はるか斜め上の人
「徳川の坊ちゃんに書状は出している。まずは断りはしないであろう。これを断るようでは遠江も武田家の手に渡るであろう。で、まずは武田家は駿河 富士郡の大宮城を攻める。それと同時に徳川の坊ちゃんも駿河に向けて進軍させる。頃合いを見て、武田は東に進路を取り、小田原を包囲致す」
「小田原攻めですか?それに東に向けてしまえば駿河は奪取できないのでは?
まぁ駿河侵攻は概ねこれは史実の通りだと思う。が、これは失敗するぞ。
「駿河に関しては気にしなくてよい。瀬名、朝比奈、葛山は既に武田に内応している。仮に内応していなくとも問題ない。城攻めは兵が守備兵の3倍は必要だ。が、援軍無き籠城は沈みゆく泥舟と同じぞ。
で、小田原だが、ここで北条と上杉の同盟が生きるやもしれぬ。武田と上杉も同盟は結んでいるが、あの戦狂いがどう動くか見当がつかん。よって、上杉を牽制するためにどうしても武田は兵を分けなければならぬ。
小田原は上杉兵10万でも落ちなかった堅城だ。そこに織田の夢幻兵器部隊が合流すればどうなる?ワシは聞いた事しかないが、城門を一瞬にして無に帰す兵器があるのだろう?」
「ありますよ。ですが全てに効果があるわけでは・・・」
「その言葉が聞けただけで良い。練兵はどのくらいかかる?」
この人は途轍もない人だ。武田、上杉、北条、今川、この四家の力関係を壊そうとしている。それを徳川、織田、西に東にと全てを巻き込んで成そうとしている。しかもどれもこれも素人のオレでも成功しそうに思えてしまうのが怖い。いや、既にさっき言われた3人は内応していると・・・。
武田信玄・・・マジでこの人凄すぎる。スケールが大きすぎる。
「どうでしょう・・・オレの一存ではこの案件は決められません」
「で、あろうな。一度持ち帰っても良い。が、ここでお主が決めてもお主の主君は許すのではないのか?織田信長とはそういう男ではないのか?西は毛利とも伝手があると言っていたよのう?」
この人はダメだ。本気にさせると本当にオレが遠慮せず兵器を使ってもあの手この手で飲み込んできそうだ。
しょうがない。これこそバレるとコウモリ野郎と言われるだろうがバレなければ大丈夫なはず。確か氏真の奥さんは北条家の早川って人だったか。
史実ではその駿河侵攻で輿にすら乗れず裸足で逃げる事になった事で北条は武田にブチギレしたんだっけ。
その時に織田が丁重に助け、朱華さんを使い海から届ければ織田とは分からないはず。
「伝手はありますが、上杉家と同じですよ。今は商いの関係だけです。ですが、先程の話では織田家にはそれ程、旨味が少ないように聞こえますが?」
「ふん。気付いたか。いや、許せ。織田は今の領土で満足はせぬであろう?最近やたらと越前から人が流れて来ていると聞いた。狙いは越前だろう?ならばその折には武田から1万の兵を無償で出そう。それに、その兵を一陣にしてもよい。それで仮に敗れようとも文句一つ言わん。これでどうだ?」
「そのように信長様にお伝え致します。ですが、夢幻兵器と巷で言われている兵器は全てオレの配下が作っております。恐らく、オレの兵を直接派遣するのならばとなると思います」
「・・・まぁそれでも良い。お主は何日甲斐に居る予定だ?」
「当初の通り14日を目処にしております」
「相分かった。その折に松も連れて帰れ。道中の警護は武田の兵で行う。ふん。誠、面白い掛け合いだったぞ。武田とすれば、上杉に兵器を売らないというだけで、松を連れて帰っても良いと思ったのだがな。それに武田の女は皆、素養がある。松が特別という訳ではない。これはこれから良き同盟者としての忠告だ。お主はもう少し謀りを学べ。まるで童じゃ」
なっ!?クッソ!演技なのか!?あれがか!?
