近江に出発

 次の日・・・。出発の日の昼過ぎに再び呼ばれた。昨夜は城に部屋を用意されオレは部屋で泊まったが、他の人達は城下でゲルテントだ。オレだけ申し訳ない感じもするが。


 「失礼します」


 「手筈通り問題無いか?」


 「はい。慶次さんに聞いても問題無いと。新たに来た人物ではありますが、配下の予備役も見えない所に配置し、総動員しております」


 「よし。この後、三田村らと飯を食って出発と致す。義母殿にもよろしく言ってくれ」


 「分かりました」


 昼飯はオレは飽きたカレーだった。伊右衛門さん達が未だに研究していると言っていた。


 「三田村殿?見た目と色は悪いが騙されたと思って食べてみよ。ワシの一番の好物じゃ!名をカレーと言う」


 「か、かれーですか!?確かに見た目は・・・うむ。失礼。いただこう・・・。うっ・・・美味い!!」


 そこから無言でハスハスハスと聞こえるだけだ。


 「どうじゃ?好物と言う理由が分かったであろう?」


 「これは誠に美味い!昨日のうなぎの汁も殊の外(ことのほか)美味かったが、これはまた格別な馳走です」


 「作り方を書いた紙を渡そう。小谷でもおりじなるのカレーを作ってみよ。これより美味いと思えば文を出せ!ワシが食らいに行こう」


 「おりじなるとは!?」


 「すまぬ。独自のということだ」


 あの挑戦的な目よ!?これより美味いカレーは作れないだろう、と言ってるみたいだな?スパイスはオレ頼みだから作れないと思うけど・・・。品目の中にカレー粉を入れろという事ですね?分かりますよ。


 オレは一度退席して、皆が居ない所でカレー粉と即席ラーメンなんかも箱で購入して、簡単にメモに作り方を書いて大膳君に渡した。


 その後、オレは最後の挨拶をしにお市さんの元に向かう。側女さんに言い案内される。


 「失礼致します」


 おぉぉぉぉぉ〜・・・。美しい・・・。美しいを超えて神々しくさえ思う・・・。


 「何じゃ?妾を笑いに来たのか?」


 「い、いえ。最後に挨拶をと思いまして」


 「最後・・・か。まあ、少しばかり距離があるからのう!剣城の顔は見とうないが、剣城の技が使えなくなるのは寂しいのう!」


 なんか最後まで毒吐かれたけどやっぱ寂しそうだな。


 「なんて声を掛けていいか分かりませんが、おめでとうございます。荷車の中にお市様が好んだ物を入れております。食べ物ですがクッキーとか飴玉、カメラなど他にも数点入れております。お使い下さい」


 「うむ・・・。造作を掛けたな。剣城?妾はこれより浅井になる。じゃが貴様の技は忘れん!妾を近江まで安全によろしく頼む!」


 いや、そこはオレを忘れんで良くないすか!?オレの技を忘れんって・・・。


 「警護の方はお任せ下さい。忘れられない道となりましょう。横に居るゆきに何でも言って下さい。では、小見様の方へ行きます。失礼します」


 続いて小見さんの部屋に向かい、小見さんにも最終確認をする。


 「小見様?失礼致します」


 「だから何遍も『貴方は気にせず入ってよろしい』と言ったではありませんか?剣城?」


 「いや、すいません。やはり一応礼儀をと。それと大事な役目を、本当にありがとうございます」


 「いや、いいのですよ。市ちゃんの事はそこまで知らなかったけど、帰蝶のように実の娘のように思っております」


 「はっ!ありがとうございます。道中の危険は御座いませんので、よろしくお願い致します。鈴ちゃん?小見様をよろしくね」


 「畏まりました」

 

 そして出発の夕方・・・。時間で言えば17時頃だろうか。夕陽が沈みかけの時になった。小川さんや慶次さん、竹中さんも既に待機している。ノアも青木さんに言ってるから大丈夫な筈だ。


 「このような歓待は初めてであった。お礼申し上げる。お市様は責任を持って某が護衛致します」


 「そう気張らずともよい。ワシの配下も中々に優秀だからな。じゃあワシは戻るとする。市を呼べ!」


 お市さんは城の裏手に待機させていたカボチャの馬車・・・に乗って向かってきた。また一段と馬車がカボチャになっている・・・。


 「なっ、何ですか!?その車は!?」


 「馬車だ!」


 いや何で信長さんが勝ち誇ってるの!?信長さんも見るの初めてでしょう!?なんかプルプルしてるんだが!?これは怒られるのか!?オレのせいじゃないぞ!?青木さんのせいだぞ!?


