朱華の真意

 「うむ。本当によう帰って参った。遠藤ッ!!カレーを作って来い!此奴と客人の分もだ!急げ!!」


 「は、はい!金剛殿、その肉を・・・」


 「某も手伝いましょう」


 また信長さんの無茶振りか。余程この肉が楽しみだったのだな。けど多分オレが出した肉の方が美味いと思う。食べさせる餌なんかにもよるだろうしな。まあこれは追々、肉牛を持って帰ってからだな。


 「うむ。それで其の方は?」


 島津の叔父貴やなんかも中々の覇気だけど、この男はそれらを更に凌駕している・・・嘉靖帝にも届きそうな男・・・舐めてかかると飲み込まれるわね。


 「あたいは明国の船団を率いる朱華と申す。たどたどしい日の本の言葉故に、伝わり方が変わればすまない」


 「ほう?明の女か。何用ぞ?」


 「ここからは私が言いま──」


 オレがそう言うと、いつかやってみたい行動の一つ。手で制されるやつをされる。


 「ワシはこの女に聞いている。ワシの目を見て申せ」


 「少し・・・尾張国を見た感じ明程ではありませんが、中々に栄えているとお見えします。そして、どんぺり号然り、食べ物、銃などの武器も洗練されています」


 「ほうほう。明国の者が我が領を褒めるか・・・世辞は良い。ワシは回りくどい物言いは嫌いじゃ」


 チッ。褒めて機嫌良くしてから話そうと思ったが、そうもいかぬせっかちな男だ。やりにくい。


 「あら、それはすいません。では単刀直入に・・・あたいは是が非でも、あの船と武器を頂戴しとうございます」


 「脅しか?」


 「いえいえまさか。明はそこまで強欲ではございませんよ?9対1でこの剣城様とは話が付いています」


 ゴツンッ!!!


 オレは唐突に拳骨された。


 「剣城ッ!!!明の女を連れて来た事は褒めよう!これで我が領内には更に公家連中が参るであろう!だが勝手に9対1で話を纏めるなどと──」


 「織田様は勘違いしてるのじゃなくて?あたい達、明が1ですよ?」


 「何だと!?剣城!どういう事だ!!?」


 いやいや驚き過ぎだろ!?オレが殴られたのは何だったんだよ!?


 「そ、そのままの意味でございます。船の進捗などまだ聞いていませんが、明国の朱華様が我々が造る船を言い値で買って下さると・・・。そして損得関係なしに相互輸入をして下さるとの事です。細かい事はまだ決めていません」


 「うむ。いや相すまぬ。取り乱した。それでだが、明国は尾張に何を齎してくれるのだ?」


 「え!?」


 「いや、自信満々に上から物を言うておるが、明国に近いくらい我が領土は栄えているのだろう?その明国が不利になるような交易なんぞ、求む筈はない」


 「・・・・・・・・」


 さっきのは信長さんの演技なのか?と聞きたくなるくらいだ。真意を知りたいのだろうな。確かにこの朱華さん、個人的にとオレには言っていたが明国の船団である以上、明国の意見も入るのだろう。


 「明国としてこの場に居ますが、あたいは個人的な取り引きを望んでいます。そしてまずは友好の証として・・・この木箱をどうぞ」


 あぁ、あの贈り物で渡すと言ったやつか。結局、何なんだろう?オレも確認してなかったけど・・・。


 パカン


 「これは・・・」


 「ふむ。変わった刃紋だな?何ぞこれは?」


 「信長様!?これ!ダマスカス鋼ですよ!」


 「何じゃ!?だますかすはがねとは!?」


 「ふふふ。これはあたいが取引している、シャムの商人から流れて来た物。元はインドの品だそうです。勿論、新品ですよ?この短剣一つで・・・薩摩の城くらいは建てられると思いますよ」


 「それを2本もくれるのか?ほれ。剣城!一つ貰っておけ!」


 「え!?いいのですか!?」


 「あぁ。誠、見事に纏めたものよ。其の方は暫く過ごして良い。城下に宿屋がある。そこに一室設けよう。だが・・・侵入禁止な所もある。注意しておけ。あやめ!入って参れ」


 ってかこの鋼、売ればかなりの金額になるんじゃない!?ってかあの人!あの人は元々お市さんのお付きだった人だ。確か小さな妹が居るか何かで、ここ岐阜に残ったのだったよな。


