総攻め
「うぃ〜寒ぃ〜」
「何だってこんな正月なんかに、戦なんて始めるんだ」
「そうだそうだ。折角、餅の一つでも食おうかと思っていたのによ」
「おい!そこ!何を無駄口叩いておる!」
「はっ!申し訳ございません!」
「チッ。組頭もこんな寒い中頑張ってるんだから、怒鳴らなくても良いのにな」
「全くだ。敵は・・・尾張のうつけだったか?こんな大軍を前にして出張ってくるもんか。それにオレ達みたいな小物に、出番なんて来ねーよな」
「全くだ。あぁ〜あ。早く家に帰りてーな」
「おい!お前等!前に来い!何をさっきから・・・グフッ」
ドタ
「へいへーい。組頭もそんなに・・・組頭ッッ!!!?」
「ふふふ。こんな事もあろうかと、焼き石を懐に仕舞ってあったのだ」
「ぬぁ!?お前!ズルいぞ!?寄越せ!」
「これはオレのだ!」
「そこの者!黙れ・・・グハッ」
「て、敵襲!!隊長!!!」
「うめー!お前も食ってみろ!」
「何だ?それは?」
「さっき燃やした、汁粉屋に保存してあった食い物だ!肉を塩漬けにした物だろう!この辺の商いしている店は大概、織田と付き合いがあると聞いている」
「ふ〜ん。織田は随分と変わった物を食うのだな・・・う、美味い!?何じゃこれは!?」
「な!?美味いだろ!?織田ばかりこんな物食ってズルいよな〜。ちったぁ〜、俺達に分けてもらっても良いよな」
「おい!誰が物を食っている!すぐに総攻めの号令が・・・グハッ」
「殿ッッ!!!!」
「カッカッカッカッ!重畳重畳!なんと腑抜けた将か」
「ちょ、ちょっと!ハァー ハァー・・・もう殺ったのですか!?」
「剣城様はゆっくりで構いませんぞぃ!ワッチが短弓にて殺しましたから!」
「おい!春!もう少し待ってさしあげなさい。剣城様は忍びではないのだ。我等のような瞬脚なぞ使えないのだ」
「申し訳ないです・・・。普段から鍛錬はしてるのですが、こうも屋根の上を、貴方達のように飛び越える事が難しく・・・」
オレ達4人は逢坂山を越えた訳だが、敢えて東海道は通らず、山の手側の小関のルートから入った。東海道からは坂井さん先頭に、半兵衛さん、慶次さん等と甲賀隊が続いている筈だ。
「春!もう少しゆっくりしなされ!我が君が疲れでもしたらどうするのだ!我が君!次からはこの小川三左衛門!この小川三左衛門の背中にお乗り下さい!おんぶして連れて行きますぞぃ!」
「はぁ!?何で小川さんが居るんですか!?それに自分で歩くから!!」
「がははは!小川三左衛門!芝田家の筆頭家老ですじゃ!いつ如何なる時も我が君の横に居ますぞ!」
「はぁ〜・・・分かった分かったって!」
小川さんに関しては考えてはダメだ。本当にどんな時も横に居るよな。
「それにしても・・・それなりに指揮官級は倒しているよね。逢坂山に居た小隊は散っているよね?」
「まだまだですぞ!我が君にはもっともっと倒していただきませんとな!がははは!」
小川さんに聞いたオレが馬鹿だったわ。
「えーと・・・聞こえますか?こちら本隊の竹中。剣城殿、聞こえますか?」
「はいはーい。聞こえますよ〜」
オレ達、別働隊が恐らく近江の見張りであろう少数の敵を敗走させ、難なく逢坂山を越え山科の山と山の隘路に到着してから、トランシーバーが鳴った。
そろそろ本圀寺に居るであろう、鞠ちゃんにも連絡ができる位の距離だ。ちなみに何故ここにオレ達が居るかというと・・・。
「多分ここが、赤穂義士の邸宅が建つ所かな?」
「赤穂義士とは、これまた変わった名前の者ですな?我が君はその赤穂何某を探しているので?」
「え?違う!違う!オレが居た世界で、主君に殉じた浪士達の集団の事ですよ」
「ふむふむ。それはどういった者達で?」
「剣城様。ワッチもその話を!」
「色々理由はあるけど、オレが知ってる通説では、簡単に言うと、仮に飛鳥井さんが勅使の使者で尾張に来たとします。その時の接待役がオレだとします。けど、オレはどうやって接待していいか分からない。だから佐久間様に教えを乞いました。が、佐久間様はオレが接待役が気に入らないから、わざと嘘の作法や、嘘の服装を伝えたりして、金剛君や剛力君、小川さんが準備に奔走するような、嫌がらせをしてきました」
「ふむふむ」
