夢にまで見た温泉

 その日、久しぶりにオレは夢を見た。


 「やぁ我が兄弟」


 「あっ、お久しぶりです!」


 「あら?人間君?久しぶりね?」


 「芸術神様もどうされましたか!?」


 「最近呼ばれないからつまらないの」


 いやつまらないのかよ!?やる事いっぱいあるんじゃねーの!?


 「丁度いいところでした。とある部隊の専用の服が欲しくて・・・。ただそんなに今手持ちが無いので、お安く作れませんか!?黒色にしていただけると助かります」


 「いいわよ?何着くらい必要かしら?」


 心なしか農業神様と芸術神様がくっついているように見える。進展したのか!?


 「とりあえず20着程お願いしたいです」


 「分かったわ!少し待っててね?」


 芸術神様が光に包まれて消えて、農業神様と二人になる。


 「農業神様、本当にお久しぶりです。休暇はいかがですか?それと芸術神様とは!?」


 「休暇は本格的に飽きてきたんだなぁ。ヴァルハラのお土産を持って来たんだなぁ」


 農業神様が渡してくれたのはとんがり帽子だ。ゲームや漫画なんかに出てくる、魔法使いなんかが被ってるような帽子だ。オレはこんな帽子初めて見た。なんならついさっき魔法使いから卒業したんだが!?


 「この帽子をくれるのですか!?」


 「この帽子はいい装備なんだなぁ。日焼けはしない、オーディンの様になれる帽子なんだなぁ」


 いやいやオーディンってあのオーディンだろ!?オーディンの様になれるってどういう意味だよ!?


 「何か能力が上がったりするのですか!?」


 「いや?何も変わらないんだなぁ。後、ルーン文字が分かるようになるんだなぁ」


 いやいや嬉しいよ!?こんな帽子中々ないから嬉しいよ!?だけど、なんちゃってかよ!?槍の腕が上がるとかならまだしも。それにルーン文字ってなんぞ!?そんな文字見た事ねーし!!?


 「あ、ありがとうございます。休みの日なんかに被らせていただきます」


 「待たせたわね?これなんかどうかしら?貴方の時代背景にも合ってると思うわよ?」


 「え!?カッコイイんだけど!?」


 「あら?嬉しい事言ってくれるわね?眷族にも伝えておくわ」


 「代金の方は・・・」


 「今回はサービスでいいわ。実は農業神と付き合う事になったの」


 「おめでとうございます!!」


 「ありがとうなんだなぁ」


 「芸術神様もありがとうございます」


 「いいのよ?神界、天界、アースガルドは暇なの。100年くらい農業神と暮らしても楽しい方が勝りそうだからね?まあ頑張りなさい?人間」


 「我が兄弟、そろそろ仕事においも戻るから、またお願いなんだなぁ。後・・・おいからのプレゼントなんだなぁ。目が覚めると見てほしいなぁ。さよならなんだなぁ」


 気付けば二人は光に消えオレは目が覚めた。外は少し明るくなっていて、オレが起きるのと同時にゆきさんも起きた。


 「剣城様、おはようございます」


 「うん!おはよう!」


 気付けば自然にキスしてしまった。幸せな朝だ。この朝なら無限ループしてもいい気がする。


 「我が君!!おはようございます!!小川三左衛門が朝の挨拶に参りましたぞ!!!」


 いやいや何でこんなにテンション高いんだよ!?いつ現れたんだよ!?戸締まりしてただろ!?そういえば農業神様が何か他にもくれたけど何だろう?


 オレは、タブレットを起動してボックスを確認すると、温泉の素という物に気付く。


 「嘘!?これはまさか!?」


 「剣城様、ゆき?おはようございます」


 「あっ、お菊さんおはよう!久しぶり!」


 「そんな朝からびっくりした顔してどうしました?」


 「いやいや!これはまさかなんだよ!革命が起きるかも!」


 俺は早速説明を見てみる。


 《温泉の素》


効能・・・・太古の時代。地球には生命の源、水があり、全ての生命は水から生まれた。その命の水を地熱で温められたものが温泉である。かつて神々が降臨していた時には、神々個人の源泉があったと言われている。その一つ、農業神が愛した濁り湯の源をここに・・・。



 いやいや!?凄いよ!?これは凄いが壮大な説明は何だよ!?農業神が愛した濁り湯は分かるが、その続きが知りたいんだよ!?


