すべてが上手くいく日

 野田さん、青木さん、剛力君、木下さんの配下の人達はクソ程忙しい中、どこからか運んだ木を大量に持って来て、燃えたジオラマ街の家を直してくれた。

なんなら、当初のジオラマの家より良い家が出来たのじゃないか、とすら思う。


 「剛力君!野田さん!青木さん!それと木下さん配下の方!お疲れ様です!コーラどうぞ」


 「剣城様。ありがとうございます」


 「毎度この隊を忙しくして申し訳ないです」


 「いえいえ。新たに新城や多喜、高峰、内貴など付けてくれた為、捗っております」


 「あれ?その新しく付けた人達は?」


 「その4家の者に木材加工をさせております」

 

 「そうなんだ。了解しました。ではオレは他の仕事するので、引き続きよろしくお願いします」


 「「「「はっ」」」」


 この次は天蚕の方だな。


 「ゆきさん?女手が余ってる人達を集会所に連れて来てくれる?」


 「かしこまりました」


 「お菊さんは飲み物と茶菓子の方を」


 「了解致しました」


 集会所はジオラマ街の真ん中にある、外観は日本家屋だが、中は何も無い大きな部屋一つだけの家の事だ。多人数で話す時などに使う事にした建物だ。


 「さすがお菊さん!仕事が早いね!」


 「いえ、とんでもございません」


 「けどそんなに飲み物用意してどうするの?来ても20人くらいでしょ!?」


 「いえ、先日声掛けをした折に──」


 「さぁ、こちらでございますよ!剣城様は未亡人やお年寄りにも、優しい方でございます!」


 うん。20人どころじゃないね。新たに来た甲賀の女性の方達も居るね。


 「皆さん!お集まり頂きありがとうございます。この部屋で大丈夫だと思っておりました。が、些か狭いですけどお許し下さい!じゃあまずは見て下さい!」


 「剣城様、どうぞ」


 「金剛君、ありがとう。ついでだから実演もお願い出来る?説明書に書いてる通りにすればいいから」


 「はっ」


 説明書に書いてた事はまず天蚕を熱湯に付け、可哀想だが蚕本体を処分してしまう事だった。

次はハケで繭を叩けば糸が絡み、その絡んだ糸を芸術神様の手紙から変化した木で出来た、ローラーの部分に巻き付け、後は横の取手の部分をクルクル回すだけで、いいみたいだった。


 「あっ!それならあたいも出来そうだよ!」


 「本当!うちにも出来そうね!」


 「一応、この紙に説明が書いてるので分からなければ、この横に居る金剛君に聞いて下さい!この天蚕を育てる場所を作るので、皆さんはこの作業をお願いします!」


 「どれだけ作ればいいんだい?」


 「よくぞ聞いてくれました!大膳君、あれを」


 「え!?あれとは!?何でしょうか?」


 クッ・・・大膳よ!?ここであれと言えば布団しかねーだろ!?カッコつけて言ったのが恥ずかしいじゃねーか!?


 「どうぞ」


 「さすがゆきさん!大膳!ちゃんと考えなさい」


 「その巻き取って縫い付けた物がその天蚕と綿から出来ています。これは布団と言いまして・・・。まあ、寝てもらった方が早いので順番にどうぞ!」


 皆驚いてるが、そこは女性だ。好奇心の方が強いのか、すぐに皆が順番で横になってくれた。


 「殿方!?これをあたい達が作るのかい!?」


 「その通り!これより良い物を作ってもらいたいです!ちなみに帝ですらこの布団は使った事無いと思いますよ?」


 「帝って誰だい?」


 いや帝と言えば天皇だろ!?有名じゃないのか!?まあそこはいいか。


 「分かりやすく言えば、お隣の松平様は知ってますが、他所では絶対に無いと思いますよ。これを商人に渡し、普及させ銭を貰います。私は10%貰えればいいです!」


 「剣城様?10%は分かりませんよ?」


 クッ・・・。説明しにくい・・・。


 「ご婦人方は何も難しい事はございませぬ。この私(わたくし)大膳が皆様から買い取り、銭をお渡し致します!」


 「きゃぁぁぁ──!!大膳様!!」


 「大膳様がお喋りになられましたわ!!」


 なんで大膳に黄色い声援が飛ぶんだよ!?ランニングするか!?え!?ランニングするのか!?


