お菊さんから下郎を見る目(我々の業界ではご褒美です)

 城に戻ったオレは信長さん、濃姫さん、お市さんにチョコレートケーキを出して自分の部屋に戻る。


 あぁ〜、疲れたな。喋っただけなのに。まぁでも滝川さんの事、少し分かったから良かったかな?布団に入ろうとしたらお菊さんが現れた。



 「ヒィ─────────ッ!!!!」


 いきなり現れたんでビックリして悲鳴を上げてしまった。


 「剣城殿!大丈夫でしょうか!?」


 何故か堀くんが駆けつけて来てくれた。


 「すいません、ちょっと驚いた事があっただけで何も無いです。わざわざありがとうございます」


 「いえ、とうとう某はお館様の小姓になりました。今日は夜番でしたので、たまたま近くを通った時に悲鳴が聞こえたので、てっきり護衛のお菊殿を襲ってしまったかと・・・。剣城殿の悲鳴だったのですね」


 おい!色白優男!!オレは女を襲った事ないし、なんなら堪能した事もねーよ!!!あんたみたいにモテないからな!!!

 軽くディスってんじゃねーよ!何が『剣城殿の悲鳴だったのですね』だ!馬鹿にしやがって!なんなら先祖の甲冑の催促してやろうかっ!?!?


 「すいません、女みたいな悲鳴でしたね。気を付けます」


 「はっ。何かあれば近くに居るやもしれません。お声お掛け下さい」


 「えっと、お菊さん。何か用だった?」


 「いきなり現れ驚かせてすいません。先程滝川様からお給金頂きました。剣城殿からとお聞きしたのでお礼をと思いまして。驚かせるつもりは無く・・・」


 「いえ、情けない上司ですいません。こう見えてもオレもやる時はやる男なのでお菊さんくらいは守れると思いますよ!はっはっはっはっ」


 ヤバイ!久しぶりにこんな間近で女の子と話すから緊張して変な笑いが出るんだが!?

 どうしたんだオレ!しかもお菊さんシャンプーとか使った事ない癖にお市さんみたいに良い匂いがするんだが!?これが女の子の匂いか!?


 「うっ・・・・」


 お菊さんの目が明らかに下郎を見る目に変わったんだが!?まさか気取られたか!?そんな、目もまた違う興奮があるが!?


 むしろご褒美です!!!


 「とりあえず!お給金の事ありがとうございます!それと里の子達の事もありがとうございます!任務はちゃんとします。では御免」


 そう言いたい事を言うとまた消えた。本当にどこに居るんだろうか。今度聞いたら教えてくれるかな!?それに、お菊さんにもケーキ食べさせてあげよう!そう思いつつ寝た。



 次の日の朝、恒例の褌鍛錬をして改良版の少し甘めのコシヒカリ焼きおにぎりを伊右衛門さん達に作ってもらい朝ご飯が終わった。


 今日はとりあえず相談がてら国友さんにガラスの事も分かるか聞いてみようかな?あの実を食べてどう頭の中が変わるか分からないけどガラスの事も理解ある事を祈ろう。



 また木下さんの後ろに乗り村に向かっていたら、途中お坊さんが話し掛けてきた。


 「拙僧、信長様の教育係をしておった沢彦宗恩と申す。此方が芝田剣城殿で良いかな?」


 「あ、はい。私が芝田剣城です。どうされましたか?」


 名前だけうっすらと覚えてるけど何した人だったかな!?物凄く物腰柔らかそうないかにも和尚って感じの人だな。


 この人が後にオレの名誉を回復してくれるめっちゃ良い人とはこの時は知らなかった。


 「信長殿から村の視察を代わりにしてきてくれと頼まれてな。良ければ拙僧もご一緒してもよろしいかな?」


 「流石お館様の信頼ある沢彦様じゃ!ご一緒に向かいましょうぞ」


 3人で村に向かう途中に色々沢彦さんに聞かれた。最近城で出る食べ物は何だとかどうやって育ててるのかとか何でそんな事をするのかと。オレは今まで色んな人に言ってきた事。

 みんな笑った笑顔の国になれば戦が無くなるんじゃないかと。信長様が天下統一して俺は住民の生活の質を上げたい事を伝えた。


 沢彦宗恩さんは何か言う訳でもなく黙って時折相槌をしながら聞いてくれ、なんていうか物凄く信長さんや未来の秀吉さん家康さんとは違う、大きな力を感じた。


 頑張って俺が熱弁してるとあっという間に村に到着した。村に到着して国友さんにガラスの事を聞きに行く前に八兵衛村長や他の人達にもいつもと変わらない『よっ!褌おはよう!』『今日も服は着て来たんだな』と挨拶されながら国友さんの所へ向かう。


