行軍開始

 木下さんの部屋に行くと、かなりいじけた顔で、部屋の端っこで体育座りしていた。


 「木下さん!何してるんすか!?」


 「剣城か・・・。ワシなんか奇妙丸殿に勉学も教えられない。剣城に出来るような技も無い。ワシはもう織田には必要無いんじゃないかと思ってな・・・」


 いや拗ねてるのか!?何言ってるんだよ!?


 「勉学は人それぞれで出来る出来ないがありますが、奇妙丸様はあれは異常です。あんな4歳児、未来でも居ませんよ」


 「それでもワシは、何も任せられておる事が全う出来ておらん」


 これは中々に捻くれてしまう感じだな・・・。

 

 おっ!?いい考えが閃いたぞ!あり得ないくらい早いが、この行軍演習の総大将を奇妙丸君にすればどうだろうか!?いや、でもそうすれば城がガラ空きになるし・・・。


 オレは考えた事を木下さんに伝えると、あれだけ拗ねた顔がみるみる笑顔に変わる。


 「本当は木下さんに先に提案して、奇妙丸様に謁見しようとしてたのですよ!」


 オレは元気付ける為に嘘をついた。


 「でもワシが抜ければ城がガラ空きになってしまうのう・・・」


 「城の前にトランシーバー持たせて、私の配下を配置しておきます。何かあればすぐ戻れるようにします。信長様に怒られるかもしれませんが、教育方針は指示されていないので任せてもらってるって事でしょう」


 「ではそのように致してくれ。ワシもすぐに準備してくる!」


 それからはてんやわんやだった。奇妙丸君に事の次第を伝えると、4歳児ならではのはしゃぎようになり、沢彦さんに少し諌められ城の老中には大反対されたが、これからの事を考えれば良い勉強になる。と沢彦さんが後押ししてくれ、念の為に老中の人にトランシーバーを持たせ、使い方を紙にまで書いて教えて大黒剣の後ろに乗せて、村まで一緒にやってきた。沢彦さんは本当に城で何かあるといけないから、留守番をしてくれると言う事で別れる事になった。


 いやマジで好き勝手してるが大丈夫か!?怒られないかな!?


 「剣城殿!この大黒剣は速いです!それに風が気持ちいいですね!」


 その歳で風を感じるか・・・・。やはり傑物か!?


 「安全に安全を重ね暑苦しいかもしれませんが、今着せた服で我慢して下さい」


 「剣城殿の行為、ありがたく頂戴致します。しかしこの村は非常に発展していますね。一見では家がかなり並んでいるように見えまするが、その実は家の配置が絶妙でございます」


 え!?配置とか関係あるの!?


 「実はここより向こう側は私の技で出した物で・・・」


 「やはりそうでしたか。敵がもし攻めてきてもこの家の配置なら、迷路みたいにしか進めず兵が分散されますね」


 おい!誰かこの4歳児、止めてくれよ!?


 「皆さんお待たせしました。いきなりで申し訳ないですが信長様の息子、奇妙丸様です。行軍演習総大将になってもらう事になりました」


 「がはははは!やっぱ剣城は面白いね〜!皆の者ッ!奇妙丸様の御前だ!」


 慶次さんが一喝すると皆、土下座したので元日本一の土下座と定評があったオレも、土下座をしてしまう。


 「つ、剣城殿まで何を!?」


 「いや、すいません。皆さんに吊られて・・・」


 「此度は急な申し出で申し訳ありません。若輩者ですが宜しくお願いお頼み申し上げます」


 「「「「お〜〜〜っ」」」


 この皆の声・・・。クッ・・・。これがオレには絶対に無いカリスマか!?


 その後、重要な人との挨拶と紹介をさせて、行軍中の陣は道幅が狭い獣道なので、最前列に木下さん達を先行させ、二列目は野田家の人達、三列目に大黒剣に乗ったオレと奇妙丸君。後方は慶次さんと小川家という風になった。大膳君と救護隊の琴ちゃん達はオレの後ろだ。隼人君はオレの横でオレと隼人君、杉谷家一族4人だけ、例の5台しか無い自転車に乗ってもらった。慶次さんにも乗ってもらおうと思ったが、槍を思いっきり振れないとの事で馬で行軍となった。残りの人は村に残り勉強と鉄砲練習と農業だ。悪いけど頑張ってくれ!



 「鈴!琴!凛!鞠!私達のプリンシパルは奇妙丸様です!菊ちゃんのプリンシパルは剣城様です!四号業務装備の確認!」


 奏ちゃんは聞いた事ない用語で話してるんだが!?プリンシパルって何だ!?四号業務とは!?普通に行軍演習するだけだろ!?口挟めそうな雰囲気じゃ・・・ないな・・。




 「奇妙丸様、道中しんどくなったりすれば言って下さい」


 「某は大丈夫でございます。なんならワクワクしてる自分がおりまする」


 まあずっと城に居るだけだし、なんなら遠足みたいな気分になるよな。


 昼前に出発し、例のスーパーコシヒカリを食べてるせいか、皆歩くスピードが早く1時間もしない内に、もう少しで着くと言う所で道が開けてる所があったので、折角だから行軍飯・・・。そう!カップラーメンを食べる事にした。


