全てが上手くいく日の落とし穴

 確かこっちの切り拓いた場所を、訓練場にしてたんだったよな?うん?何か聞こえるぞ?


 「東から騎馬100騎来たぞ!」「円陣組め!馬防柵立てろ!」


 稜線をわざと作ったりもしてるのか。あれは本でも見た陣形だ。


 「雁行の陣で足を止め、素早く長蛇の陣に移れ!」


 雁行で壁として足を止めさせ、長蛇の陣で突破する演習かな?馬役は・・・え!?ノア!?ノアも演習に付き合ってるの!?それにお菊さん達に渡した馬まで参加してるよ・・・。


 「止まれ!演習中断!!剣城殿が来たぞ!!」


 「竹中さん、こんにちわ!凄い演習ですね!?」


 「まさか、私にこれだけの兵を指揮させてもらえるとは思えず、張り切っておりますよ。体の方はなんともないですか?」


 「もう大丈夫です。心配お掛けしました。何でも竹中家秘伝の薬を用意していただいたとか!?」


 「鈴殿に止められましたがね?ほほほ。それよりどうで──あっ!ノア様止まって!止まって下さい!!」


 オレは竹中さんが珍しく焦った顔してるのを見て後ろを振り向く。うん。ノアがオレの方に・・・。


 "キャハッ♪剣城っち♪体大丈夫!?今行くよ!!"


 "ちょ!ノア!?そのスピード!!ぶつかる!!!"


 "キャハッ♪ABS発動!!!"


ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ。


 "ねぇ?会いたかった!?ねぇ?会いたかった!?あーしと会いたかったよね!?"


 "分かった!分かったって!会いたかったよ!ありがとうね!大河原さんって人も捕まえてくれたんでしょう!?ありがとうって!痛い!"


 まったく毎回、強噛みで涎ベトベトは勘弁してくれ・・・。それに馬のくせにABSがあるのか!?車かよ!?


 「おう!剣城か!大丈夫か?本当にノア嬢と仲が良いな?まっ、俺の松風ほどではないがな?ははは」


 「もう大丈夫です。演習の方は如何ですか?」


 「あぁ。半兵衛は凄いぞ!机上の空論だと思っていた陣まで手足の如くだ!見ていてくれ!おい!半兵衛!もう一回だ!」


 「ほほほ。刻を計るのが難しいですからな!剣城殿?御照覧あれ」


 オレは二人の男の自信ありの顔を見て軽く頷く。横にはノア嬢が相変わらずガジガジしてくるが。竹中さんの掛け声から空気が変わったのに気付く。


 「中山隊!長野隊!土山隊!平子隊!左右別れて鶴翼の陣を展開!・・・・前田隊!中央に長蛇の陣!・・・前田隊の後ろに葛城隊!上山隊!相葉隊!偃月の陣!」


 うわ・・・これは凄いぞ!?こんな陣形、あの本にすら書いてなかったぞ!?


 「前田殿!完璧です!他の者もようやってくれた!」


 「がははは!剣城!どうだったか?」


 「いやぁ、あの陣は初めて見ました!何て言うんですか!?」


 「龍鱗の陣とでも申しましょうか。あれは左右の隊が、龍の翼の如く広く展開し敵を包み込むようにし、真ん中の前田隊が敵陣に突破し、最後は偃月の陣にて必殺の超攻撃陣形にございます。まさかこんなに早く完成するとは」


 竹中さんは斎藤家に居る時から考えていた事だったらしい。

あの左右の隊だけなら鶴翼の陣形だが、この龍鱗の陣とは常人の瞬発力では、展開が出来ないらしい。

例の金色鶏糞などで作った作物を食べ、瞬発力や筋力が上がったから出来る事だと言った。


 「確かに。この戦の事、分からないオレでも分かります。前、右、左、全てに対応できる陣形ですね!」


 「分かってもらえますか!!この竹中、机上の空論だと思われたこの陣が作れ、感動致しております!」


 「おっ!?これはこれは!こんにちわ。剣城様!右の隊、一隊を率いた中山上七郎と申します」


 「こんにちわ!初めて演習見ましたが流石です!」


 「直接お話するのは初めてでございます。某は左の隊を率いた平子伊之助と申します」


 「平子さんですね。こんにちわ。お疲れ様です。貴方も見事な動きでした」


 「ありがたき言葉。それにこの様な上等な衣服、食べた事ない米に甘い甘味・・・。某・・・某・・・甲賀にて………あの飢饉の折では………」


 うわ・・・この人も面倒臭い人か!?


 「おい!平子やめ!やめ!殿にそんな話言っても関係ないだろ!!俺も直接話すのは初めてでございます。平子の後ろに居た土山佐助と申します」


 「え・・・いや・・・まあ、こんにちわ。えぇ、平子さん?その話はまた聞きますから!お菊さん!皆にスポーツ飲料を!それで土山さんはだいぶ慣れましたか?」


 「まだ2、3日ですが毎日が楽しいですよ。たらふく米が食え、お袋にも妹にもお代わりを所望されても、まだ余るくらいの余裕があります。この様な事は初めてでございます」


 「食べる事とは生きる事ですからね。ひもじい思いはさせませんよ!これからもお願いしますね!慶次さん?竹中さん?ちょっと確認お願いしていいですか?」


 「剣城殿、こちらへ」


 「竹中さんの弟の重矩さんでしたよね?」


 「名前覚えていただき、ありがとうございます」



 「呼ばれたのはあれだろう?輿入れの事だろう?芳兵衛と権左衛門殿が、荷車ならぬ快適な馬車を作っておるそうだ」


 「なら慶次さんの中では決まってる感じ?」


 慶次さんが言ったのは明日、さっき演習していた人達で、剛力君達が作った道を行軍してくると。隊列なんかも決めていると言った。


 「数は少ないが、三左衛門の爺が着ている南蛮の甲冑も借りていいんだろう?」


 「4つ程しか無いけど使っていいですよ」


 更に思案して言われた答えが重装備隊を先頭に慶次さん、馬車、左右後ろに今いる人数を横3列、後方に大膳達の引っ越しの道具やらの運搬、と言った。


 う〜ん。オーソドックスな感じかな?


