伝説の剣豪

 〜本圀寺〜


 「「「「オォォ─────ッッッ」」」」


 「ムムム・・・これはいかん!東側の兵をこちらに・・・」


 「「「オォ────ッッッ」」」


 「何!?あちらもか!?(チッ)早くも総攻めか・・」


 「十兵衛!!東側はワシが指揮を取る!狙いは正門のお主の所だ!」


 「この人数差・・・耐え切れるかどうか・・・」


 「泣き言を言うでない!らしくないではないか!」


 「あっ!鞠!!?」


 「お清さんは来ちゃだめ!!ゴホンッ。無礼を承知で失礼しますッッ!!私は芝田剣城様 支配内の鞠と申します。すぐそこに剣城様が救援に来て下さっています。『本圀寺を守る指揮官に伝えてくれ』と言われましたので、お伝え致します」


 「やはり其方は芝田殿の配下の者だったか。いや、それよりどうやって伝令を出したのだ?」


 「それは・・・また後日、言います。これより、数名の者がこちらに参ります。その者達を『防衛の最前線に置き、各々奮戦されたし』と、いう事です。織田の大殿様も全速力でこちらに向かっております」


 「うん?数名・・?」


 シュバッ シュバッ シュバッ


 「カァ〜!久しぶりに瞬脚を使ったら疲れたぜ。おっと・・・失礼。手前、芝田家 与力の前田慶次と申す」


 「手前は同じく芝田剣城様 支配内の剛力」


 「某は金剛と申します」


 「ど、どうやってこの中に!?」


 「いやいや、んな事より・・・あんたは、明智さんだったかね?あぁ。喋り方は許してくれ。俺ぁ〜、元々こんなだからな。外は既に敵に囲まれた。囲いを突破してきたが、もう無理だろう。で、あんたは?」


 「前田殿・・・このお方は幕臣で、先代将軍の折の兵部大輔様で、細川藤孝様だ」


 「おっと・・・これまた失礼」


 「いや、良い。それより何か作戦があるのか!?其方の殿の軍は如何程なのだ?織田本隊はいつ参る?三好は明らかに総攻めだ。数刻も保てないぞ?」


 「ウォ──ッッ!!阿波 石井村の太郎!1番乗りッッ!!誰ぞ相手をせい!!」


 「ふん。剛力」


 「はっ」


 ズドンッ


 「あ、明智様!すいません!1人入り込みました!」


 「持ち場に戻れ!その者は討ち取った。いや、それより・・・剛力殿。今のは・・・」


 「あ〜、これは美濃の加藤製作所の試作の片手銃っす」


 「試作!?片手銃とな!?」


 「持ち運びが楽で、威力もその国友銃と遜色ありません。持てる限りお持ちしました」


 「うむ。2人とも聞いてくれ。我が殿の剣城が直ぐにこちらに参る。一点突破でだ。そしてこちらに迎え入れてくれ。細長く、心許ないが鋒矢の陣の一団だ。全身、黒頭巾だ。ちなみに人数は700以上と思っていてほしい」


 「たった700か・・・」


 「数は物足りないやもしれないが、そこら辺の足軽なんかより役に立つ。現に、総攻めの割に俺達が喋れているだろう?既に敵の指揮官級は結構な数を倒している。大軍は怖い。だが、指揮する者が居なければ烏合の衆よ。したらば・・・俺は正門にて入り口を作りましょうかねぇ〜。剛力!お前はすぐに正門前に土嚢袋を積み上げよ!金剛!お前は片手銃の使い方を、味方に教えてさしあげろ!」


 

 


 〜山科〜


 「う〜ん。この先が山科だったっけ?そうでしたよね?」


 「その通りですよ。いやぁ〜、それにしても、このヘカテーの杖というのは素晴らしい!敵の刃を弾き、殴り殺すのも容易い・・・。ふふふ・・・はっはっはっ・・・ハァーッハッハッ!!!」


 いやいや、半兵衛さん!?おかしくなったのか!?