「その顔はなんだ?男に二言はないよのう?(グワッ)」
「・・・ック。はい・・・先程の通りに・・・。ただ信長様に通してからになることはご了承ください」
「良い。ではこれからは織田の治世を聞かせてくれ。逆に甲斐の聞きたい事も聞け。答えられる範囲は答えてやる」
これまでの出来事は、オレがタイムスリップした事により、本来無かっただろうと思う事も起こりはしている。
その史実で起こる事象が早くなったりはしているが、概ね史実通りだと思う。だが、明らかにこの武田の駿河侵攻で織田の・・・正にオレが組み込まれる事は史実にない。もしかすれば本当に小田原を破り、北条を武田が撃破してしまうかもしれないんだよな。いや待てよ。
信玄の病気も早まる可能性だってあるんだよな?てっきりオレはいつかは武田と戦う事になるかもしれないと漠然と考えてはいた。それは三方ヶ原と勝手に思っていたが、違う可能性もあるわけだよな。
戦で武田と戦えば明らかに危ない。この人の考える戦とはなんなのだ?
「では一つ質問です。武田様の考える戦とはどういうものですか?」
「戦とはその戦になるまでにいくら頑張ったかという事の結果だ。童のお主に分かりやすく言えば、もし織田と武田が戦になるとしよう。まずワシは徳川を調略するだろう。それと同時に美濃より西側に色々と工作を仕掛ける。近江、越前とな。そして伊勢の豪族等にも援助し、各地で蜂起させる。
武田と戦う兵を少しでも減らすのだ。且つ、武田に向ける目を少なくする。後方にも目を配りワシと敵対するのはいくら飛ぶ鳥落とす勢いのお主の殿も中々に骨が折れると思うぞ?油断すればワシは全部喰らってしまうからな。それが戦だ」
「・・・・・・」
「要は勝てる盤面を先に作ってしまうこと。それが凡ゆる方面から妨害が起ころうと少しの失敗があろうとも揺るがぬ盤面をだ。ただの同盟?弱いな。人質同盟?これでも弱い。政略結婚?鼻くそだな。ならばどうするか。情じゃよ」
「情ですか!?」
「まぁ薄情な者も居るだろうが、情を捨てられる人間は居ない。なんせこのワシでも情だけは捨てきれんからな。情を絡めた同盟は強固だ。その情はどうやって築くか。それはどのくらい相手と話すかによって変わる。此度の織田との同盟は長きものになれば・・・良いのう?(ゴホッ ゴホッ)」
この人は危険だ。こういう言葉も何か意味を持たせているように思う。だが、この戦国時代へタイムスリップして結構経った。戦国で一番、二番と言われている武田信玄が率いる武田軍を兵器の差はあれど、撃破してこそ本物だと自分自身が思ってしまう。
まずはこの人の事を知ろう。間違いなく目の前に居る人はオレが出会った事がある人の中で、信長さんよりかも巨大な人だ。
本当はこの話の流れで日本住血吸虫の事を聞こうかと思ったが、敢えて言わないことにした。武田からの要請という形で事を成した方が良さそうな気がしたからだ。武田とは付かず離れずが良いと思う。
それから美濃や尾張での人の流れや商店の事、市場の事など当たり障りのない事をそれらしく言って二人での会話は終わった。昼過ぎかと思いきや、案外話し込んでいたようで、既に夕方となっていた。
少しの休憩をはさみ、夕餉はこの館にて振る舞ってくれるそうだ。
〜信玄私室〜
「来たか」
「はっ」
「四郎。それに秋山。お前達を呼んだのは他でも無い。餌は蒔いた。まずは、駿河侵攻を匂わせた。かの者には悪いがまさかこうも簡単に信じるとはな。あの戦狂いとならこうも容易くはなっていないであろう。秋山は見事沈黙を貫いたな」
「はっ。徳川と織田は同盟とはいえ、その上下が存在すると自分は思っておりました。それに織田からの荷を運ぶ者は剣城という部隊の大膳と呼ばれる者だと」
「うむ。先も話している時に言っておった。夢幻兵器は主にあの男の配下が作り、運用もあの男の部隊だとな。あれを封じ込められれば容易い。それに・・・(パサッ)」
「こ、これは!?」
「将軍からの書状じゃ。改元したいそうじゃ。で、武田も一度、京に来いって書状じゃ。銭は織田が作る新しき円じゃから、武田からは銀や金を要求している」
「舐めていますね」
