本気になった船作り

 それからオレはこの日、一日中船を確認した。まず小船と言われている2隻は、全く同じ装備なのが分かった。デカデカと誰が見ても分かるように、カタカナでレーダーと書いてあるボタンを押すと、モニターに上からオレ達を見下ろすような映像が見えた。


 そして広域ボタンがあり、押して行くとマックス50キロの広域で映し出された。まあ50キロになれば、砂粒くらいの大きさにはなったが。


 そして船の中は操舵室の下に階段があり、中は超豪華そうな椅子やテーブル、何が動力か分からないシャンデリアとか付いていた。


 そして、全て畳なのである。最早この時代では豪華客船と言えるレベルだと思う。この1隻で日本の海を牛耳れる気すらする。


 旗艦のガレオン船みたいな方は旗こそ付いてないが、まんま海賊船だ。ただ違うところは船首と船尾に、砲塔の長い艦砲が装備されている。


 説明書によればイージスシステムらしい。この旗艦の武装はこれだけで、後はレーダーが付いているだけだ。ただ子船の3倍くらい大きい。


 居住空間もかなりのものだ。同じく畳の部屋に冷蔵庫やシャワールーム、なんなら簡易キッチンらしき物まで付いてある。この船で暮らそうと思えば暮らせそうな気すらする。


 「剣城よ?これを超える船を俺達が・・・」


 国友さんがやる気がしょげてるのかな?確かにこれを超える船は・・・。


 「確かにこれを超える船を造るのは──」


 「てやんでい!馬鹿野郎!チキショー!超えてやる!剣城は俺を本気にさせたな!?明日には九鬼や岡部も戻ってくる!見せてやる・・・俺の本気というやつをな・・・ふふふ・・・ははは・・・はぁーっはっはっ!!!!!」


 おいおい!?国友さんは狂ってしまったのか!?


 「とりあえず・・・なんか他にも特別にいただいた物があるので、出しますね?多分、使い方は芳兵衛君が分かると思いますし、説明書もありますので使って下さい」


 船と一緒に入っていた物もあった。最早100万以上の価値があるだろう。というか、農業神様達はわざと俺達が発展するように、間接的に働き掛けてくれているようにすら思う。


 入れてくれていた物は溶接機やプレス機、樹脂やガラス繊維などだ。多分、国友さんは船の本を見て、タンカー的なのを造りたいのだと思う。


 男はいつだって大きさに拘る性格だ。だが現実的に一発目からは無理だ。そもそもエンジンも全然だし、ジャイロコンパスや空調、気密性なんかもまだまだだと思う。


 徐々に成長していけばいいと思う。そもそも今の時代では、鉄甲船ってだけでかなり強いだろうと思う。後はバランス良く仕上がってくれれば御の字だ。


 「後もう一つ。この場所での船作業はやりにくいでしょう?オレが居るから運ぶのには困らないけど、これから船大工だけでしてもらわないといけないから、剛力君に言って那古屋に港を作ります」


 「確かにあのどでかい船が入れるようにしなければ、陸に上がれなくなるからな。分かった。その辺はこっちで話し合い決めるとする」


 「はい。よろしくお願いします。頑張りましょう!」


 このようにして始まった本格的な船造り。九鬼さんや岡部さんはまだ帰って来ていないが、いつくらいに出来るのか楽しみである。


 この太陽が陰りだした時に、喜左衛門を確認しに行く。例の喋る蜘蛛さんだ。どうなっている事やら・・・・。


 「きゃっははは!!それ可愛いね〜!!」


 「本当によくできた蜘蛛ちゃんだわね!?」


 入り口前から聞こえるご婦人方の声・・・。ここに居る人達は本当に何なんだ・・・?蜘蛛が喋ってるんだぞ!?軽くトラウマレベルじゃないのか!?


 「お疲れ様です。失礼しま・・・・」


 「おっ!?剣城様!何用ですか!?あっ!このジャンパーとか如何です!?」


 うん。めっちゃ親しくなってるんだが!?例の蜘蛛さん・・・。あんたは蜘蛛なのに服を着るのか!?