「当然、オレもイライラしますよね。だから、軽く喧嘩してしまいました。信長様は勿論怒りオレに即日切腹、お家断絶を申しつけました。オレは切腹したのですが、小川さんや野田さん、小泉さん、望月さん達のような忠臣が怒ってしまい、佐久間様を襲撃し首を取り、オレの墓に佐久間様の首を供え、襲撃に参加した46人が切腹したって物語の場所です」
「正に忠臣ですな。その46人は」
「確か、最初に剣城様の元に従った家も46家でしたね」
「何と!?そんな偶然な事が・・・グッ・・・」
「いやいや、それはたまたまだから!それにこの話はオレが居た世界でも、まだまだ先の事だから!」
「我が君・・・ワシは・・・ワシは・・・(グスン)・・・ここは運命的な場所・・・ここで本隊を待ちとうございます!」
「ワッチもです!」「某も」
と、少し違うかもしれないが、大まかにオレが知ってる赤穂義士の話をしたら、4人が感動してしまった。そんな中での半兵衛さんからの無線だ。
「はいはーい。聞こえますよ〜」
"我が君ぃぃぃぇゃぁ〜〜〜〜"
「後ろから家老殿の泣き声が聞こえますよ?」
「あ、いや、そこは気にしないで下さい!今はどちらに!?」
「逢坂山に居た近江の備えの軍は、剣城殿が指揮官を倒してくれた為、難なく突破して・・・というか、勢いのまま斬っていただけで簡単に山越え成功です。ですが、剣城殿が見当たりませんが?」
「あぁ〜、オレ達はもう一つ進んだ所の山と山の隘路の、毘沙門堂の前で待機しています。本圀寺はこの山越え一つですので、ここで合流しましょう。ここで皆を大休止させている間に、逃げ惑っている京都の民の人を大津まで誘導させます」
「了解です。すぐに向かいます」
ブゥゥ〜〜〜〜〜ン
「いやはや・・・剣城様の居た世界では凄まじい物があるのですね・・・」
「うん?あ!これ?これはドローンと言って、空から偵察できるんだよ。なら、何でわざわざ大津から斥候を出したって思いますよね?これ、飛ばせる距離があるから使い所が難しいんですよね〜」
「そんな物があるならば、我等のような草が必要なくなってしまいますな」
「確かに、忍びの人の偵察は必要なくなるかと思うけど、これは偵察用だから3キロくらいしか飛ばせないからね」
「さんきろとは!?」
「あぁ、それはまた追々、学んで下さい!とりあえず、ほら・・・ここに映っている人達や、他にも逃げている民達を誘導しましょう!」
〜三好本陣 東福寺〜
「御報告申し上げますッッ!!!」
「騒ぐな!何じゃ?」
「近江の抑えの軍が逃げて来ました!!」
「何!?もう敵が来たというのか!?」
「逃げてきた兵が申すには『どこからともなく風切り音が聞こえた後・・・組頭が倒れて血を吐いた』と申しておりました!」
「風切り音!?血を吐いた!?鉄砲か?それも凄腕のか?」
「いやそれが・・・その指揮官が倒れた後、すぐに騎馬兵と頭巾で顔を隠した、全身真っ黒な出立ちの者が襲って来たと・・・」
「チッ。うつけの軍か・・・。とにかく将軍さえ捕縛できれば良い。ここからは時間との勝負だ!後詰めを本圀寺より東に移動させよ。織田の軍が如何程の者かは分からぬが、早々に抜かれはせぬであろう」
「叔父上・・・」
「義継は黙っていなさい。本隊全軍の武頭、番頭、組頭全てに本圀寺に向けて突撃させよ。まずは弓兵からだ。ありったけの矢を馳走してやれ。その間隙の折に・・・」
「おっと?やっと俺っちの出番ってか?」
「高い銭を出したのだ。その分、働けよ」
「あぁ〜あ。まっ、仕事だからしょうがないねぇ〜。で、俺っち達、雑賀衆がその救援に来た織田の兵隊を、撃ち倒せば良いので?」
「そうだ。敵を足留めさせておけ。見事、お役を果たせば、お前達が根城にしている五つの地域・・・五搦には我等、三好も口出しせぬようにする」
「へぇ〜。へぇ〜。約束は守って下さいね?さもなくば、俺っちが敵になるやもしれませんよ?」
「(チッ)約束は守る。だが雑賀孫一・・・貴様も約束は守れ。聞くところによると、お前達が持っている鉄砲より優れた鉄砲もある、と聞いている」
「鉄砲が良くても、射撃手の腕が悪けりゃ当たらねぇ〜。雑賀の妙技を見せましょうかねぇ〜」
「ふん。皆の者ッッ!!総攻めじゃ!!!義継!手を下げろ!」
「・・・・」
「義継ッ!!迷うな!!手を振るのだ!!」
「クッ・・・全軍!本圀寺へ突撃!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます