魔法使い卒業

 家に着いた俺達は驚いた。普請途中より大きくなっていたからだ。


 「岡部さん?なんか大きくなってませんか?隣にもう一つ家があるような・・・・」


 「お館様から話が出てた。最近、近江の行商人や熱田の商人、那古屋、北伊勢と色々な人物がお主に会いたいそうだぞ?」


 「え!?それまた何でですか!?」


 「そりゃ数々の物を齎す者と誼を持ちたいからだろう。それで今後の事を考え、隣に増築した場所は要は人を応対する部屋じゃ」


 「まあ分かりました。とりあえず中に・・・」


 中は基本8畳程の部屋が9部屋もあり、別途炊事場、厠は俺が幾度となく言ってた水洗ではないが、木製の洋式便所だ。ただ、俺のケツはデリケートな為、糞の時だけジオラマの家に戻るかもしれない。


 そして地下を本当に作ってくれたみたいだ。と言っても、木製の板を上げると下に向かって階段があり、降りるとただ広い空間があるだけだが。


 「ここがお主が言っていた地下室だ。ここは剛力が手を加えると言っておったから、ワシのこの家での作業はここまでだ」


 「ありがとうございます!完璧です!!調度品やらなんやらは自分で置くって約束でしたので、これでいいです!」


 「まあ程よい調度品を置くのだぞ?さて、次は両替所だったか?どんなのがいいのだ?」


 オレは城下入り口の所に正面はそこそこでいいが、皆から見えない場所に両替用の銭を置きたい為、広めにしてくれと頼んだ。未来の銭湯なんかにある、番台のような机も作ってほしいと。


 「両替所は正直簡素で構いません。隣の宿の方はまたここに来て泊まりたいな!と思われなければいけません」


 「そう言ってもどんな作りがいいのだ?ワシは建物しか作れぬぞ?」


 ここは昔泊まったちょっとお高い旅館を思い出せ・・・!ただ、旅館と言えば露天風呂・・・風呂はできるのか!?いや普通ならできないよな。


 黒母衣衆の服の事もあるから、またヘルプで聞いてみよう。


 とりあえず必要な物は疲れが癒せる事、後はやはり飯を堪能してもらいたい。これに尽きるからな。最初だしオレが出したベッドやら布団にするか。後は宿屋が増えれば、値段によりランクを変えていけばいいしな。


 「とりあえず、できれば3階建てとかできますか?1階は飯屋を併設し、私の配下に営業してもらいます。2階には3部屋くらい泊まれる部屋を。3階は1部屋でお金持ち専用の部屋みたいに」


 「分かった。すぐに普請を開始する」


 いや、今の説明だけで分かるのかよ!?まあ途中、見に来て注文しよう。


 「つまらない事に付き合わせてすいません」


 「いや、それは構わないが折角剣城の家を見たのに、何も調度品やら装備が無かったのは残念だ」


 「申し訳ないです。清洲近くの村にも家がありあっちもこっちもで、引っ越しがバタバタしていまして」


 「また住める状態になれば見学させてほしい。剣城がどのような感性を持っているのか見てみたい」


 これはあれか!?オレのセンスが問われているのか!?


 その後、河尻さんとは別れ、建物が完成すれば詳しい事を決める事にした。オレは本格的な引っ越しをする為、クソでかい家に一人入る。


 「ふぅ〜。ゆきさん居る?」


 「はい!ここに!」


 「家ができたよ!何も無いけど。ってか本当にお菊さんは、小見様のお付きになっちゃったの?」


 「そこは・・・ただ、後日凄い事を言われる事になるかもしれません」


 「え?凄い事?なにそれ!?」


 「それは本人から言われると思いますので、その時に・・・」


 何だろう?まあお菊さんが居なけりゃ、ゆきさんとムフフになれるからいいけど!海の方は葛城さん達に任せられるから・・・金剛君だよ!いつ帰ってくるんだよ!?望月さん達もいい加減、帰ってこいよ!?


 「まだ何回か行ったり来たりになるけど、とりあえず色々配置しようか」


 「何か作られるのですか?」


 「オレは剛力君と違うからな。ゆきさんのセンスに任すからどこに何があればいいとか言ってくれない?言われた物を技で出すから」


 「分かりましたッッ!!!!!!」


 おい!?物凄く元気な返事だな!?これは頼む人間違えたか!?


 

 大変だ・・・・こんなに金を使うとは思わなかったぞ・・・。


 「そして、ここに例のファッション誌の裏に書かれている運気が上がる壺を購入しましょう!その横に剣城様に一筆書いてもらい、掛け軸なんかもよろしいですね!」


 壺か!?え!?壺なのか!?あんな理論も何もない馬鹿高い壺を買うのか!?


