食べながらの軍議

 「皆の者、遅くなった。では今より芝田剣城、着任の儀を始めよう。料理をこれへ」


 着任の儀って・・・。そんな仰々しいの!?普通に飯食べて軍議開いたのでいいんだけど・・・。


滝川さんが壇上の上で、その左側に甥っ子の益重さん達が居るから、左側が親族衆かな?右側に恐らく明智さんだろう人と、和尚さんみたいな人も居るが・・・。

オレ?オレは勿論一番後ろだよ?


「滝川殿?本日はどのような風向きで?これは京でも食した事ない料理だが?」


 「剣城が作り育て収穫した物を使っておる。料理人!ここへ」


 「はっ」


 「何!?女子(おなご)じゃと!?女子がこのような料理を!?」


 「まずは紹介しよう。その前に・・・誰が剣城を後ろへやった!?益氏!悪いが一つずつずれてもらえるか?」


 「御意」


 いや、オレさっきの場所で良かったんだけど!?なんで緊張する前の方に呼ばれるんだよ!?


 「明智殿、無作法で申し訳ない。某は当初この者を信用できなかったが、今一番とは言わぬが信用できる男じゃ。名を芝田剣城と申す」


 「遅ればせながら・・・。私、明智光秀と申します。以後お見知りおきを」


 「芝田剣城です。お館様直属の料理ご意見番です。大した能力も無い男です。宜しくお願いします」


 「うん?ふはははははは!!料理ご意見番とな!?」


 「明智殿・・・・」


 「いや滝川殿、すまぬ。滝川殿が珍しく認めておるような者の発言で、どのような方かと想像しておったが、我の想像とは違う方じゃった!愉快愉快!」


 笑い者にされてるけど、これは好感が持てる笑われ方だな。


 「剣城と申したか?何を隠そう・・・我は朝倉の手の者じゃ!」


 「え!?」


 「まずは順番に話そう。今は朝倉の手の者だが、元々は斎藤家に仕えておったのじゃ」


 まぁ、事情はどうあれある程度の出自は知ってるから、驚いたふりをしないといけないな。確か斎藤義龍に明智城を攻められ一族が離散して、朝倉に仕えて織田に仕えたんだったよな!?


 「斎藤道三と子の義龍が長良川で…………一家離散の憂き目に遭い………幕臣の細川藤孝殿と知り合い………松永久秀殿に鉄砲を習い………」


 概ね未来で習った明智光秀と同じだな。


 「明智殿、お互いの事は後程・・・。まずは食しましょうぞ」


 「おおー、滝川殿すまぬ。いや、京や一乗谷に居ると公家連中の相手で話が長くなってしまってな!?ははは」


 史実ならこの人は、織田に仕え信長様を裏切る筈だけど、オレはそんな風には見えないけどな。まあ何が起こるか分からないけど、もし裏切るならオレが許さないけどな。



 飯はまだ未来の飯ではなく、この時代の飯と出されれば、オレなら気が付かなかったであろう物だった。


 「ほう。これは鳥の蒸し煮とな!?肉御法度と言いつつ気にしないとな!?こちらの汁が味噌汁だが見た事ない具も多い。それに一見ただの米だがこんな白い米は初めて見る」


 ボリッボリッ


 「これは沢庵か!?沢庵なのか!?」


 明智さんは忙しい人だな?滝川さん一族の人は黙って食べてるのに。まあ感想言ってくれるのはありがたいけど。一生懸命、琴ちゃんが説明してるわ。


 "お菊さん、大吟醸渡してあげて。琴ちゃんが可愛そうだ"


 "了解致しました"


 「明智殿、女の分際で口を挟む事お許し下さい。これは尾張で作られた澄み酒です。酒精が強いので少量ずつお試し下さい。それと滝川様・・・」


 「いい顔になったな、菊。立派になった」


 「はっ。ありがとうございます。滝川様にはこちらの大吟醸を・・・。剣城様からでございます。親族衆1人1本は最低ございますので、お楽しみ下さいとの事です」


 「貴方、菊・・と申されましたか?この澄み酒を尾張で!?」


 「はっ。とある方が作りました。これ以上はお許し下さい」


 本当はオレが出したお得用のやつだけど湯呑みに出して渡したから分からないだろう。実際、森さん達が造ってるしな。


 「この酒は初めて飲む・・・美味い!!美味いぞ!!この酒は公家連中も飲んだ事あるまい!剣城殿?このような美味い酒をありがとうございます」


 「いえいえ。楽しんで下さい。琴ちゃん?40分後くらいに厚揚げ豆腐と鮭とば、ピリ辛の方のジャーキー持ってきて」


 「かしこまりました」


 オレは違和感なく琴ちゃんを助けた。明智さんから解放させてあげたと言えばいいかな?ふふふ。デキる上司は気付くもんなのだよ!


 「よんじゅっぷんごとは何かの暗号ですか?」


 うん。明智さんも気付く人だったみたいです。


 「一種の時間の目安の言い方ですよ」


 「ほう。それはどのような事で?」


 ずけずけと聞いてくる人だな!?良い感じの人だと思ったのに嫌いになりそうだぞ!?


 「明智殿?少し静かにしなさい。拙僧はまだ食べておる最中ですぞ?」


 あっ、存在薄くて忘れてた。確か1人で居たお坊さんで、しかもこの人だけ琴ちゃん特製の肉類一切無しの、精進料理だったよな。


 「申し訳ありません。それに遅れてすいません。芝田剣城と申します」


 「拙僧は浄土真宗の僧。名前を勝恵と申します」


 この人は知らないぞ!?誰だ!?


 「勝恵殿、すまん!」


 「明智殿はもう少し落ち着きなさい。加賀の公家が今の姿を見れば驚きますぞ?」


 「皆が酔う前に言おう。此度の戦はこの明智殿と勝恵殿が、北勢48家を説得して参る手筈となっておる」


 もっと厳格な感じで軍議になるかも思ったが、どうもこのまま進めるみたいだ。


 「まず某が先頭に行軍し桑名・朝明と歩を進め、上木氏・木股氏と従順させるように言おう。難色を示す家には勝恵殿を派遣する。剣城は我らの後方を守ってくれ。もしかすると、長島の一向一揆が襲ってくるやもしれん」


 「長島ですか!?」


 「お館様も長島の一向一揆を警戒しておられる。だが、この北勢とはあまり大掛かりな戦にするつもりはない」


 滝川さんは平和路線に切り替えたのか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る