変わり果てた那古屋

 泳いで船までやってきた金剛君に、船の中にある貴久さんや義弘さん、朱華さん達からの贈り物、オレが皆に買った明やシャム、琉球のお土産を運んでもらう事にした。


 正直、持って帰った肉もオレが収納して持って帰れば良かったのだけど忘れてたんだ。まあいい。せっかく装備されている冷蔵庫、冷凍庫を使わない手はないしな。


 「金剛君!丁寧に船の荷物を岐阜城に運ぶように!」


 「はっ!喜んで!それと・・・その横の子供と女性の方は?」


 「この子は・・・・」


 さっき船で皆と話したが名前ないんだった。命名してあげないといけないよな。


 「君?何か名乗りたい名前とかある?」


 「俺は名前なんかどうでもいい!新しくつけてほしい!」


 「がははは!また始まりましたな!我が君の名前選びが!!」


 「小川さん!揶揄わないで下さい!」


 オレの嫌いな名付けだな・・・どうしよう・・・。多分この子は勉学に進まないよな。子供なのに戦うくらいだから、必ず軍に所属しそうだし・・・。


 「よし!君の名前はこれから大志君だ!読んで字の如く、大きく志を立て成長しなさい!」


 「あ、ありがとう!俺は大志だ!!」


 我ながら今回は良い名前を付けたと思う。


 「慶次さん?愛州さんの所に行くんでしょ?シャムの酒をかなり貰ってたよね?」


 「チッ。バレたか。愛州兄弟にも飲ませてやろうと思ってな?」


 「この子をとりあえず愛州さんに任せようと思う。慶次さんも面倒見てくれる?」


 「えぇ〜!?なんで俺が──」


 「これでどう?焼酎の大悪魔。この一升瓶で5万する焼酎だけど?」


 「おい!坊主!いや・・・大志だったな!?付いて来い!俺がここ尾張での暮らしを教えてやる!まずは食べるから始め、飲む!女と遊ぶ!飲む!」


 いやいや、子供に何言ってんだよ!?


 「慶次さん・・・・」


 「ははは!冗談だ!沢彦和尚にも紹介して真っ当な生活をさせるさ!」


 「頼みましたよ!次は竹中さん!竹中さんは信長様に渡りを付けてもらえませんか?そしてそのまま解散してもらって構いません!」


 「使いっ走りですか・・・」


 「そう言わないで下さい!義弘さんから貰ったガラスのコップあげるから!」


 「正直、剣城殿から貰う物の方が嬉しいのですけどね?まあ分かりました」


 チッ。竹中さんも強請ってくるようになったか。まあ色々島津さんの相手してくれてたしな。確か茶も好きだったよな。


 「はいはい。これもどうぞ。信長さんにも渡さないといけないから少量ね?朱華さん曰く、『かなり高価で門外不出』とまで言われているらしい、この武夷茶をあげますから」


 「おっ!これは良いですな!すぐに行きましょう!」


 本当にこの人も茶が好きなんだな。武夷茶・・・正確には武夷岩茶だったかな?要は烏龍茶だよな。俺にお茶の高価差は分からない。茶は喉を潤す飲み物だもんな。


 「甲賀隊の皆は各自解散していいよ!」


 「「「はっ!」」」


 「ワシは我が君に付いていきましょうかのう」


 「へ?何で?」


 「がははは!筆頭家老ですからな!?早う、ゆきとの子が出来ましたら、ワシは傅役になりますからな!こう見えて、ワシは子供を育てるのが上手ですからな!!」


 いや、いつか子供できたら小川さんには色々お願いしようとは思ってるけど、それを自分で売り込むか!?しかも家老という職が何かは分からないけど、余程嬉しいのか!?それに、子育てに上手いも下手もないと思うけど・・・。


 剛力君配下の人達がかなりの人数でコンクリート?みたいな物で防波堤のような物を作っている。というか、もう既に何ヶ所か出来上がっている。


 少し見ない間にかなり様変わりしている。そして目隠しされているドックだ。ドックは20ヶ所くらいスロープまで作っている。明らかに船の製造やメンテの為の場所だろう。そして6ヶ所程は、愛州さんが見つけたであろうと思う人を相当数並べている。


 船が完成したのかと思う。船の視察をする前にまずは信長さんに帰還の報告だ。遅れれば機嫌が悪くなるからな。


 「じゃあ朱華さん!向かいましょう」


 「剣城様。お帰りなさいませ。大黒剣をお持ちしました」


 「うん。さすが剛力君だ。変わりないようだね。夜に清洲近くの例のオレの家に。皆にお土産があるから」


 「はっ」


 隼人君程ではないが、あまり無駄口を叩かず与えた仕事を100%以上にしてくれる。やっぱ剛力君よ。どこぞの誰かみたいに海を泳いで出迎える人とは違う。


 まずは朱華さんを信長さんに紹介する為、岐阜に向かおうとするが那古屋の様変わりにビックリする。薩摩に出発する時点ではそこそこって感じだったが、今や【織田水産】と看板が作られて、市場が出来上がったりもしている。


