風土病の気配

 「う、うむ。ここを横にずらしてこの小さな箱を交換するのだな?で、撮影している間は赤い丸が点滅しているのだな!?」


 「えぇ。平手様は覚えるのが早いですね!さすがです!あ、この箱の中に入れて首に引っ掛けておけば自然ですよ!水の中でも撮影できますし!オレの配下の大膳が7日に一度、武田家に物売り・・・まぁ行商に行かせますので、平手様配下の方に伝えていただければ、このバッテリーとSDカードを交換という形で」


 各々がそれぞれの仕事に着いた。鶴さんは隼人君、青木さんに任せて午前は学舎で学び、昼からは児玉何某牛の世話雑用をやってもらい、夕方に尾張新式鉄砲の試射など色々と好き放題している。

 オレは武田領へと赴く平手監物さんこと、平手久秀さんにアクションカメラの事や、緊急避難の時に使うスモーク花火、爆竹、加藤製作所にて量産第一号となった片手銃その名も《加藤スペシャルMK-2》の使い方を教えた。

 名目は交流会という事にしている。史実では武田を滅ぼすのは織田だが、この世界線の今は敵対していないしな。

 ただでこちらから赴くわけではない。手土産に海のない甲斐では、海魚は珍しいだろう。だから、那古屋で取れた魚を用意するつもりだ。

 


 で、その魚など運ぶ、肝心の物流だ。木下改め、羽柴さん。ここぞとばかりに出世欲が出てきたせいか、尾張、美濃だけでなく、近江、伊勢、三河の行商も任せてほしいとまで言ってきた。

 オレは否応なしに二つ返事で了承している。ルートとしては東海道やら中山道とか言っているが、要は道と言えるか分からない山道だ。普段は大膳君が仕切っているから、大膳君配下の子達とペアで動いてもらい、荷に関しては行商人のセンスだから任せる事とした。

 だが、これで話が纏まろうとした所に待ったをかけたのが・・・、


 「まったくけしからんですぞ!!この織田家筆頭家老である、林秀貞が芝田家に居るというのに、あのサルめに一文の苦労も与えず仕事を明け渡すなぞ言語道断ですぞ!」


 そう。布施さんと共にオレの家の書類仕事などを任せている林さんだ。元はノッブパパこと、信秀さん時代から居る譜代の臣下だ。オレは歴史を知っているから・・・・と思うが、普通に優秀な人だ。仕事に関してはマジで妥協しない。裏で好き勝手するかと思いきや、オレのどんぶり勘定を叱ってくるくらいだ。

 オレが居ない間に布施さんやゆきさん、菊さんとお年玉を渡しをしたらしいのだが、蔵にあるオレのお金も1円単位・・・ではないが、まだ1円は作っていないから1番低い通過は100円だが、その100円単位で計算していたのにはビックリした。


 「そう言ってもですね・・・羽柴様は色々と良くしてくれていますし、今後も長い付き合いとなるかと思いますし、信長様の次に銭に明るいのは羽柴様だとオレは思うのです」


 「いや、ワシはサルに仕事を任せるなとは言っておりません!元は芝田家が利を上げていたものをただでサルに明け渡す事が許せれんのです!」


 「まぁそこはオレの方からいつか違う形で返してもらうという事で・・・。芝田家の実入りは他にもあるでしょう?銭も貯まる一方ですし」


 「確かに書類にて確認して驚きはしました。が、それはそれ。これはこれ。銭はいくらあっても困る物ではありますまい?」


 「確かにそうですが、今回ばかりは勘弁してください。(シュバッ)この通りです!以後気をつけますので!」


 「まったく・・・上に立つ者が土下座をするものではありませんぞ!今度から仕事を引き継ぐ際はワシも同席させてください。おーい!布施!」


 「おぉ。剣城殿!それに林殿。どうされましたかな?」


 「例の那古屋の海運に携わる者の給金と荷揚げ屋の名簿表を」


 とりあえず、仕事の件に関してはオレのジャンピング土下座にて話を終わらせた。さすが、元日本一と定評のある土下座屋だ。いや、確か今は・・・あれ誰だったかな?松井さんって人だっけ?青木さんが見つけた元三好軍の人も中々に角度のあるジャンピング土下座をしてたな。負けてはいられないな。


