帰って来ない望月。苦労の石集め

 オレは30分程、皆のお酌をし、浅井さんと信長さんの戻りを待った。


 「お二人が話し出して長いですね」


 「我らの殿は織田様を大変尊敬しております。桶狭間では今川公を電光石火の如く破られたと?」


 「いや、その時私は居なかったので分かりませんが、尾張でも皆がそう言ってますね」


 「な、なんと!?では芝田殿は織田家では新参と!?よく、この様な大任を任されましたな!?」


 「少しですが、他の方より知ってる事が多いだけですよ。戦に関しては私は素人ですので、もし一緒に戦う事があれば助けて下さいね?じゃないと私はすぐに死んでしまいますので」


 オレは笑いながらも長生きしたい為、保険を掛けておく。三田村さん達と仲良くなればもしかすると、本当に助けてくれるかもしれないからだ。


 本来、オレは隠密部隊を作りたかったが、意外にも甲賀の人は隠密ではなく、大胆な行動を取りたがる傾向があるから、気付けば普通の運用ができる部隊になりつつあるしな。ってか、望月さんはいつまで草と石集めに行ってるんだよ!?かれこれ5日くらい帰って来てないんじゃないかな!?


 「皆の者!待たせた!」


 やっと帰ってきたか。さて何を話したんだろう。


 「殿!」「若っ!」「戻られましたか!」


 「皆、酒も始めたのか!?最早、祝言の話でもなくなったな」


 「新九郎様?妾はお色直しとやらに──」


 「その事だが市?暫し待ってくれるか?皆の者も聞けッ!今日から俺は名を変える。六角から名を一文字いただく事になっておったが、辞退致す。そして新たな名は義兄上殿からいただいた!新九郎改め長政に致す!」


 あぁ、これで長政って名前になったんだな。なるへそだな!この時はかなり信長さんに心酔してる感じだな。


 「という事は六角殿とは手切れに致すと!?」


 「その通りだ!市?お前の兄は凄いお方だ!」


 「女子(おなご)の妾にも分かるように、お教え下さいまし」


 「また後でな?お色直しとやらに向かうが良い。皆!俺の意見を聞いてくれ」


 毎回思うが・・・羨ましい・・・。


 新九郎改め長政さんは、信長さんが思い描いてる日本を統一する事を聞いたみたいで、少し興奮気味に浅井家の家臣に言った。


 朝倉に居る先日還俗したばかりだが、名前を義秋。その義秋を連れ上洛し、帝から承諾を得て将軍宣下させるとも。


 「だが未だ我らはその時ではない!力が足りなさ過ぎる!今この時より浅井、織田は共に国力を富む政策をしようと思う!」


 「新九・・・長政様!その政策とは!?」


 「まずは、野良田では辛くも勝利したが未だ傷は癒えておらん!ここは義兄上殿に頭を下げ、協力してもらう事にした!」


 「と申しますと六角との決戦も辞さないと!?」


 「いずれはそうなるであろう。だが今はまだ早い!まずは農民、民を潤わす事だ!それに丁度この場に居る芝田殿が、織田領の農業の責任者ときた!」


 「それは正に天命!」

 

 「そうだ!俺はこれを天の采配だと思う!神が俺に輝けと囁いている!」


 いやどこかで聞いた臭い言葉だが、何故かこの浅井さんが言えば、サマになって聞こえるんだけど!?


 「南蛮や明ではこの日の本の粗銅から金、銀を取る技を持っておるらしい。早くに義兄上殿はそれに気付き、義兄上も各地から取り寄せた物で、新たなる鉄、新式銃などを作っておるそうだ!浅井もそれに負けとうない!皆の者!恥を捨て織田に頭を下げ、良い事は素直に受け入れよ!」


 「「「オォォォ─────ッッッ!!」」」


 言葉は良かったが何人か退出してしまったな。大丈夫か!?


 「浅井様!?何名か退出しましたが?」


 「あれは父上の側近達だ。俺が必ずこの浅井を纏める。どうかお気になさらず。そして義兄上から聞いた。何名か残り、まずは農業から始めよと。そして近江は岐阜より要所だから、家々を建てよと」


 ま〜た勝手に決めて。オレは何も聞いてないよ!?それに家臣の人も、チンプンカンプンな顔したままじゃん。信長さんも同じだが、細かい事は何も言ってないんだろうな。オレが説明するしかないよな。


 オレはそれからお金の流れ、経済の流れを言った。そのお金、経済は上が動かすのではなく下々の人から流れるものだと。今、清洲で新たな通貨を作っている事も言い、量産体制が整えば今ある宋銭や鐚銭は織田が交換すると。そして今後はその新たな銭で取り引きすると。


 「直近では武田晴信さん辺りが、甲州金と言う似たような事してたと思いますよ」


 「なんと!?芝田殿は他国にも精通しておられるか!?」


 はい!未来の社会の歴史で習いました!!なんか言えないよな。


 「色々情報集めは重要ですからね。私の配下は全員甲賀出身で、草と呼ばれてた人達ですよ」


 「なんと!?乱破者と!?」


 「そんな驚かなくても。彼らはよく働きますよ?気付けば大所帯となり、私も皆を食わすのに必死ですが」


 「では甲賀者が一気に減った理由は・・・」


 確かに一気に減ったけど円満ではないにしても、六角にも筋は通したって言ってたよな?まあ、六角はいずれぶつかると思うけど。


 「まさか有名になってます?」


 「六角に忍ばせておる間者が動く者が居らず、最近はご立腹になっているとか」


 だろうな。山中何某か知らんけど動く人は少ないだろうな。だってほとんどオレの所に来てくれたからな。だから忍びは大事にしないといけないんだよ。まあ、今は忍びとは言えない集団になってるけど。信長さんも徐々に認めてくれてるし。


