良い事だ。だが、貴様には敢えて降って来た文官の者も多数居るが、全く聞こえぬぞ?」
「先日の布施様や、林様も確かオレの下でしたよね・・・」
「分かっておるなら何故重用してやらぬのだ?ん?何か理由があるのか?貴様は自ら見つけた者しか使っておらんみたいだから、言ってやっているのだ。今後はもっと、貴様の下に着きたいという者も増えてくるだろう。適材適所。この事を覚えて人員の配置を考えておけ。今や可成、長秀、勝家だけではないのだ。貴様も織田家の一員だ。遠慮はするな」
「はっ。畏まりました」
何ていうのかな・・・かなり期待されてるのは分かったけど・・・。チッ。佐久間さんからの妬みの目が痛い。
人員の再配置か・・・。確かに金剛君に任せっきりで、書類でしか見てない人もかなり居るな。正月明けの最初の仕事は、ちゃんと振り分けから始めようか。
「ふぉっふぉっふぉっ。信長殿は剣城殿を目に掛けているようですな」
「ふん。抜かせ。ワシは使える者、物は何でも使うだけだ。今は此奴が頭一つ抜き出ている。だから使うだけだ」
「ほぅほぅ・・・ここに集まっている者の中で1人だけ、いつでも動けるように整えている軍がありますが、それは何故ですので?」
クッソ!松永が!何で秘密裏に準備させている、オレの甲賀隊の事を知ってるんだよ!?これだからこの人は信用できないんだよ!
「ほぅ?それは誰だ?」
「えぇ!?まさか信長殿もお知りではないと!?」
「(チッ)白々しい物言いは辞めろ」
「ふむ。すいません。ちと、失礼ながらワシなりに剣城殿が気になり、調べただけでしてね」
クソが!松永は嫌いだ!!
「剣城!どういう事だ?」
「はっ。松永様が美濃に来訪し、大和が手薄となっている今、もし私が三好なら絶好の時かと思いまして、いつ何が起こっても動けるようにしているだけ、でございます。これは織田家の兵ではなく、私兵の甲賀隊だけですので問題ないかと・・・」
「ほぅ?貴様も一端の事を言うようになったようだな。良きに計らえ」
「え!?」
「松永よ。ワシは親族衆や譜代の者より剣城を信用しておるのだ。大方、松永は此奴が謀反とか考えていると言いたいだろうが、此奴に関しては何もしなくて良い。いつ如何なる時も、ワシは此奴に出し抜かれる事はない」
いやいや、信長さん!?嬉しい言葉だけど少し切ない気もするんだが!?確かに今、オレが金剛君達に号令を掛けると織田家の中枢の皆を屠り、オレが織田家を乗っとる事も出来るだろうけど、そんな事は絶対にオレはしない。
けど、それでも『此奴に出し抜かれる事はない』って言い切られるとそれはそれで・・・ね・・・。
「左様でしたか。無用な心配でしたな。いや、失礼致しました」
「剣城。何か情報があるのか?」
「いえ・・・将軍の元に居る配下の者からも、何も言われてはいませんので・・・」
「ふん。そうか。ならば良い」
うん?あのニヤっとした顔・・・まさか!?信長さん、わざと大和を手薄にしたのか!?三好を攻めさせる為!?確かに・・・、
『三好は駆逐する』
と、言っていたけど、殆どが逃げてばかりで将は殆ど減らせてない訳だが・・・。
ポンポン
オレが考えていると、木下さんが肩を叩いてきた。これで分かった。上洛して間もないのにすぐに岐阜に戻った謎。しかも松永を連れて帰った謎。史実でも起こった本圀寺の変・・・。
間違いなく何かは起こる。
「今年もびんごげえむとやらは期待しているぞ!ははは!」
信長さんは満足気にそう言うと、颯爽と山を降りていった。
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