助けてほしそうにこちらを見ている。助けますか?はい・いいえ

 「こんにちわ!織田軍の芝田剣城と申します。こんな事になってしまい申し訳ありません」


 「お前達のせいで我らは・・・」


 「織田が攻めて来なければこんな事に・・・」


 やっぱ怨みを込めた言葉か・・・。確かに攻めて来なければこの人達は今まで通りの生活な筈だったけど、随分と貧しいな。斎藤龍興だったかな?内政は下手だな。城に近い家は重臣の家だと思うがボロ家じゃないか。


 「皆さん!私に恨み事を言うのは構いません。ですが、私は貴方達を見捨てはしません!今から炊き出しを行います!病気や怪我は無償で治します!こちらに並んで下さい!手を貸して欲しい人は周囲の人が教えて下さい!」


 オレはちゃんと聞こえるように斎藤の民の人に言ったけど・・・誰も並んで来ない・・・。


 「剣城様?まずは私達がここで飯を食べましょう。必ず何人かは近寄ってくる筈です」


 「了解。大膳君!作った物はここで食べる!早目に用意を」


 「もう少しお待ち下さい!今、木皿に取り分けております」


 オレが出した缶飯か?わざわざ取り分けしなくてそのままでもよかったのに。


 「剣城様、お待たせしました。ゆきさんありがとね。ゆきさんも食べていいよ」


 「いえ、私は後で頂きます・・・・・」


 「うん?何か言いたいことあるの?」


 「間違いかもしれませんが、民に見せるのなら香りがある物なんかが良いかと愚考致します。例えば簡易的にすぐ作れる味噌汁なんかが良いかと・・・・」


 これだよ!大膳!ただの飯を用意するんじゃなく民目線で考えないといけないんだよ!?そんなんじゃ出世できないぞ!?


 「大膳!今すぐ味噌汁の用意を!ゆきさんから指示を貰いなさい!」


 「え!?あっ、はい!すいません!」


 「お菊さんも金剛君も先に食べていいよ!」


 「はっ。ありがとうございます。お菊殿、先にどうぞ。入れ替わりで某が頂きます」


 「了解」


 あぁ〜、2人同時に食べないのはオレのせいか!?2人が飯食ってたら見張りが居なくなるもんな。けど大丈夫だろう。さすがにあんな老人達に遅れは取らんぞ!?


 「うっ・・・・・・・・」


 「剣城様!?」「剣城様!?」「剣城殿!?」"キャハッ♪"


 「何でオレがハズレなんだよ!?この酸っぱい握りは何だ!?大膳ッ!大膳ッ!!?」


 「・・・・・・はっ。申し訳──」


 「謝る前に食べてみろ!!!」


 オレは無理矢理大膳の口に握りを放り込んだ。


 「うっ、うむ・・・・。え!?不味いですか?」


 「え!?」


 「「「「え!?」」」


 いや皆!疑問形なら話が進まねーじゃねーか!?


 「お菊さんごめん。これ食べてくれる!?」


 「え!?大膳の食べくさしをですか!?命令ですか!?」


 いや本気で嫌がってるんだが!?


 「菊殿!?そこまで嫌がらなくとも・・・。朝、歯磨きしましたよ!?」


 「ニヤつくな!穢らわしい!・・・・うっ!・・・ペッ!ペッ!大膳!今すぐ剣城様の握りを作り直せ!米が酸っぱい!」


 良かった・・・。良くはないけど良かった・・・。てっきりオレが味覚音痴にでもなったのかと思ったぜ。けど数あるこの中からハズレをオレが引いてしまうのか・・・。


 「お菊さんごめんよ。この部隊で普通の味覚持ってるのお菊さんくらいしか思い付かなくて・・・・」


 「いっ、いえ。大丈夫です。ですが二度と大膳の食べくさしを私にとは言わないで頂ければ」


 「あ、うん。もう絶対言わないからすいませんでした」




 大膳が握りを作り直し、それと同時にゆきさん監修の味噌汁のいい匂いがしてきた。ゆきさんの味覚はまともだと信じたい。それに老人達もざわつき始めたな。よし!作戦成功だ!まあこの作戦を考えたのは、ゆきさんだが。


 "ねぇ?剣城っち♪ あーしも頑張ったよね?♪"


 "そうだね。重たいオレを乗せてくれてありがとうね"


 "それはいいんだけど、あーしホログラムで見たケーキが食べたいな♪"


 "分かったよ!帰ったら食べさせてあげるからもう少し待ってくれる?"


 "オッケー♪ 楽しみにしてるからね♪ 約束だよ"


 "後もう一つお願いがあるんだ♪ あの大きい建物の横にある小屋にいる馬を助けてあげてほしいな"


 "馬小屋か?何かあるの?"


 "あーしは神馬だから考えてる事が分かるし馬なら会話できるんだ♪ 碌な物食べさせてくれない、身体が痒いとか色々言ってるよ"


 "分かった!城を落としたら行くようにするよ"


 "ありがとう!我が主♪"


 本格的にヤバイぞ。念話だがこの声と性格のギャップが・・・とうとう禁断の恋か!?いや、ノアは昔人間だったんだよな!?ワンチャンあり得るか!?


