乗船

 真っ暗な内に那古屋に到着だ。そもそも俺達が出向いた場所は、吉蔵さん達の安宅船を置いてある砂浜に木で作った桟橋・・・とは言えない、砂浜から10メートルくらいの木で作った橋の場所だ。


 この砂浜から少し下がった場所に、40程の家々があるのだがそこの集落が、漁師の人達の家だ。


 「バッキャロー!!ここはワシらの縄張りだ!どこのどいつだ!?」


 「あっ、吉蔵さん?おはようございます!早いですね!?」


 「おぉ?おうおう!剣城か!どうしたんだ?まさか・・・・」


 「ほう?貴様が例の漁師の吉蔵か。親父と昔、懇意にしていたそうだな?」


 「はっはぁ〜!!!!」


 珍しく吉蔵さんが下手に出てるな。


 「苦しゅうない!出向くのが遅れたのは謝る!今後も尾張や岐阜に美味い魚を届けてくれ!珍しい美味い海の物が取れれば城に持ってこい!高値で買ってやろう!」


 「は、ありがとうございます」


 「金剛君?この場所を深く掘って、船が接岸できるようにしないか?そして少し離れた場所に高低差を付けて、造船所も作る。メモしておいて!」


 「はっ!」


 「とりあえず吉蔵さん?使う事は無いかもしれないですがこれをどうぞ。刀です」


 「え!?俺に刀をくれるのか!?」


 「別に、直接的なオレの配下にはなりたくないかもですが、一応貰っておいて下さい。斬れ味はいいですよ?」


 「すまん!オレに刀が貰えるのか・・・」


 刀を貰えるのがそんなに嬉しいのか?


 「御託は良い!早う船を出せ!」


 チッ。我が儘信長さんめ!


 「分かりました。出しますね」


 オレはいつものように、ボックスから取り出そうとしたが押しても出てこなく、タブレットに注意書きが出た。


 【水深10メートル以上が必要です】


 と出てきた。


 「水の上はやっぱ深さが必要なのか・・・どうしよう・・・」


 「深い所に行きたいのか?」


 「そうですね・・・」


 「俺が連れてってやろうか?」


 吉蔵さんの声で、安宅船で薄暗い海の沖を目指す。大体、砂浜から30メートル程進んだ所だろうか。


 オレは再び取り出した。


 バシャァ──────ンッ!!!


 「「「「おおおぉぉぉ───!!!」」」」


 「大きい・・・」


 改めて見ると本当に大きい。


 「剣城!!素晴らしい!早うこれに乗らせろ!!」


 今気付いた・・・どうやって乗ればいいんだ!?


 「がははは!我が君!ワシの腕の見せ所ですな!?」


 「え!?小川さん!?」


 そう言うと、小川さんは肩に掛けていたロープを船にかけ、歳を感じさせない動きで駆け上がり、上から縄ハシゴを落としてくれた。


 「大殿!今回はこれで勘弁して下さい!用意しておりませんでした!!」


 「小川!流石の身のこなしである!遠藤!お前もあの者を見習え!」


 「え!?あ、はい!」


 いきなり遠藤さんがとばっちり貰ってたが・・・小姓筆頭だろう!?頑張れ!!


 そのまま皆で乗り込み、利家さんや佐々さんなんかはびっくりしすぎて、声も出ていない。信長さんは然も乗った事あるかのように、操舵室に迷わず向かう。


 「何じゃここは!?」


 「これが未来?の船の中身です。レーダーと言い、ここをこうやってこうしますと・・・」


 「「おぉぉぉ!?」」


 「何じゃ!?天井から見ているようだ!!」


 「そうです!そうして走れる場所は線が出て教えてくれます!浅瀬の方には進まないようにできているそうです!」


 農業神様が書いてる説明書の事を言っただけだが、皆、本当に驚いている。


 「ならば良し!走らせるぞ!どうやって操作するのじゃ?」


 「まず・・・」


 ピーピーブォォォンッ!!!


 オレは説明書通りに鍵を回しエンジンをかけた。すると操舵室のハンドルの前に置いてある箱の、ヒヒイロカネが金色に光りだす。


 後は、右手にある赤色のレバーを前に倒すと発進する、と書いてある。


 「おっ!?動いているぞ!?」


 「ここのレバーを前に倒すと動きます!そして止まる時はこのボタンを押して錨を・・・船が潮に流されないようにオモリを降ろせとの事です!」


 「ふむ。まあ良い!貴様が動かせい!」


 はぁ!?結局オレが運転手かよ!?


 「剣城?漕ぎ手はどこに居るのだ?」


 「吉蔵さん?これはエンジン?でいいのかな?自動で動く船ですよ」


 「なんと!?自動で動く!?」


 遠藤さんも訳が分からない感じだが、分かってもらうしかない。信長さんに関しては頷いているし。何も分かってないだろ!?


 「とりあえず出発!!」


 オレはレーダーを頼りにスピードを上げる。船の運転なんか初めてだが何故か分かる。ゴッドファーザーのお陰だと思うが。


 農業神様ならふざけた装備を付けてそうだけど、意外にもそれは無かった。何となくだが、あの球体様の苦労が頭に浮かんだ。


 スピードに関してはノットで表せばいいか分からないが、メーターには40キロと出ている。これもオレが分かりやすいようにしてくれたのだ、と思いたい。


 「おう!中々速いではないか!もっと早く走れ!此奴の全力を知りたい!!」


 「お館様!!勘弁して下さい!おえぇ〜」


 「貴様!何を吐いておるのだ!情け無いぞ!!!」


 佐々さんは船酔いか。


 《酔い止め》¥1000


効能・・・・酔ってからもすぐに効く酔い止め。イチゴ味。


 「佐々様?これは船酔いと言って、三半規管が弱い人がなりやすいのです。これを飲んで下さい!すぐに気持ち悪いのが治りますよ」


 「おっ、おう・・・すまぬ・・・汚してしまった。後で綺麗にしておく」


 「いえ。少し下の階でお休み下さい。他の方も気持ち悪かったら言って下さい!」


 「ふん。日頃から鍛錬しておらぬからだのう?ちび助!」


 「クッ・・・駄犬が!」


 佐々さんと利家さんは本当に仲悪いよな!?


 「金剛君?佐々様を案内してあげて」


 「御意。どうぞこちらへ」


 それからこの船の限界を知る為、レバーを思いっきり倒した。ヒヒイロカネはより一層輝きが強くなったように思う。メーターは70の数字まで上がり、それ以上は上がらなくなった。


 一つ驚くべきは、こんなにスピードを出しているのに、船首が上下に思った以上に動かず、横揺れに関してもかなり安定している。これがゴッドパワーのお陰か!?


 「ふははは!要はその丸いのとレバーに気を付ければ良いのだな!?どけ!次はワシじゃ!!」


 信長さんに無理矢理交代させられ、その後は・・・暴走である。ハンドルを回してもすぐに旋回する訳ではないから、少し慣れるまで時間が掛かったがやはり史実の天下人。センスがあるんだろうな。


 「ははは!!!海はワシのものぞ!!これだ!!遠藤!!貴様もこのくらい早く走れれば文句ないのだがな!?ふははは!!!」


 「え!?このくらいですか!?」


 無理!!無理!!さすがの遠藤さんでも無理だろ!?



 

 「おっ父ぉ?あの海を走ってるのはなぁに?」


 「うん?親方なんじゃ・・・・おい!家に戻れ!!物の怪だ!!てぇ〜へんだ!てぇ〜へんだ!!海に物の怪が現れたぞ!!!!」

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