火鉢を炭の中から取る→大火傷→他愛ない!?馬鹿か!?

 「失礼致す。客を連れて来てやったぞ!!」


 「え!?あっ!!」


 この人は舟屋だろう?何でこんなに一々偉そうなんだ!?ってか店の人は何でビックリしてるんだ!?そりゃ確かにダウンジャケットとか着てるけど、南蛮の人とかなんかもっとおかしな服、着たりしてるぞ!?


 「奥の席に行っても構わないか?客人にさつま汁をたらふく食わせてやってくれ!先にお代は払っておこう。それと、シャムのらおろんと清水で作っておる、おらーかを飲ませてやってくれ」


 ラオロン?オラーカ?外国の酒か?初めて聞くぞ!?シャムは確かタイの呼び方だっけ?初めて飲む酒は楽しみだ。


 「らおろん?おらーか?尾張では聞かない酒だ。楽しみだな!おい!忠平!お前も飲め!」


 「分かった。飲もう!!」


 それから徐々にだが色々話が始まった。最初はここ薩摩の事、お隣の日向国の伊藤家の事や、薩摩と日向に挟まれている大隅国の肝付家が、ちょっかいを出してくると。


 この時代の九州は魔境だからな。あまり詳しくは分からないが、本来の歴史では薩摩統一はまだ先の筈だ。聞いたところ、この肝付家とは互いが互いに婚姻関係と、なったりはしているらしい。


 だが肝付家の現当主、肝付兼続は日向の伊藤と手を組み、島津家と肝付家国境の志布志城を去年攻撃し、落としたそうだ。


 一昨年の戦で島津貴久の弟、忠将さんが討ち取られてしまったらしい。それから本格的に肝付家とは争っていると。そろそろ島津宗家が本腰を入れるところらしい。


 「まあ難しい薩摩話ばかりでは面白くなかろう?まずは食べて飲もう!」


 とりあえず出されたさつま汁を飲んだが、マジで普通に美味い。なんなら、尾張や岐阜で出しても恥ずかしくないレベルに美味い。


 そして出された酒のオラーカと言ってたものは多分、焼酎の原型だと思う。少し米臭さは残るが尾張では最初に飲んだ酒より、だいぶ未来の酒に近い。


 そしてラオロンと呼ばれていたものは、焼酎みたいだが少し違う・・・泡盛に近い感じがする。というかかなり強い酒だ。


 「クッ・・この酒強いですね!?」


 「うん?初めて飲んだ者は必ず咽せるのだがな?さては武家様も飲める口だな?まあ飲んでくれ!店主!囲炉裏の火を弱めてくれ!少し暑い」


 「え!?あ、はい!!」


 さっきから何で店主は狼狽えているんだ?


 「な、何をする!?」


 「きゃぁ〜!!!」


 「うん?どうしたんだ!?」


 忠平さんとオレは気になり、さっきの女店主の声の方に向かう。


 「ヒック・・女!我らは寒いのだ!そんな火を弱めるなんぞ・・・」


 かなり酔っているな。


 「す、す、すいません!!!火鉢を落としてしまいまして・・・」


 「うむ、構わんよ。暫し待たれい。お主達は酒に酔い何をしておるのだ?どこの者だ?」


 「誰だおめーは・・・・・」


 パリンッ


 うん!?何で固まってるんだ!?しかも湯呑み落として割ってるぞ!?忠平さんのオーラか!?オーラなのか!?


 「俺が誰であろうと関係ない。悪酔いする者は去れ!火鉢は・・・・うむ。店主。ここに置いておく。後で火を弱めてくれ」


 はっ!?あのクソ熱い炭の中に素手で突っ込んで、火鉢取り出したぞ!?頭沸いてんのか!?いや実はこれは熱くない炭とかか!?


 オレもできるか試そうと思い囲炉裏に手を近付けたが・・・。


 「あっつ!!無理無理!!ってか忠平さん!?手、大丈夫ですか!?」


 「うむ。他愛ない」


 いやいや何が『他愛ない』だ!真っ赤っ赤の水脹れになってるじゃないか!!