 「あ、ありがとうございます。様子を見に来たのですが・・・問題なさそうすね」


 「人間様・・・いえ、剣城様?わっちをこのような重職に就かせていただき、ありがとうございます!皆様の日々の服、タオル、戦闘服など、これからわっちに任せて下さい!」


 「え?あ、うん。よろしくね?そんなに気張らなくてもいいからね?それで寝床なんだけど──」


 「いえいえ、わざわざわっちの為に建てていただかなくとも、自分で出した糸に包まって寝るだけで、幸せでございます。こんな皆様に囲まれて、わっちは幸せ者でございます」


 あぁ〜・・・なんだか切ない・・・。この子も人間ならばと思ってしまう・・・。


 「食べ物だけどオレ達と同じ物でいいのかな?」


 「わっちは食べれる物ならば何でも構いません!捨てるような物でも大丈夫です」


 「それはダメだよ。後でオレの仲間の料理人に言っておくから、好きな物を言うといいよ?大概は作れると思うよ」


 「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」


 「とりあえず、蜘蛛さんって言いにくいから名前決めたいけど、ここの皆と仲良くなってるみたいだから皆に付けてもらいな?喜左衛門さん?任せてもいいですか?」


 「はっ」


 「じゃあ後はよろしくお願いします。たまに見に来ますからね?おや!?そこのご婦人!確か・・・きよさんでしたね!?肌艶が良くなりましたね!?長生きして下さいね!」


 「まぁ!?剣城様!?そんな事は若い時に言っとくれ!近々、剣城様専用の戦闘服渡すから楽しみにしてて下さいね?ふふ」


 「ありがとうございます。楽しみにしておきますね?では失礼します」


 最後の言葉はリップサービスだ。まあただ、本当にあのきよさんっていうお婆ちゃんは、肌艶が良くなったように思う。長生きしてほしいもんだ。




 そしてこの日の夜。いつもの如くオレは城に呼ばれ、奇妙君から聞いたであろう船の事をこっぴどく怒られた。


 「何故そのような楽しそうな事に、ワシを呼ばぬのだ!貴様は何回言えば分かるのだ!!」


 「いやこれでは足りぬ!何回でも言おう!貴様は…………」


 「ワシの前に現れた時からそうだ………」


 「カレーの事も………」


 「うなぎの事も…………」


 と軽く1時間は怒られ、要は明日、那古屋には信長さんも付いて来る。ワシが運転する!との事だ。そして必ず怒られた後は、『カレーを食って行け』と言われるのが恒例だ。


 「もう良い。明日は朝から動くぞ!寝坊するなよ?そうだな・・・今日はもう遅い。カレーを食って行け!」


 「は、はい!ありがとうございます!」


 内心カレーには飽き飽きしてるが、そんな事は言えない。





 そして迎えた次の日の朝・・・というか夜中・・・時間は3時。突然遠藤さんがオレの家に来た。


 「剣城殿?起きてますか?」


 この声で起きた。タイムスリップ前なら起きる事はなかっただろうが、この時代に来て神経が過敏になったのか、寝ていても物音で目が覚めるようになったのだ。


 「え?遠藤さん?どうしました?」


 「なんぞ!まだ寝ておったのか?早う顔を洗え!出発じゃ!!」


 うん。天上天下唯我独尊さんですね!?こんな時間から行くのですか!?


 一緒に那古屋に向かうのはオレ、信長さん、遠藤さん、佐々さん、利家さん、慶次さん、小川さん、金剛君だ。


 「がははは!早駆けとは気持ちが良いのう!そう思わぬか?剣城よ!」


 「は、はい!そうですね!」


 気持ち良くないわ!寒いわ!雪こそ降ってないけど多分、気温は2度くらいじゃないのか!?こちとらまだ眠いわ!!


 「これで・・・これで貴様が言った薩摩豚という肉が食えるのだな!!!」


 いやいや覚えてたのかよ!?マジで薩摩に行くのか・・・。ってか食いしん坊になってしまったよな・・・。そもそもなんでオレは薩摩豚とか言ったんだろう?今の時代に豚とか居るのか!?島津さんに斬られたりしないのか!?


 「誠、あの聞かん坊の慶次が剣城には従っておるのだな?」


 「叔父御?それはなしだぜ?今や俺は警備隊隊長でもあるのだぞ?」


 「ふん。どうせ昼間っから酒飲んで遊び惚けておるのだろう?剣城よ?此奴には厳しく行け!何か文句言うなら俺に言ってこい!」


 「ははは!慶次さんは頼もしいですよ!いつも酒が入ってるのが気になりますがね?」


 「おいおい!確かに酒は入ってるかもだが、仕事はちゃんとしてるぞ!?」


 真っ暗な中、当初は道と言えなかった場所が今や、皆の力によりそれなりに道と言えるようになった所を、疾走する。皆の馬は勿論、ノア嬢が眷族にした馬達だ。


 "キャハッ♪剣城っち?楽しいね!走るの気持ち良いね!"


 "そうだな。少し寒いけどね?"


 "キャハッ♪後で甘えさせてあげるね♪"


 いや甘えたくはないのだが!?

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