 「失礼致しまする」


 「この女は明国からの客人だ。岐阜や尾張を紹介致せ」


 「畏まりました」


 「お待たせ致しました!カレーお持ち致しました!」


 「遅い!まあだが今日は気分が良い。精進致せ!」


 相変わらずの遠藤さんだ。


 「これは・・・まさか・・・」


 「朱華と申したな?皆、初見では糞と間違えるが断じてそんな物ではない。騙されたと思って食べてみよ」


 「いやこれはカリーではないですか?」


 「うん?かりー?」


 「信長様?このダマスカス鋼もインドから流れて来たなら、朱華さんは知ってるやもしれません。元々このカレーはインドからイギリスに流れ、日の本に届いた物です」


 「ほう。それは初耳だ。あのエゲレスからか。だがそれは貴様の居た世界での話だな?これはワシが開発した物だ。よって、そのいんどとやらの国の方が偽物である!」


 はい出たよ。負けず嫌い。それに上手く発音できずイギリスではなく、エゲレスになってしまう。この時代の人あるあるだな。しかもイギリスを知ったように言ってるけど、地図で見ただけだろ!?


 「後日、本場の味を真似て作りますよ。朱華様から本来のスパイスを売ってもらいまして、保存しております。まあけど、ここ岐阜で作ったカレーの方が絶対に美味い、と思いますけどね」


 「当然だ!伊右衛門が日々研究しておる!」


 「確かに・・・明で食べた物より雑味も無く、まろやかな甘味もありマサラ本来の味だけではなく、クミンやナツメグの匂いもしている・・・なにより美味しい・・・」


 「で、あろう。ワシも監修しておる。よって、いんどとやらのかりーとやらは偽物だ!ははは!」


 マジでご機嫌だな。ってかやっぱ本物の明の商人なんだ。的確に香草やスパイスを当ててきている。味覚も普通の人より鋭いな。


 「本当に美味しい・・・織田様・・・ありがとうございます」


 「うむ。ゆるりと休むが良い。下がれ。貴様は薩摩とやらの事を言え。正直、肉に関してはガッカリだ。貴様が技で出した方が美味い」


 信長さんも味に煩くなってるんだよな。


 「長くなりますが・・・」


 それから薩摩の出来事を事細かく話した。途中、児玉さんから絞った牛乳から作った牛乳プリンが出てきたり、バニラアイス擬が出てきたりと、まるで現代のホテルに居るような感じだ。遠藤さんは呼ばれる度にヒヤヒヤしてるぽいが。


 でも伊右衛門さんも大概凄いよ。元から料理人だったから応用力が凄いのかな?


 「なんだと!?勝手に他国の軍に加わり且つ、城を貰っただと!?」


 「正確には城主は元々の主の息子ですが、島津様は是非織田家にと申しておりました!友好な関係を築きたい。なんなら織田様と是非会いたいと・・・」


 「この際、貴様の事だから大概の事は目を瞑ろうと思うておったが、他国で一軍を率いてしかも首級も取り城も任すとは、大将首でも取ったのか!?」


 「いや、そうでもありません。島津様は簡単に言えば太っ腹な方です。そして非常に義理堅い方で自身、個人的に言えば信頼できる人達だと。ただ・・・かなり好戦的で作戦なんかも基本的に突撃。突撃。しかも予め味方が犠牲になるのを決めてからの攻撃です。皆が皆それに志願するくらい崇拝されています」


 「非常に厄介な事をしてくれたな・・・。それで薩摩とはどんな所だったのだ?」


 「すいません。薩摩とは・・・・・」





 「早く動け!!剣城君は必ずやここ志布志に来る!織田殿を湯にて歓待致すのだ!肉も好きだと言っておった!食肉は切らす事なかれ。先鋭的だがどことなく落ち着く部屋を作るのだ!」


 「義弘様!三の丸の外庭全て使ってよろしいのですか!?」


 「構わん!兄者にはおいから後で言っておく!父御は知っておる!」


 「義弘ッ!!!これは何なのだ!?」


 「歳久か!弟ならおいの考える事が分かるであろう?」


 「剣城殿の為なら構わんと言ったが、三の丸全て使うとは聞いておらん!」


 「三の丸は全て使うぞ?ほい!今言ったから構わないな!ははは!織田殿は必ず来る!島津の力を見せるのだ!畿内にも負けていないとな!」


 「戦なら簡単だと言うのにな」


 「そうだな。だが今回は調度品や使用品などで勝負だ!とくに湯は『畿内にも中々ない』と剣城君が言っていた!島津の家臣が他所の家で勝手に軍を率いたなら、許されぬ事だ。だがそれを剣城君は島津の為に動き、今後も友好にしたいとも言った!おいは剣城君を今生裏切るつもりはない!」


 「兄者がそこまで言うのは初めてであるな。おいも剣城殿は嫌いではない。話も面白く勉強になる事も多かった。まあ幾分酒に弱いのが勿体ないがな。それにしてももう、鹿児島焼酎と呼ぶ酒が無くなったな」


 「な〜に!剣城君から買えば良い!船も大きいのを造り、こちらからも出向いたりできる!新たな薩摩出発ぞ!!ははは!」

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