 "キャハッ♪剣城っち♪あーし頑張るよ♪"


 "う、うん。ごめんね?よろしく頼むよ"


 馬車は結局馬に乗らなくてもいいような作りにしたのか。ならオレと信長さんがあの前の出っ張りに座るのか。


 「御簾を上げなくとも良い。市?良いやや子を産み育てろよ?風邪を引くなよ」


 「・・・・・・・・・グスン」


 少し泣いてる感じなのかな?あれは演技じゃなく本当に泣いてるみたいだな。


 「では三田村殿?くれぐれも新九郎殿によろしく伝えてくれ」


 「はっ。畏まりました」


 「三田村さん、少しお待ち下さい!忘れ物がありますのですぐに用意してきます!信長様?例の物を」


 これは着替える為の予め決めておいた事だ。信長さんはすぐに黒装束に着替え、ドーランを塗り、甲賀忍者の皆と同じような頭巾を被り、分からなくなった。


 「よもや、この歳になってうつけ者の格好をするとはな?親父にも見せてやりたいくらいだ」


 「信長様!急ぎますよ!」


 オレは忘れ物と言った物・・・ポータブル電源・・・全然ポータブル感はないが、それを持ってさっきの場所に向かう。


 「芝田殿?その手の物は?」


 「これが私が出発を敢えて夜にして、道を平らにした答えです。さすがに近江までは許してもらえなかったですがね!?」


 オレは最後は諭すように言った。


 「い、いや。我らは織田殿のような余裕は──」


 「いや、気にしないで下さい。では行きますよ!」


 オレは城下の城門から伸ばしたイルミネーションのコンセントをポータブル電源に挿した。


 「点灯!!」


 まぁ、掛け声は要らないんだけど、なんとなく掛け声した方がカッコイイと思い、言った訳だが・・・。三田村さんや兵士の人達・・・口開けて固まってるよ!?


 「し、し、芝田殿!?この光っておるのは何だ!?」


 「イルミネーションですよ。私が仕掛けました。近江まで・・・とはいきませんが、近くまで設置してあります。迷う事はないでしょう。では向かいます」


 「何の妖術だ!?たたりか・・・?」


 いやオレが設置したって言ったじゃん!?


 「出発するが織田殿が見えぬが・・・」


 「え!?あっ、信長様は行ってよいと言われましたので大丈夫です!慶次さん!お願いします!」


 オレと信長さんは馬車の前に座る。一応手綱は付いているが何もしなくていいんだよな!?信長さんの小雲雀号もノアの隣に居るし大丈夫だな。


 "ノア?前の人について行ってね?"


 "キャハッ♪了解♪ 小雲雀号君にも伝えてるから大丈夫だよ!なんかご主人が居るから張り切ってるみたいだよ♪"


 やっぱ動物は変装しても分かるんだな。


 「よし!先頭小川!出発!御使者殿一行は我らの後ろへ」


 「う、うむ」


 「あの奇妙な出立ちの者は何だ!?」「あの見た事ない頑丈そうな甲冑は何だ!?」「あんな槍でもない薙刀でもない武器は初めて見たぞ!?」


 兵士の人達は装備した物にびっくりしてるな。よし!後は向かうだけだ!


 「剣城?あまり大きな声は出せぬが、この様な馬車は聞いておらんぞ。分かってるだろうな?」


 ヤバイ!信長さん怒ってるのか!?オレもどうしようもなかったんだよ・・・。


 「す、すいません。これには深い訳が──」


 「ワシにも乗らせろ!この様なカボチャの馬車とは面白い!」


 え!?これが良いの!?


 「良いな?必ず乗らせよ」


 うん。信長さん的には有りらしいです。どうもありがとうございました。

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