 「あっ、ちなみにですがさっき皆さんが絶賛したウエディングケーキも、この大野次郎左衛門さんが作ってくれたのですよ。甲賀出身ですよ」


 「え!?先の焼き鳥やら立派な鯛やらぐらたんなど素晴らしかったが、あの“沈黙の処刑人”大野次郎左衛門殿が其方と!?」


 え!?なにその厨二病みたいな名前は!?しかも本名はまずかった感じ!?確か忍びが名前を明かす時は死ぬ時と未来の漫画で・・・・。あぁぁぁぁぁ!やってしまった!!!大野さん、切腹だけはしないで!!!


 「大野さん!!すいません!!名を言ってしまいました!!死なないで下さい!!貴方はこれからもずっと重要な方です!オレの飯を死ぬまで作ってもらわないと──」


 ゴツンッ!


 「貴様は何を言うておるのだ!?何故大野が死なねばならぬ?」


 「え!?だって未来の漫画では忍者が名前を明かす時は死ぬ時だけだと・・・」


 「うん?みらい?」


 あっ!?やべ!浅井さんが居たんだった・・・。


 「クハハハハハ!変な言われ様なんだな!名が知られれば名を変えればよかろうよ!ただそれだけじゃ!!」


 いや確かにこの時代に、戸籍なんかちゃとした物なんか無いんだから、名前変えればいいだけだよな。けどあの二つ名は何なんだ!?


 「大野さん?すいません」


 「いえ、構いませぬ。昔の事でございますれば」


 「芝田殿は知らぬ様だが、この大野殿と言えばかつては六角定頼様の右腕、と言われた方だ」


 いや定頼って確か六角全盛期の人だろ!?その人の右腕だと!?この大野さんが!?


 「浅井様。お止め下さい」


 「良いではないか!俺もやや子の頃に爺に良く聞かされたんだ!我が儘言うと沈黙の処刑人が来るぞとな!ははは」


 「この名前は某は些か気に入らないのでございます。どうかお控え願います」


 「そう言うでない!三好之長を殺ったと噂されておるが?それにその当時は俺の父上も、定頼殿に殺られそうになったのだよな」


 「おい。義弟殿よ。その辺にしてやれ。虐めてやるでない。人には黒い過去の一つや二つある」


 「いや大野殿、済まぬ。俺の配下も聞いていようが、皆酔ってるから明日には忘れていよう。俺も聞かなかった事にするから許せ」


 「はっ」


 いやいやいや!大野さんマジもんのヤバい人だったの!?今はそんな雰囲気ないけど!?なのに先日のパスタの事・・・。いや、もうこの人の料理に文句言うのはやめよう・・・。


 「市様のお色直し終わりました。市様のお成〜り〜」


  「「「「おぉ!!!!!」」」」


 「美しい・・・」 「天女だ・・・」


 「ほれ!婿がここに居てどうする!早う行け!」


 「義兄上・・・。誠に・・・誠に・・・」


 「ふん。市め。ワシには見せぬ顔しおって。親父にも見せてやりたかったのう」


 オレはお市さんを見つつ信長さんの方へ向くと、薄らと涙が流れるのを見逃さなかった。信長さんも涙流すんだな。


 それにしても、お市さんの服は真っ白のキラキラした何かが付いていて、スカーフとは言えない長い何かを巻き、露出し過ぎでもなく、隠し過ぎでもない、ドレスにも見え、和服とも見える、なんとも言えない絶妙な物だった。


 芸術神様!ありがとうございます!!!









 「おい!望月?何故こんな所にまで来たんだ?」


 「何でってお前のせいだろうが!!お前が馬鹿な事しなかったら、こんな事になっておらん!殿は珍しい石と草を所望しておる!早う貴様も探せ!」


 「わざわざ能登まで来なくとも琥珀なら探せば尾張でも見つかっただろう?」


 「違う!ワシが探しておるのは瑪瑙(めのう)だ!仏教の無量寿経でも、七宝の一つと言われてるやつだ!」


 「なに!?瑪瑙だと!?そんな物10年探しても見つかりっこないぞ!?」


 「だから探すのだ!貴様はそれ程の事をしでかした!瑪瑙は剣城様の世界でも珍しい筈!明でも喜ばれる物ぞ!」


 「おい!貴様ら!誰だ!?」


 シュ、シュ。


 「今、能登畠山はゴタゴタしておる。必ず見つけるぞ」


 「分かった。この際だ。どうせなら我は鉄色箭を探す」


 「鉄色箭だと!?あの毒性の強いやつか!?まさか貴様は──」


 「しない!しない!我は二度と裏切らない。そこは信用してくれ。鉄色箭は薬にも良いと聞く。殿にお渡しして要らなければ捨てられるだけだ」


 「分かった。だがワシは貴様を監視する役目だから忘れるな」


 「まだ数日だが青木の考えが今なら良く分かる。我を見る目がまるでかつての母の様な目であった」


 「貴様!何を気色悪い事を言うか!」


 「ふん。色々任務してきたが・・・石集め草集めは初めてだな」

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