回転の早い肝付兼続
オレ達は城の裏手側からの進軍だが、義弘さんのパパ、貴久さん達の奮闘のお陰か、難なく城まで到着できた。というか、裏手に配置していた兵の人達が少ない。少ない。
「いや、本当に楽々でしたね?」
「叔父御は何故このような者に討たれたのか、今でも疑問である」
そして、その勢いのまま小川さんがオレより先に行きたがり、先陣を切り高山城に入った。さすがに城にはそれなりの兵がいたが、防御を全部捨てた小川さんが愛槍、方天戟を振り回しながら雑兵を蹴散らす。
オレはトマホークmk-2神様ver.を、程よい間隔で乱射しながら後に続く。
「ひ、卑怯者な薩摩人め!明の下なんぞに降り我等を攻撃するとは何事ぞ!?」
「は?おい達は誰も明に降っておらぬ!むしろ明が降ってきたくらいだ!」
「ならあの大きい見た事ない船は何なのだ!?」
「あれは我が友の私船である!お主等が友の船を攻撃しなければ、違う形になったやもしれぬが最早遅い。誰かは分からぬが成仏致せッ!」
ズシャッ! ぽろん
相変わらず凄まじい一撃だ。オレが勝手に命名して、勝手に剣を振るう時に発声している一の太刀とは大違いだ。義弘さんの剣技は本当の一の太刀だ。
そのままの勢いで城に入る。石垣も無く思った程大きくない城だったが二の丸、本丸とちゃんと隔ててある城だ。それに場内に入ると南蛮や明の物だろうと思う、花瓶や油絵みたいな物が結構飾られてある。
「このタイプの装飾品は初めて見たな」
「確かに。肝付家当主は大殿のような感性の持ち主なのだな」
「ほう?剣城君の殿も南蛮好きか?」
「南蛮好きというか、新しい物好きと言うのが当たりかもしれません。あっ!もし会う機会があっても、今のは内緒にしておいて下さいね!?」
「ははは!剣城君も面白い奴だな!言わないでいよう」
本当に戦だよな!?と問いたくなるくらい、余裕がある城攻めだ。真正面、城下側の方では今でも怒号が聞こえる。その中、オレ達は本丸の一際大きな引き戸の部屋に到着する。
初めて見るオレでも分かる。軍を率いて居ないと聞いていた肝付兼続はここに居る。
「失礼するぞ」
義弘さんの掛け声でオレ達は入る。そもそも失礼だけで済めばいいけど。そんな事にはならないだろう。
「下郎ッ!!ここをどこだと思うている!」
「お主が・・・第16代肝付家当主 肝付兼続とお見受け致す。17代肝付家当主 肝付良兼。お主の嫡男は預かっておる」
「何と言うことだ・・・倅は!?倅は怪我などしておらぬのか!?乱暴や拷問はしてないのか!?」
「あぁ。丁寧に扱っておる。召されるならば嫡男殿は解放しよう。そして島津の下で良いならば肝付家の存続は認めよう。一族の与力として働けばよい」
「本当だな!?ワシが死ねば息子は!良兼は助けて、肝付家を存続させるのだな!?」
「おいどんは約束は守る。証人はおいの友達、尾張の国の芝田剣城君ぞ」
いや、ここでオレに振るのかよ!?別にいいけど。
「紹介されました、芝田剣城と申します」
「尾張の国から何故、薩摩なんぞに来たのだ!?」
オレは食肉の為に来た事を簡単に言った。そして互いが互いに、損得が無いような関係になれればいいな、という事も。
「何故薩摩なのだ!?あの船は恐ろしい大きい銃が装備されてある。畿内ではあれが当たり前なのか!?」
「いえ、当たり前ではありませんが私の主の織田家では、ああいうのは標準になりつつあります」
これは嘘だ。まだ試作段階かなんかだろうが、芳兵衛君や国友さん、加藤さん、岡部さん達はどうせやり過ぎる人達だから、いずれドンペリと似たような船を作るだろう。今はまだだ。