 「おうっ!藤吉郎と能無し!おはよう!それと坊主は誰だ?」


 「拙僧、沢彦宗恩と申す。信長殿の代わりにこの村に視察に来た訳じゃが何故、剣城殿の事を能無しと呼ぶ?」


 「なんだなんだ?この坊主は!?俺に説教垂れるのか!?」


 「もう一度聞く。拙僧の事はただの坊主だから良いが、何故、剣城殿の事を能無しと呼ぶ?」


 「けっ!めんどくせ〜!こいつが未来の物を作ってくれって言うんで俺は説明を少し聞いただけで分かるのに言い出しっぺのこいつは中身が分かってないからだよ!分かったか?坊主!」


 何か一触即発の雰囲気に村の人が集まってきた。なんかこの雰囲気、嫌だな・・・。別に俺は呼ばれ方はそんなに気にしてないんだけどな・・・。


 「ではこの鍛治の男と同じ剣城殿が能無しと思う者は手を上げてくれぬか?あっそうそう。拙僧は沢彦宗恩と申す。

 最近、城に珍しい食べ物や野菜などがこの村から運ばれており不思議に思い来ただけじゃから村の人達はいつも通り過ごしてくれて構わんよ。それでこの剣城殿の事を能無しと思う者は手を上げてくれるか?」


 「鍛治の男よ?誰も手を上げないがこれでも貴方は剣城殿の事を能無しと呼ぶのか?」


 「けっ!めんどくせ!」


 「善兵衛!!もう一度、沢彦様に舐めた口聞いてみろ。ワシが素っ首叩き斬ってやる」


 木下さんまでマジな目になってる・・・。どうにかしないと・・・。


 「えっと・・・沢彦様、よろしいですか?正直私は皆に何と呼ばれても構いませんので、どうかこのまま場を収めて頂けませんか?」


 「いや、別に拙僧は純粋な疑問なのだ。拙僧は信長殿からこの村を急速に発展させておるのは剣城殿と聞いておってな?

 あんなに沢山の食物を収穫する事ができる人を何故能無しやら褌と呼べるのか不思議でしょうがないのだ」


 「いえ・・・それは・・・」


 「この村の村長・・。たしか八兵衛という名の男は居るか?」


 「貴方はこの剣城殿を助けた張本人ですね?そして少しの間ですが家を貸して寝泊まりさせましたね?」


 「その通りです」


 「前後の事情は拙僧は分かりませんが、それに八兵衛殿と剣城殿の関係が良好でも村の村長たる者が、往来の前で人を蔑む様な呼び方をして良いのか?

 それを見た他の村人は、村長がああだからワシも良いのかと呼ぶ様になり結果、剣城殿はみんなに本来の素晴らしい名『剣城』と呼ばれなくなるのではないかな?」


 沢彦宗恩さん・・・・・。なんか俺の為にすいません!!オレ今、猛烈に泣きそうです・・・。


 「左様。剣城。ワシからも謝ろう。善兵衛はワシが剣城に無理言って例の実を食べさせたが此奴がここまで天狗になる奴だとは思わなんだ。許せ。別に此奴じゃなくとも良いのじゃないのか?」


 「とと、藤吉郎、な、何言ってやがるんだ?俺じゃないと銃は…」


 「黙れっ!!!!それ以上無駄口叩くなっ!!!!」


 「ヒィ────────────ッ!」


 「木下さん、オレは国友さんに色々作ってもらいたいです。国友さんの銃が良いです。オレは大丈夫です。気にしてません」


 「剣城ぃ・・・。あんたって奴は・・・」


 「皆さん聞きましたか?あんなに蔑む呼び方で呼ばれても、優しい心で相手を許す心を持っている剣城殿を。鍛治の男もこれでも剣城殿を馬鹿にできますか?」


 「いや、しない。・・・・しません!」


 「よろしい。村の人達も今ここまで村の食糧事情が良いのは誰のお陰か、今一度皆で話し合ってはどうかな?拙僧ならとてもじゃないが謝りもせず、剣城殿の前には現れられないと思うがのう」


 なんか来たばっかだけど今日の作業する気が無くなってきたよ。沢彦さんの言葉はすんなりオレの頭にも入ってくるし、なんか言葉一つ一つの力があるというか何て言うんだろう、こういうの・・・。


 当事者のオレだがオレ自身も色々考えさせられるな。ガラスの事聞こうと思ったけど今日はもうやめよう。城に帰ろう。


 「木下さん。沢彦さん。来たばかりで申し訳ありませんが、今日は何か作業する気が無くなりました。城に帰ってもよろしいですか?」


 「そうじゃな。剣城。ワシが許す。後ろに乗れ」


 「木下殿、剣城殿、ちょっとお待ちを。剣城殿?もしここで貴方が帰ると言うならそれはそれで結構。

 だがもしここで貴方が帰ると村の皆や鍛治の男と、二度と埋められない溝が出来てしまうと拙僧は思う。

 今日一日、剣城殿は辛いやもしれぬが拙僧は本来の仕事をした方が良いと思う。ただの坊主からの言葉じゃから聞き流しても良いぞ?さぁどうする?」


 この人マジで物事の本質を見抜く才能があるんじゃないのか!?この人が逆タイムスリップしても現代でもめっちゃ信者が集まるお坊さんになるんじゃないのかな!?


