海の男達
岐阜に戻りゆきさんに『何でもなかった』と言ったが、まぁ色々聞かれるわな。
「ではノア嬢がいっぱい仲間を連れて来てくれた、ということですか!?」
「そうだね。けど、甲賀の人も増えたから全員は無理かも・・・。けど、最初に来てくれた人達には騎乗に憧れてるみたいだから、行き渡るように考えておくよ」
「はい!皆喜ぶと思いますよ!」
「あと、俺は明日海に行って色々してくるから、金剛君との伝達はゆきさんに任せていいかな?」
「分かりました!大膳も使い、必要な物を届けるように致します」
よし!これでたちまちは大丈夫だな。それにしても、物凄いスピードで家が出来上がっているな。木下さんの配下も頑張り、岡部さん達も色々してくれてるな。
次の日、オレはまた清洲の村に向かう。
「おはようございます!芥川さん!高野さん!八田さん!葛城さん!」
「「「「おはようございます」」」」
「じゃあ那古屋に向かいますよ!馬を選んで下さい!」
"キャハッ♪剣城っち♪この4人にはこの子達にして!"
"うん?何かあるの?別にいいけど"
"この子達はあーしのを慕ってくれてるから。さっ!お前達、今日は行くよ♪"
ブホォ────────!!!!
「おっ!?何だ!?何だ!?剣城様!?この馬を俺たちが乗るのですか!?俺はもう少し気性が荒くない馬の方が・・・」
「ふん!八田はびびっておるな!?ならこの馬は、わてが乗ろうかのう!」
いやこれまた馬じゃないような鳴き方だな!?
「ではおいどんはこの茶毛の馬に・・・」
"この4頭は家族だから似てるよ!足もそこそこ速いからね!さっ!剣城っち♪行こう♪"
いや勝手に走り出したけど、どこに行くか分かってんの!?
「ヒャッハー!!馬は気持ちいいぞ!!」
「ハイヤ!ハイヤッ!!行けぇ〜!!」
「ちょ、ちょっと!お前達!もう少しゆっくり行かないか!な!?馬よ!歩いてくれ!頼む!うわぁぁぁぁ」
"キャハッ♪八田って人間が乗ってる子が一番やんちゃなんだよ♪"
どんまい!八田さん!夢の乗馬だろ?頑張れ!それにしても他の人はかなり喜んで楽しんでるな?
「我が君?硝石を持って来ておりますが氷を作るので?」
「そうだね。試しに地元の漁師に言って、刺し網って名前の網で漁をしてもらおうか、と思ってね?実はこの世界に来る前に趣味が釣りだったから、ある程度の理論は知ってるのです」
「氷を作るのは分かります。それを地元の奴らにも教えるので?」
「教えないといけないよね。じゃないと刺身が食べられないですよ?」
「うむ・・・硝石は鉄砲の弾の原料・・・対策せねばなりますまい。いや、これはワシが考えておきましょう」
盗まれたりするのか・・・小川さんが考えてくれるから任そう。オレは盗まれたりする事とか考えていなかったな。
「海だ!海が見えたぞ!!」
「何奴だ?ここは俺達の縄張りだ!よそ者は立ち去れ!」
「貴様!この方を誰だと思っている!この方は──」
「小川さん?交代します。えっとですね、オレ達は織田家からやって来ました。信長様の家臣、芝田剣城と申します」
「その家臣が何の用だ?」
「お、親分!頭を下げて!あのうつけは苛烈な性格と聞きますぜ!?」
おい!聞こえてるよ!ってか、こいつらが漁師なのか!?
「貴方達は漁師ですか?」
「あぁそうだが?行商人に塩漬けの魚を渡している」
「あっ・・・・大親分・・・」
「おい!お前等は引っ込んでろ!ワシが話を聞く」
この大親分こと・・・吉蔵って人は、なんでも信秀時代に少し交流があったそうな。信虎さんは那古屋城によく来て、その時所望した鯛や鯵などをこの吉蔵って人が渡していたらしい。
「倅の時代になってから随分と時が経つが、古渡や那古屋には中々顔を見せなくなった」
「忙しい方なのでそこはすいません。ですが、貴方達の魚を信長様は期待しています。そして、生で魚が食べれるような技を私が教えましょう」
「チッ。生で食べれるのは、ワシらが届けられる距離に居る時だけだ!腹でも壊してみろ!俺達の首が飛ぶ!」
「まあ、吉蔵とやら?我が君の話を聞け!悪いようにはしない。むしろお主達も今後重要な者になれるぞ?」
「よかろう。話は聞いてやる」
オレは刺し網の使い方を言った。そして船に乗り実演しようと思ったが・・・こんな壊れかけな船なんか乗れるかよ!!!怖過ぎだろ!?