 物は試しにオレは早速この温泉の素とやらを家の裏の広大な庭・・・じゃなく雑草が生い茂っている場所に撒いてみた。ってかこれはご飯にかけるふりかけみたいなんだな。すると、ふりかけた所から水道水くらいの勢いで水が出てきて、触ってみると・・・。


 「え!?マジで湯じゃん!?本当に温泉が出たの!?やった!!農業神様!ありがとう!!」


 「うん?これは・・・未来の九州旅行のガイドブックに書かれていた、温泉ではないですか!?」


 「お菊さん!流石!その温泉だ!!野田さんに言って、すぐに温泉施設を作る様に言ってくれる!?大至急だ!!」


 オレは嬉しさのあまり興奮してしまった。オレがこんな大至急とか言う事なんて無いから、気付けば野田さん、新城さん、多喜さん、高峰さん、内貴さんと新旧甲賀の工兵班・・・。今は建築になっているが、全員で作業をしてくれたお陰でまさかの半日で家が出来た。家というか温泉施設だが。


 「まさか1日で・・・皆さん!ありがとうございます!清洲の村の酒、好きなだけ飲んでいいですよ!!マジで嬉しい!」


 「ははは!まさか何を作られるかと思いましたが、湯が出ているとは思いませんでしたぞ?酒はいいですからたまに我らも入らせて下さい!では他にもする事が山程ある故、御免!」


 そう言って、急遽来てくれた工兵班は散っていった。


 オレは嬉しさいっぱいで、農業神様がくれたオーディンの帽子とやらを被ってみた。


 「どう!?似合う!?」


 「えぇ。まぁまぁ」


 「た、大変お似合いかと」


 「がははは!20は歳食ったように見えますな!?それでも我が君は我が君ですぞ!」


 なんだよ!?似合わないって事か!?失礼だな!?もういいわ!!


 「お菊さんはまた城に戻るんだろう?」


 「その事でお話があります」


 「お邪魔しますわね?まぁ!なんて立派な足拭きかしら!?これは何ですの!?」


 丁度いいタイミングで小見様が現れた訳だが・・・側女さんがフィーバーしてるんだが!?


 「みき?おやめなさい。婿殿のご意見番の家ですよ?」


 「し、失礼致しました」


 いや側女さん・・・みきって女は王者のカーペットを足拭きと思っているのか!?しかもこれを立派と思うのか!?この人もカリスマだな!?


 「夕方に悪いわね」


 「小見様こんにちわ。こんな格好ですいません」


 作業服のままで応対となって恥ずかしいんだが!?オレは結局何もしなかったけど。


 「実はお願いがあります」


 小見さんが言うには城に篭もりっきりで面白くない、皆が頑張ってるのに一人だけ何もしないのはダメだ。


 婿殿(信長)の覚えの良い家臣が新しい家を作り、そこには下女や下男が居ない。小見さんが下女、下男の統括になり芝田家のやる事を手伝うと。それと・・・ゆきさんにも目を掛けてくれているそうな。


 「ゆきも、菊も忙しい方。女だから男だからは婿殿は関係ない。この立派な家を守る者に人員を割く余裕は、あまり無いのじゃないですか?」


 「流石です。今は猫も杓子も必要なくらい、人が足りていません」


 「では決定ですね。妾は・・・私は城から降ります。婿殿には私から話をつけましょう。そうすれば帰蝶もたまには、息抜きに来やすいでしょう?」


 this isは!?なんで濃姫さんがオレの家に休みに来るの!?濃姫さんと言えば信長さんもセットだろうが!?オレが休まらないんだけど!?


 「ははは!家に居てくれる人が居て私も安心します!よろしくお願いします!」


 口ではこう言うけど泣きそうだよ!!?俺の愛の巣が・・・・。この日の夜、本当に小見さんと側女さん一人が俺の家に引っ越して来た。まあ部屋はかなりあるし、気を利かせて忙しい剛力君が『手が空いたら地下の部屋を拡張し、そちらをお二人の部屋にすればよろしいかと』と、どこかの大膳より気の利いた言葉をくれたので、お願いしようと思う。それと丁寧にも信長さんから手紙もいただいた。楷書で読みやすい手紙だ。


 【義母殿が岐阜の為、織田の為、降城する故、暫しお主の家に住まわす。万事抜かりなく。降城するとはいえ、下民になる訳ではない。毎日もてなせとは言わぬが歳も歳だ。ゆっくりさせてほしい。帰蝶も大変喜んでおる】


 と書かれていた訳だが・・・信長さんはマジで小見さんに頭上がらないんだな。まあいっか。小見さん優しいし、俺の事知ってる人だからな。


 「ゆきさん?小見様に色々教えてあげてくれるかな?それと、温泉の事教えて入って来ていいよ!ってかここが城の端で良かったよ。あんな、作業してたら誰かに見られるか不安だったんだよ」


 「爺がたまにこちらに来る人を散らしてましたからね。では初めての温泉とやらを試してきます!」


 本当はオレが1番に入りたいけど我慢!オレは最後に堪能してやる!湯を通す配管に濾過装置として野田さんが大分の旅行本に書かれていた自然の温泉の事を真剣に読んで即席でこの装置を作ってくれたけど多分大丈夫だろう。排水は岐阜城横の長良川に垂れ流しではあるが、いくようになっている。オレも早く入りてーな!!

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