「征夷大将軍じゃからな。武家の名目上頭だからな。仕方あるまいて。じゃが、この文で分かった事がある。この将軍は織田の力なくして将軍にはなれなかったであろう。が、早くも我が儘を言いよる。少し焚き付ければ御し易い」
「軍略ここに極まれり!将軍をも手玉に取るというのですな!?」
「人聞きの悪い。ワシは飽くまで、『将軍足るお方がこのまま織田の言いなりになるのか?』と言うだけじゃ」
「ならば、わざわざ織田と同盟なぞしなくとも・・・」
「四郎よ。ワシをガッカリさせてくれるな。織田の良い所は素直に受け入れよ。負けは負けと認めるのだ。その良い所を真似だと言われ様が馬鹿にされようが、織田を追い越せば、刻が経てば皆の意見も変わる」
「この同盟は短くなりそうですな」
「ワシの見立てでは1年じゃな。その間に織田の良い所は全て吸収致す。その為にワシと姿、形は似ておるが性格は正反対の信廉を遣わせたのだ。まずは飢えさせぬようにせぬとな。兵糧を憂う事がなくなればどれ程、楽になるか」
「ですが、その同盟が終わった時に、松はどうするのでしょうか?そのままあの男に連れて帰るように言ったとか?」
「娘1人で相模を切り取り、駿河を奪取できるなら安いものだ。それに上手くいけば、あの男は敵にも甘いと聞いておるからな。松を生かしておくやもしれん。そうなれば連れて帰る事も可能じゃ」
「では・・・本当に?」
「まだ早い。あの戦狂いも巻き込んだ盤面。彼奴が動くかは分からぬ。織田と北条は何も伝手がないと踏んでいるのだ。このまま普通の同盟を成せばいずれ繋がる。織田の商業だけ・・・。こればかりは100年経っても甲斐では勝てん。それに銭を牛耳る織田。だが、その銭のせいで将軍はお飾りだと誰が見ても分かる」
「本当に将軍も巻き込むおつもりですか?」
「いやそれだけじゃ足りんな。ワシは武田の兵を使い越前を攻めるなら無償で使っても良いと言った。織田は動き出せば早い。
その決断力が仇となる。将軍の許可なしに越前を攻めれば将軍は気分悪いじゃろうて。
それに近江の小僧は中々器量があるようだが、譜代から朝倉と懇意にしているだろう?織田がそんな事を気にするはずはない。そうなれば近江の小僧に疑心が生まれる。
これはあの戦狂いとの戦より大きな盤面ぞ。抜かるなよ?動く時は動く。疾きこと風の如く、侵略すること火の如く。だが今は、静かなること林の如しだ。
戦は始める前に決着をつける。四郎!覚えておけ」
「はっ!」
「秋山は他の家臣等に気取られるなよ。飽くまで今は織田とは同盟だ。これが成らなければ、この作戦は破断と心得よ」
「はっ」
〜神界モニタールーム〜
「がっはっはっ!誠、面白い世界線になるようだのう!」
「少し弄ったんだなぁ〜。今、我が兄弟を世話するヒューマンの子供は本当はまだ産まれてなかったんだなぁ〜」
「事象を早くしたんだったかのう?我が盟友よ?」
「そうなんだなぁ。あのヒューマンは今後は我が兄弟とは切っても切れない関係になるんだなぁ〜」
「試練だったか?盟友がそんな事をするのは珍しいのう?」
「これも我が兄弟のためなんだなぁ〜。そこの分岐修正班!我が兄弟が居た世界線の事象を必要なこと、不必要なことと分けて、早くするんだなぁ〜」
「の、農業神様!恐れながら・・・これ以上干渉しては・・・制御が・・・」
「(ポワン)やるんだなぁ〜」
「・・・はぃ」
「だが、あの名無しの言う通り、制御できなくなればどうするのだ?我が盟友が執心のあのヒューマンにも災いが起こるのではないのか?」
「その時はその時なんだなぁ〜。この世界線は戦神が好きな展開になるんだなぁ〜」
「血湧き肉躍る戦か。両陣営が仕掛けをし、雑兵を動かし、頭を動かし、将を動かしそれは万もの数が動き、魂は輪廻に満ち溢れる。がっはっはっ!」
「その中心に居るのが我が兄弟なんだなぁ〜。さしずめ、甲斐地方、越後地方に居るヒューマンは神格さえ持っていれば戦神と同じくらいの統率力があるんだなぁ〜」
「で、あろうよ!だから面白いのだ!」
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