まあ、ワンチャン既に作っていそうではある。かれこれ3週間程経っているからな。
そしてこの肝付兼続って人は・・・変わった人だ。良いように言えば息子思い。悪く言えば政治的手腕はいい人なのかもしれないが、戦ならば普通は陣頭指揮を取ると思うのだが、明らかに楽な服装だ。
戦には出ないつもりだったのか?それともオレ達が引くと思ったのだろうか。
「貴様は・・・貴久の次男坊だったな。やけに此度は行軍が速いと思ったのだ。そういうカラクリだったか。見た事ない銃も確認しておる。尾張の国と同盟したのか?」
「書状まではまだだがそうなるであろう。一度、剣城君の殿とも会わねばなるまい。どう転ぼうが尾張の国とは敵対したくない。これは島津の総意だ」
へぇ〜。意外だな。なら貴久さんも、オレ達を一応は信頼してくれてるんだな。まあこれだけ他国の戦に参加して、自慢ではないがまあまあ活躍してるとは思うけど。
「薩摩にそれ程言わせる国か。一度見てみたいものだ。ははは!運も味方につけ、肝付家最大の領土を築いたが、こうも支城を無視され本拠を叩かれるとは完敗だ!ワシも他人の事はどうとは言えぬが、日向を信ずるなよ?ワシが腹を召せば必ず彼奴らは侵攻してくる」
「ほう?確か伊藤と手を組み、叔父御を亡き者にしたのであったな?」
「あぁ。だがあれは失敗だ。忠将には気の毒であったが、日向の者は勝つ為ならば何でもする男だ。まあせいぜい気を付けておけ。御南を返すぞ」
最初の威勢はどことやら。話せば頭の回転が早い人で、即座に戦闘を辞めるように皆に伝えたようで、程なくして貴久さん達も城にやってきた。
これを見て思うのは肝付の兵が弱い訳ではない。やはり島津兵が強過ぎなんだと思う。そして半農の人達全てが死ぬのが栄誉と思ってるから、皆がイケイケドンドンで攻め上がるのだろう。だから結果は策を弄してない相手なら、一方的に殺られてしまうのだろう。
そして時間差で嫡男の、あの例のス○夫の声そっくりな良兼さんを、義弘さん配下の人が連れて来て親子の再会をさせた。
ここに関してはオレは見ていない。オレは何をしていたか。それは小川さんや慶次さん、野田さん達と高山城を撮影している。帰ってゆきさんに色々な城のアルバムを作ってもらう為だ。
「本当に凄いな。色々な物があるんだな」
「確かに。これなんかは我が君の家の、愛の巣に飾ってある南蛮絵にそっくりですな?」
「はっ!?何で小川さんが知ってんの!?入った事ないでしょ!?」
「がははは!ワシはいつでも我が君の側に居りますからな!」
いやいや、何でなんだよ!?ゆきさんとの営みも見られてんのか!?
奇怪な目で肝付の城兵の人達に見られながらも、気にせず作業を続ける。この日は城に充てがわれた部屋で一泊し、次の日すぐに肝付さんは腹を召した。
というか、前触れなく肝付さんの私室で朝、貴久さんの小姓の人が呼びに行った時に、既に果ててたそうな。3人の人達と共に。肝付さんの首は綺麗に首桶に入れられ、側の3人は割腹して亡くなっていたらしい。
良兼は朝から泣きっぱなしだ。オレでもこの人の立場なら泣くだろう。多分、相当家族思いの人だったのだろう。
「剣城君?良いか?皆と話をする」
「分かりました。行きます」
全ての事がトントン拍子に進む。誰にこの城を任すかとか、支城をどうするかとかだろう。
そしてここでこれまたぶっ飛んだ事を、貴久さんがオレ達に言った。
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