変わらないみんな

 この日は大変だった。伊右衛門さんのカレーを夕方に食したが、時計台で7時を指した時・・・まあ19時だな。『夜飯を食わねばならぬ!剣城!パンを作れ!』と、信長さんが急に天上天下唯我独尊に豹変するんだからな。


 急いで一階の庭にて窯の準備を遠藤さんにしてもらい、信長さんの大好きなチーズ、卵、ハムのパニーニを作り、城仕えの人達も加わり、解放されたのは22時を過ぎた辺りだ。


 「あぁ〜疲れた・・・。小川さん、居るんでしょ?」


 「はっ!ここに居りますぞ!!」


 「遅くなったけど今から帰るから、風呂の準備お願いできます?信長様と話した結果、やはり俺がやった事は普通、許されない行為だった。信長様が直接薩摩に向かい、貴久様と取り決めをするとの事だから、来週くらいにまた薩摩に行くと思う」


 「がははは!我が君でなければ放逐されていたでしょうな!」


 家に到着すると、ゆきさん、小見様、金剛君、剛力君、お菊さんに出迎えられた。


 「お帰りなさいませ。剣城様」


 「うん。ただいま。遅くにごめんね。小見様まで夜分遅くに申し訳ありません」


 「いいえ。この家の主人は貴方ですよ?妾は居候に過ぎません」


 「いえいえ。金剛君、ドンペリの荷物は全部下ろしたんだよね?皆に中身を見せてから好きなの貰っていいよ!明国の皿やら花瓶、薩摩で作った刀とか服とか、使用用途の分からない置き物とか、色々買ってきたから余るくらい、お土産は多いと思うよ」


 「はっ。ありがとうございます」


 そう言い、俺は素早く風呂に入る。普段はこの時間なら小見様なんかは寝てると思うが、今日は起きて大広間に集合している。


 「お夜食はどうされますか?」


 そう聞いてくれるのはこの家の使用人兼、小見様の側仕えの1人の小春さんだ。


 「いや今日はいいかな。城でカレーとパン作りして食べてきたんだ。明日からまたお願いします」


 「畏まりました」


 「あっ!小春さんでしたよね!?お土産選びましたか!?」


 「はい。格別の御配慮ありがとうございます。南蛮の櫛をいただきました」


 「良かった良かった!何か欲しい物あれば言って下さいね」


 「剣城殿はほんに、皆の事を思う方ですね。妾はこの置き物をいただきました」


 小見様が選んだ物は・・・多分誰も貰う人居ないだろうと思っていた、シーサー?みたいな置き物だ。義弘さんが『貰っていけ!貰っていけ!』と、半ば無理矢理オレの船に積み込んだ物の一つだ。


 っていうか、信長さんに渡した土産って何だったんだろう?確認してなかったわ。今頃、信長さんも見てるのかな?


 「ははは。好きに使って下さい!」


 「聞きたい事がいっぱいありますが、明日聞く事にしましょう。今夜はゆきを御寵愛しなさい」


 小見様に破廉恥な事を言われて、少し顔が赤くなったゆきさん。・・・言われなくても御寵愛しまくるから!!!



 「剣城様が帰って来て安心しました・・・。剣城様に触れたい・・・」


 「ゆきさん・・・オレ・・・」



 静かながら確かにゆきさんの温もりを感じながら、この日を終えた。そして次の日。早朝から元気なのはこの人・・・。


 「がははは!我が君!昨夜は楽しそうでしたな!?いや覗きや何かはしてませんぞ!?我が君の満足そうな顔を見て、思っただけですからな!?」


 「はぁ〜・・・朝から大変元気な事で・・・」


 「剣城様、おはようございます」


 「うん。金剛君おはよう。進捗を聞こうか」


 「はい。まずは新たに迎え入れた人達は………次は剛力達がフル稼働して、那古屋から岐阜に向けて定期的な輸送を行おうと……。船造りの方は今8隻目に入っておりまして、芳兵衛殿が『スターリングエンジンは完璧』と申しております」


 「はい!?スターリングエンジンが完璧だって!?あっ、いやごめん。とりあえず全部先に報告を聞くよ。続けて」


 「はっ。その新たに参った住民達ですが、仕事の割振りは手前が勝手に差配致しました。まずは食の方に関しましては、剣城様が居た未来を見据えて、カフェならぬ茶屋を作っております」