 「だから皆様は安心してこの布団を作られよ。そして帰りはここから西に数軒先で、飯屋がございます。そこの飯は剣城様が考案した飯が多数ございますよ」


 「寄る!寄る!絶対に寄りますよ!」


 「大膳様もご一緒に!!!」


 「某は剣城様のお仕事があります故・・」


 「剣城様!あたい達が大膳様の分も頑張ります!ですのでどうか大膳様にお休みを・・・」


 何なんだよ!?大膳はこのご婦人達に人気なのか!?オレがブラック企業の人間みたいじゃん!?


 「ははは!大膳君!ここは大膳君に任そう!ご婦人方に優しく教えなさい!金剛君は違う所にするよ」


 「はっ。畏まりました」


 次は手を持て余してる人達だな。とりあえず皆、畑をしてもらってるからな・・・。漁業の本を読んでもらおうか。


 「金剛君?君には漁業を任せたいと思う。いいかな?」


 「はっ。必ずや剣城様の口に合う刺身を提供致します」


 大膳に仕事が回ったから対抗心燃やしてるのかな?

先に硝石で本当に氷が出来るのか確認しようかな。


 「金剛君?この本を。人選は任すから、余裕を持った人数を漁業班に抜擢してくれるかな?伊勢湾の地の人達にも協力お願いするから」


 「畏まりました」


 

 「国友さんお久しぶり──あっ、沢彦さんもお久しぶりです!加工場にいるのは珍しいですね?」


 「おう!剣城!加減は良くなったのか?」


 「えぇ。すっかり良くなりました!」


 「久しぶりですな。織田領で作る銭が気になりましてな?そんな事より犯人の一人をお許しになられたとか?」


 「そうなんですよ。何故か命狙われたのに、あの人は許さないといけない気がしまして」


 「争いは争いを呼ぶ。時に許す事も大事ではあるが簡単な事ではない。拙僧は剣城殿を褒めましょうぞ」


 「ありがとうございます。ですが、残りの二人は許せませんね。私の手で成敗したいくらいですよ。子供が居る家に火を点けるのは人の所業ではありません」


 「ほほほ。ではその折はまた剣城殿が闇に落ちぬ様に、拙僧が見てやらないといけませんな?」


 「おう!んな事よりとりあえずこの4枚でどうだ?」


 試作の銭は現代で見た100円玉、500円玉、小判、大判に似た物だった。


 「この小さい方は銅で作った。こっちは瀬戸の鉱山から少量だが取れる銀を混ぜている。小判が砂金を混ぜ、大判は金を多目にしている」


 「この製法は寸分も変わらずに?」


 「当たり前だ!この鋳造に銅を流し込み、安値で買い叩いた粗銅から抽出して主原料としている。そして学が無い者でも分かりやすく、アラビア数字だったか?それを刻印している」


 いや、やっぱ国友さんはすげーわ。真似しろと言っても、これは出来ないのじゃないだろうか?


 「通貨は、『えん』で統一するんだったよな?」


 「はい!円と言う呼び名にしたいです!それで100円500円1000円10000円でいきましょう!できればもっと価値の低い10円、5円なんかも作ってくれれば有難いです!」


 「これは素晴らしい。だがその鋳造は真似されればどうするのかね?」


 「いいところに気付いたな?沢彦和尚はこれがただの鋳造としか見えないか?」


 そう自信満々に言うので、目を凝らしてオレも見てみたが分からん!


 「銭の淵を見てくれ」


 「木瓜紋・・・?しかもこんなに!?」


 「剣城が真似されないように言うんでな?俺も俺の技を真似されちゃー、国友の名が泣くからよ?」


 「国友さん!!?素直に褒めます!流石です!」


 「この鋳造を真似できる奴が居ればそいつは大したもんだ!なんせこれは・・・いや、やめておこう。どこに間者が居るか分からんからな」


 「そうですね。それでもう少し価値の低い2枚は作れそうですか?」


 「そうだな・・・。さっき言った瀬戸の鉱山は隣の松平と織田の国境でな?だがあそこは銅、ニッケル、コバルト、耐火粘土、カオリナイトが取れるんだが・・・」


 おいおい!?ここでも例の実の力が発揮してるのか!?カオリナイトって何ぞ!?初めて聞いたぞ!?