 「大膳君!飯の用意をお願い!」


 「剣城?ちょっといいか?ただの行軍だけじゃ面白くない。折角だから俺が日頃、皆を鍛錬してる兵の動きを見てくれるか?」


 「確かにただ歩くだけじゃ面白くはないですね。分かりました。お願いします」


 「剣城と奇妙丸様はこちらでお待ち下さい。木下殿と打ち合わせをし、今からお見せ致します」


 え!?今から!?先にカップラーメン食べたかったんだけど・・・・。


 




 「敵襲!!先頭の木下隊、斎藤家と戦闘に入りました!」

 

 木下さんの配下の人、迫真の演技だな。


 「甲賀衆!奇妙丸様、剣城を守れ!防御円陣!救護隊の女衆は奇妙丸様に付け!隼人、杉谷家の者は一時離脱!敵指揮官を狙撃し相手の隙を付け!小川家は太郎左衛門を中心に鋒矢の陣にて突撃!」


 映画やテレビで見る様なカッコいい檄を慶次さんが命令し、俺が戦の本とか見て提案したんだけど、1ヶ月程で慶次さんや甲賀の人達はこんなに動けるまで訓練したのか!?普通に感動するレベルなんだが・・・。



 「とまぁこんな感じの動きを日々鍛錬しております。奇妙丸様、如何でしたでしょうか?」


 「前田殿と剣城殿の配下の動きは素晴らしいです!某、このような兵の動きを初めて見知りましたが、感動すら覚えておりまする」


 「奇妙丸様?私も芝田剣城の配下の一人です。この動きは剣城が考え私が指揮してるに過ぎません。そしてこの実践訓練を行おうと提案したのは、木下藤吉郎殿でございます」


 慶次さん普段は遊んでるようにしか見えないけど、やる事はちゃんとやってるんだな。頼もしいぞ!それに木下さんが提案したように見せて株を上げるか。中々やるじゃないか!


 「剣城様!?私達もお二人を守ろうと、本に書かれていた警備保護対象プリンシパルを奇妙丸様に、菊ちゃんもプリンシパルは剣城様のままで、四号業務装備を持ち出していました!この折りたたみ式ライオットシールドと、逃走用スモーク花火を用意していました!ボディーガード入門編と言う本に書かれていた私達の動きは如何でしたか!?」


 いやそんな本、オレ出したか!?いや確か適当に雑誌は渡していたけど、そんな物まであったのか!?オレは見た事もないぞ!?ここはらしくカッコよく褒めようか。


 「今の動きは要人に対──」


 「こんな若輩の某なんかに勿体ない動き、見た事ない装備まで出して頂き、ありがとうございまする。訓練とはいえ、素晴らしい無駄の無い動きでございました」


 いや奇妙丸君!?被せて言わなくても良くない!?


 「はっ。これからも精進して参ります。訓練はしているものの、襲撃や奇襲が起こらないようにも精進して参ります」


 「さすが剣城殿配下の人達です!某、この様な方達を見たのは初めてでございまする。今後も宜しくお願い致します」


 なんだかな・・・。奇妙丸君も奏ちゃん達もオレなんかより凄いし、なんならオレは何も出来ていないんだが!?凄いのは皆であってオレではないんだが!?


 その後、皆初めて食べるカップラーメンに驚いていた。


 「剣城様!?この塩味のラーメンは以前食べたのより美味しく思います!」


 「うはっ!某もこのラーメンは初めて食べますよ!」


 奏ちゃんは塩味が好みなのか。てか大膳!!!?お前はラーメン食べた事あるだろ!?なんなら初日に食べてただろ!?何かミスがあれば叱責してやろうと思ったが・・・クッ・・・。輸送も飯の分配も、なんなら紙コップに割り箸なんかもちゃんと用意してやがる!しかも以前、汗を掻いたり鍛錬した後は身体が塩分を求めるから、塩分チャージできるようにラムネを渡してたが、それまで滞りなく配ってやがる!!大膳の癖に中々やるではないか!!


 「剣城殿?我々も頂いて良いので!?この様な飯を見るのは初めてで・・・」


 「あの大膳を見て下さい。あいつが食べて良い物は皆さんも遠慮なくどうぞ!それにこれは、湯を注ぐだけで食べられるので簡単で良いでしょう?それに皆さんの動きは素晴らしかったです。今後も宜しくお願いしますね!」


 「剣城殿・・・・・。勿体ないお言葉です・・・」


 中年のおじさんに目をウルウルされながら握手を求められたが、久々に寒気を感じてしまった。


 「剣城!このらーめんは美味いな!!!俺は後5つは食べれそうだ!!」


 「いやさすがにそこまで食べたら他の人の──」


 「慶次殿、どうぞ!各種、醤油味、塩味、味噌味、とんこつ味、とんこつ味噌味です!」


 「おっ!大膳は中々やるな!この分だと輸送隊の隊長を任せられそうだな!?」


 糞!!大膳のくせに予備まで持って来てるのか!?あの変な喜びの踊りは早急に辞めさせよう!でも素直にこの事は村に着いたら褒めてやるか。

 


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