 「ゴホンッ。半兵衛さん。元に戻りましょうか。それで・・・さっきオレの配下の鞠ちゃんに、トランシーバーが通じたから聞いたけど、『三好が総攻めしてきてる』って言ってますけど!?」


 「うむ。申し訳ない。少し自分に酔ったようですな。前田殿、剛力殿、金剛殿を向かわせた。あの甲賀瞬脚の持ち主ならば、囲いが完成する前に中に入り込めたでしょう。そして、私が敵ならば・・・この先の山科に後詰めの兵1万を配置して、東の敵を足留めさせますな」


 「え!?ならその敵と戦う感じですか!?」


 1万の敵は勘弁してもらいたい。


 「ほっほっほっ。まともに正面から相対するのは三下の軍師しか考えませんよ。我等は私から向かって左の・・・山から駆け降りましょう」


 「は!?マジで山越え!?」


 「ほっほっほっ。マジのマジですよ?ほら見てみなさい。坂井殿のやる気を」



 〜坂井目線〜


 逢坂山越えを難無く突破できた・・・。兵の指揮官が居ないだけで、あんなに楽になるとは・・・。


 「先の戦のような突破力じゃな」


 「ふん。坂井に使われるのは小癪な気がするが、指揮は間違いないからな」


 「美濃の小僧だと思っていたが、此程とはな」


 クッ・・・。あの3人はまた好き放題言いやがって!

 

 それにしても、民の避難誘導もしっかりしている・・・あれなるは、大膳殿だったか。剣城殿の子飼いの臣下。小荷駄隊や伝令役など、下っ端がする仕事を率先している者だが、誰もが彼の者を小物扱いしない。

 それに民達の扱いも上手い。寺の住職等をも避難させている中々の者だ。剣城殿も好きにさせているようだ。

 それにしても、戦中飯の握り・・・今回は日高昆布か。何故、日高と言うのだろうか・・・。日高何某という配下が居たのか?


 それにしてもこのブーツというのは素晴らしいな。真冬の雪の中での行軍なのに、足取りは軽い。それに濡れないから凍傷も気にしなくて良い。これを配下の皆へ渡してあげたいくらいだ。戦が終われば、剣城殿へお願いしてみようか。

 妻の美咲にもこのブーツなる物と、ダウンジャケットなる物を渡してあげたいな。


 ザック ザック


 こんなに雪の上だというのに、滑ったりもしないし素晴らしいな。


 「は!?マジで山越え!?」


 「ほっほっほっ。マジのマジですよ?ほら見てみなさい。坂井殿のやる気を」


 はぁ!?いつ俺がやる気を見せた!?


 「坂井さん・・・貴方という人はそんなにオレの役に立ってくれますか・・・本当にありがとうございます!」


 「え!?」


 「ほっほっほっ。今の地馴らしは正に駆けたい証拠。坂井殿を先頭に蜂矢の陣で突入しますか。頼みますよ」


 「いやいや、某は滑らないブーツだなと確認していただけで・・・」


 「ははは。そうやってまたやる気の無いような事を言って、1番功を取るのが坂井さんなのですから!頼みますよ!今回はオレも先頭に居ますので、危なくなれば助けて下さいね!」


 何故だ・・・。何故、毎回こんな事になるのだ・・・?




 岐阜の新式距離単位で言えば・・・後、1キロ程進めば本圀寺の東側に到達できるだろう。それにしても、剣城殿と歩を共に進めるとは・・・。


 「坂井さん!これ見て下さいよ!ドローンの映像なんですけど、敢えて山越えルートで良かったですね!こんな大軍、流石に坂井さんでも突破は難しかったんじゃないですか?」

 

 また剣城殿の夢幻兵器の一つか・・・。確かどろおんという空を飛ぶカメラだったな。


 「さすがに、某もこんな大軍は良くて2段までしか、突破できませんよ」


 「ほっほっほっ。御謙遜を。坂井殿なら突破してしまいそうな気もしますな」


 竹中殿まで何故、俺を買い被るのだ・・・。うん?何の臭いだ?竹中殿も剣城殿も気付いていない?この臭い・・・まさか・・・。


 「剣城殿!竹中殿!敵襲!!」


 ズドンッ スパッ




 「坂井さん!」「坂井殿!!」


 半兵衛さんとオレの声がハモった。坂井さんの『敵襲!』と、掛け声が聞こえたと思ったら知らない中年の男が、鉄砲の弾らしき物を斬ったのが分かった。


 しかもこの人・・・、


 「な、何奴か!!我が君!!お下がり下さい!ワシとした事が気付きませんでした!!」


 「いや、小川さんこそ下がって。多分、敵じゃない」


 「ほっほっほっ。その剣筋は美濃、尾張の警察隊 1番隊の愛洲小七郎殿と同じとお見受け致す。明らかに硝煙の臭いが立ち込めている中に間に立つとは。単刀直入にお聞き致す。敵方か、味方か」