 「安全ではないと?」


 「あぁ。俺の弟子と新たに寄越した甲賀の者達のお陰で、ある程度は大丈夫なんだがな・・・」


 「そういえば、新しく弟子になってもらった人達が見えませんね?」


 「今もその鉱山に行ってもらっている。いやぁ〜、さすが忍び者だ!元々居た弟子より働いてくれるぞ?ははは!」


 「その瀬戸鉱山でしたっけ?松平様と誼がありますので言っておきます。引き続きよろしくお願いします!この出来上がったの、お借りしても?」


 「あぁ。大殿にも見せてやってくれ!」


 「分かりました。ってか本当はその用事じゃなかったんですよ。水に硝石混ぜれば氷になるって知ってました?」


 「水に硝石・・・・?うわぁぁぁぁぁ!!!」


 「く、国友さん!!!大丈夫ですか!?!?」


 「また頭が・・・。あれ!?治ったぞ!?」


 「栄養ドリンク持ってきます!ゆきさん!国友さんに栄養ドリンクを!」


 「はい!お待たせしました!」


 いや早過ぎじゃね!?お菊さんよりも早かったと思うぞ!?


 「あぁ。奥方?済まねぇ〜」


 「やだ!国友殿ったら奥方なんて!」


 いや、なに、ゆきさんは照れてんだよ!?!?


 「で、水に硝石だったな?分かる!分かるぞ!おい!田之助!硝石持ってこい!」


 おっ!?本当に分かるのか!?


 「親方!お待ちしました!」


 「見てくれ!あぁこの入れ物は以前、剣城が出したクロムと瀬戸から抽出した、ニッケルと鉄を混ぜた入れ物だ。剣城が居た未来ですてんれすとかいうやつだ!本物を見てないから分からないがな」


 いやマジでステンレスまで出来るの!?まんま見た感じステンレスじゃない!?何でも作れるな!?


 「まぁ、そこは置いといて、タライに水を入れ、この入れ物にも水を入れ、この入れ物に手を入れて見てくれ」


 国友さんに言われたように、ステンレスのコップ擬の中に手を入れると、国友さんは硝石の粉を溶かした。すると本当に冷たくなったように思う。


 「分かるか?」


 「分かります!本当に冷たくなりましたね!」


 「よし。手はのけてくれ。次はこの中に塩を入れるとだな・・・ほれ!」


 え!?マジでコップの中が凍ってるんだけど!?


 「とまぁ、このように端的に言うと、融解熱や溶解熱が奪われることによって、冷却が起こるんだ」


 いやチンプンカンプンなんだが!?


 「では硝石なる物と塩、二つの成分を混合した時、熱力学的平衡が移動して温度が変化したと申すのか?」


 いやいやいや!沢彦さんは分かるの!?何で分かるの!?熱力学的平衡って何ぞ!?初めて聞いたよ!?


 「さすが沢彦和尚だ。凝固点降下で、飽和食塩水が生じる。これは氷にとっては融解なので融解熱(333.5J/g)を周囲から奪い、温度が下がる。一方、食塩にとっては溶解なので溶解熱(-66.39J/g)………」


 うん。サイエンスの世界だ。とてもオレには無理だ。


 「まあ最近、倅にも色々言われて能書きを垂れるのはこの辺にしておこう。剣城は分かったか?以前ならここで剣城を馬鹿にしていたがもうしないぞ」


 「ははは!確かに馬鹿にされていましたね」


 「今なら分かる。自分のこの頭の中を作ったのは剣城のお陰だとな。さっきの頭が割れるようなのも中々にしんどいが、閃きが起こる事だと最近ようやく分かった」


 「なんかあの実のせいで申し訳ないです」


 「いや。本当に今は感謝してるし、なんなら昔の自分をぶん殴ってやりたいくらいだ」


 本当に国友さんは変わったな。横に居る沢彦さんのお陰でもあるが。


 「例の肥料を使いもっと効率よく硝石作れます?これから夏に向けてかき氷とか食べたいし、バニラアイスなんかも・・・。あっ!忘れてた!ゆきさん!急いで権助さんに言って、これらを植えるようにお願いして!ハウスで作るようにって!」


