高山城の仕置き

 「うむ。剣城殿も参ったか。では始めよう」


 島津家の歴戦の猛者達の中に、何故かオレは呼ばれている。そして、然も自分が1番偉い!と言わんばかりの顔の、小川さんも一緒だが。


 慶次さんや野田さん達は暫く戦で禁酒していたらしく、昨日、島津兵の人達も解禁したようで浴びるように飲んだらしい。


 「まずは・・・剣城殿。ありがとう。こんなに早く、この高山城を落とすとは思わんかった。兼続はあのような形になってしまったが、あれはあのような男だ。むしろ褒めてやりたい」


 「はい。何も問題ありません」


 「うむ。それでだが・・・嫡男の現当主の肝付良兼の事だが・・・。どうも戦働きが出来そうには思わないのだが、どうであろうか?」


 確かにオレもそれは思う。むしろ仕事ができるのかすら不安に思う。


 「そうですね・・・一目しか見てませんが、彼はそんな風には見えませんね」


 「義弘が剣城殿と約束したであろう?殺してはならぬと?」


 「あ、はい。そうですね。害にならない人まで殺さなくてもと思いました」


 「それでだ!ここ高山城を剣城殿に渡そうと思うのだ!」


 まさに青天の霹靂。本拠では城持ちじゃないのに九州で城持ちになったんだが!?


 「そそそ、それは・・・この私がこの城に相応しいと!?」


 興奮する気持ちを押し込みながら聞いた。


 「まあ今のは端折り過ぎたようだ。ここでおいどんが剣城殿に城を渡せば、織田殿・・・剣城殿の殿から見れば、良い気はしないであろう?剣城殿の城と言ったが、要は織田殿の城としてくれないか?という事だ」


 あぁ〜・・・やはり城持ちの夢はまだなのか。治外法権的な何かかな?けどこの時代でこの考えに至るのは中々じゃね!?


 「それは・・・この付近だけは織田領としてって事ですか?」


 「うむ。言葉悪く言えば、この地だけならば仮に織田が我等を狙うにしても、そこまで兵を隠す事はできまい。そんな心配をするより、おいどん達は畿内に負けぬように色々な物を作り、昨晩のようなトンカツを毎日食したいと思う」


 あぁ〜。確かに昨日、野田さんに言ってトンカツ作ってもらったよな。正確には猪だけど。この城がある高山にかなりの猪が居る、って聞いたから熱燗を餌に慶次さんに言ったら、速攻で捕まえて来てくれたんだよな。


 「そんなに変わりませんよ。食に関してはどんどん変わっていくでしょう。私の権限を超える事と思いますので、一度持ち帰らせていただいても?」


 「うむ。本来ならこちらが出向き頭を下げても良いくらいだが、おいどんは剣城殿になら頭を喜んで下げよう。だが剣城殿の主の信長殿とは、まだ会った事もないからな。そう簡単に頭は下げられないのだ」


 これだよ。笑顔の中にも絶対自分を曲げない芯があるんだよな。


 「多分ですが、私の主の信長様はこういう事は、自分で出向いたりしないと気が済まない人なので、言えば喜んでこちらに来るかと思いますよ」


 「そうかそうか。ならその折は最大級のもてなしをせねばなるまい。決定!肝付良兼は剣城殿の支配とする!異論のある者は?」


 「なし」 「問題なし」 「些細任す」 「うむ」


 いやそういう事だったのかよ!?えらい皆、静かだなと思ってはいたけど・・・・。あの人をどう使えばいいんだよ!?あんな人、信長さんに会わせれば『捨ておけッ!』とか言いそうじゃん!?


 貴久さん達は、他の城なんかの仕置きもしないといけない為、まだ続けるとの事。オレは『良兼を相手してやってくれ』と笑顔で言われ、退出した。


 「父上・・・」


 「と、とにかくそれは写真だから、大事に保管しておいて下さいね!?」


 「う、うむ・・・」


 「とりあえず仕置き上は、この城は私になった訳だけど文句ないです?」


 「俺には毎日父上が女子(おなご)と、お小遣いを用意してくれていた!それをしてくれるならば黙っている!」


 スパコンッ!


