男前な河尻秀隆

 次の日、早速オレは出来上がったお金を信長さんに見せに登城した。


 「入れ」


 「失礼します」


 「銭が出来上がったそうじゃな。見せてみろ」


 「こちらです」


 信長さんは無言で一箱ずつ蓋を開けて、中身を確認して頷いている。


 「うむ。思ったより早い!これで良かろう!河尻!入って参れ!」


 「はっ!失礼致します」


 河尻・・・河尻秀隆か?


 「貴様と河尻は初めてであったろう?」

 

 「お初にお目にかかります。芝田剣城と申します」


 「これはこれはご丁寧に。俺は河尻秀隆と申す。最近、流行っている飯や酒、見た事ない食い物なんかは其方からと聞いているが?」


 「全部ではありませんが、珍しい物は私と配下達が育てております」


 「良き哉。俺は岩崎村の出身でな?村には今も立ち寄るのじゃが、村の者の顔が良くなっておる。礼を言う」


 この人は森さんと似て柔らかい優しそうな人だな。


 「クハハハハハ!河尻!もう良い!剣城?騙されるなよ?物腰は柔らかいと思っておるだろうが、河尻は戦場では比類無き働きの者ぞ」


 「お戯れを。剣城と呼んで構わないか?」


 「いいですよ」


 「では剣城?この度は新しい銭の両替及びその警備、使い番を俺が任命された。お館様は新しい直属の部隊を作ろうとしておる」


 「えぇ。その部隊が銭の事を引き受けてくれると?」


 「その・・・手柄を奪うようで悪いのだが・・・」


 むしろ、仕事が減ってオレは嬉しいのだが?後は、両替と国友さんが作るだけだから、オレは何もすること無いし。


 「いいですよ。私は他に海の事、食肉の事、貿易網の確立もしないといけませんし」


 「すまぬ。それともう一つ。その部隊は剣城の部隊を参考にした。黒い服で統一する黒母衣衆と、赤い服で統一する赤母衣衆を創設する予定だ」


 聞いた事あるぞ!馬廻りでも更に優秀な人達の集団だったような・・・。


 「何か二つの色の部隊で違いはあるのですか?」


 「河尻?ワシが言おう。この河尻は親父からの臣下だ。先も言ったがその功績比類無し」


 「勿体なきお言葉です」


 「その親父からの臣下は黒母衣衆にする。その特別な服を出せるか?そして、ワシに仕える者を赤母衣衆にする。前田利家が筆頭だ」


 なるほど。こんな違いがあったんだ。初めて知ったな。


 「何名くらいの服が必要でしょうか?」


 「河尻?ここからお主が自分で決め、自分で剣城に言え」


 「はっ」


 そう言うと信長さんは下がっていった。この河尻さんには信長さん自身も、かなり信頼している節があるな。


 「えっとですね・・・黒母衣衆の方が格が上ですよね?」


 「いやそうとも限らん。ただ仕えている年数が長いだけだ。大切なのは如何に忠実に事を成せるかだ」


 深い言葉だ。


 「失礼しました。黒母衣衆の方は私の技で・・・私の事聞いていますよね?」


 「少しな。不思議な技を使えると?」


 信長さんだいぶ端折って話してるな。面倒臭いからか!?


 「河尻様の黒母衣衆の服は私の技で出しましょう。黒に金の刺繍で織田木瓜紋とか如何ですか?ズボン仕上げにして裾は絞りを入れれば、邪魔にならないと思いますが?」


 「俺はそこまで分からんから任す」


 「ありがとうございます。それで赤母衣衆の方は実は今、画期的な服の素材を作っております。そろそろ試作が出来上がると思います。赤母衣衆はその服で構いませんか?」


 「何がなにやら分からぬが、それも任す」


 何だろう?俺の力量を見られてるような気がする。


 「では次に銭の方ですが・・・ここ岐阜にて一つ建物を建て、そこを両替する所にと思っております。今後、近江からも行商人が来ると予想しますので、岐阜の城下入り口にて、ここ岐阜でのルールを教えて買い物してもらい、他国に岐阜産の物を売ってもらおう、と思っております」


 「続けてくれ」


 いやいや、続けてくれって!もう核心的な話は終わったけど!?


 「その付加価値として余裕ができれば宿なんかも作り、もっと岐阜に人が集まるようになればいいな!と私は思っております。そして、一定数の商店、武器屋、防具屋、宿屋、魚屋など色々な店が出来あがりましたら、税を銭にして完璧な兵農分離をすれば良いかと」


 「見事!ここまでお館様と同じ考えとは思わなかった」


 いやいや。その考え、信長さんにオレが半分教えたんだけど!?


 「お金の価値をどうするかは、まずは直属の店を数店舗出し、城下の人の反応を見て決めます」


 「分かった。まずは場所を決めようか。行こうぞ」


 そのまま2人で城下入り口まで来て、場所はこの辺にや、どうせならこのまま宿の話も進めてしまおう!って事になり岡部さんを呼んだ。本当は剛力君を呼びたいが、剛力君は今や色々な場所に引っ張りだこで、かなり忙しそうにしてるからな。


 「と、ここら辺と考えていますが難しいですか?それと両替所の、隣に宿屋なんかも建てて欲しいです。私が人は見つけています」


 「作りはどうするのだ?」


 「まずは初めての建物な為、普通な感じでお願いできます?青木さんも使って下さい」


 「分かった。しかしまぁ一気に変わってきたな」


 「まだまだこれからですよ。海の方とも話をつけましたので、これから海産物も増えますよ」


 「そりゃ楽しみだな。それと家が出来たから引き渡したいのだが、構わないか?」


 「ほう。あの家ができたのか。良ければ俺も見に行っても良いか?」


 え!?意外だな。河尻さんが他人の家なんかに興味あるんだ?


 「構いませんよ!では行きましょう!」

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