落着

 「我が君!そう浮かない顔ばかりしてると、幸せが逃げますぞ!」


 「はぁー」


 オレは本陣にていつか、Garden of Edenで購入した、なりきり王様イスという物に座っている。なんでもこのイスに座れば、気分が高揚するらしい。今のところオレには効果が現れていないけど。信長さんに叱られるだろうな・・・。


 『これほど圧倒的に戦力、人を持ってして何をしておるのかッ!!!』


 って、言われそうな気がする・・・。


 「甲賀隊 第一部隊 前田慶次。戻ったぞ」


 「同じく砲兵隊 小泉伝七郎。帰参致しました」


 「お帰り!戦果はどうだった?」


 「見ての通りだ。小泉が寸でのところで国友大筒mk-2をぶっ放すところを、俺が諫めたのだ」


 「あぁ〜。やっぱり撃たなかったんだ?それで?」


 「池田城には国友大筒を5発程、放ちました。一門、台座に亀裂が入った為、撃つのを辞めたのと同じくらいに剛力が・・・」


 「坂井隊、ただいま戻りました」「柴田隊、戻ったぞ」


 「森隊、戻った。ついでに浅井隊、徳川隊も戻ったぞ」


 「皆さん!お疲れ様です!」


 「他愛ない。あの大砲の轟音が鳴ると共に、城兵は恐慌状態になった。少し乱戦にはなったが死亡者は0だ。怪我した者は居るがな」


 「怪我!?早くその人達を後方に!鞠ちゃん!怪我人が居るから早く!」


 「はい!」


 「剣城よ。敵も中々だった。それで怪我人しか居ないとは普通なら有り得ない」


 「森様・・・」


 「そうだ。ワシも何も考えず飛び出したが、実に気持ち良い戦場だった。戦に負傷者、死亡者は付きものだ。だが見てみろ。完勝も完勝。お館様も、きっと驚くぞ!どえらい褒美がお前は貰えるかもな!」


 「いや、そんな気分には・・・」


 「剣城君!」


 「あっ、義弘さん!」


 「うむ。織田殿の本隊がこちらへ向かって来ている!ほぼ被害が0だそうだな?羨ましいぞ!薩摩兵児(さつまへご)なら半分は脱落してるぞ!その分、敵も9割は屠っているだろうがな!ははは!」


 いや、それは薩摩人が頭おかしいだけだと思う。


 「まぁそういうことだ。ワシも戦の前には100は足軽達は死ぬと思うておったが、このような戦は初めてだ。気を落とすな。これが戦だ」


 「まぁ、そう思う事にします。それで、敵の池田勝正はどうなりましたか?」


 「お前の隊の一軍が捕らえたぞ。まぁ坂井隊が町を燃やした火攻めで、降伏を示してきたがな」


 「やはり坂井様ですね。信長様にちゃんと伝えておきますよ」


 「あ、いや・・・そんな事は・・・」


 「ほら、また謙遜する。オレが言えた事じゃないですけど、少しは胸張りましょう!」


 暫くは本陣で各々は泥を払ったり、柴田さんなんかは帰って早々オニギリを食べたり、と落ち着いた雰囲気になった。


 オレはやはりどうしても浮かない。だがそんな中、剛力君と金剛君が3人の男を縛り上げて、連れて来た。真ん中の男がそうだろう。


 「剣城様、遅れて申し訳ありません。池田勝正、以下2名。捕縛致しました」


 「剛力君、金剛君、お疲れ様。下がって休んでていいよ」


 「「御意」」


 二人は誰かは分からないけど、一人はどっしりと構えている。然も『どうだ!これが俺の力だ!』と言わんばかりだ。


 「この隊の大将の織田軍の芝田剣城と申します」


 「池田城 城主 池田勝正であるッ!!隣は弟の池田知正、池田光重であるッ!!」


 「ふっ。降伏した将の割に偉そうですね」


 「あの轟音の鳴る大筒がこちらにもあれば、負けはしなかった!池田の兵も美濃兵、尾張兵にも負けてはいない」


 いや、よくそんな事が言えるな!?確かにこちらに被害は出たけど、100倍は違うと思うぞ!?


 「思い残す事は?」


 オレは冷たい声で、戦神様から貰った蛇剣を抜く。


 シャキンッ


 「お、おい!待て待て!こっちは降伏を示した!それを一軍の将のお前が処遇を決めるのか!?」


 「信長様には後からオレが伝えますよ。いや、なに・・・少し怒られるでしょうけどね」


 「いや、ま、待て!」


 柴田さんも坂井さんも美濃三人衆も森さんも義弘さんも皆、黙っている。降伏した敵をオレが自ら斬るというのは初めてだ。


 そして剣を振りかぶろうとしたところで、伝令らしき人が現れた。


 「剣城様!お館様、御着陣!繰り返します!お館様、御着陣!」


 「おう!剣城!皆の者!励んでおるようだな!」


 「信長様・・・。すいません。重傷者を出してしまいました」


 オレは一先ず剣を下ろした。


 「何じゃ。死んだ訳でもあるまい!お前の配下の衛生班だったか?彼奴等が治すであろう!城攻めで足軽雑兵、誰一人死ななかったってだけで、あり得ない事だ」


 「ですが・・・」


 「さっき聞いたが、ワシが老婆心で援軍に出した梶川が負傷したらしいな。ワシは彼奴に褒美を考えているくらいだ。将たる者ウジウジするな!それでもそう思うなら次に活かせ!大方、茨木を簡単に抜いて勢いに任せた結果だろう!」


 「はい・・・」


 信長さんの言う通りだ。好戦的な皆に呑まれて、そのままの勢いで進んだ結果だ。結果だけ見ると完勝だけど、オレの慢心だ。

 

 「ふん。死んだ訳ではあるまい。後でお前も梶川を見舞ってやれ。で、お前はそれをどうしようとしてたのだ?」


 「はい。斬ろうかと」


 「ほぅ?お前がか?辞めておけ。この我が軍を見て、城から打って出るくらいの器量が此奴にはある。それに滅多に怒らぬお前を怒らせるような奴だ。其方が池田勝正か?」


 「如何にも」


 グワッ


 冷たく信長さんに池田勝正が答えると、信長さんから禍々しいオーラのようなものが、発せられた。本物のオーラだ。


 「此奴は織田軍一温厚な者なのだ。此奴を怒らせるとは其方は大概じゃな。人質を出すなら許す。出さぬのなら斬る。選べ」


 これまた信長さんが冷たい一言を言う。オレ達、皆は肝を冷やした。オレの怒りやなんかでは、表せられないくらいの本物だ。


 「母親を人質に出しまする・・・。この度はつまらぬ争いを起こし、申し訳ありませぬ」


 「ふん。以後、気を付けい!皆の者!ここまでじゃ!三好は大方去った!将軍を迎え入れるぞ!坂井!稲葉!氏家!安藤!池田城、茨木城、滝山城、芥川山城に詰めておけ!後程、指示を出す!」


 信長さんがそう言うと、池田城の中に入り出した。オレ達も慌てて後を追う。


 「剣城君。そう落ち込むな。織田殿に期待されてるという事だ!後でおいも梶川殿に会いに行く」


 「ははは。義弘さん、ありがとうございます」

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