 「すずちゃん!火傷の薬出して!忠平さんの手が大事(おおごと)だ!いや、普通の治療じゃ遅い!技の軟膏を塗ってあげて!」


 「え!?貴方その手どうしたの!?なんで火傷起こしてるの!?手出して!早く薬塗らないと大事になるわよ!?舟を漕げなくなるかもしれないのよ!?」


 「お、おう。そうかすまない。女なのに学があるとは凄いのだな?」


 「女とか男は関係ない!岐阜は学びたい者が学べるの!はい!薬塗って包帯巻いたからすぐ治ると思うけど、1日その手は濡らさずに!包帯も巻いたままにしておいてね!」


 「剣城様?このさつま汁は美味いですな?忠平と申したな?中々に良い店を教えてくれた!」



 少し悶着はあったが再び飲み直す。確か島津義弘の逸話に火鉢の話があったよな!?まさかこの人が!?んな訳ないよな。猛将が舟屋なんかする訳ないしな。



 不思議な者達だ。気付けばこちらが中心になって話している。しかもこの手に付けた白い薬は何だったのだ?既に痛みも何もない。元通りに思う。貴重な薬だろうが代金はどうすれば良いのか・・・。


 


 「がははは!剣城が出す酒と似てるくらいこれは強いな!らおろん酒というのが俺は好きだ!美味いな!それに鳥を煮込んでおるだけかと思うておったが、中々味が染み込んでおる!次郎左衛門!これを岐阜でも作ってくれ!」


 「ふん。慶次坊の為には作らぬ!お主が食いたければ銭を払え!100万円だ!剣城様ならば無料だ!」


 は!?何で俺は無料なの!?ただより怖いもんは無いんだけど!?しかも100万とかボッタクリの域超えてんだけど!?


 「私はやはり慣れ親しんだ酒が美味いですね。まあこれも中々に飲めますがね?」


 嫌味ったらしい竹中さんらしい言葉だ。



 それから船の事、岐阜、尾張の飯の事、俺達の酒の事など色々話した。徐々に酔ってきている。というかかなり酔ってきていると思う。ゴッドファーザーの身体でも酔うくらいに飲んだが、この忠平さん、マジで変わらない。


 「ヒック・・・お主は中々強いな・・・ヒック」


 「我が君!ワシも己を忘れて良いならばまだまだ飲めますがな?ヒック」


 「こんなに私等を酔わせて・・・ヒック・・・織田を出し抜けると・・・ヒック」


 「もう!皆、急性アルコール中毒になっても知らないからね!?看病してあげないから!」


 「どうも畿内の武家は体の事を気にする節があるのだな?ならばこれ以上はやめにしておこう。薩摩人の半分しか飲まないのだな」


 最後の言葉はなぜかトゲがあるな?飲ませたいのか?


 「ヒック・・・俺ぁ〜まだまだ飲めるぞ!そうだろ?爺!隼人!一蔵!ヒック・・・」


 「そうじゃ!やっとこれからって時じゃ!ヒック・・・」


 こんな時に皆、何言ってんの!?望月さんは!?


 「グゴォォォォ───」


 うん。確か望月さんは酒に弱いんだった。もう寝てるし・・・。


 「「「(バタンッ!)グゴォォォォ───!!!」」」


 「はぁ〜!?何で皆、寝てるんだよ!?」


 「酒に強いと言っても薩摩人の毛程にもない!酒に勝つのは薩摩ぞ!がははは!!!」


 「剣城様、下がって!貴方、何者よ!?」


 「ほう?女は実は護衛か?中々に良い動きをしている!いや心配するな!この手の治療は感謝しておるよ?まずは・・・とっておきの酒だ!ぱいちゅうという酒だ」


 「あんた何言ってるの!?」

 

 俺は鈴ちゃんを手で制す。やっとやってみたかった行動ができた。だが悲しいかな、その手を今まで静かだった鞠ちゃんが払いのける。


 「答えていない。返答によっては・・・」


 「誠、良い部下を持っている。先の薩摩兵とは大違いだ。天地神明にかけて言う。害するつもりはない。純粋に酒を楽しみたい。懐にしまっておる短刀をしまってくれ」


 「鈴ちゃん?鞠ちゃん?大丈夫。店主に言って唐揚げでも教えてあげれば?恐らくだけどこの人・・いやこの方は目的の人だと思う」


 俺はこの人の振る舞いを疑問に思っていた。この主人もさっきの兵の人もだ。絶対に違うと思いたいがそうと言わざるを得ない。


 「・・・・おいに辿り着くか。しくじったな。こう見えておいもそこそこ、其方に飲ませたと思うたのだがな?」


 「オレは特別ですからね?島津義弘様?」


 「特別か。クックックッ。如何にも。島津貴久が次男、島津義弘である!だがそう言ってもわざわざ低くならなくて良い!同等で飲もうではないか!ここからは島津として話を聞こう!本音で言え!こちらも本音で言おう!」


 いやいやこれからまだ飲むの!?もうオレも限界なんだけど!?

 

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