 オレが現在進行形だけど購入した・・・いや購入させられた物は次の通りだ。



 《神様印 天使のベッド布団付き》


効能・・・・天界の雲をイメージして作られた寝具。使用者の体を重力から解放させ、完璧な睡眠が取れる天界で1番の人気商品。



 《テーブルセット》


効能・・・・派手すぎず地味すぎないテーブルとイスのセット。座り心地がいい。


 《ふかふかソファー》


効能・・・・来客をこのソファーに乗せると驚かれる逸品。格の違いを見せつけられる。


 《王者のカーペット》


効能・・・・虎の模様をあしらえた虎柄のカーペット。一目見た者を魅了する。


 大きな物はこのくらいだが、細々した物を延々と言われる。シャンプーや石鹸、洗剤とな?フライパンやら鍋など要は、ジオラマのオレの部屋にあるような物を色々言ってきた。


 いやそもそも王者のカーペットとは何ぞ!?カリスマか!?オレもとうとうカリスマになるのか!?


 「あっ、どうせならポータブル電源で電気とかも置きたいです!充電は太陽でできるのですよね!?念の為にポータブル電源を10程予備で置いておけば、梅雨の時期でも使えますよね!?」


 「う、うん。そうだね・・・」


 そこから更に大容量ポータブル電源を購入させられ、スポットライトやらドライヤーやらを買わされ、気付けば私物の購入で200万近く使っていた。


 「ちょ!ちょっと待って!残金がもう100万切ってしまうからストップ!」


 「あっ、すいません!私ったら欲しい物、次から次へと・・・」


 「いや、それはいいんだけどもう少し落ち着いて買おうな?また草集めや石集めか何かするから、金ができれば購入してあげるから!とりあえず組み立て配置しよう!」


 まさかこんなに使うとは・・・女は恐ろしい。この時代の金はかなりあるのに、使える金が少ないとはこれ如何に・・・。


 それから夕方まで掛かりながら、なんとか購入した物の配置を終えた。


 「やっと終わった・・・・」


 「すいません、私のせいで・・・」


 「いやいやいいよ。これから一緒に住む訳だし。今日はどうしよっか?清洲に戻る?」


 「・・・・・・よろしければここで泊まりとうございます」


 これはあれか!?ゆきさんがオレを試しているのか!?


 少しピンクな雰囲気になりつつ、飯の事を考える。


 「飯どうしよっか・・・腹減ったね」


 「そうですね・・・食材があれば私がお作りするのですが・・・」


 「我が君!!!」


 「うわっ!ビックリした!小川さん!!」


 「がははは!誠、良い部屋になりましたな?あの我が君の部屋にそっくりですじゃ!っと、カップラーメンです!今宵はこれでゆきと熱〜い夜を!ではワシは今宵は野宿致します故・・・ゆきッッ!!!はっするじゃ!がははは!」


 「いや、小川さん!ちょっと!!?」


 「剣城様・・・・」


 いやこれは小川さんに感謝すべきなのか!?とうとうオレも魔法使い卒業するのか!?婚前交渉はだめと言われたが、もう結婚したようなもんだよな!?オレ頑張ったよな!?いや待て!作業したから臭くないか!?風呂入らなくて大丈夫なのか!?


 その日の夜・・・。オレは人類で選ばれた者のみ装着が許されるコ○ドームを購入し、買ったばかりのベッドに入る。ベッドの大きさを考えず一つしか買ってなかったが、多分これはキングサイズぐらいあるデカイベッドだ。自然とゆきさんも横に来てくれる。


 「剣城様?我が儘言って本日はすいません」

 

 「べ、べ、別にだ、だ、大丈夫だし!」


 「剣城様・・・何か変ですよ・・・」


 オレは頭の中で現代アニメのサ○エさんに出てくるキャラクターの『よーし俺も男だ!』って言葉が思い浮かぶ。


 「ゆきさん・・・。ごめん、無理かも・・・」


 オレは半ば強引にキスをした。ゆきさんは嫌がるどころか逆にオレの首に手を回し、受け入れてくれたと思う。



 「そう!そうじゃ!我が君!そこから一気に押し倒すのじゃ!」


 「爺?そこで何をしておられるのだ?」


 「き、菊!?お前こそそこで何をしているのだ!?小見様の所ではないのか!?」


 「私は本日、剣城様の岐阜の家が引き渡しされたと聞き、且つ本日はこちらでお休みになられるかと思い暇をもらっただけの事。して、爺は?」


 「いかん!今はいかん!我が君が男になる時なのじゃ!」


 「男?・・・・まさかっ!!!・・・・・いや、もう大殿にも認められたから夫婦でしたね」


 「どうしたのじゃ!?ワシは身体を張って、止めようとしたくらいじゃが!?」


 「覗きはやめなさい!明朝また来ます」





 オレは必死にゆきさんを喜ばそうと頑張った。風呂に入れなく体を拭いただけだからか、少しお互い汗の匂いがするが、ゆきさんの匂いは嫌いじゃない。むしろ安心する匂いだ。少し小川さんの匂いもする気がするが。それに視線も感じる気がするが。


 この日オレは苦節30年・・・年が変わったから31歳かな?苦節31年・・・オレは魔法使いをやっと卒業した。所要時間は自分でも情けなくなる、5分くらいだったと思うが。


 「剣城様・・・私今一番幸せです・・・」


 ゆきさんが浮かべた涙は悲しい涙ではなく、嬉しい涙だと思う。無性に愛おしい。オレはこの人を一生守る。帰る方法があっても二度と帰らない!

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