妖怪退治 前

 やけに、金剛君がベタベタしてくる。オレはそろそろ帰りたいのに、方々を周らせようとしてくる。まさか・・・!?


 「金剛君?金剛君って若衆道(にゃくどう)だったりするのか?男前な割に女の影が見えないよね?」


 「え!?い、いや俺は女だけっす!!何を言っておられるのですか!?」


 「いや・・・それならいいんだ・・・」


 京都の焼け出されたり、家が無い、または家が朽ち果てそうな人達、現代で言うホームレスのような人達に、オレは色々食べ物を配り歩いている。報告では現在の春帯町、東裏辻町、丁子風呂町辺りだけで、尾張や美濃から輸送して来た物資が尽きそうなくらいだ。


 まず、家が無い人の為に、いつもお値段以上の活躍を見せるゲルテントを設営し、一先ずはそこで暮らしてもらう。


 現状はオレもゲルテントにて寝泊まりしているし、風呂にも暫く入って居ない為、不快な感じが続いてはいるが仕方がない。


 最初は、そこら辺の路地裏に死体が積み上がっていたり、腐敗して明らかに健康上宜しくない、ゾンビ映画真っ青な状態だったが、ちゃんと火葬して墓標こそ簡易的な物だが、埋葬までしてあげた。後日、沢彦さんを連れて来て、法要してもらう手筈となっている。


 「・・・・・・・」


 シュッ


 「あっ、ちょっと・・・」


 ポンポン


 「今はこれで良いさ」


 米や何かを渡す時、京の人達は冷たい。ひったくる様に奪っていくのだ。


 慶次さんが教えてくれた。


 長き戦乱に巻き込まれ、京の人からすれば誰が来ても同じ、という風に思われていると。皆、痩せこけて栄養失調の人ばかりだ。まずは民からの信頼を得よう。そうすると自ずと心を開いてくれるさ、と。


 「まぁそうだよね。地道に信頼を得ようか」


 「剣城様!」


 「うん?あぁ〜!!野田さん!お久しぶりです!薩摩から帰って来たの!?」


 「はい!黒川と交代致しました!」


 「そっか!何か困った事とか無い?」


 「いえ!何もございません!それでなんですが、報告になります。俺の配下の者が少し離れた所にて、年端のいかない女を使い、春を売らせている輩を見つけました」


 「はぁ!?は、春を売らせているだと!?許せん!!お、オレもまだ体験していないというのに!!野田さん!すぐに案内して!坂井様!捕縛用の鎖をお願いします!慶次さんは甲賀隊に従軍している女性を連れて来て!女の子を保護するよ!」


 「了解した」「分かった」





 〜武衛陣〜


 「急げや!急げ!休んでる間なんて無いぞ!」


 「ほっほっ!これはまた凄い建物だな」


 「誰だ!まさか!?飛鳥井卿ではありませんか!?」


 「其方は・・・たしか剣城殿の側近の剛力殿では!?」


 「はっ。覚えていただき光栄です!飛鳥井卿は何故ここに!?」


 「いやいや、織田軍がようやっと京に参ったというのに、剣城殿が中々見えんからこちらからやって来たのよ。リフティングだったか?蹴鞠の技を教えてもらい、訓練した成果を見せたかったのだが」


 確かリフティングとは・・・さっかあという、剣城様が居た世界の運動の技だったよな。それにしても、飛鳥井卿に今これを見られるのはまずい・・・。


 「飛鳥井卿、良ければあちらに一席設けます」


 「いやいや、心配は要らぬよ。それに麿が勝手に押し寄せたまで。其方等は作業を続けなさい」


 これは非常に不味い。剣城様に知られてしまう・・・。


 「おっ?まさかまさかだ!飛鳥井殿ではないかね?」


 「義弘殿か!久しいな!」


 (剛力、これを見られたくないのであろう?おいに任せなさい。この武衛陣はおいも楽しみにしている。一体どんな風になるのかとな)


 (すいません。ありがとうございます)


 「飛鳥井殿!あちらへ薩摩兵児が待っております!野犬が悪さをしているとのことで、数匹捕まえて腹ば掻っ捌いて──」


 クッ・・・あれが、薩摩に伝わる、えのころめしというやつか・・・。いや、食べ物は批判すべきではない。俺達も猪を捕まえたりしているしな。


 