「吉蔵さん!?いつもこの船で!?」
「そうだが?」
そうだが?じゃねーよ!危な過ぎる!
「小川さん!トランシーバー!!野田さんを呼んで早急に一隻でいいから、船を造るように言ってくれます!?頑丈な大型のやつを!」
「はっ!!」
「うん!?何だ!?何だ!?何でその箱から声が聞こえてるのだ!?」
「それはまた今度言うので、まずはこの紙に書いて説明しますね」
「葛城さん?説明一緒にお願いします!漁師の本を読んだのですよね!?」
「ふふふ。我が右手が疼いておる。この者に漁とはなんたるものか、真髄を教える時が来たと・・・」
ゴンッ!
「葛城!早うせい!馬鹿な事ばかり言わんでよい!」
「いってぇ〜な!?高野!後で覚えておけよ!」
漫才か!?葛城さんの黒歴史か!?
オレは内なる黒い葛城さんと、刺し網とは何かを伝えた。特段珍しい事はないと思うが、なんならこの時代で似た物はあると思うが・・・。
「ほう。確かにこれは画期的ではあるが暫く仕掛けると、死んでしまう魚も居るのではないのか?」
「そうですね。鮮度が悪くなった魚はさすがに生では難しいですが、それでも効率が上がると思いますよ」
「ではどうやって運ぶのだ?」
「芥川さん?硝石氷を」
「はっ」
「硝石だと?鉄砲の弾か?」
鉄砲の弾って知ってるんだ。
「タライの中にこの入れ物を並べて中に水を入れます。そしてタライの方の水に硝石を溶かすと・・・このように入れ物の方の水が冷たくなり、氷の出来上がりです」
「お!?本当だな!こんな物で氷ができるのか!?いやできてるのだからできるのだな」
「これを大量に作り氷漬けにして、岐阜に運んでもらいたいです。魚の締め方なんかも教えます」
「魚の締め方?それは何だ?」
「何か生きてる魚、ありませんか?」
「おーい!忠太!今朝取れた囲いに入れておるアジがあるだろう?持ってこい!」
囲い?生かしてるのか?ってか養殖じゃないけど似たようにしてるのか?
「大親分、お待たせしました」
「立派なアジですね!この魚は足が早いので早急に教えます」
オレは眉間に小さなナイフで刺し、国友さんが陣地構築の時に作った小さな針金をアジの神経に通し海水氷に漬けた。釣りをしてたからこのくらいはすぐにできる。
「初めて見たが手慣れておる感じだな?」
「がははは!吉蔵とやら!我が君は釣りに夢中だったのだ!釣りと言えば我が君!我が君と言えば釣りだぞ!」
いやいやどういう意味だよ!?
オレは素早く俎板を取り出して三枚におろし、刺身用に切り、森さんが作った醤油を取り出し渡した。
「食べてみてくれますか?普段からアジを食べているなら、まず違いが分かると思いますよ」
「ほう。たまりか。珍しい物を持ってきておるのだな?」
え!?醤油知ってんの!?
「これは・・・全然味が違うな?身が締まってる感じがするぞ?アジと言えば身が弱いがこれは歯応えもある!こんなに変わるものなのか!?」
「はい。特に弱い魚程、違いが分かると思います。基本どの魚も眉間に一突き、神経穴にこれを通して海水氷に漬ければいいです」
「おい!鯛も持って来い!それと塩魚汁(しょっつる)もだ!悪いが鯛も試してみたい!構わないか?」
「ええ。構いませんが、鯛くらいならオレも捌けますが、長物は勘弁してください。アナゴなんかは捌けません」
「ははは!大丈夫だ!ワシが育てた鯛だけだ!芝田とやらも食うが良い!」
ところどころ、オレの知らない事をしてる人達なんだな。後で聞いてみよう。塩魚汁って確か魚醤だったような・・・・。
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