剣城が居た遠い未来に向かって

 オレは正月、即ち1月1日に皆で集まるのかと思ったが、実際集まったのは次の日の1月2日だった。なんでも1日は家族の近い者だけで信長さんは過ごす、と決めてたからだった。


 オレには家族なんて居ないから、1人寂しく寿司食べたけど。1日にタブレットで検索して見つけていたおせちを、次の日に購入して伊右衛門さんに渡した。


 一応蓋を開けるだけで良いと伝えて渡した。渡して中身を確認したら台所衆の人達があれやこれや聞かれたけど俺もそこまで作り方が分からなかったので今度料理の本を渡してあげるという事で解放してもらった。



 《正月おせち松竹梅 松ver×100》¥1000000


 効能・・・・数多の神を虜にした料理職人が監修した手作りおせち。前年までの嫌な事を忘れさせて今年1年の始まりに気力を漲らせる。



 うん。作った人はめっちゃゴッドだし誰か気になるんだけど、効能は普通だな。松竹梅とあるから来年は竹バージョンにしてみよう。


 とりあえず大吟醸もコーラも買ったしこれで抜かり無い筈!袴にも着替えたし・・・。てか大広間からめっちゃ色々な声が聞こえるよな。色んな偉い人とかも居るんだよな・・・。何か嫌だな。


 「剣城様、そのお召しで行かれるのですか?」


 「うん?そうだね。木下様から貰ったのでこれで行こうかと思ってるけど着方おかしい?多分合ってると思うけど・・・」


 「いっ、いえ。木下様からでしたか。なら宜しいかと・・・」


 何かオレ変なのか!?なんかお菊さんに含みがある様な・・まっいっか。



 「失礼します。そろそろ大広間の方に、ぷっ」


 「遠藤さん。明けましておめでとうございます。向かいます」


 遠藤さんも何で人を見て笑ってくるんだ!?おかしいか!?新年から失礼過ぎるだろ!?今度信長さんに外周走らされてもコーラ渡してやらねーぞ!?



 大広間に着くとめっちゃ注目を浴びた。確かにこの時代では俺は身長高いからってのもあるが・・・。やりやがったな秀吉!!!!!確かに一見ではみんな正装してるけど・・・誰1人として袴なんていねーじゃねーかっ!!!!!


 「おう!剣城!明けましておめでとう!気合いの入った服だな!今年も励めよ!」


 「おめでとう!中々の服だな!」


 「あめでとうさん!誰に用意してもらったか分からぬが・・・ぷっ!いやこりゃ失礼。まっ、励めよ!」


 いや、最後の人誰だよ!初めて会ったぞ!?しかも笑うなや!そんなにおかしいのか!?



 「皆さん、もう間もなくです。席にお座り下さい!」



 遠藤さんの掛け声で各々座りだした。席の所に名前の紙が書いてありみんな迷う事なく座ってたがオレの名前が見当たらなかった。まさかオレ実は呼ばれてない系か!?自意識過剰だったのか!?


 「新年から面白い奴だな!貴様の席はこっちだ!」


そこは信長さんの横だった。


 確か偉い人程近いってテレビで聞いた気がするけどオレ間違いじゃないか!?ヤバイ恥ずかしいんだけど・・・。急にシーンとなった。



 「皆の者ッ!!!良く集まってくれた。明けましておめでとう」


 「「「「おめでとうございます」」」」


 「先年は色々頑張ってくれただろうが、今年は稲葉山を取るぞ!腹が減っては戦はできぬ。まずはこのワシの横に居る芝田剣城、此奴が"作った"飯を堪能してくれ」


 信長さんが言葉少なく耳に呟いてきた。


 「技の事は申すな。顔に出すな」


 オレは小さく頷くだけにした。それから乾杯をして運ばれてきた、オレの技で出したおせちが出てきたが、料理に皆が驚いてワイワイガヤガヤの大音頭になった。


 オレは一口食べて質問され一口食べて質問されを繰り返され、満足に食べられなかった。その聞いてきた中で、何人かは産地など詳しく聞いてきた人も居たが、そう聞いてきた人は信長さんの無言の圧力で撤退させていた。


 「そろそろ飯も食い終わるくらいだろう!食いながらでも良い。聞け!ワシの横に居るは芝田剣城。先年から仕えておる新参だ。その新参が、何故ワシの横に居るか気になる奴も居るだろう」


 そう言い信長さんはオレを紹介し始めた。何故か褌の詰問の件(くだり)から。


 「それで此奴と可成に領内発展を命じ見事、可成の家臣が醤油、澄み酒、砂糖の作製に成功した。それに一役買ったのが芝田剣城じゃ。

 お前らにはこの席に文句を付ける奴も居るだろう。そう思うなら此奴より功績を立ててみよ。何もせず口だけの奴は織田には要らぬ!ワシより目立つ服を着ておる剣城ッ!!!一言言え!」


 いやいきなり信長さんキレ気味なんだが!?信長さんより目立つ服だから皆に笑われたのか!?一言って何言えばいいんだろう・・・。


 「芝田剣城です」


 「声が小さいッ!!!やり直せッ!!!!」


 オレは当たり障りない事を緊張しながら言ったんだけど、信長さんは溜め息・・。森さんは目を瞑ってるだけ・・。木下さんは笑いを堪えて・・池田さんと滝川さんは少し怒り気味・・。


 「貴様の挨拶なんかどうでも良い。全て言わぬと分からぬか?貴様がワシに前言った部隊の設立の事と有用性を大きな声で言え!」


 信長さんの無茶振りですか!?あんたが一言言えって言いませんでしたか!?