 「剣城様!今宵はここらでゲルテントで野営しましょう!」


 「え!?何で!?壊れ掛けだけど武衛陣で良くない!?元は前の将軍の御所だったんでしょ!?」


 「えぇ・・・まぁ・・・。いや、俺が野営したいという理由が、じ、実は・・・京では夜に何やら妖怪が出ると噂がありまして・・・」


 「はぁ!?妖怪!?嘘だろ!?あ、でも・・・」


 農業神様や戦神様まで現れるんだ。オレが知ってる歴史とはかなり違うから、もしかすると本当に妖怪が居るのかもしれない。喋る牛や喋る馬まで居るんだ。


 「で、でしょう!?京の人が怯えないようにここは我等が・・・」


 「分かった!野営しよう!慶次さんや坂井様はどうします?」


 「へっ。妖怪なんて居る訳ないだろう?まぁ、剣城はここで野営して確かめるといいさ。オレは京にもコレが居るんだ。好きにするさ」


 「え!?いや、でも信長様も『女遊びもダメ』って、言っていたんだけど?」


 「別に銭で遊ぶ訳ではないからな。知り合いの所に行くだけだから構わないだろ」


 チッ。プレイボーイ男が!好きにしたらいい。


 「某は、美濃兵達と居ます。明日にはまた伺います。妖怪退治、頑張って下さい」


 「分かりました。今日はありがとうございました。お疲れ様です」


 「剣城様、野営の用意を致します。暫し・・・御免」




 ど、ど、どうしようか・・・。咄嗟に嘘を吐いてしまった・・・。


 シュンッ


 「金剛?どうするのさ?妖怪なんて言って」


 「ミヤビか・・・。どうもこうもない。今、剣城様に武衛陣を見せる訳にはいかなくてな・・・。咄嗟に妖怪と言ってしまった」


 「もう!しょうがない。夜はあんたも剣城様の隣に居るんでしょ?」


 「そのつもりだ」


 「なら護衛は任せるよ!私が妖怪役になってあげる。一つ貸しよ?」


 「な、誠か!?助かる!!だが貸しというのは・・・」


 「来年の新作お菓子を私に全部届けて」


 「お、お菓子だと!?俺の分をか!?」


 「当たり前よ!それが聞けないならこの話は無しよ」


 「クッ・・・仕方ない。分かった」


 「なら、私は変装してくるから。間違ってあの剣城様のピンクの片手銃で死にたくないし、すぐに逃げるから。剣城様が退治すると言っても辞めさせてよね」


 「分かっている。恩に着る」





 打ち捨てられた家々が並ぶ一角に、ゲルテントを設営した。妖怪なんて見たくないと思いつつ、本当に居るのかと思い少しワクワクしてる自分も居る。幽霊は嫌いだし怖いけど、妖怪は気になる。何でだろうか。


 「静かだな・・・」


 「はい」


 「がははは!我が君!ワシも妖怪退治手伝いますぞ!」


 「うをっ!ビックリした!小川さんまでここで寝泊まりしなくていいよ!?」


 「なーにを言いますか!ワシが我が君から離れる時は死んだ時のみ!」


 オレは妖怪を待ちつつ3人で語らう。


 「随分と遠くへ来たね」


 「そうですね。剣城様と出会い、色々ありましたね」


 「ワシは早く我が君の御子を抱きたいですぞ!」


 「子供か・・・ゆきさん、元気にしてるかな」


 「一段楽して岐阜に帰れば、沢山抱いてあげれば良いでしょう!がははは!」


 「そうですね。そろそろ子供も考えてもいいかもしれないですね」


 「「!?!?!?!?!?」」


 「今・・・何と!?」


 「え!?だからそろそろ子供が居てもいいかなって」


 「ぐっ・・・グスンッ・・・苦節3年・・・ようやっと我が君が御子を・・・」


 「はぁ!?泣く事!?」


 「うらめしや〜・・・うらめしや〜・・・」


 「あ、ちょ!ちょっと・・・何か聞こえない!?」


 「うん?何か聞こえ・・・ぬぅぉっ!?我が君!お下がり下さい!誠、妖怪が居るとは・・・」


 オレも心臓がドキドキしてるのが分かる。まさかマジで何か居るのか!?ここは農業神様を呼ぶ案件か!?成仏してない幽霊説も有り得るぞ!?


 「あ、あそこです!剣城様!あそこの朽ち果てた家の上に・・・顔の崩れた・・・」


 「どこよ!?え・・・」

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