 思わず羨まけしからんで、便所スリッパで叩いてしまった。


 「は!?毎日女用意してもらってたの!?舐めてんのか!?どうやって!どのように!どこの女の子だ!事細かく──」


 「がははは!流石、我が君!ゆきには内緒にしておきますぞ!!」


 おっと・・・ここには忍びが多く居るんだよな。気を付けないといけない。九州に居る間は、たまにこの人に女を紹介してもらわないとな。


 「とにかく・・・良兼さん?貴方はまず残った兵とかを纏めて下さい。怪我した兵なんかは無償で治します。小泉さん?野田さん?瞬時に食べ物を育てましょう。任せても?」


 「「御意」」


 「良兼さん?これ!」


 ドンッ


 「こ、これは・・・・」


 「鐚銭も混ざってるかもしれないけど、多分20貫くらいあると思う。良兼さんが必要と思う人、これからも支えてくれるだろうと思う人に、有効に使ってほしい。くれぐれもそれを遊びで使わないように。慶次さん?数日、着いてくれます?」


 「えぇ〜?めんどく──」


 「あぁ〜あ。(チラッ)折角、山先オールド40年の(チラッ)ウィスキーを渡そうと思ったのにな?(チラッ)」


 「それならそうと言ってくれれば良いのに!剣城と俺の仲じゃないか!な!?良兼殿!俺は前田慶次!まあ好きなように呼んでくれ!よろしくな!」


 チョロいな。よし。数日休んで一度、岐阜に帰るか。


 


 次の日。オレは貴久さんと2人で話している。志布志の例の三の丸の温泉でだ。2人だけで話したいと言われ、オレは緊張しながらも聞いた。


 「あっという間な戦だった。これ程楽な戦は初めてであった」


 「私も数回戦に参加しましたが、こんな戦は初めてでした」


 「うむ。時に・・・高山城だけ渡すのは些か少ないと思う。一晩考えたのだが、やはりここは上下関係なく一度おいどんの名代を立て、こちらが出向くのが筋だと思うが如何か?」


 「配下の人のメンツとか大丈夫なのですか?」


 「剣城殿の此度の働きや、ここ数日での食物の収穫量を鑑みれば、頭を下げないといけないのは明白である。おいどん達が食べる為に育てている牛。猪。量産ができるなら、喜んで尾張の国に輸出しよう」


 「ありがとうございます!!信長様もお喜びになりますよ!」


 「うむ。一度会ってみたいな」


 「昨日も言いましたが、恐らく本人が来られると思いますよ。しかも私達が帰った数日後に来ると思います。動きだせば早い人ですので」


 「ははは!そのような男の方が話が早くて助かる。一度戻るのだろう?くれぐれもよろしく伝えてくれ。文も書こう」


 「分かりました。後、7日程ゆっくりさせて下さい。高山にある関所は廃止します。あそこは尾張国と同じように致しますので、いい所があれば真似して下さい。間者は入り込むかもしれませんが、経済が動き人が集まり必ず発展しますよ」


 「うん。徐々に・・・だな。それで今宵は細やかながら、祝勝会を開こうと思っている。志布志に泊まって欲しい。歳久が是非、志布志で行ってほしいと嘆願されてな?義弘もだが、かなり剣城殿を気に入っている」


 「ははは。ありがとうございます。少し珍しい物を持っているからですよ。楽しみにしていますね」


 口ではそう言いながら、内心がっかりしている。本当に浴びる程、酒を飲まされるからだ。しかも家族に甘々なのか、珍しく義久さんは信長さんと同じで下戸なのだ。だから義久さんはあまり飲まされてないけど、オレは少し飲めるからかなり飲まされてしまう。


 二日酔い確定だな。まあ飛地だが一部九州の足掛かりができた。日向や豊後とこれから忙しくなるだろうが、まずはこれで信長さんは喜んでくれるだろう。輸送船なんかも造らないといけないし、やる事がいっぱいだ。

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