 

 オレは少しどもりながらも、この前言った衛生部隊やら補給部隊の事を身振り手振り伝え、途中質問する人も居たが信長さんが『質問は後からにしろ』と言い、オレは続いて例の自転車の事も伝えた。


 「貴様ッ!!ワシはいーじすの事は聞いておらぬぞ!?謀りおったか!?」


 酒も入ってるせいか沸点が低いしオレちゃんと伝えたよ!?珍しく確認しなかったのは信長さんじゃん!?


 「貴様もやるようになったな。皆の前で接収する訳にはいかぬ。後でいーじすの事を言え」


 「分かりました」



 それから信長さんに話した時みたいに、部隊の事の質問大会ですか!?ってくらい、現代の小学生でも分かる様な事を、平気で聞いてくる人も居たし、とにかくオレを取り込もうとしてるのが分かる、露骨な感じの人も居た。説明だけで、軽く1時間くらいは掛かったんじゃないだろうか。



 「まずはワシは此奴の言う部隊運用を試してみようと思う。その部隊育成を芝田剣城に任す!」


 「と、殿っ!何もこんな新参の奴なんかに・・・」


 「そうです!そこまで人や物資が揃っているなら某でも──」


 「抜かせっ!!!新参だろうが古参だろうが物資や兵糧!そして、この謹賀の飯も此奴が用意した物だろうが!何をそれだけ揃ってたらだ!全部此奴が用意した物ぞ!此奴に部隊長・・・。武器開発長、農業監修、織田家料理ご意見番を任す!文句がある奴は出てこいっ!」


 「「「・・・・・・・・・」」」


 なんか俺めっちゃ肩書きが付いたんだが!?



 「ふん。この辺で仕舞いじゃ。部隊の有用性はすぐに効果を発揮する事が分かるだろう。もし此奴が考えた事より効果的な事が思い浮かぶなら、申すが良い。無いならこれ以上此奴をいじめるな」


 そう言ってオレへの質問攻めは終わり、夜前くらいまで宴会になって各々の部屋に戻った。夜更け前に信長さんがオレの部屋に来た。


 「本当なら今日の袴なら、叩き斬ってやってもおかしくなかったんだがな。ワシより目立つ服を着やがって。まぁ良い。いーじすの種類を言え。それで明日内輪だけで貴様の"正式な役職を決める"」


 いや別にさっきの場所で役職言ってくれたので良くない!?それにまだ肩書き増えるの!?


 「何故先の場所で役職を言わなんだ?という顔をしておるな?」


 いや、信長さん心読めるスキルでも授かったんですか!?


 「そうですね。正直私にあんなに肩書きが多いのは周りの人達にも──」


 「貴様はもっと自信を持て。貴様程活躍して貴様程驕らん奴も中々居らんぞ。さきの場所で言わんかったのは、あの中に他の家の間者が居るやもしれんからだ。もし間者が居たとしてあれくらいの事なら知られても構わん。むしろ真似できるならしてみろ!くらいにすら思う。もうこれ以上は言わん。して、早ういーじすの事を言え!」


 間者が居るかもしれないのか。あんだけ上部は信長さんに謙ってたのに・・・。あっ!だから料理の産地など教えず技の事も言うなと言ったのか。今、意味が分かったぞ!!


 一人で納得したオレはそれから簡単にあの自転車の事を言って、特に青色の空気銃はオレが運用したい事を伝えた。


 「ほう。ワシを差し置いて自分が運用したいとな?服だけじゃなく口までも偉くなったもんだな?」


 信長さんブチギレそうな件。


 「そういうつもりではないです。ただ、効果的な動く部隊を作れたら各々の部隊に配属すれば、弱点が少なくなるのじゃないかなと思ってただけです。だからその運用が出来るまでは任せてもらいたいです」


 「ふん。何も考えておらぬ訳ではないと?よかろう。あの黒のいーじすだけで良い。20騎だけワシに寄越せ。馬廻りに装備させる。後は貴様の好きにするが良い」


 「分かりました。ありがとうございます。ある程度部隊の練度が上がれば教えます。それで宜しいですか?」


 「貴様が口にした事だ。貴様の部隊が出来次第、斎藤と雌雄を決する。竹中如き簡単に出し抜く部隊を作れ。ワシは貴様との約束を果たそう。貴様の前に竹中を連れてきてやる」


 「覚えてくれてたんですね。分かりました。できるだけ早く頑張ります!」


 「ふん。良きに計らえ。ワシより目立った罰じゃ。何か久しぶりに見た事ない甘味を出せ」


 「はは!この感じ、懐かしいですね」


 思わず軽口叩いてしまった。が案外怒られなかった。


 「そうじゃな。何を出されるか分からぬがいつか今から出す未来の甘味より美味い甘味をワシが貴様に食わしてやろう」


 《ジャンボパフェ》¥1000


効能・・・・ケーキ職人が徹夜で作ったビジュアル良し!味良し!のパフェ。一度食べると忘れられない味になる。


 いやいや!?なんで徹夜!?別に時間ある時に作ったので良くない!?



 「ふん。相変わらず貴様が出す甘味は美味い。貴様の居た未来は遠いな」


 「信長様ならすぐですよ」


 「ふん。小癪な」


 そう言われ珍しく信長さんに、ほんの少しだけ一口にも満たないくらい貰って、ご機嫌でこの日は終わるかと思ったが急に雷が落ちた。


 「市や奇妙に渡した本・・・貴様は秘密にする気かのう?それに写真じゃったかのう?ワシは聞いておらんのう?それと明日、沢彦を呼んである。話すことがあるんだろう?問答するが良い」


 それで去り際にゲンコツされ『近々写真と本を用意しろ』と言われこの日は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る