 「はっ、はい!」


 オレは忘れてたバニラ、カカオの苗を急いで渡した。


 「まぁ、とにかく硝石は大量に作るように工夫してみる」


 オレは追加で、例の金色のニワトリの鶏糞1tを隅の方に出した。



 《神様印の万能鶏糞肥料1t》¥10000


 《海鮮丼×40》¥34000


効能・・・・瀬戸内、日本海、太平洋の海から獲れた魚の海鮮丼。イカ、マグロ、鯛、伊勢海老が入っている。


 「これは国友さん達だけが使っていい肥料です。使い方は任せますのでお願いしますね。それと氷の作り方が分かったお礼です。皆で食べて下さい。氷が出来れば海の幸が食べられますよ」


 「おぉ!!何だこの飯は!?皆の者!休憩!!」


 「ははは!お願いしますね!あっ、加藤さん!」


 「剣城様、どうも!」


 「私が倒れてる時に来てくれたみたいですいません!それと自分の工房が夢だとか?」


 「え!?何でその事を!?」


 「いいから!いいから!その夢もう少しで叶いますので、そのつもりで国友さんの技を吸収して下さいね!」


 「え!?あ、ありがとうございます?」


 「そんな疑問に思うかもですが今はここまで。じゃあ加藤さんも海鮮丼、食べて下さい!」

 


 よし!一気に色々始動し始めたな!この調子だな!


 「沢彦さん?少しよろしいでしょうか?」


 「どうしたのかの?」


 「大野さんって方が飯屋始めたので行きましょう!まだ銭の普及がなってないので、材料は全て私の持ち出しですが、美味いもの色々開発してくれてますよ!」


 「伺いましょう」


 大野さんの飯屋に到着したが、中は間取りが変わっていた。現代にもある和食屋みたいな作りになっていた。


 「剣城様、こんにちわ。腹が減ったので?」


 「こんにちわ。オレは軽食を。沢彦さんにはまだお出しした事ないものを」


 「へいお待ち!」


 いや早くねぇ!?注文して10秒も経ってなくねぇ!?


 「ぱすたなる物を勉強中でして、丁度出来上がりましたので・・・」


 ぜっんぜん軽食じゃないけどこれは美味そうだ!


 「いただきます!・・・・美味しい・・・」


 「では拙僧もいただこう・・・。むっ!?うどんに似ておるが違うな!?そしてこの赤い物はトマトか?」


 「流石は沢彦和尚!御名答でございまする。小麦と剣城様の出汁パックを使い、作った麺でございます。本物は某も食した事が無いので分かりませぬが、これはこれで美味いかと」


 「流石です!パスタとは言えないかもしれませんが、普通に美味──」


 いや作ってくれた人にこれは失礼だったか・・・。


 「か、必ずや剣城様の口に合うパスタを作ってみせます!」


 大野さん、ごめん!そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけど・・・。


 「それで、沢彦さん?単刀直入に・・・。この村で常駐してくれませんか?本格的にです」


 「そこまで言われれば敵いませんな。拙僧で良ければ新たに来た人物の指導、引き受けましょう」


 「やってほしい事、分かってました?」


 「色々、仕事の受け答えに四苦八苦してるように見えましたからな?それにこの大野殿の飯屋は今後、ますます楽しそうですな?」


 「新たにレシピ本渡しましたからね。それでもう一つ・・・。沢彦さんの家は新たに用意致します。寺も用意致します。寺は少々時間が掛かると思いますが・・・。それで二人の方を祀ってほしいのですが・・・」


 「剣城殿の師匠と言われる二人ですかな?」


 師匠ではないけど・・・。説明できないな。まあ師匠でいいか。


 「はい」


 「承りましょう。それと寺は拙僧に不釣り合いな社では困ります故に、剛力殿達に話をさせていただいても?」


 「分かりました。手が空き次第、向かわせます。恐らくお市様の祝言の後になりますが、構いませんか?」


 「分かりました。では拙僧は明日から指導を始めましょうかのう」


 「街の集会所を使って下さい」


 今日は全てが上手くいく日だな。最後は慶次さん達か。たしか行軍演習と、緊急時のおさらいをするとか言ってたけど・・・。

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