オヤジ二人の身体を洗う剣城

 「おぉ〜!!素晴らしい!この匂いは・・・檜でおじゃるか!?」


 「飛鳥井様はお分かりになりますか!?さ流石でございます!檜の湯船にございます」


 「ほほほ。流石、飛鳥井殿でおじゃるな?」


 オレは嫌々ながらも二人のおじさんに服を脱いでもらい、ボディーソープに泡をたっぷり泡立てて、念の為2回も洗い、髪の毛はゆきさんを洗う時程は丁寧にはしなかったが、ゴシゴシ洗った。軽く重労働である。


 っていうか、山科さんって公家だろ!?何でこんなにムキムキで体に傷があるんだよ!?


 「ほほほ。麿は男に興味は無いですぞえ?そんな見惚れられても敵わんぞえ」


 「え!?いやいやそんなつもりではなく、武家のような体付きに数々の傷痕でしたので修羅場を潜り抜けてきたのかと思いまーー」


 「これは昔、賭博にて大敗した折にちょいとな?相手に賭け金を払うのを渋り、死線を潜り抜けた証じゃ。ほほほ」


 いやいやこの人最低だ。負けた癖に金を払わずやりあったのか!?


 「はぁ〜、はぁ〜・・・洗い終えました。体の油分が取れ、さっぱりしたかと思います・・・」


 「うむ。気持ち良いな?明日も頼むぞ?ほほほ」


 いやふざけてるのか!?何で2日も男の体を洗わないといけないんだよ!?


 「飛鳥井殿?その辺にしておやりなさい?芝田殿とて武家。本来はこのような事は麿達の従者がする事ですぞ?ほほほ」


 「すいません。さすがに自分一人では疲れました・・・」


 「正直でよろしい。はぁ〜。癒されるでおじゃる・・・。この流るる湯の如く、肩の重荷も流れれば良いのだがのう?そう思わんかえ?飛鳥井殿?」


 「今、この一瞬でも肩書きから解放されたような気がしますな?山科殿」


 何だろう?公家もやっぱりしんどいのかな?ただのおじさんにしか見えなくなったぞ!?


 「なんでも・・・面白い物を色々作っていると・・・書状に書いてあったが?」


 「え!?面白い物ですか!?何でしょうか?」


 信長さんか!?何を勝手に教えたんだよ!?


 「岐阜で使える銭・・・近江で拝見したが・・・。芝田殿?其方(そち)は口は軽い方かのう?」


 「いえ。言うなと言う事は言いふらしたりはしません」


 「分かった。飛鳥井?今この時だけでも普通の男に戻ろうではないか。芝田殿?まずはこのような馳走、感謝致す」


 いやいや普通に喋るのかよ!?


 「え!?あ、別にこのくらいは・・・ははは。それで何を秘密にすれば?」


 「この喋り方だ。公家なる者は喋り方一つにも、気を遣わなくてはならぬのだ。武家や一般の者には分からないであろうが、これが習わしなのだ。許せ。飛鳥井殿も権中納言だ。自由が効かぬのはつまらん」


 え!?喋り方だけでもそんなルールがあんの!?めんどくせー世界だな!?


 「そうだ。山科殿とは旧知の仲でな?山科殿は内蔵頭として後奈良、正親町両天皇の下で逼迫した財政を建て直す為、各地へ奔走してるお方だ」


 要は資金集めや寄付金を貰ってる事だろ!?恥ずかしくないのか!?自分達でどうにかできないのかな?