 「自己紹介は後程・・・拙者は敵ではない。それより・・・これより先は鉄砲がかなりの数、向けられておる。それでも歩を進められるか?」


 「だ、誰かは存じ上げませんが、助太刀ありがとうございます。オレは芝田剣城と申します。そして、助けていただいた者は、与力の坂井政尚と申します」


 この中年の人から感じられるオーラが半端ない。信長さんのような禍々しい感じではない。寧ろ優しい感じがするが、そのまま飲み込まれそうな、とても言葉では言い表せられない人だ。しかも呆気に取られたが、慶次さん以外で初めて鉄砲の弾を斬る人を見た。

 かれこれこの時代に慣れて来たから、普通に相対はできるけど、この人が敵ならば・・・オレも半兵衛さんも小川さんも、討ち取られていたと思う。本当に誰だ!?愛洲さんと同じようにはオレは見えなかったぞ!?


 「とりあえず・・・状況は分かっているつもりだ。某が露払い致そう。某は鉄砲は嫌い故にな・・・。其方等は兄弟弟子の誼だ。これより相見えるは・・・雑賀衆であろう。後、数歩進めば・・・敵の殺し間よ」


 はぁ!?この人誰だよ!?兄弟弟子って・・・マジで愛洲さんと関係ある人なのか!?そもそも何でこんな森の中で分かるんだよ!?いや、それより早く本圀寺へ行かないと・・・。


 「誰かは分かりませんが、下がって下さい!危ないです!」


 「結構。結構。これは某が勝手に赴いたまで・・・」

 

 この人はそう言うと息を吸い込み、途轍もない自己紹介をした。しかも敵に向けて・・・。


 「聞けッッ!!雑賀の鉄砲衆共よッッ!!!某は上野国 上泉信綱であるッッ!!義により芝田家に助太刀致すッッ!!!この首欲しくば、自慢の鉄砲で撃ち殺してみよッッ!!その瞬間、撃ち込んだ者の首が飛ぶと心得よ!!我が剣の奥義、とくと味わうが良いッ!!!!」


 「はぁ!?マジすか!?貴方があの伝説の剣豪の、上泉信綱様ですか!?」


 「え!?某を知って・・・」

 

 ズドンッ 


 「甘いわッ!!!」


 スパッ


 狙撃手がどこに居るかオレには分からないが、この上泉信綱さん・・・マジで本物だわ。また弾を斬った・・・。


 「ほっほっほっ。正にその高名の通り・・・剣城殿?後方の甲賀隊を出しましょう。雑賀の鉄砲衆は危険ですからね。密集していてはやられてしまいます」


 「確かに、こちら側が鉄砲を用いる事は毎回だけど、狙われる事がこんなに怖いとはね・・・。部隊の差配は半兵衛さんに任せてるから、お願いします」


 確かに狙撃は怖い。怖いけど、何なんだろう・・・?麻痺してしまったのか、恐怖をあまり感じなくなっている。小川さん然り、金剛君、剛力君、慶次さんは先回りさせて今は居ないけど、後ろにオレを慕ってくれている甲賀隊が、こんなに居るからなのか?

 オレは皆から誇られる将でありたいと思う。だから、弱さを見せる時ではない。


 「後方100人前へ!夢幻兵器にて、敵の狙撃手を排除!この100人を率いるのは隼人殿です!其方は一流の狙撃手であろう!其方が思う絶好の狙撃場所を探しなさい!そして他の者は、これから陣形を崩す事は許しませんよ!蜂矢の陣ッ!!一気に本圀寺まで雪崩れ込みますよ!!突撃ッ!!!!」


 「「「「オォ────ッッ!!!!」」」」

 

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