 「剣城殿。これを」


 「ふむふむ・・・」


 布施さんも中々に仕事を覚えるのが早かった。林さんと違い、一枚の紙ビッシリ字を書くのではなく、見やすい資料を作ってくれるのが布施さんだ。しかも布施さんは決してオレを怒らない。いや、立場上はオレが上だから・・・だが、林さんとは正反対の人だ。この人は家で苦労しているのが分かる。元六角家の人間だからな。

 ゆきさんや小川さんなど、甲賀の皆には何度も言っている。『昔の事を忘れろとは言わないが、いつまでも禍根は残すな』と。布施さんも分かっているのか、馴染むように頑張っているのか、進んで仕事以外で、甲賀出身の人達と必死に交流しようとしているのは分かる。

 自称筆頭家老こと、小川さんとはそれなりに仲良くなってきているみたいだ。


 「某が思うのは織田家で一括で漁師を囲うのではなく、漁師は那古屋の領民に自由にさせた方が競争にもなり良いかと思いまして。各々が屋号を持ち、剣城殿が判子を押した許可証を発行すれば、乱獲したり密猟したり、裏で流す事はできないかと思いまして。

 そして、その魚を卸す市場を織田家が取り仕切り、漁師が上げた利益の10%を税として受け取れば、芝田家とすれば御の字かと思いました。続いて2枚目をご覧ください」


 この布施さんも学舎・・・沢彦さんの私塾で色々と学んでいるのは知っているが、この人は地頭がかなり良い人だと思う。

 

 「へぇ〜。分かりやすいように振り分けも書いているんだ?」


 「はい。吉蔵というあの辺を纏めていた漁師に説明を行う時に分かりやすいようにと思い、場代を5%、税5%としました。ここ美濃の芝田家に連なる商店では30日の売り上げに対して家主は30%程の税を取られています。10%は芝田家に。残りは織田家に場代と税で支払っています」


 現代人感覚で30%と言えば有り得ないと思うだろう。だが、かの有名な民に優しい北条家で四公六民政策で、かなり優しいと言われる時代だ。

 そもそもの現在は五公五民が主流・・・要は米なら作った内の半分は領主に渡すのが当たり前なのだ。それを織田家・・・その中の芝田家に関しては三公七民。これが如何に優しいかというのが分かるだろう。

 いや、ちゃんと制定したのは最近なんだけどね。


 元はオレが、『1年に一度、帳簿の売り上げに対して10%くらいの税を銭で貰ったんでいいんじゃない?』と、どんぶり勘定にしていたのだが、林さんが頭を悩ませていた。いや、これに関してはゆきさんも口酸っぱく何度も言ってはきていたのだが、まぁそれはアレだ。戦に行ったりと忙しかったからな。

 で、京も落ち着いた事だし、文官として布施さんや林さんも来てくれたから任せる事にして、今という訳だ。まぁオレもかなり林さんに最初はかなり怒られた。ちなみにこの時、ゆきさんにも怒られたんだが。


 兎に角、今は商店に関してはこれにしている。大膳君配下に居る飛脚の人達は道中の危険があるかもしれないし、雨の日も風の日も住所が合って無いような時代に確実に手紙でも荷物でも運んでくれるから、税は20%にしている。

 そして漁師・・・。まぁ一次産業種は国の発展の要だから成り手がいないとダメだから極端に今は税率を落としている。後は、始まりの村の人達が主体となって今や清洲近くでは一大農業生産地となっている農業従事者にも同じ税率だ。八兵衛村長とも滅多に会わなくなったが、最後に会った時は、うらやまけしからんな奥さんと手を繋いでニヤニヤしていたのを見ている。

 余裕ができた生活となっているのだろう。後は出荷するのにわざわざ名前を付けて養鶏、養豚をしてくれている権兵衛さん。食肉に関しては急務だったから、税はかけていない。どうやら、階級的に下の下、最下層の穢多と呼ばれる階級の人達の仕事だと認識があるようだったので、オレがそれを変えるべく奔走している。