 「へぇ〜?茶屋か。別に清洲にも岐阜や美濃の人町に茶屋くらいあるだろう?」


 「いえ、お出しするメニューなんかが違います」


 金剛君が横文字なんかもマスターして、しかもカメラなんかも使い方が完璧だから、オレは会社勤めしてた時のプレゼンを受けてるような感覚に陥る。


 「このお店です。店主は浅井様の元、近江で茶店(ちゃみせ)を生業としていた、喜平次という方ですが、パンを始め、コーヒー、ケーキなんかも作り方を教えました。今やここ岐阜一番の繁盛店ですよ」


 「へぇ〜。中々いい感じじゃん?後で行ってみようかな。ホットドッグや明太子パンとか食べたいとは思うけど」


 「はい。品としては、マヨコーンパンなんかが手前は好みです」


 チッ。金剛君の手腕は見事だけど、オレより先に味見してるとは中々やるじゃないか。いやそれより船だけど、もう8隻も出来てるのか!?早過ぎじゃないか!?


 「とりあえず視察だな」


 「はい。そのつもりにございます。あと、蜘蛛の糸子様ですが──」


 「え!?そんな名前だっけ!?」


 「いえ、色々な方が好き好きに呼んでいまして、御本人も『名前が色々あって嬉しい』と言っていますので、決まりはありません。手前は糸子さんとお呼びしています」


 「そ、そうか。分かった。それでその蜘蛛さんが?」


 「はい。糸子様が一度、剣城様に会いたいと。未亡人のご婦人方もお会いしたいそうです」


 「何だろう?分かった。繊維場も見に行こう」


 「他にもあります」


 報告を受け過ぎでやる事が多く、辟易としてきたが中途半端ではダメだからな。


 「うん?他とは?」


 「現在、那古屋城は林様が城主として居られますが、これより林様と連携して那古屋を工業地帯として船を始め、武器や木材の加工などを行う工場を建設する事となりました」


 確か未来でも工業地帯だったと思うけど、ここでもそんな風になるのか。海も近いし交通の便もいいから、輸出にも最適な場所だからな。有りだな。


 「分かった。それで・・・オレがまた色々出してくれって事だよね?」


 「はい。極力、自分達で賄うように思っておりますが、どうしても足りない物があります。これはまた後程・・・」


 「オッケー。知ってると思うけど、信長様も来週くらいには薩摩に遠征すると思うから、その時は金剛君を連れてくからそのつもりで。仕置きがどうなるかは分からないから、覚悟しておいてね」


 それからオレはまずは一番気になる船・・・那古屋に向かう。本当にエンジンが出来ているのか気になるからだ。



 「おう!剣城か!」


 「来たか!!」


 「剣城殿!お帰りなさいませ!」


 「国友さんに、岡部さん、芳兵衛さん、ただいまです。さっき聞きましたが船がもう8隻もできたとか!?」


 「そうなんだ!剛力に頼んでドックとやらを増やしてもらったんだ!まずは1番艦を見てほしい」


 国友さんが自身満々に言い、目隠しされ周りからは一切見えないスロープになっている建物に入る。ここに関しては警備の人もいっぱい居る。


 中に入るとデカイ布切れで覆っているが、膨らみから見て本当に大きい船だと思う。それに底にはスクリューまで装備されてある。


 「よし!3,2,1・・・」


 バサァー


 カッコ良く国友さんが布切れを除けると、現れたのは未来では、明治時代くらいに見られるであろう木造船だ。ただ・・・形は歪だ。船尾がやたら大きい部屋みたいな物がついてある。


 「や、やりましたね!!これ走らせたのですか!?あの後ろの大きい部屋は!?」


 「それは俺から言います。スターリングエンジンを装備する上で、どうしてもまだまだ技術力が低く、工場の人間もこれが限界でして。あのピストン運動する機械が大型になり、その機械を入れてある部屋にございます」


 「そうですか。けどエンジンは完璧なんでしょ!?流石、芳兵衛さんですよ!オレには到底無理な事で──」


 「いえ、これはまだまだ・・・次・・・2番ドックに」


 「へ!?」


 「チッ。倅よ!だから言ったであろう!?最初から8番艦を見せれば良いのだ!」


 「父上!何でもかんでも最後を見せればいいものではないのです!!」


 なんか2人が言い合いしてるけど、どういうことだ!?それによく見ると、大砲なんかも普通に装備されているんだが!?

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