 「飛鳥井殿?麿はそんな男ではない。今は一人の男として問いたい。正親町天皇の即位の礼も安芸国、毛利家からの即位料・御服費用の献納にてできた。皇室は貧困している!麿が各地を周り、時には官位を金により与えたりもした。だが京に居る馬鹿共は生活を改めようとはせん!」


 山科さんが言ったのは『本当に天皇の事を思い各地を奔走している』事だった。この山科さんの肩書きの内蔵頭は、朝廷の財政の最高責任者だ。


 飛鳥井さんの権中納言とは、オレが勝手に文字的にかなり偉い人と思ってしまった、ってのもあるが要は上の言葉を下の者に、下の言葉を上の者に伝えるパイプ役の事だ。


 ただ、中納言の一つ上の位の大納言になると、更に大臣職と同等の力を発揮するらしく、大臣が居ない時など職務を代行したりできるらしい。


 「麿も所詮は言葉繋ぎの役だけである。お上の言葉を聞き皆に伝えても、ちゃんと聞く者が居らぬ。お上は本当に世情を知ろうとしておるが、二条殿が関白を去年に辞してから、朝廷は私利私欲で動いておる」


 「すいません。そこに関しては信長様が居る時にお願い致します。私だけでは何も言えません」


 「いやただの愚痴じゃ。武家に京の内情を知ってもらおうとな?その意味は、芝田殿の殿に言えば分かってくれるであろう」


 要は後ろ盾が欲しいのか?そもそも今は征夷大将軍不在だろ?早く義秋さんを上洛させないといけないよな?いやそもそも信長さんがトップに立てば良いとも思うし・・・ここはまだ何とも言えん。


 「とりあえず一度出ますか?数日滞在されるのであれば、いつでも入れるようにしておきますが?」


 「そうじゃ!この温泉なるものはまだまだ入り足りん!そうでごじゃるの?のう?飛鳥井殿?」


 「そうでおじゃるな?山科殿?ほほほ」


 いやもうその喋り方辞めればよくねぇ!?耳障りなんだが!?


 「このタオルにて体を拭いて下さい。拭き心地に驚かれるかと思います」


 「うむ。これは麿の従者にさせようかのう?お宮?拭きなさい」


 「はい」


 凄い名前の従者だな?女か?いや女の顔ではないが・・・。


 「この拭き心地は何なのだ!?凄く気持ち良いではないか!?」


 「山科殿?御言葉が・・・」


 「おっと・・・失礼。しかしこれは驚いた!飛鳥井殿も!」


 「ほんに、これは・・・これは何で出来ているのかね?」


 飛鳥井さんの聞き方が、まんま現代に居る時ネットで出回っていた、誰かが書いたであろう画像の『デブは嫌いかね?』って雰囲気に凄く似ている件。

 

 「飛鳥井様や山科様の使われている物は、特注なので他には無い品ですが、似た物であれば岐阜の町にて売っています。綿花を原材料とし、蚕の糸などを使い編み込んで、吸水性を良くしている物でございます」


 「よくは分からぬがこれは特別とな?ほほほ。また後程聞こうかのう?」


 「お疲れ様でございました。こちらはコーヒー牛乳と言いまして、牛の乳の飲み物を甘くした物です」


 「牛の乳・・・そのような物は──」


 「飲まないと後悔しますよ?それ程美味いですよ」


 「そこまで言うのならば・・・」


 「飛鳥井殿?何もそのような物を──」


 「甘い!?何だね!?これは!?」


 「飛鳥井様!はしたのうございます!」


 「黙らっしゃい!山科殿も飲んでみなされ!」


 ふん。勝ったな。風呂上がりは昔からコーヒー牛乳と決まっているのだよ!!児玉さんに感謝だな!


 「これは・・・・・」


 そこから作法なんかどこにいった!?って感じで、なんなら山科さんは3杯もコーヒー牛乳を飲み、ご満悦となった。


 「良き哉」


 「では、このままお二人様のお部屋へご案内致します。また城に向かいますのでよろしくお願い致します」


 この城に行ったり、町の方に下りたりと歩かせる訳にはいかないので、これまた剛力君の力作、人力車にて城前まで乗ってもらった。


 「この滑らかな乗り心地良い!実に良い!」


 「ほんに、これは我が京の邸宅にも一つ欲しいですな?ほほほ」


 欲しいなら何かあんたらも褒美をくれよ!?歴史的価値のある物なら何でも良いぞ!?持ち出しは今のところ全部オレなんだからな!?

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