 「剣城様!御免!!!(バチンッ!)」


 「痛っ!!まさか!?顔に何か出てた!?」


 「すいません。嫌らしい顔付きになりつつありましたので・・・」


 「以後、気を付けます・・・」


 

 「織田の兵や・・・。私ゃ城下に住んでるツルって者だが・・・それは食べ物かい?」


 はい!キタコレ!匂いに釣られってやつか!?これぞ変則的釣り野伏せだな!


 「そうですよ!良かったら食べます?具もいっぱい入って美味しいですよ!はいどうぞ!一応目の前で私が食べます!毒味役です・・・。美味い・・・。大膳!さっきの握りは・・・まあいい。この味噌汁に関してはまた腕を上げたな!?以前の甘い味噌汁とは大違いだな!?」


 「その話はやめて下さい!野田様にこっぴどく怒られたんですから!それにこの味噌汁はゆきが作ったようなもんです!」


 「当たり前だ!甘い味噌汁なんか逆にどうやって作ったんだよ!?あんなもの泥水の方がましだよ!ゆきさん!この味噌汁は世界一美味いよ!ありがとね!」


 「え!?あ・・・・い・・・あ・・・・ありがとうございます」


 ふん!中々愛(う)い奴め!ゆきさんと野田さんを俺の料理番にしたいくらいだ。だがさすがに二人をその役にするのは勿体ないな。




 「だが、あれはあれで美味かったぞ!?がははは!」


 はい。ここにも味音痴、味覚障害が1人居ました。


 「ささっ、ご婦人もどうぞ!熱いので気を付けて、それに握りなんかもどうぞ!斎藤では中々食べれんかったでしょうが、我らなら毎日食べられますぞ」


 「ありがたや。ありがたや。城のお偉い様は急に家に来て家の食い物を勝手に取って行き城に匿ってくれると思ったら殿のため敵を1人でも倒せと言い・・・。こんな殿様は嫌いじゃ」


 酷いな。まあ今ならどこにでも有り得そうな話だけど・・・。


 「小川さん?食べ終わったら後ろのプレハブに斎藤の民は集めておいてくれます?」


 「がははは!また何か我が殿はお考えか?」


 いや何も考えてないっす。集めておいた方が城を攻めやすいかなと思っただけっす。焼き払うとか言ってたし。いや、小泉さんや杉谷さんも何で期待な眼差しでこっち見てくるの!?


 「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」


 「何ですか!?その言葉は!?」


 「甲斐の武田信玄が言っている言葉です。この言葉の意味は立派な城があっても人の力が無いと役に立たない。国を支える一番の力は人の力であり、信頼できる人の集まりは強固な城に匹敵する。との意味です」


 「殿は武田とお知り合いで?」


 「いや、全然知らないです。ですがこの言葉は後世でかなり有名で如何に武田信玄がカリスマだったか分かる言葉です。本当の意味がどうとかは分かりませんが、敵の民だから殺す、兵だから殺すだけじゃなく、時には救う事も大事です」


 武田信玄さん、すいません!貴方の言葉を借りました!いつか会う事あれば謝ります!けど貴方の言葉が好きなのはマジっす!


 「がははは!難しい事は我らは分からんが殿が斎藤の民に優しくするって事だ!この芝田隊一の忠義者、小川三左衛門!確と承りましたぞ!」


 うん。小川さん達は違う意味だと思うけど結果オーライだ。その後は訝しみながらも残りの人達もこちらへやって来て、大膳君特製の味噌汁とお握りを頬張りお茶も飲ませてあげると色々な事が分かった。

 やはりこの民の人達は足が不自由だったり病気だったり歳で戦えそうにない人だったりな感じだ。斎藤はこの人達を守るつもりは無く民の少ない飯をも奪い難民として織田の懐に潜り1人でも多く倒せと言われたらしい。


 「私達は織田に歯向かいません。どうか命だけは・・・」


 「ご婦人方!良かったですぞ!このワシの殿、芝田剣城様は弱者に非常に優しい殿ですぞ!必ずや病気や怪我を治し、また畑を耕せるようになりますぞ!」


 いや小川さんは何勝手に確約してるんだ!?


 「おぉ〜!それは誠でありますか!?」


 いや飯食ってから民の人達も目が嬉々としてるんだが!?


 「殿!♪殿!♪と〜の!と〜の♪!」


 いや何手拍子しながらこっち見てくるんだよ!?


 糞っ!期待に応えるしかねーじゃねーかよ!?


 「分かった!分かった!鈴ちゃん?この民達の健康管理お願い!遠慮せず技で出した薬とか使っていいよ!」


 「了解です!」





 「ははは!およそ普通の兵達と違うな?」


 「なに奴ッ!?」 「敵方!出合えッ!」 「殿を守れッ!」


 「剣城様、すいません。気配消されて接近を許しました」


 「竹中ぁぁ・・・・・・」

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