 「伝七郎殿は念の為、煙玉を用意して俺の隊の後方、馬車の前に配置する。何も無いとは思うが、何かあれば煙玉で即座に離脱しろ」


 「分かりました。後7日くらいでしょう?頑張りましょう」


 「それと芳兵衛が行き詰まってたぞ?作業場に行ってやれ」


 「了解。竹中さん、一緒にどうですか?」


 「私が助言できる事か分かりませんが、ご一緒しましょう」



 一旦、皆と別れて竹中さん、オレ、何故かノアが離れてくれないから、この3人?で芳兵衛君の作業場に向かう。


 「芳兵衛君?居る?」


 「あぁ!剣城様!もう良くなったので!?」


 「もう大丈夫です!なんか行き詰まってるとか?」


 作業場に着くと表から見えない裏方で、青木さん達が一生懸命に馬車らしき物を作っていた。


 「あっ、剣城様。気付かず申し訳ない!」


 「いや作業止めなくて大丈──」


 オレは絶句した。竹中さんも未来の漫画で見る様な、大きな口を開けて固まった。どこに居たか分からないお菊さんとゆきさんも現れ、固まった。


 「な、な、何ですかそれは!?」


 「これは以前、剣城様がお出ししてくれたこの書物、しんでれら嬢がお乗りになられた物を再現しようと努力しておりますが、いかんせん、カボチャの流線的な部分が難しく・・・」


 いやそこかよ!?何でカボチャの形にする必要があるの!?はっきり言ってダサい・・・。もっと違う事に力を入れればいいのに・・・。けどこの青木さん達の真剣な眼差しを見れば・・・言えないな。


 「竹中さん?な、何かありませんか?」


 「わ、私ですか!?そ、そうですな・・・。中々に斬新だとは思いますが・・・この形の乗り物は京の公家や公卿、帝ですらお待ちではないかと・・・」


 オレは自分の口から言いにくいから竹中さんに託したが、流石のキレ者、竹中さんでも言えないか。


 「我が君ぃぃぃぃ!!!!」


 「え?小川さん?どうしました?」


 「いや、ワシを大事な大殿の妹君の隊列の先頭にお呼びしてくれるとは、感無量でございまして。それで、息子達に武器庫からハルモニアのスーツを選んでいたところ、我が君のお声がしたもので」


 いやあのオレの家からここまで30mくらい離れてるよ!?どんだけ耳良いの!?


 「隊列考えたのは慶次さんですが、オレは小川さんを頼りにしてますよ!浅井さんに格の違いを見せつけるのですよ!恐らく六角も、もしかすれば武田も北畠も見てるかもしれませんよ?」


 「はっ!芝田隊の名を轟かせてみせます!」


 いや、戦じゃねーしオレの名前広める意味が無いんだけど!?


 「ところで小川さん?この青木さん達が作った馬車に、アドバイスとかあります?」


 「なんじゃ伝七郎。そんなカボチャみたいな形にしてどうするんじゃ?」


 「おい!口を慎め!これはお市様がお乗りになる物だぞ?」


 「そんな物、大殿妹君が乗る訳ないじゃろ!」


 はい。小川さんに聞いた事が間違いだったな。ただの言い合いになってしまったな。ゆきさん、お菊さんが静かなままだな?


 「お菊さん達はどう思う?」


 「私も乗ってみた──いやいや、すいません。大変に素晴らしいかと思います!!」


 あぁ、意外にもお菊さんはこんなのが好きなのね。反応で分かったよ。大黒剣で引っ張ろうかと思ったけど引っ張れるかな?


 "キャハッ♪ねぇ?剣城っち♪?あーしがこのカボチャを引けばいいの?"


 "うん?これはオレが仕えている偉い人の妹が乗るから大黒剣で引っ張るつもりだよ?それにこんな大きな物、さすがのノアでもしんどいし悪いよ"


 "えっ・・・・置いてきぼり・・・・?"


 え!?馬って涙流す生き物なの!?ノア泣いてない!?


 「剣城殿!?ノアが泣いておりますぞ!?何か頭で悪い事言ったのですか!?」


 いやいや、竹中さん!貴方、馬が涙流してる事を疑問に思わないの!?来て間も無いのにノアとオレの事、本当の事だけど会話できるって信じてるの!?


 「理由は分かりませんが剣城様!謝った方がいいですよ!」


 いやお菊さん!!?オレよりノアの方を信用するの!?


 「剣城様!」「剣城殿!」「剣城さま!」


 「あぁぁぁ!!もう!ノアがこの馬車引くつもりだったらしいの!けどオレは大黒剣で行こうとしたら泣き出したの!」


 「おぉぉぉぉ!剣城様!それでは誠にしんでれらになれますな!何か閃いたぞ!芳兵衛殿!この板を重ね旋盤に………」


 何故かオレが悪者になり、青木さんがやたら推してくるシンデレラ。そしてノアが引く事に決まりそうな感じになった時・・・。涙を流したノアがニヤリと笑った事・・・オレは忘れない。女・・・まあメスだが元神界の人間だったのだろ!?女は魔性だ・・・。

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