 「沢彦さんすいません。私も甘えていたようです。今日一日与えられた仕事をこなしてみます。ありがとうございます。もし良ければこれからも色々と相談とかさせていただいてもよろしいですか?」


 「ほっほっほっ。良き良き。普段拙僧は政秀寺で修行しておる。気軽に訪ねてくるが良い」


 「はい!ありがとうございます!木下さん、すいません。予定変更!今日も頑張りましょう!」


 「剣城がそう言うなら・・・無理はするなよ?」


 そう言われ国友さんの元へ向かう。


 「国友さん、さっきまでの事は水に流しましょう。私もこれから理解する様に頑張りますので。それで聞きたい事があります。ガラスの事って分かりますか?」


 「いや。こちらこそ済まん。そもそもあの実を用意してくれたのは剣城だったよな。なのに俺は頭が冴えちまって藤吉郎の言う通り天狗になっちまってたな。本当に済まん。

 それと今何て聞いてきた?たしかガラス・・・ガラス・・ガラス!?!?!?・・・・うはっ!」


 国友さんが倒れたので駆け寄る。


 「大丈夫ですか!?」


 「なんかワシの頭に鉄砲を撃たれた様な・・・・。今ガラスと聞いたよな!?」


 さっきとの変わり様にビックリするんだが!?


 「えっ!?はい。ガラスを聞きました」


 「分かる!分かるぞ!ガラスとは、石灰系ガラス(Na2O-CaO-SiO2系)に属し、代表的な化学組成は、シリカ(SiO2)71~73wt%、酸化カルシウム(CaO) 9~10.5wt%、酸化ナトリウム(Na2O) 13~15wt%、アルミナ(Al2O3) 約 2wt%であ・・・・」


 「善兵衛!善兵衛!!!」


 「おっおう!済まぬ!つい夢中になってしもうた。また天狗になるところだった。すまん」


 えっと・・・何ですか今の!?元素記号が普通に出てきてるんですが!?国友さん現代の理化学者にも負けてないんじゃないですか!?実だけで変わり過ぎじゃね!?いや、国友さん自身が元々研究肌だったのか!?


 「国友さん、すいません。私はそこまでは分かりません。とりあえずガラスはいつか出来そうですか?」


 「出来るも何も高炉があればガラスも出来る!それにガラスに必要な珪砂、ソーダ灰、石灰石はここ尾張で取れる!」


 まじか!めっちゃ運が良いな!ガラスが出来たら贈り物も良いのが出来るんじゃね!?朝廷に贈り物、雅な物!


 「藤吉郎、もし良ければだが俺の倅を此処に連れて来てはいかんか?それであの実を倅にも食わせてくれんか?ここは良い村だ。

 見た事ない食い物、驚くほど白い米、飲む事すら勿体ない酒、たまに剣城が作る飯は誠に美味い。それにあの米を食ってからやけに体が軽いんじゃ」


 「さすがにそれは虫が良過ぎるんじゃないか?やはり、何かここは罰を…」


 「木下さん!大丈夫です!私に権限があるかは分かりませんが許します!家族でここに来て下さい!」


 「いやしかし・・・お館様にも・・」


 「木下殿?拙僧が信長殿に言っておこう。以前拙僧が天下布武を信長殿に教えたらちゃんと信長殿は邁進しておる。拙僧に任せて剣城殿の意見を通しなさい」


 「はっ!分かりました!」


 えっ!?天下布武ってこの人が教えたの!?初耳なんだが!?めっちゃ凄い人じゃん!!!


 「善兵衛、一つ聞くが倅を連れて来れば間違いなく堺の国友は尾張の国友になるが良いのか?それに諸国放浪は出来なくなるぞ?」


 「あぁ。ワシはここでワシが作った鉄砲、ガラス、火薬を作りたい。そして腹いっぱい飯を食い酒を飲みたい。女が居らんのが玉に瑕(たまにきず)じゃがの。はっはっはっ」


 「あい分かった。倅を連れてくる事を許可しよう。その代わり我らの護衛と行き来を共にしてもらうぞ?いやなに、善兵衛の護衛だ。それとあまりに剣城の事を馬鹿にしたから罰として7日間禁酒を申し渡す」


 「そうだな。あそこまで馬鹿にした事を言ったんだ。当然の報いだ。木下藤吉郎殿。私は芝田剣城殿に軽口を叩き蔑んだ呼び方をした罰、7日間の禁酒の罰を謹んで受けさせて頂きます」


 「以後気をつけて発言するように!励め!」


 木下さん、今まで見た中で一番カッコいいぞ!!信長さんにはまだまだ似てないけどな!!

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