漁業の交渉成立
黒っぽい液体を持ってきて、オレが捌いた鯛を躊躇なく食べる。
「おっ!?少しの手間でこんなに変わるのか!?」
「本来は他にも、昆布に包んで数時間置いた後食べたり、飯と一緒に炊いて食べたり、色々食べ方はありますよ」
「ほ〜う。詳しいのだな?」
「少し他の人より知ってるだけですよ。それと少し聞きたいのですが、その塩魚汁(しょっつる)とは?」
「これか?これは陸の寺でも似たような物があるだろう?たまりと同じような物だ。魚を塩漬けにして出てきた汁を、少し火入れしてるだけだ」
やっぱ魚醤なんだ。こんな所にもあったんだ。
「それと囲っている魚とは?」
「うん?あれか?あれは沢山獲れた日に、一度に食うのは勿体ないからよ?生かしてるだけだ!」
養殖ではないけどこの人達に任せたいな。
「お願いがあります!貴方達に漁業の事を任せたいです!この網を使って船で海に落としていき、数時間後に引き上げます!」
「なんで今更ワシ達が?」
「だからさっきも言った、信長様がこれから『海の事にも目を向ける』と言ってまして、オレがその監督になりました。岐阜や尾張、那古屋に色々な飯屋なんかを作り、人を集め発展させたいのですよ」
「ほ〜う。対価は何だ?まさかただで働けと言う訳ではないよな?」
「葛城さんこっちへ。この葛城という者がこれから責任者です。銭にて給金を出しましょう。今、信長様は新しい銭を作っております。量産しつつありますが、まだまだなので後払いになりますが・・・」
オレは持って来た硝石が入った箱、10箱を取り出し吉蔵さんの目の前に置いた。
「うん!?なんでいきなり物が目の前から現れるのだ!?」
「私の技ですよ。そんな事よりもこれを貴方達にお渡しします。この意味が分かりますよね?この硝石を持って他の国に行けば、もしかすれば出世できるかもしれませんよ」
「・・・・・・・・」
「続けます。ですが、私達のお願いする仕事をすれば、他国で今より良い地位を貰い良い生活をするにしても、今後この一年で貴方達はその他国に行くより、良い生活水準になるでしょう」
「何故そう言い切れる?」
「うん?オレがそうしたいからですよ。一次産業を蔑ろにすれば国が揺らぎます。自然相手の仕事をする人には厚遇しないといけないのです」
「いちじさんぎょう?何だそれは?」
「これはこの葛城に聞き、色々教えてもらって下さい。少なからずこの日の本で、1番裕福な漁師になると思いますよ」
「よし!そこまで言われちゃ乗らない話はねーな!芝田様の下につこう」
「いきなり綺麗な言葉にならなくていいですよ!小川さん?土産の酒を」
「吉蔵殿?我が君は大変喜んでおられる!その我が君から格別の配慮にて、この澄み酒5本を送る!酒精が強いから心して飲むように!これ程の澄み酒はまだ少ないが、岐阜や清洲近くでは普通に売ってある!近々給金を持ってくる!それで買うと良い」
「お!酒か!ちょうど肴もある!どうせだ!皆で飲まぬか?他にも色々教えてくれ!」
「ははは!いいですよ!では飲みましょうか!!」
この人は言葉こそ汚いが嫌いじゃないな。海辺の少し寂れた村だが、ここで初めて会った人達と飲んだ酒は、今までで1番美味いかもしれない。
「吉蔵さん!かなり飲んでしまい申し訳ない!後日また自分達で飲んだ分、持ってきます!葛城を置いておきますのでお使い下さい!」
「分かった!あれより美味い酒は無い!ここをいずれ漁師町にする話は面白かったぞ!ははは!楽しみにしている!まずは3日に1回、食える魚を塩水氷に漬け岐阜に持って行く!」
「ありがとうございます!お願いしますね!葛城さん?よろしくね!」
「はっ!お任せ下さい!我が右手にて、剣城様が好物のマグロをお持ちします!」
いやいやまた、右手か!?どんな作りしてるんだよ!?
それからオレ達は清洲の村に一度寄り、国友さんの元に向かう。銭の進捗を見る為だ。
「国友さん?お疲れ様です!」
「おう!剣城か!銭なら今、大急ぎで作ってるぞ!ほれ!あそこを見てみろ!」
「え!?これ全部がそうですか!?」
「当ったり前よ!この国友善兵衛に掛かれば、これくらいは朝飯前よ!まあ今は夜飯だがな?ははは!」
機嫌いいな!?何かあったのか!?
「ではそろそろ、両替なんかの話も進めて構いませんか?」
「構わないぞ!今は日に5箱は作れる!両替を始めてもいきなり人は来ないだろう?贔屓にしている行商人や、農民達が来るくらいだろう?」
「う〜ん。誰か地元のそこそこの大きい商人とかが来てくれると、話は早いのですが・・・」
「1人個人的にここ尾張で仲良くなり、ここにも出入りしてる奴は居るぞ?」
「え!?誰ですか!?」
「うん?大殿も知ってると思うぞ?伊藤惣十郎って奴だ!俺の弟子が作った物を、そこそこの額で買ってくれるんだ!」
誰だろう?初めて聞いた人だな。
「他にも俺の昔からの知り合いだが、堺の津田とか今井、キリシタンだが小西なんかも知っておるぞ?」
その人達は知ってるぞ!天下三宗匠とか言われた人じゃなかったっけ!?千利休が居ないけど。
「まだ大掛かりな事はできませんが、贈り物とか送り仲良くなれませんかね!?」
「今井や津田なんかは喜ぶと思うぞ!なんせ毎日美食を求めておるからな!なんでもわざわざ芋?を食いたい為に、薩摩まで城を買える値を出したとまで昔言ってたぞ?」
うわ!マジの豪商人だな!これは是非、お近付きになっとかないといけないな!
「国友さん?渡りを付けてくれます?澄み酒と焼き菓子、シャンプー、布団なんかを渡したいです!あっ、今日海の方に用事があり貰ってきた魚です。生でも食べれますし、塩魚汁・・・醤油と似ていますがこっちの方が塩分が強いです」
「お!?久しぶりに見た!鯛だな!鮑にサザエまであるのか!今日はご馳走様だ!皆の者!作業辞め!今日は飲むぞ!!剣城?津田や今井は相手の足下を見る。ここに来た頃の俺みたいな性格だと思ってくれて良い」
「まあみんなに足下見られてますからね」
「だが今は大殿が後ろに居る。そして今は剣城自身もでかくなった。だがこの2人と親睦を深めれば、必ず良い結果になると俺は思う。経済の事はあまり分からないが、渡りは付けてやる」
「ありがとうございます!お願いします!」
「それと小川!お前も一緒に飲むか?さっきから酒の匂いがしてるから、海で飲んで来たんだろう?飲みたりない顔してるぞ?」
「我が君・・・・」
「ははは!もう後は岐阜に帰るだけだから護衛はいいですよ!皆と飲んであげて下さい!じゃあ国友さん?お願いしますね!」
俺はそう言って、出来上がった銭50箱を収納して岐阜に戻った。
"うへぇ〜・・・剣城っち酒臭い・・・・"
"さっき那古屋から帰る時は何も言わなかっただろ!?なんで今更そんな事言うんだよ!?"
"だって今、酒と汗の臭いが混じって臭いんだもん"
ノア嬢から言われた言葉で俺は誰に言われる言葉よりも傷付いた。
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