 給料も権兵衛さんに関しては芝田家から出しているのだ。1ヶ月100万円と破格も破格。武士より給料を良くしているのだ。岐阜城に関しても信長さんが、一声・・・、


 『もし肉の生産者を馬鹿にした事を言う奴は問答無用で磔にしてやる。裏でヒソヒソしてる奴には二度と肉も食わさぬからな』


 と、宣言し、最近では改善しつつもあるが、未だ成り手は身寄りのない人達が受け持ってくれているのが現状だ。まぁ差別的な言葉を最初は投げかけられていたが、今はそんな事無くなってきたからもう少しこればかりは時間が掛かるだろう。


 「布施さん。それに林様。仕事の税は任せますので、くれぐれも食肉関係の仕事の人には特別優遇を続けるように」


 「はっ。それは続けていくつもりです」


 「ワシもそのつもりだ。なんせ、仕事後の焼き鳥が食えなくなってしまっては困るからのう」


 「確か、林様は焼き鳥とビールが好きでしたよね」


 「うむ。あれこそ至高の食べ物だ。と、いうことで、剣城殿は今後、何かする時は必ずワシを呼んでください」


 書類仕事の大まかな事は2人に任せれる事になったから楽だ。次はゆきさん。銭の有無だ。



 「では、平手様に蔵半分の銭を武田で使うようにするのですか?」


 「そうだね。どのくらいの期間武田領に行くかは分からないけど、武田にも円を流行らせたいしね。それに、あそこは多分、鈴ちゃんや鞠ちゃんも行く事になると思うんだ」


 「え!?なぜですか!?」


 「日本住血吸虫症という病気があるんだ。ちなみに、オレが居た時代・・・オレが生まれる少し前まで撲滅できなかった病気なんだよ」


 「はぁ!?なんですかそれは!?」


 「甲斐だけ・・・ではないんだけど、風土病みたいなものだよ。恐らく甲斐で罹患してる人は結構居ると思うんだ。農業神様にも聞いてみたんだけど、いつもの栄養ドリンクで治るそうなんだけど、そもそもの原因を取り省かないと意味がないんだ」


 「原因は・・・いえ、そもそもの症状はなんなのですか!?」


 オレは覚えてる範囲でゆきさんに教えた。違うかもしれないが大まかには合っていると思う。


 「で、最終宿主が哺乳類なんだ。農業従事者なんかはその脅威に晒されているという事なんだ。まぁ、あの武田信玄で、且つ今は戦国時代だから力技でこの病気に罹った人を隔離してる気がしないでもないけど」


 「恐ろしい・・・」


 「確か見た目はヒルみたいな見た目だったような・・・」


 「その原因は取り省けるのですか!?」


 「いや、直ぐには無理だろうな。武田家が全力で取り組むなら100年事業でなんとかなるかもしれないけど・・・そこまで武田と交流していないし、現状、武田が困っているかも分からないからね。オレは歴史を知っているだけだから・・・」


 「では、せるか・・・なんとかって吸虫の中間宿主のミヤイリガイを駆除するのですよね?」


 「まぁ簡単に言えばそうかな。他にも素足で水に入らない。田園水路整備をコンクリートでするなど、対策しないと無理だと思う。いつか武田と諍いを起こすレベルの交流ならできない事業だよ。とりあえずは、農業神様の友達?同僚?の神様で、薬神様にオレが居た時代の薬を貰ったんだ。《プラジカンテル》という薬だよ」


 「これを飲めば治るのですか!?」


 「いや、治りはしないけど、駆虫にはなるよ。肝臓に卵の殻など残るけど、産み付けられる前に症状があればこの薬を飲めば良いと言われたんだ。初期症状は、侵入してきた所に皮膚炎が起こり、発熱、腹痛や水様便など起こるみたいなんだ。ゆくゆくは、肝硬変や腹水が溜まり他の施しようがなくなるらしい。

 他領のことだから、そこまで手は出し難いから・・・。この事に関しては要請されればオレが甲斐に赴き真剣に説明するつもりだ。だから、プラジカンテルを数錠、平手様の荷物に説明書と一緒に持って行ってもらう。万が一平手様に感染したら大事だからな」


 「(クスッ)畏まりました。特別予算ではありませんが、巨大な銭が動く公共事業になりそうですね!」


 「え!?武田領の事だよ!?」


 「いいえ!剣城様は必ずやります!武田から何を貰えるか。さぞ大きな利益が見込められるでしょうね!」


 ダメだこりゃ。ゆきさんに最終的なお金を任せてはいるが、金稼ぎが好きになってきているわ。

 

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