まずは、蟹江城に

 数日の間は大砲の運用、射撃訓練を練習したり、指揮の取り方は木下さんに教わったりした。


 「そうじゃ剣城!腹から声を出すんじゃ!!」


 「かかれ───ッ!!!」


 「相手を声だけで震え上がらせるのじゃ!!」


 「かかれぇ───ッ!!!!!!」


 「よし!そんなもんで良いだろう!」


 こんなに声張り上げたのは初めてだ・・・。喉が痛い・・・。あれ?誰か走ってくるぞ!?誰だ!?


 「芝田剣城殿ですか!?」


 「あ、はい。私がそうです」


 「おぉー!益重か!?大きくなったのう!」


 「木下殿、お久しぶりです!」


 「剣城、紹介しよう。滝川殿の甥の益重じゃ!」


 「あ、それはどうも。いつもお世話になっております。この村を任せてもらい、一応織田家直属の料理ご意見番の芝田剣城と申します」


 「叔父上から色々聞いております!何でも珍しい技が使えるとか!?美味しいお酒が出せたり甘味が出せたり!?」


 いやどんな風に教えたんだよ!?


 「お久しぶりです。益重様」


 「その声は菊か!?久しぶりだな!今は剣城殿の配下か!?」


 「はっ。護衛も兼ねております」


 やはりこの成人したくらいに見えるこの子にも、オレは名前で呼ばれるのか!?


 それから益重君が言ったのは木下さんの言う通り。南美濃と国境の北伊勢を攻めるとの事だった。森さん、丹羽さんは鳥峰城を攻めるとの事。

 その森、丹羽隊の到着を待ち堂洞城、関城、加治田城を佐々軍、丹羽軍、池田軍、森軍、柴田軍、織田本隊で攻めるとの事だった。


 「我らは叔父上と明智殿が指揮を執ります。剣城殿は銃を持ち、整列して行軍して欲しいとの事です」


 「うん!?明智!?明智って明智光秀様ですか!?!?」


 「え!?剣城殿はお知り合いでしたか!?」


 「あぁー、それはお館様からの秘密任務じゃから、益重は首を突っ込まない方が良いぞ!な?剣城?」


 「え!?あぁ。すいません。そうですね」


 さすが本来の天下人。機転が効くな。


 「まあ分かりました。今我らは蟹江城に詰めております。準備出来次第軍議を開く為、登城していただけますか?既にある程度は決まっておりまする」


 「剣城!励んでこい!この村と奇妙丸様の事はワシに任せておけ!」


 「木下様は行かないんですか!?」


 「ワシは呼ばれておらん。益重?折角来たのじゃ!さいだーとちょこれーとと、滝川殿に即席飯を土産に持っていけ」


 出世したいとか戦に呼ばれんとか言ってたのに、何か木下さんご機嫌じゃね!?何かあるのか?

 てか、木下さん!?甘味とか渡すのオレの役目じゃね!?然も木下さんの物かのように渡してるんだけど!?別にいいけどさ!?


 「剣城殿!これが叔父上がニヤニヤしながら食べていた、ちょこれーとなる物ですか!?それにこちらは初めて見ます!」


 「これはチーズケーキでこっちがラスク、こっちはカステラです。そんなに量は持って帰れないと思うから、とりあえずこれだけどうぞ?また私が蟹江に行く時に、物資と共に持って行きますね?」


 「はっ、叔父上もこんなに沢山だとかなり喜びます!滝川家を代表してお礼申し上げます。ではまた後日、準備出来次第よろしくお願い致しまする。御免」


 いや、多分滝川さんはムスっとした顔で『うむ』だけで終わりそうだな。オレ・・・滝川さんに嫌われてるんだよ・・・。


 最近例のイージスを見慣れてきたけど、やっぱ馬もカッコイイよな・・・。益重君の馬カッコイイよな!?でもこの時代の馬ポニーだから小さいな。何とか出来ないかな・・。


 「ゴホンッ。で、明智殿を何故知っておるのじゃ?」


 さすがに未来で謀反しましたとか言えないよな。


 「織田家で有名な武将ですからね!明智様もそこそこ有名ですよ!」


 「ワシとどっちがじゃ!?」


 「そりゃ木下様でしょ!」


 「ははは!それは良かった!戦には出ないと思うが"もし"呼ばれるなら共に頑張ろうぞ!」


 忖度無しでオレは答えたが、木下さんは嬉しかったのか超超笑顔になり、『明日渡す物がある』と言い城に帰って行った。もしの所を強調してたが、やっぱ木下さんも戦に出るのか!?


 「お菊さん?大膳君達の作業終了予定、分かる?」


 「はい。たまたま運が良く明日には戻って来るそうです。先程トランシーバーから連絡がありました」


 はっ!?え!?オレとした事が・・・・トランシーバーがあるの忘れてたわ。


 「その顔はトランシーバーを忘れていましたね?最初から可笑しいと思ってました。送り出す時も期限決めてた感じがしましたし。たまに進捗聞かれた時の返答の早さで思い出しませんでしたか?」


 いや、よく訓練して伝達してるのかと思ってたんだけど・・・。


 「よく訓練してるなと思ってたけど、トランシーバーだったのね!?ははは・・・はい。忘れてました」


 「後もう一つ・・・。柴田勝家様が清洲詰めになると思います。入れ替わりで木下様がお館様の元へ参るかと・・・」


 「何かあったのかな?」


 「詳しくは分かりませんが、ラーメンの事で何かあったとか?草の者が言ってました」


 「うん?オレの知らない人がまだ居るの?」


 「まだ忍以前の子供も子供、童達です。親が居ない子達で、丹羽様や森様の侍大将様達の雑用をさせて頂いております」


 「全員雇えなくてごめんね。早くオレも出世するように頑張るよ。丹波様や森様には次会ったらお礼しておくね」


 「はっ。ありがとうございます。今は甲賀より遥かに良い暮らしになりました。温かいご飯、上質な着物、甘味や布団も甲賀とは雲泥の差です」


 「そう言ってくれると嬉しいよ。いつか甲賀の貧しい人を呼ぼう。この戦には間に合わないけど人手がもっと必要だ」


 「はっ。まずは北伊勢頑張りましょう」

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