 そこには贅沢にも硝石で出来た氷を大量に作り、顔写真付き、那古屋住民カードを持っている那古屋に住む人は安く、カードを持っていない他国の商人には、違う値段で売っているようだ。これは金剛君が考えたシステムらしい。


 真似しようとしても、カメラが無い他国は偽造できないだろう。


 何と言っても人の多さだ。伊勢の方面からも人が流入しているらしい。同じ海でもこっちは獲物が少ない日にですら、新しいお金で100万円は動くらしいのだ。道中、金剛君の手腕を誇らしく思いながら進む。そして、後ろに乗せている朱華さんは、オレにピッタリ抱き付いて乗ってくれている。


 久しぶりの女の匂いがすると頭の中で思いながらも、ゆきさんの顔も思い出す。久しぶりにゆきさんの匂いも温もりも感じたい。


 そして那古屋も抜け小牧に差し掛かる手前に、大きなゲルテントの集団を見つける。そこでは偉そうに人を指図する大膳君を見つける。


 「あっ!剣城様!お帰りになられたのですね!今宵は薩摩の話をお聞かせ下さい!!!」


 「うん。ただいま!残念だけど話は明日かな!?今日はね・・・用があるから!!」


 大事なゆきさんとの時間を、大膳如きに割かれてたまるか!似合わないゴテゴテの装飾されたエクスカリパー片手に、何を言っているのだろうか。


 「後ろの方は?」


 「あぁ。明の商船を率いる朱華さんだ。大事な大事なお客さんだよ。信長様に会ってもらうんだ。それでこの集団は?」


 「大殿様にですか。端的に言えば岐阜や尾張、那古屋に住みたいと各地からかなりの人が参りまして、まずは身分確認、身体検査、住民票なんかも作っております。何分、人手が足りない為、木下様からも応援をいただいておる次第です」


 「え!?木下さんからですか!?」


 「えぇ。木下様から某に手を貸そう。剣城が居ない今、お前の見せ所だぞ?気にせず使ってくれと弟様も居ります」


 うわ・・・・。また目の付け所が上手いな。他国から優秀な誰かが居れば引き抜きができるし、オレに恩も売れると。それに秀長さんが居るから状況を見るのも容易いと。中々やるな。まあこれも恐らく、秀長さんの入れ知恵っぽい気がする。


 「お、おぉ〜!剣城殿ではありませんか!!此度は祝着至極にございますな!」


 「いやそんな難しい事言う間柄でしたっけ!?なんか人を借りたみたいですいません。ありがとうございます!」


 「いやいやなんのなんの!新たに人を雇い、富国にする第一歩の人集めに参加できるのは嬉しいですよ。あっ、兄者は貸しだ!とか抜かすと思いますが、私が剣城殿がお困りにならないように考え、行動してるだけですからお気になさらず!」


 うん。実に上手い。正にオレが想像した通りだ。


 「また明日以降に進捗を聞きます。岐阜に急ぎますので」


 「呼び止めてすいません!では!おい!次の家族は──」


 ちゃんと仕事はしてくれてるんだな。まあこれはこれで、何か贈り物とかしないといけないな。


 そんなこんな色々な所で足止めされたが、やっとの事で岐阜に辿り着く。岐阜城下の真ん中、大きい時計台で時刻は15時を過ぎている。遅くなってしまったもんだ。


 「剣城殿ッッ!!!!!!」


 「あっ!遠藤さん!お久しぶりです!そんなに焦ってどうしました?」


 「は、早く城に!竹中様の先触れが来て、お館様は今か今かとお待ちになり──」


 「遅いッ!!!!」


 ゴツンッ


 「痛ッ・・・・・はぁ〜・・・でもこの感覚久しぶりだ・・・」


 「何を気色悪い事を言うておる!早う来い!その女子(おなご)は何だ!嫁でも見つけて来たのか!?」


 「とりあえず城で紹介します。信長様・・・ただ今戻りました」


 「うむ!よう戻って参った!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 「剣城ちゃん!おかえり!!!」「剣城様!おかえりなさいませ!」 「おっちゃんが帰って来た!!」


 「ふん。偉い人気だな!皆々方よ!暫し此奴は借りる!此奴を弄るのは明日以降にせよ!」


 城下の人達・・・近所の人、近所の子供なんかに出迎えられ久々に見る岐阜・・・帰って来たな。さて・・・上手く話をして家に帰ろう。

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